571 名前:ひゅうが[age] 投稿日:2025/07/17(木) 20:27:29 ID:opt-133-123-162-250.client.pikara.ne.jp [108/240]


――西暦2001年10月22日 地球標準時(グリニッジ標準時)午後3時8分 太陽系 第12番惑星 雷王星軌道はるか沖合



「艦隊全艦に通達。『地球人類の興廃、この一戦にあり。各員一層奮励努力せよ』(Earthian expects that every man will do his duty)」

旗艦である亜光速戦闘艦「ネルソン」艦上から発せられた量子共鳴信号は、3個艦隊178隻を数える地球連合軍 統合艦隊の各艦を制御された熱狂へと追いやった
現在の地球連合における主導的な立ち位置にある三帝国の一角、大英帝国が建造した最新鋭の熱核パルス動力航宙艦であるところの旗艦には色とりどりのレーザーフラッグが翻っており、そのうちひとつは統合艦隊司令長官(とその司令部)が座乗していることを示している
事実その通りで、本来ならはるか300天文単位(AU 太陽と地球軌道の平均半径を1天文隊とする)彼方の地球上から指揮をとるはずの国場統合艦隊司令長官はわざわざ陣頭指揮という古い手段をとってまでもこれを行っていたのだった
これには隷下各艦隊司令長官たちも驚き諫めたのだが、連合安保理首脳陣の承認を得ていた国場を止められるものなどこの太陽系には存在していない

「各艦隊司令部より了承の返答あり」

「事前散布済みのセンサー群の作動良好、目標、間もなく第3次防衛線に接触します」

「雷王星トロヤ群砲台第1陣地より入電。目標はわが射程内にあり」

「第1および第2艦隊の最大射程に入りました。おやりになりますか?閣下」

数多くの報告を受けた女房役の総参謀長 M・チャーチル中将が微笑する

「まだだ。撃ち漏らしは避けたい。あと20光ばかり距離を詰める」

「了解しました」

英国淑女らしい一礼ののちに敬礼をした総参謀長は、艦橋(もっとも宇宙艦艇における艦橋は統合指揮所のことであり海上艦におけるCICやDICに近い)の後方で表示板をにらんでいた幕僚たちに手早く指示を出していた

「ピーピング・トム(のぞきたがりのトム)に反応!」

オペレーターの絶叫するような報告に、艦隊司令部と「ネルソン」の操艦スタッフは対照的な反応を示した
片方は平静を保っていたのに対し、もう片方は驚愕のうめきを漏らしたのだ
太陽系そのものを基軸線長とした8系統のレーザー重力波干渉計が、重力波の発生をとらえたのだ
ほとんどプランク長さに近い微細な空間の変動が意味することは、ひとつ

「出現位置、火星沖!」

572 名前:ひゅうが[age] 投稿日:2025/07/17(木) 20:28:04 ID:opt-133-123-162-250.client.pikara.ne.jp [109/240]

「ほらな」

国場司令長官はニヤリと笑ってのけた

「あの性格の悪い『敵』がこの好機を逃すはずがない、といった通りだったろう?」

「ええ、それを読み切るあなたの方がこういうことにはお詳しいようで」

呆れ混じりの女房役の声には、どこか感情の色が濃かった
かのマールヴァラ公の子孫のうち分家の有名な方の子孫である彼女にとり、国場とはそのような存在なのだった

「ならばやることは決まっている。隷下各部隊に下命。『Z命令発動』」

「了解。太陽系全域に下命します」

「全地球連合軍部隊へ。ID6。アイ・ディー・シックス。繰り返す。インディア・デルタ・ソキシクス」

震える声で復唱する通信士が旧PATO(太平洋条約機構)フォネティクスコードをまるで呪文のように唱え終わったその瞬間、あらゆる回線から「了解」の信号が殺到した

ID6とはかつての太平洋条約機構軍の伝統的なコードのさらに発展系を意味していた
その由来は古典的なSF作品であり、3年を超えて最終局面に近づいていると思われた今次戦役においてはただひとつの意味を有する

すなわち、「侵略者に対する全太陽系の火力投射」を意味する


「フォボス鎮守府の第4艦隊、アステロイドベルトの第5艦隊、即応を開始しました」

「火星絶対防衛線に出現した『目標』、順調に追尾中」

「想定通りです。いかな奴らとて、重力を通じた目の感度を高めるには走査範囲を限定せざるを得ない」

「重力井戸の特大な擾乱対象となる太陽活動由来の重力波は遮断し切れないようですね」

幕僚たちが次々に口にする

「よろしい」

国場司令長官は一言で幕僚たちの興奮をおさめてみせた

「あちらは火星のグランドキャノン群に任せて、こちらはこちらで仕事にかかろう」

「了解しました。ほかには何か?」

戦況表示板をちらと国場はみた
うん。距離はもう64光秒を切る

「全周波数帯に発信『トラ』三連」

「は。通信?」

「りょ、了解。『トラ(撃滅せよ)・トラ(撃滅せよ)・トラ(撃滅せよ)!!』」

「主砲の射撃を開始します」

「全艦、艦首陽電子衝撃波砲(ショックカノン)充填率80%…100%…120%!」

「撃(テ)ッ!!」


その瞬間、陽電子衝撃波砲発射態勢をとっていた七十数隻の戦艦群の艦首から閃光
迸った
むろん、その周囲および前衛をつとめる100あまりの巡航艦と駆逐艦群が機関出力を最大にまで上げていたことはいうまでもなかった

後世、「太陽系絶対防衛戦」と称されることになる戦いはこうして開始されたのであった

573 名前:ひゅうが[age] 投稿日:2025/07/17(木) 20:29:18 ID:opt-133-123-162-250.client.pikara.ne.jp [110/240]
【あとがき】――というわけで、ヲルラ…もとい着陸ユニットをフルボッコにする地球連合の図、をお届けいたします
なお本編開始はこの四半世紀後の模様w
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最終更新:2025年09月14日 17:22