897:弥次郎:2025/07/13(日) 17:22:04 HOST:softbank126075110124.bbtec.net
日本大陸×プリプリ「The Melancholic Handler」前日譚「ここだけ22世紀だよ」
この世界に対して
夢幻会の持つ知識の強みは、先取知識と歴史知識と原作知識だ。
幾多の転生を経てもなお活躍できているのは、処世術もそうであるが、経験値による判断能力の高さや知識の多さにあり、他を置き去りにしてのけるのだ。
勿論のこと、天然で追いついてくる、あるいは追い越してしまうような逸材が出現してくることもあるのだが、それは置いておこう。
だが、ひっくり返せば、特異的な技術や世界観を理解してしまう、ということである。
無知であるというのは裏返せば恐れ知らずであるというわけで、理解できるということは恐ろしさや危険性を知ってしまうということ。
史実におけるアトミック・エイジは、当時の人からすれば何のことはない進歩的なことでも、後の時代からすれば悍ましく見えるのと同じことだ。
仮に原子力の知識を知ってしまった人間がアトミック・エイジを過ごせば発狂してしまうであろう。
そして、この世界において夢幻会の研究者たち---特に21世紀の知識などを有する人々---は、直面してしまったのだ。
ケイバーライト鉱石という、この世界における物語の根底を為す鉱石の特性というものに。
知識があり、理解をするバックグラウンドがあるからこそ、理不尽を理解してしまったのだ。
「うわあああああああ……もうやだああああああああああああ!」
「【検閲済み】!」
「33-4!」
「なんでや、阪神関係ないやろ!」
悲喜こもごもの声をあげるのは、秘匿された研究所の一室にてケイバーライトについて研究する夢幻会の面々だ。
なまじっかスパイアクションアニメの世界であるため、夢幻会はどこからか情報が漏洩する可能性を警戒しなくてはならなかった。
夢幻会のメンバーが、特に科学的な知識を有する面子が半ば世間から隠されるようにしているのも、その対策の一環である。
「どういうことなんだよこれ……?」
「わからない……俺たちは雰囲気でケイバーライトを使っている」
「正体不明という言葉はケイバーライトのためにあるッ!」
「へへへ……将来、その発見は○○年前に我らが通過した道だ!ってアルビオンに言わせてやるんだぁ……」
「2-4-11!」カーンカーンカーン
彼らが変な語録を使ってしまうのも無理はあるまい。
アニメの設定として理解して受け入れるのと、それを実際の物理学などに則して理解するのでは話は違う。
現実の世界というのは「すこしふしぎ」で受け入れられるものではない。どこかで説明を付けなくてはならない。
まして、この物質を究明することが覇権国家同士の争いにおいて大きな要素となるならば、なおさらに調べつくさなくてはならない。
全くの未知、しかし、究明しなくてはならない。学者冥利に尽きる話ではあるが、アンビバレントに引き裂かれそうになるのも人間だ。
学問の究明にのめり込んで心や精神を病んでしまった人間など、歴史を紐解けばかなりの数いるのだから。
898:弥次郎:2025/07/13(日) 17:23:31 HOST:softbank126075110124.bbtec.net
恐らくだが、原作においてアルビオンでさえもケイバーライトについては研究途上だったと推測されている。
この時代、まだ欧州では四大元素を根底とする考えが未だに現役であり、それが正しいとされていた。
ルネサンス期になってはいたので原子論は一部で唱えられてはいたし、元来の価値観に依存しない研究も進み始めていたのも確か。
けれど、それ故にそこで止まってしまうのだ。これをもっと解明するには時間が必要だ。
そして、夢幻会のメンバーが知るのはそんな理論の数世紀先に存在する物理学である。
「一定量の熱量を受けると重力を遮断した運動を可能とする」という鉱石をそんな先取どころではない知識で解析するのだ。
彼らから見て原始的な分析しかできないものの、それでもなまじっか未来や予想図がわかるがゆえに、彼らは苦悩し、考え、そしてSAN値を犠牲としていた。
