27 :名無しさん:2012/04/05(木) 23:06:41
その日を境に世界は一変した。
1942年8月16日。
大西洋で火山噴火と大津波が発生し沿岸部一帯に壊滅的な被害をもたらし、そして極東の地から有色人種の帝国が忽然と姿を消した。
被害を受けなかった地域の白人種は大西洋の被害に驚愕しながらも大日本帝国の消滅をみてその超常性から、やはり神は正しき我々を祝福し有色人種の覇権など認めないのだとの認識をあらたにした。
もっともアメリカ合衆国西海岸地域などは自国の被害状況からあの程度の国と引き換えにするには大きすぎる被害だと顔をしかめる者が大多数だったのだが。
列強植民地や数少ない帝国の友好国では突然の帝国の消滅に混乱が広がった。
植民地支配を打破する為の頼みの綱と認識していた国であり、国家戦略上の重要要素でもある存在が突然消えたのは致命的ですらあったのだ。
もっともすぐにそんな事を考えている余裕は無くなってしまうのだが。
そして大西洋沿岸地域では突然の大災害に多くの人々が世界の終わりを感じ神を呪った。
一番正しかったのは彼らなのかもしれない。
なぜならその日は「地獄の釜が開いた日」「黙示録の始まり」「角笛が鳴らされた日」など様々な異名と共に永遠に人類史に刻まれたからである。
地球側に取り残された夢幻会員ひいては大日本帝国人にとって苦難の日々が始まろうとしていた。
突然の本国の消滅は彼らの身を守る権威の消滅を意味し対米戦争直前だった事もあり安心して身を寄せる事のできる場所は数少ない友好国にしか存在しなかったのだ。
不幸中の幸いは宣戦布告が未だ成されておらず戦争状態に移行していなかった事くらいだが慰めになるわけではない。
連絡を取り合い出来うる範囲で連携することでどうにかフィンランドやスウェーデン、福建などへの亡命を打診していくのだった。
そして本国の代わりと言うかのように出現した島々への調査も行ったのだが島やその周辺では異形としか呼べない様な奇妙な生物が闊歩しており、まともな調査を行う事が出来なかった。
それでも飛行型の生物を掻い潜りなんとか撮影した航空写真等を繋ぎ合せ分析を行った所、人間かあるいは人間に類する生物の村が確認できたものの古代レベルの物であり帝国とは関係ないと判断せざるを得なかった。
28 :名無しさん:2012/04/05(木) 23:07:13
もっとも、これらの報告は夢幻会員にとって帝国になにが起こったかある程度正確に把握することが出来る物ではあった。
「帝国の消滅の代わりに出現した島々は『DQⅢのジパング』であると判断せざるを得ませんな。」
「まさか異世界転移、それもドラクエとの日本交換とは・・・。どうしてこうなった!」
重苦しい雰囲気が残存夢幻会員の間に漂う。
「しかも、あの魔物の数は何なんだ。あれが向こうの世界の通常だとするなら向こうに行った帝国も無事だとは到底思えないぞ。」
「連絡を取る事も出来ない本国のことは一先ず置いておく事にしましょう。それよりも我々が今すべきことはこちらに残された国民を守る事です。カムチャッカなどの大陸と地続きな地域の民間人や大陸で展開準備していた軍を中心に数十万の国民が取り残されているのですから。」
「たしかに、そちらの方が急務ですね。幸い宣戦布告がまだ成されていなかったので亡命の話はある程度すんなりと通っています。また、海外に出ていた皇族の方を立てての亡命政府をフィンランドで樹立する用意が進んでいます。」
それによって最低限の動きは取れるようになるはずです。と外務省幹部から報告が入った。
国際情勢が緊迫化していた関係上、今の混乱がある程度でも収まってしまえば残存した帝国勢力圏への攻撃が行われるのはまず間違いない。そしてそれを耐える事は今の状態では不可能だった。
こうなってしまえば大陸の権益を守るなど不可能であり捨て値で売り払ったとしても撤収する時間を稼ぐ必要がある。
今はなによりも各部隊や基地の情報隠滅を図った上で速やかに安全圏まで撤退する為の時間が圧倒的に足りなかったのだ。
「とりあえずは情報収集と対外交渉のさらなる強化で当面を乗り切るしかないな。その上で大陸の部隊は・・・。」
こうしてその勢力を激減させた大日本帝国は残された資産を切り売りする事でなんとか時間を稼ぎカムチャッカ等の残存領土や友好国への撤退を進めていくこととなる。
29 :名無しさん:2012/04/05(木) 23:07:59
side:ヒミコ(やまたのおろち)
突然の事にマグマ流れる大地の底でのまどろみから眼が覚めた。
「いったいこれは、何があったと言うのじゃ!?」
今まで感じたことも無いような圧倒的な量の闇が自分の周りに集まってきたのだ。
そしてその闇は徐々に自分の中に取り込まれ一つになっていく。
「ぅぐっ、こ、れは・・・。まさかっ!」
徐々に強く激しくなる闇の流入に必死に耐えながらも闇が内包する情念から現在の状況も理解できてきた。
どうやら此処は今までいたのとは異なる世界であり、自分はこの世界の闇を統べる存在、すなわち『魔王』となったのだと。
この「地球」は今までいた世界と人間の数が文字どおり桁違いであり生まれ出る闇の量もまた、桁が違っていた。
おそらくこれを取り込みきったなら自分はアレフガルドの真の魔王すら超えるほどの力を得るだろう。
――ただしそれは、途中で自意識を失わなかったならの話だが。
「うぐっ・・・、がアァ!、グゥぅ・・・。」
意識を押し流そうとする闇の濁流に耐え続ける。
ここで意識を失うことは全てを失うことに等しい。
もし意識を失ったなら自分という存在は闇に飲まれ破壊衝動だけが残った化け物となるだろう。
(そうなったなら・・・わらわに付き従っている魔物たちも、「ヒミコ」から託されたジパングの民も大地も・・・。)
全て滅ぼし、なお止まらない、止まれない。
それだけは何としても避けたかった。
(ならば・・・わらわは魔王となってみせよう!そしてこの闇を纏い、世界を滅ぼし・・・。)
っガッッ!!!
