243 :earth:2012/04/08(日) 20:04:47

 坦蓮港。かつて楠叙から津州皇国に譲渡されたリャオトン半島にあるこの都市は、嘗て無い開発ラッシュに沸いていた。
 日本帝国、ドイツ第三帝国、大英帝国など異世界の列強が共同租界を建設し、さらに蒼海世界の列強も進出してきたために
大幅な市街地の再開発が必要になったからだ。
 勿論、その分、しわ寄せを受けたのは元々住んでいた楠叙人であった。少なくない楠叙人は元々済んでいた土地からの
強制移住、或いは立ち退きを余儀なくされた。勿論、相応の保証金は受け取ったが、住み慣れた土地を無理やり追い出すという
行為は彼らの反感を煽るのに十分だった。

「今こそ、津州人を追い出すときだ!」

 少なくない反津組織は、列強、そして異世界の国家と津州皇国を対立させ、その混乱の隙を突いて津州皇国を追い出す
算段をしていた。それは向こうの世界の中国の得意技であった「夷をもって夷を制する」方法だった。
 リャオトン半島の外、楠叙にある反津組織、そして楠叙朝も内々の協力を得て彼らは行動を開始した。
 蒼海世界の列強も楠叙から津州を追い出すことは理に叶う行為であり、津州皇国よりも操りやすい楠叙の土地に共同租界が
あったほうがよいと判断してこの行動を追認した。
 彼らはまず津州皇国と異世界の列強、特に日本帝国との関係を悪化させるべく動き出した。彼らは楠叙のリャオトン半島以外の
土地での利権で日本帝国を誘惑する一方で、津州皇国に関して悪い噂を頻繁に流した。蒼海世界の列強、特にヴェラヤノーチ帝国も
これに続いた。

「まずは津州皇国と関係が良好な国家、日本帝国との関係を破断させよ」

 皇帝・キリル二世の指示もあって、ヴェラヤノーチ帝国は情報機関を動員した宣伝戦を開始した。

「かつて津州皇国は、追那人を強制労働させていた。それも碌な補償もせずに多くの追那人を生活苦に追いやった」
「追那人を人体実験に使って、多数の犠牲者を出していた」
「汐見王国を強引に併合し、汐見人を虐げた」
「津州皇国の現政府は軍拡ばかりに目をやり、国民を虐げ国家を不安定化させている」

 真実を含んでいたこともあり、現地に進出していた日本人や欧州人の一部に、果たして津州皇国は足場になりえるのかと疑問に思わせる
ことを成功した。
 これに慌てたのは津州皇国だった。宣伝戦での敗北で関係を悪化させられたら堪らない。彼らは必死に日本や欧州諸国に弁明する
一方、少数民族に門戸を開いていることを宣伝した。
 さらに津州皇国は一つの罠を仕掛けた。そう偽情報を反津組織に流して彼らを暴発させて、その暴発で日本帝国の怒りを反津組織に
向けさせることを狙ったのだ。

244 :earth:2012/04/08(日) 20:05:23

 坦蓮の雑多な市街地の一角で、一人の男が煙管をふかしながら一人の情報士官を嘲笑うように言った。

「やれやれ、君達も追い詰められたものだな」
「G動力が使えない以上、仕方ないでしょう」
「ふん。だが失敗すれば、日本からますます不信感を買うぞ」
「今でも買っていますよ。政府のほうは大慌てです。切り札もない状態で日本帝国と列強の挟み撃ちとは冗談ではありません」

 何時もは不敵な様子の彼も、今日ばかりは疲れ切った表情だった。

「それではこのあたりで失礼しますよ」

 士官が去っていたのを見て、男は笑った。

「蒼海を通じて吹く異世界からの風か。これで世界が、あの国も変われれば良いがな」

 そして坦蓮では幾つかの反津組織が爆弾テロを実行した。
 彼らはそのテロで津州皇国の重要人物を抹殺しようとしたのだが、その場にいたのは日本帝国とドイツ第三帝国の人間だった。
 おまけに死体から貴金属が奪われる光景が『偶然』撮影され、それが新聞の一面に載ったことが日欧の反津組織への怒りを煽った。
特に日米戦争で中国人へのイメージが大きく低下していた時勢で、中国人とよく似た楠叙人の凶行は中国人=楠叙人という方程式を
成立させるに十分だった。

「皇国も何とか反津組織を叩こうとしているのですが、外部からの支援があるようでして……」

 津州皇国外務省は反津組織の背後に楠叙や列強国があることをにおわせた。
 彼らはここで列強国や楠叙への不信感を煽り、自分達への不信を低減しようとしたのだ。しかし事態はそこで終らなかった。

「……やられたらやり返す。それが帝国の方針だ」

 日本人のみならず、ドイツ人にも被害が出たことで、日独は結託した。
 特に総統閣下は激怒した。彼からすれば津州皇国の行為(人体実験や強制労働)など問題にならなかった。彼はそれ以上のことを
していたのだから。
 かくして空母飛龍、蒼龍を中心とした『遣蒼艦隊』と日独の特殊部隊がリャオトン半島に派遣された。

「連中に誰に喧嘩を売ったか。それを思い知らせてやれ」

 彼らは津州皇国軍と連携(名ばかりだが)の下、テロ組織への大々的な報復を行う事になる。
 そしてもはや虐殺と言っても過言ではない戦いに、多くの列強は恐怖することになる。

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最終更新:2012年04月08日 21:15