そんな悲喜こもごも、天国であり地獄のような研究所の中においては、1600年代の間にある程度の仮説を固めることができた。
定期的なミーティングにおいて、彼らは発狂しそうになりそうな頭を一度リセットする意味も込め、話し合いを重ねていた。
「既存物理学に囚われないエキゾチック物質、というのが現状の有力候補か?」
「恐らくは……な。
理論的に、重力はグラビトンによってもたらされているとされている。
スピン2、質量0、電荷0、寿命無限大のボース粒子の一種……まあ、理論的、あるいは仮説としてはと但し書きがつく。
描写からすれば、重力の部分的な遮断、ある種の慣性制御、ベクトルの制御が行われていると思われる。
重力を制御するという性質ならば、このグラビトンが関与している可能性は高く、グラビトンに干渉できる何かだろう」
「仮想の粒子であるグラビトンが存在していて、尚且つ既存物理学ではまだ説明しきれないエキゾチック物質かもしれない何かを含んでいるから、か。
仮説に仮説を乗せたような、なんともあやふやだな」
仮説レベルだから許される理屈にすぎない、と自嘲するしかない。
「完全に重力を遮断しきっているというわけじゃないのがミソだな。
本当に地球の重力を振り切ってしまったら、地球の自転速度で空中に静止したままになるはずだから」
「そうだな。ある程度の抗重力能を持つ、というものだろう。
あるいは、まだ理論上のスペックを出しきれていないからこの程度なのかもしれない」
「その心は?」
問われた先、学者の一人は原作での描写を引き合いに出した。
「以前から聞いていた話では、ケイバーライト機関が動作した場合、描写としては蛍光色に発光する力場が展開されるという。
蛍光色というか緑というか……まあ、ともかく、そういう色だ。
この色、重力赤方偏移によって認識される色に由来するんじゃないか?」
「重力縮退を与えられた熱量によって引き起こし、その際にグラビトンによる質量を軽減。その過程で蛍光色が発露する、と?」
「ああ……つまり、理論的なスペックを出し切れば、より赤に近い色を呈していく。
熱量が足りないのか、ケイバーライトの濃縮率が問題なのか、それとも何か他の要素があるのか、全くわからんがね」
「ポテンシャルはまだ未知数とか怖いねぇ……」
興味はある、同時に恐怖もまた。
彼らは学者だが、人である。魅入られそうになると同時に、自然と理性のブレーキが働くのだ。
このブレーキの強さこそ、これまで夢幻会がうまくやれていた原動力と言えるかもしれない。
899:弥次郎:2025/07/13(日) 17:25:27 HOST:softbank126075110124.bbtec.net
そして、描写から推測されるのは他にもある。
遠くない未来において開発される「ケイバーライト爆弾」だ。
知っている人間は多くはなかったのだが、その描写は繋ぎ合わせながらもイメージとして共有されている。
「……あの爆弾、ただ爆発している描写だけではなかったと聞いている」
「一度爆発が起こってとんでもない爆風が発生。海面が爆発し、海が嵐か何かのように荒れた。
しかし、暫くして爆弾の存在した位置に、蛍光色の球体が出現」
「そして、爆発時とは逆に、艦艇が揺れ動くほどの大量の海水と風とがその球体に吸い込まれていき、結果として標的となった弩級戦艦は消滅した、と」
うん、とメンバーは頷いて、顔を土気色にしていた。
「ただの爆弾じゃないですよね?」
一人の言葉が、雄弁にその場の全員の考えを示していた。
恐らく、そして描写からしても、アルビオンにおいてはただの威力の強い爆弾としてしか認識されていない。
それは当時の知識や認識からであって、後世の知恵や知識などから判断すれば間違いとしか言えないのだ。
これは核兵器が誕生した時、そしてその後しばらくの間蔓延した認識と同じだ。
「恐らくは次元のどこかに飛ばしているんだろうな。シン・ウルトラマンでおなじみプランクブレーンかもしれんが。
この宇宙は3次元ではあるが、正確には折りたたまれた11次元という仮説もある。