首の一つを岩壁に叩きつける。その衝撃で壁が大きく崩れるが気にも留めず自分の内へと意識を集中した。
(ちがうっ!わらわはわらわとして『魔王』を名乗る!何を成すか、決めるのはわらわじゃっ!)
そして、何時か勇者に祓われる日が来るとしてもそれは自分の意思で対峙するべき事だ。
自分の姿をしただけの化け物に好き勝手をされる等許せるはずもない。
「あアあアアァァッッ!!!・・・・、ガっゥ、っく・・・。」
耐えがたい侵蝕に耐え続けるのはそんな想いだった。
支配者としての願いと、魔物としての誇りが報われるのは・・・数ヵ月後の事だった。
30 :名無しさん:2012/04/05(木) 23:08:43
大西洋大津波から数ヶ月、世界はまさに混迷の中にあった。
大日本帝国があった海域に出現した島々に生息していた魔物たちは初めこそ何かを待っているかの様に島周辺に留まっており大きな問題にはならなかった。
しかしある時を境に周辺へと拡大を開始する。(ジパング周辺域の魔物までまとめて転移して来ていた為に島の許容量を超え、生存圏を広げ生き残るためにどうしても必要な行動だった。)
当然そんなことは知らずまた、認める義理も無いジパング周辺各国は上陸してくる魔物に対して必死の迎撃を行ったが網の隙間を縫うように少なからず侵入を許してしまっていた。
これは統制を持った軍団を阻止するのではなくバラバラに侵入してくる野生動物を撃退するに等しく、元々不可能と言ってよい事だったからだが各国内での混乱がそれに拍車をかけたのは確かである。
この数ヶ月間世界各国で現地の伝承にある怪異の現実化が多発したのだ。
初めはゆっくりと、しかし誤報と切り捨てられながらも加速度的に報告が増えていき、ついに各国政府も認めない訳にはいかなくなった。
世界は再び神話の時代を迎えたのだ、と。
この事態に幾つもの国が耐えきれずその体制を崩壊させていった。
その中で大国と呼ばれた国々はその国家規模の縮小を起こす所もあったが多くが生き残った。
世界大戦により疲弊しているとはいえ、無理を通すだけの国力が存在したのだ。
もっとも、イギリスは元々怪異と同居していたようなものだったので無理無く馴染んでいったのだが。
また、小国でも自国への強い意識を持ち団結することで乗り切っていく場所が少なからず存在した。
特に長い歴史を持つ国にとっては近代戦を行うよりも怪異対策の方が容易な場合すらあり、かえって大国よりも被害が少ない国すら存在した。
大日本帝国残留組はこれらの中に入る。各国へ亡命した者たちは積極的に防衛に協力しその対価として亡命政府への支援を取り付け、亡命政府のもと残存領土で耐える者たちはその領土をさらに削られながらも人口比に対して過大となった軍の力と友邦からの支援、古来からの伝承をもって維持に成功していた。
逆にもっとも被害を受けた大国はアメリカ合衆国である。
もともと大津波によって首都機能を失ったばかりであり臨時政府が発足したものの統制が完全に取れているとは言い難かった。
さらには、呪的な対策こそ取れたものの他の国々では多少なりとも存在した中立や味方に回る怪異がほぼ存在しなかったのだ。
元々殲滅戦に近い征服によって勝ち取った大地である。
出現した怪異の中には先住民族のトーテムなどが多数存在し、それらの大半が敵対を持って合衆国へと対峙したのだ。
もはや合衆国体制が崩壊するのは時間の問題だと誰もが認識するような状態だった。
こうして、世界はその流れを大きく変え激流となり流れゆく。
本来の歴史は意味を失い、世界律が混ざり姿を変えた「地球」は新しい歴史を紡いでいく。
最終更新:2012年04月08日 21:26