205 :earth:2012/04/08(日) 00:42:57

 津州皇国が衝撃を受けている頃、日本帝国では情報収集の結果、津州皇国の状況を大まかに把握することに成功した。
 夢幻会の会合で報告書に目を通した嶋田は「原作どおりか」と口の中で呟くと、視線を他の面々に向ける。

「ふむ。技術レベルは第一次大戦前レベル。列強も多少は進んでいるが、それでも我々より30年は遅れている。
 その気になれば列強の干渉を排除し、向こうの世界への橋頭堡となりえる津州皇国を武力で制圧することは不可能ではないでしょうね」

 この嶋田の言葉に出席者は一様に頷く。
 実際、世界最強の帝国海軍、そしてドイツ軍とも殴り合える帝国陸軍がその気になれば、吹き飛ばすことも出来る小国だった。 
尤も能力的に問題なくても実行に移すとなると問題が多い。

「一国を制圧するとなると色々と面倒です。それにゲート、いえ『門』のような超自然的存在を利用しての異世界進出は危険が大きいですから」
「……辻さんの言うとおりだ。現状では『門』は安定しているが、それが突然消失しないとも限らない。
 懐が苦しい陸軍としては1個師団でも失ったら大騒ぎだ」

 東条の意見に誰もが頷いた。 
 帝国政府としては太平洋の支配だけでも大忙しであり、これ以上厄介ごとを抱え込むのは御免というのが本音だった。
 一部の威勢のいい面々は異世界に進出し、資源と市場を確保するべきという者もいたが、武力で進撃するのはリスクが高すぎる
というのが大勢の意見だった。

「では宥和外交でいかれると?」
「それがベストでしょう。あの『門』が安定して存続し続けられるのであれば……『対応』は変わるかもしれないが」

 場合によっては武力を用いることもあり得るという意見に、原作を知る者は顔を顰める。
 しかし原作世界を大事にして日本の国益を損ねる真似はしなかった。

「それでは……」
「対津戦争計画の策定も用意しておきましょう。彼らが我々のように急激に力をつけないとも限りません」

 反対意見は無かった。

「そういえば欧州諸国は?」

 近衛の問いに、出席を許された夢幻会派の外務次官が答える。

「ドイツは自分達も異世界進出に関わらせろと矢の催促です。我々が新世界を独占するのを恐れているのでしょう」
「……向こうもロシアの占領地や北米経営で手一杯だろうに」
「それでも何かしら関わっておけば、後に介入する理由になりますので。加えて外見が白人の汐見人が迫害されるとの情報が
 介入を後押しさせているようです」

 これを聞いた近衛は苦笑する。

「なるほど、彼らは怯えているのかも知れませんね」
「?」
「秋津人は日本人に近い。そして外見は白人の汐見人は秋津人に支配されている。これを日本人と欧州人に置き換えれば?」
「……被害妄想でしょう」
「かつてモンゴル帝国に踏み潰されかけた連中ですよ。まして今の状況を考えれば」
「異世界を独占的に支配した日本人によって、汐見人のように被差別民族の立場に追いやられるという恐怖か」
「下手に欧州列強を排除すれば、疑心暗鬼に駆られて面倒なことになるかも知れません」

206 :earth:2012/04/08(日) 00:43:45

 このとき嶋田は思った。

(め、面倒くせ~)

 ため息をつきそうになるのを何とか堪えると、嶋田は口を開く。

「しかし『門』は日本領海内に存在する。領海内に普段から欧州海軍を大々的に展開させるのも拙い」
「我々に野心がないことを示すために向こうの世界にも欧州諸国の租界も構築し、その警備に必要な戦力の通過を認めるというのは?」
「諸外国に早々に異世界を開放すると?」

 辻が肩をすくめる仕草をして答える。

「疑心暗鬼にかられた結果、北米でRS○Cのような戦いなんてしたくないですよ。アメリカ風邪の封鎖網に穴が開けば大変です」
「……世論が煩そうだ」
「仕方ありません。まぁ火事は向こうの世界で起こしてもらいましょう」

 黒い笑みを浮かべながら言う辻に、嶋田は遂にため息を着いた。

「……貴方の場合は、むしろ火事を煽るほうでは?」
「いえいえ、私は紳士ですよ。女性(壱代)を困らせるようなことはしませんよ」
「紳士の前に二文字ほど漢字が抜けている気がしますがね。人体構造と色彩に関する漢字で成り立つ二文字が」

 勿論、そんな嫌味など辻は気にもかけない。
 そんなやり取りを横目で見ていた近衛が結論を下す。

「とりあえず、列強と歩調を合わせて宥和外交でいきましょう。総統閣下や統領が抜け駆けしないように手を打つ必要もありますが。
 それと少数民族への迫害についてですが、『政府レベル』での圧力は控えましょう。下手にすれば内政干渉になる」

 この言葉に出席者は、自分達がかつて生きた世界で、自由と民主主義を世界に輸出していた某大国を思い浮かべ苦笑した。

「……他所は他所、うちはうち、ですからね。価値観の押し付けは反発しか呼ばない」
「こればかりは、長い付き合いの中で改めてもらうしかない」
「尤も、向こうが自分の価値観を変えなければならないほど、日本と付き合うことになるかは疑問ですが」

 そんな声の中、辻は呟くように言い放つ。

「尤も欧州列強が『独自』に圧力を掛けるのは自由ですがね。まぁその結果、どんな事態が生じても彼らの責任ですが」

 何はともあれ、帝国の方針は決した。
 かくして日本は欧州列強と共に、共同租界をリャオトン半島の坦蓮に築くことになる。

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最終更新:2012年04月08日 21:02