923 :名無しさん:2012/03/31(土) 19:18:38
「もう10年ですか・・・。長かったのかあっという間だったのか難しいところですな。」
「たしかに。しかしそれだけの時間である程度でも安定を取り戻せたのはいっそ奇跡といってもいいかもしれませんね。」
ある会合の席でしみじみとつぶやく男達がいた。
あの日。大西洋で火山噴火と大津波が発生し
アメリカ東部が海に沈んだ日から、そして大日本帝国が地球上から消滅した日から10年の時が過ぎていた。
「結局今に至るまでこの転移現象の原因は分かっていませんが、結局衝号の影響だと考えざるを得ないのでしょうね。」
「あんな作戦を実行した天罰だと言われればそれまでですが、もう少しほかに無かったのかと問いただしたいところです。」
夢幻会・会合による衝号計画の実行から間をおかず大日本帝国はその国土ごと異世界へ転移していた。
合衆国への宣戦布告を控え戦時体制に移行していたことが功をそうし短期的な混乱こそ抑えられたものの情報が全くない上に貿易がストップしたのは致命的である。
即座に海軍を周辺海域に派遣しこの新たなる世界の情報収集に走ったのは当然だろう。
その結果わかったのは周辺には元の世界のユーラシア相当の大陸があるが大きな国は無く人が暮らしていても中世の村レベルであるという事だった。
敵対的な国家が至近に無かった事は幸運だったがそれまでだった。
出現した位置の問題なのか世界の問題なのかは不明だったが鉱山こそ幾つか見つかったものの油田に類する物が一切存在しなかったのだ。
幸い樺太など国内の油田は正常に稼働していたがいつどうなるかわかった物ではない。
その上近くに国家が無かった事で食糧の輸入すら不可能だった。
結果物資の統制をより厳しくし節約に努めるしかなかった。
さらに悪い時には悪い事が重なるものであり、やっと周辺の大雑把な調査が一段落付くか付かないかのころ転移後最悪の出来事がおこる。
魔物の出現である。
調査部隊が大陸で遭遇したのを皮切りに各地で出現情報が多発、しかもその姿形を夢幻会が把握した時には驚きの感情しか湧かないものだった。
明らかにドラクエの魔物だったのである。
その後日本近海で拿捕された商船の船籍がポルトガだったことからDQⅢの世界に転移したのだと断定されたのだった。
その後すぐに国内でも魔物の目撃例が発生したがそれはドラクエの魔物とは似つかないモノであり初めは誤報と判断された。
なぜなら姿形を聞き取っていくと日本の妖怪のが浮かび上がり混乱の中での誤認と思われたからである。
それが目撃例が徐々に増え実害が出るに至り妖怪が魔物として実体化している事が判明。
国内が大混乱に陥ったのだった。
924 :名無しさん:2012/03/31(土) 19:19:13
「実際、初期の妖怪による被害は酷いものでした。何の備えも無いところにいきなりでしたから全滅した村落も少なくありませんし、国内の流通は一時壊滅状態になりましたからね。」
「ポルトガの商船からの情報と神祇院の全力を挙げた結界敷設によって国内がある程度の落ち着きを取り戻すまで5年、そこから更に主要幹線と鉄道の安全を確保しきるまで2年。この世界の街の成り立ちの情報と世界を移ってからの国民の魔法的な力(以下魔力)の上昇が無ければ何倍の時間が掛かったことやら・・・。」
この世界では新しい街を作る時は予め聖水などで土地を清め起点とし神の加護を祈る事で結界を構築し魔物から街を守っている。
もっともそれは封鎖するわけではなく近づきたくないと思わせる様な物であり明確に襲撃を目的として動いている場合には無力である。
(地鎮祭に近い様式であり帝国国内でも魔物被害が特に酷かったのは比較的近代に開かれそういった儀式をきちんと執り行っていない場所が多かった。)
「魔力の上昇は一概に良かったとは言い難いと思いますがね。」
下座に座っている男がため息をつきながら言葉を漏らした。
「我々のような警察官からすれば魔法を使った犯罪が増えた上に全く無自覚に魔力を暴走させて大きな被害を出す輩が現れた事で常時大規模テロを警戒しているようなものですよ。」
警察幹部をしている男が疲れた様子でそうこぼす。
「その辺はきちんと予算と人員の増強をしていますし、大きすぎる才能を持つ者は率先して神祇院の方で教育する事で抑えられる事です。学校教育課程で魔力制御について最低限の事を教えられるようになればおのずと減っていくでしょう。」
それまでは大変でしょうが職責を果たすことに全力をあげてください。と即座に切って捨てられる。
「ポルトガ経由でこの世界の魔法についての知識もある程度入手していますし石油が何時枯渇するか分からないような現状では文明構造の転換を図っていくしかありません。その為には魔法は必要ですし才ある者は宝です。」
愚痴っていた者たちが、それはそうなのですが・・・。と押し黙るなか。
「――ですから女学校に魔法教育課程を盛り込み魔法少女を育成する事も国家のためなのです。」
「って、あなたは結局それですか!?」
「何を言うんですか古来より魔力は女性のほうが強いものであり、なおかつ非力な女性に抵抗手段を与える事でやがて産まれてくる子供達をも守る重要な政策ですよ。」
さも当然、世界の真理であるというかのように言い放った。
そして優しく微笑み頷くと
「心配されなくとも、男子校へも展開していきますよ?」
