62:奥羽人:2025/09/19(金) 20:04:10 HOST:sp49-109-235-173.tck01.spmode.ne.jp
南米には二つの地域大国が存在する。
ブラジルとアルゼンチン、この二つだ。
この二国を始めとする南アメリカ各国の国土は大戦の戦地から遠く離れており、直接的な戦火に曝されることはなかった。
南米諸国はその産業・経済構造上、外需依存がかなり強い。故に、大戦中は中立の立場と立地を利用して輸出産業によって好況を謳歌していた。
しかし、太平洋戦争後期から始まった大日本帝国による一連の核攻撃は、それに勝るとも劣らない衝撃で南米各国を揺るがす事となる。
まずこの状況にチャンスを見出だしたのは、アルゼンチンだった。
アルゼンチンは
アメリカの圧力によって形式的に枢軸国へ宣戦布告していたものの、事実上の最高権力者であるフアン・ドミンゴ・ペロンを始めとして、枢軸寄りの姿勢をあからさまにしていた。
史実では戦後アメリカの厳しい態度に曝され苦境が続くが、この世界ではアメリカは複数回の核攻撃を受けて半壊。
アルゼンチンに掛かっていた圧力は消失霧散した。
欧米との貿易が壊滅したのは痛いが、アルゼンチンの輸出品目は主に食料であり、国内に回すことも可能なのだ。
「我らは飢えぬ。牛と麦と大地がある」
そう嘯くのは、軍政に近い若い政治家だ。
輸出は滞ったが、国内を潤すには十分すぎるほどの食料がある。逆に言えば、この豊かさを武器にすれば、周辺諸国を従わせることも可能なのだ。
事実、貿易の途絶が生活を直撃し、食料不足が深刻化している国は多い。
アルゼンチンの倉庫に眠る小麦と肉は、もはやただの商品ではなく、外交を決する切り札に変わりつつあったのである。
混乱する外の世界を横目に、政府は静かに自信を深めていった。
輸出の停滞は損失であると同時に、南米の覇を競う新たな機会の兆候でもあったのだ。
63:奥羽人:2025/09/19(金) 20:06:46 HOST:sp49-109-235-173.tck01.spmode.ne.jp
対してブラジルは、未曽有の不安に包まれていた。
連合国の一翼として宣戦布告したが、遠征軍をイタリア戦線に派遣するだけだったこの国にとって、遠く離れた戦場の混乱は、あくまで外の世界の出来事であるはずだった。
しかし、アメリカ合衆国の都市が次々と核の炎に呑まれたという報がもたらされると、情勢は一変する。
次は我が国だ───そうした噂は、新聞の隅から街角の露店、そして工場や農村にまで広がった。
このまま親米の道を歩めばブラジルも標的となるのではないか、という恐怖が国全体を締め付けた。
東海岸のニューヨークですら壊滅しているのだ、明日にはリオデジャネイロが核の炎に包まれても不思議ではない。
リオの議会では、連合国への肩入れを疑問視する声と、急ぎ中立を取り戻すべきだと叫ぶ声とが入り乱れた。
軍部の一部将校は、北方の大国を見限り「ブラジルはブラジル自身を守るべきだ」と訴え、農村出身の兵士たちがそれに呼応した。
こうした動きの中で、ヴァルガス政権の基盤は急速に瓦解していった。
そうした中、大きなうねりの切っ掛けとなる事態がカリブ海沿岸の産油国……ベネズエラで進行していた。
かつて欧米へと黒い黄金を絶え間なく送り出していたベネズエラの港は、いまや行き場を失ったタンカーと、溜まる一方の原油の臭気に満ちていた。
アメリカの精製所は核攻撃の混乱に閉ざされ、ベネズエラの国庫収入を担保していた需要は途絶えた。
この突然の出来事に、指導者であったイサイアス・メディーナ・アンガリータ将軍は有効な対応が出来ないまま、状況は悪化していく。
そして遂に、ベネズエラ国内の米国石油資本が活動を停止。宙に浮いていた石油産業にとどめを刺した。
政府は混乱した議会で補助金削減と配給制を急ごうとしたが、都市の労働者は失業者として瞬く間に街頭に溢れた。
政情不安がけたたましい足音を立てて迫り、労働組合や軍将校が蜂起の色を濃くしていった。
64:奥羽人:2025/09/19(金) 20:08:20 HOST:sp49-109-235-173.tck01.spmode.ne.jp
一方で隣国コロンビアも、コーヒー、バナナ、花卉……それら商品作物の国外輸出に依存する経済故に、今次大戦の影響は絶大だった。
欧州も米国も麻痺した今、港からは船が消え、農園には売り先を失った作物が腐り積もった。
農民はプランテーションを放棄し、都市に流入。
ボゴタでは失業者と難民で溢れかえり、政党抗争に拍車がかかった。
もともと根深かった自由党と保守党の対立は外貨の枯渇とともに激化し、地方での暴力的衝突は日常の風景となった。
欧米という後ろ盾を失い、利権も市場も崩れ去ったその瞬間から統治の枠組みは急速に失われ、国境地帯では武装集団が独自の秩序を名乗り始めた。
列強の影響が消えた世界情勢の中で、これらの国々は自らの富と生産力を逆手に取ることもできず、ただ崩壊の坂を転げ落ちていったのである。
アルゼンチンは、こうした大西洋貿易の途絶と周辺諸国の混乱を「歴史的機会」と見なし、周辺への影響力拡大を急ぎ始める。
上記の二国は、食糧供給と経済支援を条件に、アルゼンチンの外交攻勢を受け入れざるを得なくなっていった。
ブエノスアイレスは積極的に穀物と肉を提供し、その代わりに石油や鉱産資源の供給権益を獲得していく。
一方で、この動きを最も強く警戒したのがブラジルであった。連合国寄りであったことから国内に不安がくすぶり続けていたが、紆余曲折あって成立した新しい軍政府は、隣国アルゼンチンの膨張を食い止めるべく動き始める。
ウルグアイやパラグアイ、さらにはアンデス諸国へ外交攻勢を開始し、アルゼンチンの包囲を試みる。
こうした両国には、崩壊しかけていた西欧諸国から食料や資源とのバーター取引で、大量の武器兵器が流入していた。
特に、亡命してきた元ドイツ軍人から組織された軍事顧問団の元、アルゼンチン軍は急速にその能力を高めていく。
一方、フォークランド/マルビナス諸島を巡ってアルゼンチンと微妙な関係にあるイギリスから、英本土でダブついていた米英製兵器が多数ブラジルに流れ込んだ。
こうして、南米は世界の残骸が集まり衝突する「新たな戦場」の様相を帯びていき、緊張状態は再現なく高まっていった。
───そうした中で、パラグアイ内戦が勃発。
治安維持の名目で、ブラジル、アルゼンチン両国がほぼ同時に進駐を開始した。
65:奥羽人:2025/09/19(金) 20:11:27 HOST:sp49-109-235-173.tck01.spmode.ne.jp
【“最終戦”後
夢幻会 ~核戦争のあとしまつ~】南米の導火線
以上となります。転載大丈夫です。
以前投稿した核攻撃大好き転生者の居るとこの続きです。南米が勝ち逃げしそうだったので沈んでもらいました。
最終更新:2025年10月27日 16:12