327 :YVH:2012/04/02(月) 20:00:36
皇紀4250年 宇宙暦790年 帝国暦480年 標準暦某月某日
=銀河帝国=
この日、元皇帝侍従武官であったリヒャルト・フォン・グリンメルスハウゼン老子爵が一人の帝国軍士官を伴って
新無憂宮・東苑内に在るルドルフィン公の屋敷を訪れた。
-ルドルフィン公爵邸・客室-
老人二人が応接テーブルを挟んで向かい合っていた。因みにテーブルの上には今、公爵が嵌っている
温泉饅頭(こしあん)とほうじ茶が出されている。
公爵が徐に口を開いた。
「よう来たのリヒャルト。何か、退屈しのぎになる事でも
話してくれるのかの?くくく・・・」
意地の悪い笑みを浮かべた老公はそう言うと、出されていた饅頭を一つ摘んで
訪ねて来た老子爵の方へつき出した。
「美味いぞ、リヒャルト。食してみよ」
これに老子爵は笑み交じりの礼を言って受け取り、それを食した後に来訪の用件を
目の前の老公に告げた。
「ホッホッホ・・お手ずからのご下賜とは恐悦至極、有難く頂きましょうぞ・・・
ウム、これは美味ですなぁ・・・
おお、忘れる所であったわ。公にぜひ見て頂きたい物があったのだったわい・・・
ケスラー大尉、例の物を公へお渡しせよ」
老子爵からケスラー大尉と呼ばれた青年士官は、その言葉に従って持参してきたケースから
数枚綴りになった書類を取り出し、ルドルフィン公に差し出した。
書類を受け取った老公は早速それに視線を落とし、黙読し始めた。
その間、グリンメルスハウゼン老は温泉饅頭が気に入ったのか、饗されていたそれに舌鼓を打ちつつ
ほうじ茶を喫していた。
饅頭が五つ程、老子爵の胃に収まった頃になって、漸くルドルフィン公は書類から顔を上げた。
その顔は心なしか赤らんでいた。
「くくくっ・・・面白いっ!面白いぞ、リヒャルトよっ!!
我が帝国に新種のネズミが沸きおったかっ!実に面白いっ!!!」
ルドルフィン公は何が面白かったのか、しきりに面白いを連発しながら爆笑し続けていた。
その間でもこの知らせを持参した老人は、饅頭を賞味しつつ、ほうじ茶を喫していた。
一しきり笑い続けていた老公爵は、笑いを収めるとグリンメルスハウゼン老に問いかけた。
「で、このネズミども、如何様にする心算なのだ‘剪定者どの‘?」
公爵の問いに老子爵は、こう答えた。
「・・そうさのう・・・暫しの間、帝国観光を満喫させた後は・・・
‘保養‘させた後に、お帰り願うと致しましょうか・・・如何ですかな‘ガルム(猟犬)‘どの?」
老人の答えに屋敷の主は、暗く哂いながら賛意を表した。
「くっくっく・・・良き考えじゃ。冥土の語り草に帝国の事、
よぅく見て逝んて貰わねばのう・・・くっくっく・・・」
アッシュビーの小倅を踊らせて以来の愉快事じゃ、とルドルフィン公は愉快そうに哂っていた。
328 :YVH:2012/04/02(月) 20:01:22
老公爵の闇い喜悦を見つつ、‘剪定者の長‘は徐に口を開いた。
「・・そう言えば、この新種のネズミども、
ローエングラム女伯の弟御に、随分執着しているようですなぁ・・・」
老人の台詞に公は、これは堪らぬとばかりに笑いながら自分の考えを述べた。
「くくく・・・あれは見目が良いからのう・・大方‘その道‘の好き者が狙っておるのであろうよ。
彼の国の高位の者たちの間では‘その道‘が優雅な嗜みと言うからのう・・・くっくっく」
あれに目をつけるとは、天晴れな審美眼よ、と言ってまた公は笑い出した。
そんな中、室内に控えていた執事が静かな声で主人に話しかけた。
「御前様、笑ってばかりもいられますまい。どのような対応をなさいますか?」
執事の質問に公は笑いを納めると、次のように命じた。
「あれの事はパウルに一任せよ、良きに計らってくれるだろうよ。
それよりもこの事、かの地の都におる酔いどれに知らせるのじゃ」
主人の命に、執事は慇懃に頭を下げると、それを実行するべく応接室から退室していった。
329 :YVH:2012/04/02(月) 20:02:14
=大日本帝国・宙京、銀河帝国暫定大使館=
-大使執務室-
今、この部屋には三人の人物たちがいた。
重厚な大使用執務机付属の椅子に座るのは大使であるG=ゴールデンバウム大公フリードリヒ、
その大公に、本国からの四公名義の報せを報告しているのは、宮宰(補佐官の事)ハーン伯爵である。
「・・・以上の様な事が、本国から報告されてきておりますが、如何致しましょうか殿下?」
ハーン伯爵の問いに大公は、部屋にいる最後の一人ヒムラー大佐の方に目を向けた後、次のように命じた。
「うむ・・・中々に楽しませてくれるのう・・・遥々来た甲斐があったというものよ・・
姉宮殿下と、いまだ逗留中のロンドン公どの、ロシアの摂政殿下どの宛てに
わしの名で「尾華」のウナギ料理をお贈り致せ。
おお、そうじゃ。ロンドン公どのはどら焼きがお好きと聴く、それもお贈り致せ
ロシアの殿下には、日○のラーメンとやらをの」
大公の命に、伯爵は一礼して手配をしに退室しようとしたが、当の大公に呼び止められて再び上司の方に向き直った。
「おお、暫し待て。こうも伝えるのじゃ〔機会があれば大使も臨席を所望している〕との
あと、〔ネズミ退治の方法をぜひ、ご教示賜りたい〕とな」
この大公の言葉に、伯爵は口元を綻ばせると再び一礼してから、大公の‘お茶目‘を実行すべく
執務室を退出していった。
この、大公からの突然の‘贈り物‘に贈られた方は表面上は兎も角、内面では顔を引きつらせていたと言う・・・
【あとがき】
余り一方的だと、またクレームがつきそうなので
少しばかり、帝国にも肩入れをば(笑い)
タイトルをつけるとすれば「帝国の老人たち」でしょうか?
最終更新:2012年04月08日 21:50