「いえ・・・、そういうことではなく・・・。もう、いいです。」
(ああ、辻さんのそういうところに突っ込んでも疲れるだけなのに・・・)
周りの気持ちは一つになり発言した警察幹部の男達に憐みの視線を投げかけていた。
実際この時に至っても油田は発見できず、国交を開いたポルトガやロマリア、イシスでも継続して情報収集を行っていたが成果はゼロだった。
ここまで来るとこの世界には油田は無く、国内で稼働中のものが枯渇した時点で原油を手に入れる事は不可能になるとの認識で動かざるをえず、代替エネルギーの開発は急務であった。
科学的な手法も当然試されていたが同等以上に魔法研究にも予算が投入され、日本古来の呪法や祈祷からこの世界独自の魔法まで多岐に亘って研究が行われている。
925 :名無しさん:2012/03/31(土) 19:20:14
「そういえば、情報部の方で編纂していた帝国内や周辺域で出現した魔物をまとめた資料が完成したそうですね。」
生温かい雰囲気を振り払うように会話が再開される。
「現状までの、と枕詞が付きますが一応完成しました。国外の魔物はほぼ全てドラクエ基準でしたが国内については妖怪大図鑑としか言いようがない状態ですね。」
苦笑しながら資料編纂を行った情報部所属のメンバーが答える。
「まぁ、驚いたのは明らかに日本の妖怪ではないモノの報告が幾つも混ざっていて調べていくとロシアの妖怪だった事ですか。初めは、国内でも本格的にドラクエな魔物が湧き始めたのかと戦々恐々としましたよ。」
それは、確かに洒落にならんな、と笑いが広がった。
「ロシア貴族と一緒にロシア妖怪も亡命してきていたとは、まったく、冗談がきついですよ。」
やれやれと肩をすくめる辻に対して
「それはキキーモラを家で雇っているあなたのセリフでは無いでしょう。」
ジト目で見られた辻はつっと目を反らした。
そして、んんっと咳払いを一つすると、
「初期よりは改善されたとはいえ、魔物による被害は全国で未だ発生し続けていますし、それ全てに対応するには人も金も物も時間もまったく足りません。使える者は誰でも使うべきですし、話が通じて帝国の法規を守るならそれは帝国の臣民として扱っても問題ないでしょう。」
事実、国内で妖怪の目撃例が増える中で、きちんと会話をしたとか道に迷って難儀しているところを助けられたといった情報も上がって来ており挙句、河童の村が見つかった例すらあった。
そんな中で一部は帝国政府と交渉し自分たちの権利を認め一国民として扱うよう申し入れてくるモノもおり紆余曲折はあったがおおよそ認められていた。
彼らは人の目に触れていなかっただけで今までも日本で暮らして来たモノたちであり、尚且つ人に無い知識や技術を持つ者も多く国民として取り込む利益は計り知れないものがあった。
そしてなによりも、わざわざ敵を増やすような真似をする余裕は帝国には無かったのだ。
926 :名無しさん:2012/03/31(土) 19:20:47
「それよりも、先日正体不明の船団により漁港が被害を受けたという件はどうなりましたか?撃退したという報告は受けましたが詳細についてはまだ知らないのですが。」
(あからさまに話を反らしに来たよ・・・。)
内心そう思うのだが内容が内容だけに無下にはできない。
「初めは何処かの国の私掠船の線も疑われたのですが実際のところは船団を組んだ幽霊船だったようです。ポルトガなどにも問い合わせましたが過去に例が無いとか。」
たしか南雲さんは現地に行っていましたよね。
話を振られた南雲は微妙な表情で
「確かに船団と言えば10隻からなる船団でしたが実際はお粗末なものでした。艦隊行動を全くせずばらばらに周辺を襲っているだけでしたから。」
たまたま一か所に同時に出現してしまっただけと言われても違和感はありませんね。と嘆息するがふと真面目な表情になり
「ただ一点。特筆すべき点は幽霊船の中に畝傍が混ざっていたことです。」
「「「はっ?」」」
ちなみにこの世界でも畝傍は注意を払っていたにも関わらず史実と同じく亡失艦となっている。
「沈んでいたものが転移で付いてきた後に幽霊船となったのか、何かの拍子にこの世界に迷い込んだが故に亡失艦となりさらには幽霊船となったのかは分かりませんが、これはかなりの危険を孕んだ発見です。」
撃沈してしまっているので現在引き上げ調査を行っていますから詳細はまた後日となりますが。と話を締める。
「つまり調査結果にもよるのでしょうが、仮に戦艦が沈んだとして幽霊船として蘇る可能性があると?」
引き攣った表情での問いかけに否定はできませんねと頷いた。
「どこまで効果があるか分かりませんが今後は艦に神職を乗せる事で万が一の時に鎮魂の儀式を行うようにしたほうがいいのではないかとの意見もあり神祇院の方でも検討中です。」
神祇院の職員がそう補足する。
「・・・幽霊船が動いている原理が解れば燃料問題が解決できないですかね?」
みながギョッとして辻の方を見た。
「いや、辻さん。流石にそれはちょっと・・・。」
「まぁ、今のところは冗談ですよ。」
(できるなら本気でやる気だよ!この人!)
笑いながらそう言うが目が笑っていない顔を見て再び心が一つになった。
確かに燃料問題は解決するかもしれないがそんな不気味な船に誰が乗るというのか。
軍関係者と企業関係者は研究開発により注力する事を心に決めたのだった。
最終更新:2012年04月09日 19:48