215 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2025/07/16(水) 00:38:13 ID:softbank126075110124.bbtec.net [15/32]
日本大陸×プリプリ「The Melancholic Handler」前日譚「ままならぬこともある」
西暦1700年代に入った日本大陸においては、いよいよを以て産業革命の実現が起こっていた。
従来の動力とは比較にならない力を生み出す機関、それに付随した産業構造の変化と革新が齎されたのだ。
戦国時代以前から
夢幻会が仕込んでいた種が芽吹き、国力を押し上げる要因となるだろう。
ひいては、これまでは動力の限界から生じていた枷を解き放ったケイバーライト機関の実用が可能になるのも大きい。
原作でもあったような航空艦の実現はもちろんのこと、航空宇宙分野への応用も可能となるだろう。
地上での運用もそうであるが、やはり抗重力機関があるならば宇宙を夢見たいものなのである。
しかし、夢幻会は同時にこれに付きまとう病気が存在することを早くから知っていた。
ケイバーライト障害である。
原作中においてはケイバーライトを含む粉末やガスが視神経に悪影響を与えると考えられているが、具体的な設定は登場していなかった。
特徴としては、放送第一話で登場したケイバーライト技師の妹がそうであったように、目が蛍光色に発光しているように見えるというものがある。
さらに色覚異常が発生し、最悪の場合には失明に至るということも判明している。
ケイバーライトを用いるうえで避けえない事項ということもあり、夢幻会ではこれについての研究を重ねていたのである。
未来の医学の知識を持つメンバー達と原作設定に詳しいメンバー、さらにはケイバーライトをを研究する物理学も合わせて取り組んだのだ。
どうやって罹患者を調達したのか?当時は重罪者などの人権なんてのはあってなきようなものなので、好き勝手出来たとだけ。
曝露実験に始まり、罹患させた患者の解剖と調査、さらにはちょっと言えないことまでやれた。
結果として言うならば、原因はケイバーライトの膜が形成されることによる光の散乱だ。
ケイバーライトは熱エネルギーを与えれば反応を示すが、これは人間の体温でも微弱だが発生しうる。
原作ではCボールという小型且つ人の体温で稼働するケイバーライト機関が登場したのだから、矛盾はしない。
とはいえ、この膜で発生する反応は微弱ゆえに重力の部分的な遮断は発生しない、というかできない。
代わりに発生するのは、膜における空間の歪みだ。光が飛び込んでくると、それの波長をゆがめ、乱して色覚異常をもたらすのである。
これを除去しないままでは、目を悪くするためのコンタクトレンズを入れているような状態となり、見えにくくなるのだ。
同時に、この膜がカラコンの役目を果たし、目の色の光の波長をゆがめて蛍光色にしてしまうと考えられている。
これらは意図的にケイバーライト障害を起こした被検体の眼球を取り出して調べつくした末の結論だった。
治癒方法はあるのか?と問われれば、少なくとも19世紀末の技術で実現可能という原作の描写から、あると断言できた。
ケイバーライトの精製と濃縮にかかわる技術も参考にすることで、軽度ならば完治させることができるようになっていたのだ。
要するに、浸食する前に、眼球をケイバーライトを吸着する薬液でよく洗えばいいのである。
その上で、今度はその薬液を洗い流して眼球を綺麗にして、あとは現代ではよくあった点眼薬を再現したものを指すだけである。
治療は長期間に及ぶし、結構高価な薬品を使うことになるとはいえ、治す手立ては見つかったのである。
216 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2025/07/16(水) 00:39:15 ID:softbank126075110124.bbtec.net [16/32]
「とはいえ、ケイバーライトの浸食が一定以上になると手出しができないのが悔しいところだな」
「確かに。水晶体までならば人工のレンズに置き換えれば見えるようにはなるからな」
目下の課題はそこから先だった。