ケイバーライトによる大出力力場によってその『折り畳み』をこじ開けたとすれば?」
「出来上がるのは簡易のアイゼンシュタイン-ローゼンブリッジ……端的に言えばワームホールのような何かだな。
まあ、副次的な作用ではあるのだろう。狙って穴をあけているというより、何か別の働きを狙い、偶発的に開いたとしか思えん。
どういう理論でそこにたどり着いたのかも含め、ぜひとも知りたいな」
「出口がどこに繋がっているか全くわからないワームホールとかノーサンキュー……いや、ぜひとも観測したいですけどね!」
「たとえ『いしのなかにいる』になってもか?」
「無論……誰かを実験台に」
「だが、運命論から言えば誕生するのは避けえないだろうな」
「ああ。だからこそ、危険性を先んじてある程度実証する必要がある。
ケイバーライト爆弾を作れるようになってしまってでも、な」
核兵器と並んで、インドラの矢にしてアンタッチャブルの兵器となりうる、ケイバーライト爆弾。
研究をしなくてはその理屈を説明できないが、研究をするということは作れるようになってしまうこと。
それが今すぐではないにしても、それを持った時に国家の理性が常に働くとは限らないのである。
正しさを定義するのは、理論理屈あるいは道理ではない。権力を持った人間の要求こそが正しさを定めるのだ。
それが統一された国家が持つべきものであるとはいえ、同時に恐ろしい。
誰かの気まぐれが、あるいは判断のミスが、激情が、途方もない兵器の投入をしてしまえるのだ。
900:弥次郎:2025/07/13(日) 17:27:04 HOST:softbank126075110124.bbtec.net
だから、学者たちの立場からできるのは、警鐘だ。
それを使ったときに、一体何が起こるのか、起こっているのか。
作中においてもすべてが描写され切ったわけではないが、仮想の理論から推測される仮想の未来は、決して明るくはない。
「説得力乏しいし、理解してもらえる可能性が低いけどね」
「けど、超大国同士がにらみ合いになったら起こることは冷戦って歴史が証明しているし……」
「ましてやケイバーライト爆弾や核兵器が合ったらなおのことだね。
うまく雪解けしてさっさと有益な方向で使ってほしい」
なにしろ、と彼らは夢想しているのだ。
重力という、ありがたくも忌まわしい枷を緩める手段なのだ、ケイバーライトは!
この泥団子の上から飛び出し、果てのない宇宙の彼方まで帆をかけて飛び出していくために、必須なのだ!
宇宙への梯子を短くすることができるならば、それに越したことはない。そうすれば、宇宙というフロンティアにこぎ出していける。
スタートレックのエンタープライズ号のように、あるいは「白鯨」のピークォド号のように、生まれも育ちも違う人々が、一つの目的のために協力し合える。
空想にすぎないが、それでも素晴らしいそれを、実現できるカギになるかもしれない。
「……なんだか、考えていることが21世紀だな」
「なんだと?」
「いや、夢がほんとこてこてのSFじゃないか」
「それならば、ここだけ22世紀だよ。考えとか将来の夢という意味ではね」
「いいねぇ、それ」
「では、そんな未来のために、最初の一歩を今日もまた踏みしめるとしますか」
明るい未来を話して気分を切り替え、メンバーは三々五々に研究に戻っていく。
自分達が必死になって積み上げたものが、あるいは作った轍が、次に続く者達への道標となることを願い。
あるいは---元の世界であったような、人類の理性や英知が、一寸先の破滅を回避して乗り切ったような未来になるようにと願いながら。
901:弥次郎:2025/07/13(日) 17:28:00 HOST:softbank126075110124.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
久しぶりに、憂鬱プリプリでした。
17世紀に素粒子物理学とかひも理論とか超ひも理論とかを考えていた、ある意味頭がおかしい集団のお話です。
最終更新:2025年09月13日 13:21