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235:earth:2024/08/22(木) 23:09:52 HOST:KD106172122062.ppp-bb.dion.ne.jp

 転生者、令和の地で斯く戦えり  第3話


「あなた方の麾下に入るのは確かに栄誉なことだと思います。ですが、私はかつて一度失敗した未熟者。期待されるような働きが出来るかどうか」
『では、この星と共に朽ちると?』
「この星に拘る必要もないでしょう。私の技術はあなた方のそれに比べれば児戯に等しくとも、太陽系の外に逃れることは不可能ではないのですから」
『ほう? では太陽系の外に出て新たな文明を築く、と』
「それも選択肢の一つでしょう。確かに膨大な時間は掛かりますが・・・・・・再び失敗してあの地獄を味わうリスクを背負うよりは魅力的な考えでもあります」

 あまりに分が悪い交渉であった。
 何しろ相手に生殺与奪を握られ、相手は仮に契約を不履行にしてもペナルティなどない。
 何か追加で要求されたとしても、拒否できるか怪しい。或いは向こうがお気に入りの転生者を送り込んできて、自身が築いた組織を全て簒奪させるかも知れない。
 かといって相手の言うことを丸呑みするのも今の彼には出来ない。

(分が悪いが、これが今の戦場か・・・・・・相手がワンピの天竜人みたいな奴でないことを祈るぐらいか)

 口の周りの吐瀉物を緑色のブレザー(学生服のイメージ)の袖で拭い、白い部屋を見上げる。

『恒星間を移動できる化け物が現れるかも知れないのにか?』
「宇宙は広大です。逃げ切る可能性は決して低くはないでしょう。ええ、相手が、私を知らないはずの存在が、なぜか私を殺すという
 絶対の意思を持たない限りは』

 言外に「気に入らなければ、化け物共を操って襲撃させるようなことをするおつもりで?」と告げるが、それを知ってか知らずか、声は淡々と返す。

『・・・・・・では貴様はこの世界で逃げに徹すると?』
「その選択肢もあると思っています。勿論、あなた方の麾下に加わるのも魅力的ではありますが」

 相手が自分の価値を評価していないなら「勝手にしろ」と引き上げるかも知れない。
 或いは組織の価値だけを認めているなら、自分を抹殺して別の人間にこの組織を【転生特典】とでも称して与えるかも知れない。
 後者なら自分はここで死ぬことになるが、それでもはっきりさせないと、彼としては前に進めない。

『交渉に持ち込める立場だと思っているのか?』
「知りたいのです。戦いの果てに何があるのでしょうか? 永遠に終わりのない戦いを繰り広げろと? 私が再び失策を犯したと貴方が
判断した場合、どうされるおつもりで?」
『・・・・・・』
「成果への報酬、待遇はモチベーションも左右し、それは巡り巡って成果も左右します」
『貴様がかつて欲していた救世主としての栄誉と栄光が手に入る・・・・・・では物足りぬ、いやそれを望まないか』
「私は一度失敗して懲りました。【一流ではない】私にはそのような栄誉は荷が重いのでしょう」

 七道にとって人の評価や賞賛は【事をなす際に利用する為のモノ】であって、それ自体を心の底から誇るつもりなどなかった。

(何かあれば掌を返す連中から寄せられる賞賛など、どれだけの価値があろうか)

 ただ他人を無価値と断じていると悟られると、それはそれで面倒なことになりかねない。その点の折り合いはつけられるようになっている。

『単に人に関わることで生じる面倒事が嫌なだけだろう』
「ええ。散々に人間の負の面と長い間、向き合ってきたもので、感情に振り回される人間という生き物を【信頼】できないのですよ。
口では褒め称え、片手で握手を求めながら、片手には短剣を持ち、突き立てるタイミングを探る。
有利になったと思った途端に約束を保護し、こちらの命や財産を簒奪せんとする、礼儀もない【獣ごとき下劣な態度】。全く嫌になります」

236:earth:2024/08/22(木) 23:10:27 HOST:KD106172122062.ppp-bb.dion.ne.jp

『他者から奪ってきたのは貴様も同じだろうに』
「いえいえ、私は悪役でしたが、最低限の体裁は整えて、いや整えようとする努力はしているので、あのような獣共と同一視されたくは
ないと思っています。私は外道と誹りを受けるかも知れませんが、非道ではなかったと自負しています」
『・・・・・・よく回る口だ』
「お気に召しませんでしたか」
『ふん、道化としては多少の価値はあるようだ』
「さしずめ、オーギュスト、と?」
『自己評価が高すぎるな。まぁ良かろう。貴様の話に乗ってやろう』
「・・・・・・繰り返しになりますが、私は貴方の麾下に加わること自体は拒否するものではないのです。ただ申してきたように、私は安穏が
欲しいのです。人からの賞賛も悪意も媚びも十分です。食事すら、もはや本物に拘る必要はありません。性欲も乏しくなって久しい」
『閉ざされた、一人だけの楽園が欲しい、と』
「いえいえ、そこまで過剰なことは・・・・・・」
『良いだろう。貴様の手に負えないような力を持った獣が来ないように手は打っておいてやろう』

 この言葉に七道は一瞬だが目を見開く。

『何を驚くことがある』
「い、いえ、しかし、よろしいので?」
『言っておくが、光を超える力さえ持たない獣どもについては、貴様が独力で対応せよ。その程度も出来ぬのであれば、道化としての
価値もない』

 これには七道も反論できなかった。
 強者の慈悲に縋るだけの人間に、本当の幸運の女神は微笑まないし、微笑んでくるのは大抵碌でもない存在ばかりなのだ。

『その薄汚れた星で王を気取る限り、輪廻に戻ることもない』
「薄汚れた地方の封建領主となった私は、何をすればよろしいので?」
『わかりきったことを聞くか』
「・・・・・・今暫くお時間をいただきたく存じます。現在の生産力、兵力では十分な働きは難しいかと」
『判っている。貴様が考える新兵器、貴様達が科学とオカルトと分類した技術の融合・・・・・・今後、必要になるものだ』
(嫌な予感しかない・・・・・・バイドも科学と魔法の融合の産物だったのだが)

 そんな七道の内心を見透かしたかのように、声が響く。

『相手は選ぶと言っているだろう。必要な情報も与えよう』
(楽勝な相手とも言っていないけどな・・・・・・・)
『だがそれでも、出先で貴様が負ければ、その化け物共の始末はこの星でやってもらう』
「負ければ、貴方方が化け物共をこの星に招き入れて本土決戦、と」
『そうだ。さらに負けるようなことがあれば、それで終わりだ。貴様は普通の輪廻に戻される。今度は家畜以下の存在だろう』
「・・・・・・それは契約、と」
『【こちらから】違えることはない』
(色々と思うところはあるが・・・・・・これ以上は危ういか。詳細はより詰める必要があるが・・・・・・)

 かくして二度目の契約が結ばれる。

237:earth:2024/08/22(木) 23:13:32 HOST:KD106172122062.ppp-bb.dion.ne.jp
あとがき
普通の神様(?)転生はもっとさっくり行くのでしょうが・・・・・・とりあえずこんな形に。
何とか少しは気に掛けて貰えて、何とか最低限の命と財産の保証を勝ち取った感じかな。
(なお、今後の試練でしくじると全てを失い模様)

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最終更新:2026年01月09日 21:47