216 :earth:2012/04/08(日) 11:34:36
 日欧共同租界の建設となって坦蓮港には多数の日欧の船舶が押し寄せた。
 船上の人間達は、史上稀に見る珍現象によって隣り合うことになった異世界を見て好奇心を刺激される。

「これが『蒼海世界』か」
「歴史や地理こそ大きく違うが、国家や文化は類似している部分も多い。非常に興味深いな」
「むしろ異世界というより地球外の惑星なのかも知れん。もしそうだとしたら、宇宙開発が進めばゲートを使わなくても接触できるようになる」
「まぁどちらにせよ、新市場には変わりない。多少のリスクは付き物だ」

 日欧はこの新世界のことを門の出現場所に因んで『蒼海世界』(厳密には蒼海の端だが)と命名し、進出を活発化させた。
 勿論、『門』が閉じることも考慮し、すぐに脱出できるように高速船や高速機も配備されるなど備えも進められた。

「とりあえずは津州皇国だな。母屋の主人には色々と礼を弾まないと」
「武器、インフラ施設、医療品……色々と売れるものは多い。まぁ向こうの列強のほうが高く買ってくれるだろうが、まずはかの国に確固とした
 足場を築かないと」

 加えて日欧諸国は建設に伴い、現地の建設業者に多数の発注をかけたこともあり、津州皇国からも多数の建設業者が押し寄せ坦蓮の景気は
一気に上向いた。加えて津州皇国の企業も坦蓮に赴き、日欧諸国と接触し商談を持ちかけるなど動きを活発化させていく。

「遥かに進んだ技術をもった国々だ。この機会は逃せない!」

 勿論、日欧に接触するために『蒼海世界』の列強諸国も相次いで坦蓮への進出を津州皇国に打診した。

「津州皇国だけが、異世界との交易を独占するのは絶対に認められない」

 ヴェラヤノーチ帝国は特に強硬だった。彼らは楠叙の北側に兵力を集め、威嚇さえ行い始めた。
 他の列強も経済的、軍事的な圧力を強め、これに津州皇国は苦慮した。

「列強諸国の圧力は日増しに強まるばかりです。レヒトブルクさえ、津州が交易独占を図るなら関係を見直すと」
「「「……」」」

 宮城の御前会議は暗い雰囲気であった。
 何しろ向こうの世界の欧州諸国も汐見人への迫害を口実に圧力を掛けてきている。列強と欧州諸国が手を組めば大変なことになる。

「G動力が使えない以上、列強の要求は呑まざるを得ないでしょう」

 陸相の言葉に誰もが歯噛みする。
 水相は自国を味方してくれそうな国である日本の動向を外務大臣に尋ねる。

「日本は?」
「日本は内政問題として不干渉の立場を表明しています。ただ、欧州列強の心情を理解したほうが良いという助言も頂きました。
 あと日本政府も欧州列強を完全に抑えるのは難しいと」

 この言葉を受けて水相は皇帝壱代に顔を向ける。

「陛下、水軍では現在、汐見人と追那人の士官候補生がおります。それぞれ十四期、十五期の首席を務める優秀な人間です。
 この生徒の乗艦実習を向こうの世界、または欧州諸国の目のある坦蓮で行い、我が国が少数民族にも門戸を開いていることを
 示すのが良いと思います」

 これに外務大臣が賛同する。

「それが良いでしょう。日本人の中にも、露骨な差別に顔を顰める者もいると聞きます。ここで津州への心象をよくするのは大きな
 利益になります。向こうでは世界最強と言われる日本帝国からの経済支援や軍事支援を受けやすくなります」

 かくして運命は捻じ曲がる。

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最終更新:2012年04月08日 21:08