257:奥羽人:2024/06/19(水) 21:10:26 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp
「……ここは…?」
ふと気がつくと、“彼”は鬱蒼とした原生林の中に居た。
辺りを見渡せば、毛皮のみを身に纏い石の穂先を持つ槍を担ぐ、まるでそのまま原始人のような者らの姿。
ふと自らの体を見てみると、彼らと同じように自らもまた原始人のような格好だった。
「これはいったい……!?」
困惑する間もなく、頭に流れ込む記憶。
それは、“彼”が間違いなくこの地で原始的な生活をしていたというもの。
しかしこれは、“彼”にとって初めての出来事ではない。
もはや説明は不要だろう。
これは所謂「転生」もしくは「逆行」である。
「なぜ、こんな昔も昔に飛ばされるんだ……」
まるで罰ゲームかの如き転生、言うなれば魂の左遷である。
しかし、彼には心当たりがあった。
前世において、自らの祖国を生かす為に世界と歴史を決定的にねじ曲げたという罪が。
であるのならば、これもまた一つの罰なのかもしれない。
そうして“彼”は、何もかも歴史の闇の中だった原始時代に順応する努力を始めた。
ここでは唯一の取り柄である未来知識など殆ど役に立たない。
しかし、それでも科学技術や政治経済の知識こそ宝の持ち腐れであったものの、生活の知恵や衛生知識等、ほんの少しながらも確かに役立つものはあった。
そして、思わぬ出会いもあった。
「……おそらく、平成の世から数千年以上前。縄文時代の日本でほぼ確定だろう。あの山……新富士火山が形成される段階の富士山だと仮定すれば……おおよそ、約1万年前」
それは、同郷の転生者。
彼らの中に居た、前世で考古学・地質学を学んでいたという者によって、ここが変わらず日本……いや、今まさに日本列島となりそうな所であるということが解ったのだった。
そうして“彼”は、大変ながらも充実した原始時代の生活を乗り越え、次の世代に命を繋ぎ……動物の一種として見た人間の生における役割を果たして、息を引き取った。
「──────!!」
闇から光が溢れ、唐突に視界がクリアとなる。
突然の事に驚き、声を出そうにも呻き声しか出ない。
手足を動かそうにも、ひどく不自由するしかなかった。
まるで生まれたての赤子のような。
いや、実際に赤子となったのだ。
自らが発した泣き声で、“彼”はそう自覚させられた。
そして、今こちらを覗き込んでいる“彼”の両親とおぼしき男女……それは、記憶の中よりも成長してはいたものの、確かに憶えている。
前世にて彼が族長となった時に生まれた、同じ部族に居た子供たちのうち二人であることに。
『────また原始時代かよーーーーーっっっ!!!!!!!!』
258:奥羽人:2024/06/19(水) 21:11:53 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp
「いつまで……続くのだろうか」
繰り返される原始時代への転生。
生を諦める訳ではないといえ、彼の心は磨り減っていた。
それが、部族の皆に「現人神」としてある種祀られるような存在になったとしても。
代わり映えのしない原始の生活。狩猟と採集、移動とキャンプ。
彼は、自らの魂が死にかけていることに自覚的だった。
最近、かの平成・令和の時代を思いだし、もはや遠くに行きすぎた憧憬を懐かしむ時間が増えてきた。
「はぁ……米が食いたい……」
『…………米?』
その時、彼は自ら発した呟きに、自ら衝撃を受けた。
なぜそんな単純な事を思い付かなかったのか。
やるべき事はまだ沢山ある、そう自覚した時、彼の世界への展望は唐突に開けた。
「……そうだ、米を作ろう」
イネの原種は、現在のインド~中国南部が発祥とされている。
マトモな乗り物も無い原始時代、日本からするとそれは途方もなく長い道のりだろう。
しかし、彼には彼を慕う部族と、そして事実上無制限の寿命があった。
転生を繰り返すうちに得た、同じ境遇の者達も集まった。
そうして彼らは、彼らの「生きる意味」の為に行動を開始したのだった。
新生代第四紀更新世末
紀元前11千年紀以前
最終氷期の終了まで、約1000年…
259:奥羽人:2024/06/19(水) 21:14:41 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp
以上となります。転載大丈夫です。
大陸でも戦記でもないので取り敢えずこちらに投下してみましたが……
コンセプトは単純に、ゼロからのスタートです。
最終更新:2025年12月26日 19:24