343 :ひゅうが:2012/04/02(月) 21:10:30
――皇紀4250(宇宙暦790)年 某時刻 日本帝国 帝都宙京
「おお・・・閣下だ・・・。」
「始祖さま・・・」
「神様・・・」
「ありがたやありがたや・・・。」
「――なぁ、辻(父)さん。」
「なんです?」
前世の辻とそっくりの男にひきつった表情で、嶋田は半眼になりながら目の前で自分を礼拝(らいはい)する人々を指さして言った。
手ぬぐいっぽい布を首から下げ、涙を流しながら嶋田の方を向いたかと思うと手をさすりあわせて歓喜の雄たけびやら祈りをささげている。
その横では嶋田も見慣れた巫女さん姿の女性が微笑ましいものを見るかのように彼らを温かく見守っていた。
「何です?この人たち。地球教から秘密裏に接触があったから来てくれといわれたから同盟への出発前に来てみたのですが。」
「地球教徒ですよ?この人たち。」
辻(父)は首を傾げながら言った。
「地球教の有力な一派『萌神派』の代表の皆さんです。」
脇に控えていた巫女さんが言った。
「あ、私こういう者です。」
巫女さんは見事な15度の礼をしつつ袖口から名刺を取り出してみせた。
そうなると社会人である嶋田も名刺入れから名刺を取り出し「これはご丁寧に」とやってしまう。
授受が終わってからやっと気付いた中間管理職な嶋田は「はっ・・・またやってしまった」と赤面する。
それを見た地球教徒は「おおっ!」だの「ごちそうさまです」とまた口にする。
「コホン!ええ~と、本伊勢(もといせ)神宮権禰宜 涼風馨さん?」
はい。と巫女さんは一礼してのけた。
本伊勢神宮とは、日本帝国の宇宙移転に際し遷座式が行われた列島の多くの神々の留守を預かるために置かれた社である。
かつての伊勢神宮を本拠とし、日本列島や旧日本領の各地に点在する社格を管轄しており、その役割は銀河帝国成立後もまったく変わっていなかった。
旧東京に置かれた銀河連邦地球環境再生機構本部がその役割を終えるとともに「列島管理機構」としてその防衛機構を維持しているのと同様である。
そんな役割を果たしているからこそ、ヒマラヤ山麓の地球教とはそれなりに付き合いがあるらしい。
今回は地球教徒の中でも日本系の人々を連れて挨拶に来たとのことだった。
「再臨まことにおめでとうございます。征国大明神様。いえ、地球教さんのいうような『萌神さま』とお呼びした方がいいでしょうか?」
「いやまてまてまて。何ですかそれ!?」
えっ?と巫女さんは首を傾げる。
344 :ひゅうが:2012/04/02(月) 21:11:04
「漫画やアニメーションの基礎を築きあげ、その中にあらゆる生命や自然の美しさを見たときに『萌えいずる感情』を体系化して作り上げた『造化十傑』の一柱にして、有明の地に萌えの神々を集わせる役割を果たしたのはあなたではないですか。
ゆえにあなたは『萌神さま』と親しみをこめて呼ばれているのです。」
「・・・どこから突っ込んでいいのかわからん。あとそのこっぱずかしい神号もやめてください。」
「どうする?」
「いや、ほかならぬこの御方のご要望だが――」
「なんとも恐れ多いな・・・。」
なんだか地球教徒たちは恐縮しているらしい。
そんな様子を見た嶋田は、そしらぬふりをして明後日の方向を見る辻(父)を睨みつけ、とりあえず来訪の目的を聞いてみることにした。
「あー。それで、そちらのご用は?」
「はっ!!我ら一同、萌神さまに拝謁し、再び聖旨を賜りたく参上いたしました。」
代表らしい某ヒ○コー似の地球教徒が直立不動になって述べる。
「聖旨?」
「は!おそれながら『すべての人々が心安らかに、互いに協力しよきことを為すべし』と。有明の地で仰られた祭典の精神を今こそ全宇宙に!!」
- そういえば、陸海軍合同文化祭の第1回のときそんなことを言った覚えもある。
それがのちの「コ○ケ」のスローガンになっていたことも覚えている。
と嶋田は頭を抱えた。
「ご心配なく、萌神さま。我ら萌神派はすでにかの銀河帝国、フェザーン、そして同盟領内に確固たる地歩を固めております。
憎きルドルフ以来の二次元敵視も新たな皇帝により名目上も撤廃されました。今こそ古き良き地球の『萌え』を全世界に広げる時であります!」
「どうぞお力をお貸しください!!」
いろいろとひどい話だった。
どこから突っ込めばいいのかわからないが、嶋田は頬がぴくぴくなるのをこらえつつ、情報を集めることにした。
「それは総大主教殿はご存知か?」
「勿論。猊下は今は亡き我らが師『ケ○・アカマツ45世』師のもとで御幼少のみぎりを過ごされましたゆえ。後援してくださっております。」
「我らの義を理解しなかった大司教ド・ヴィリエめも、今では消極的ながら文化の再興を支持しております。」
頭痛くなってきた・・・。と嶋田はSAN値がガリガリ削られるのを感じていた。
――ちなみにこの日の会見では嶋田は「くれぐれも慎重に、他の嗜好を排斥せずに」との言葉を与えるにとどめ、そのかわりにかつて作画を手伝ったフシミン同人誌の某キャラを色紙に描いて渡してやりごまかした。
地球教徒たちは感涙にむせびなき、『萌神さま』への絶対の忠誠を誓った。
ちなみに、巫女さんはそっちの趣味があったらしく、『百合による世界平和』という標語といっしょに「神○月の巫女」のキャラを色紙に描いてもらい悦に入っていた。
すさまじく疲れた嶋田は後のことを辻(父)に丸投げし、同盟への旅程につく。
なお、その後地球教という非常に重要なパイプを晴れて管轄することになった辻父娘が「計算通り…」と新世界の神っぽい笑いを浮かべたかどうかは定かではない。
最終更新:2012年04月08日 21:57