目の表面だけにとどまらず、水晶体にまでケイバーライトが染みこんでいくと、光が水晶体で乱反射し、波長がランダムに乱されるのだ。
ここまで来てしまうと表面を洗うだけでは解決ができず、実質的に失明状態に陥る。原理こそ違えど、白内障と似たようなものである。
まあ、白内障と同じならば、と夢幻会は人工の水晶体(眼内レンズ)を作り、局所麻酔で交換することができる。
「とはいえ、そこから先にさらにしみこんでしまうと、光が網膜に認識されないどころか、視神経の電気信号を阻害するっぽいのがね」
「最悪は眼球をとっかえるような大手術になるなぁ……」
「今の技術水準だと、研究室で被検体相手にやることだな」
「……というか、神経電位の阻害までやるとか、ケイバーライト怖いでしょう」
「体温で反応しているならば、体温を下げればいいわけだが、それって死なないと無理なんだよなぁ……」
ぶつかったのは、まだ知見と技術の研鑽と蓄積の先でなければ越えられない壁だ。
それこそ目というデリケートな器官を傷つけず、影響を与えず、有害なケイバーライトだけを取り除くというのは、ハードルが高い。
転生を何度か経ている転生者ならば、幹細胞などから患者の新しい目と神経を作って取り換える方法を知っているし、経験もある。
それを実現するためのあらゆるものが足りない、という問題を除けば。
「……なにかこう、ブレイクスルーがあれば」
「そう簡単に出来たら苦労しないんだよなぁ」
ままならない。誰もが嘆息した。
実際、既にケイバーライト障害に罹患している者はいるのだ。
特に鉱員やケイバーライト技術の研究者や技術者が、自然に曝露されたり、インシデントによって浴びたことで罹患している。
対策として目を守るための保護メガネやゴーグルは開発され、逐次アップデートもされている。
目とつながっている鼻を防護する器具も生み出され、装着が奨励され、徹底されている。
それでも、人間はミスをしてしまうものだし、怠慢によるインシデントで大量のケイバーライトを浴びてしまうこともある。
どうやっても0にはできず、治療可能な範囲に収まるとも限らないのだ。その失敗の積み重ねから教訓を導き出し、反映させるしかないのだ。
「……で、これアルビオンとかにも公表するんだっけ?」
「そうらしい。考えてみろ、史実で原子力万歳(アトミックエイジ)のころに放射能の心配をしていたか?
この原子力をケイバーライトに置き換えれば、どういう事態を引き起こすのかは想像がつく」
「確かに。人体実験なんて、あんまりやりたいことじゃないしな。
できることならば非人道的なことは減らしたいし……」
「汚点になるのは今の俺たちだけで充分よ」
「せやな」
ついでに、ここで得られた知見は将来ケイバーライトを発見し、活用するであろうアルビオンにも明かされる予定であった。
敵国に利するのか?という意見もなくもないが、国家は時に非情になるものだが、人は慈悲は捨ててはならないのである。
確かに相争い、冷戦の相手となる国はアルビオンであろうが、人道や人倫までも投げ捨てて相手をするものではない。
そうすることで、自分たちをも守るのだ。非道を行うのは、行った人間にも遅効性の毒を齎すのだ。
良心の呵責、あるいはストレス。個人でも問題になるのに、国家レベルとなればそれは影響が大きいどころではない。
そうやって幾多の国が国体を傾け、途方もない喪失を生み出してしまっていたのだから。
だから、せめてと夢幻会は抗うのだ。
「未来のために、一歩一歩だな」
「賽の河原の石積にならなきゃいいけど」
「縁起でもないこと言わんといてー!」
やや締まらないものの、産業革命後の、さらにその先のために夢幻会の動きは加速し続けていたのだった。
217 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2025/07/16(水) 00:40:27 ID:softbank126075110124.bbtec.net [17/32]
以上、wiki転載はご自由に。
ケイバーライト障害について言及がなかったので、こっちでオリジナルですが設定を固めました。
オフィシャルではありませんが、悪しからず。
最終更新:2025年09月14日 17:16