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「……ああ、何故お逃げになるのです、志摩子お嬢様……」
背後から聞こえる陰々滅滅とした声。それを、振り払うよう藤堂志摩子はひたすらに走る。
「……この臭作めは親切心から言っておるのですよ。百合などという自然の摂理に逆らった関係に溺れるなど
 敬虔なキリスト教徒である志摩子お嬢様には、やはり似つかわしくないかと……
 ……この肉棒によって……真実の『愛』というものを一から教え込んで……」
聞きたくない。馬鹿丁寧な口調ではあるが、その内容は実のところインモラルの一語に尽きるのだ。
半分くらいの単語はそもそもの意味がわからないが、口にする人物、その纏う雰囲気から
志摩子の通うリリアン女学院では、まず口にされることはありえない、その手の単語だということはわかりきっていた。
「はぁっ……はぁっ」
森の中を駆ける。木立に阻まれ、見えない相手の位置を探るための、声は重要な手がかりだ。
だから自分は極力、この乱れた息も押し殺さねばならないし
どんなに聞きたくない下品な台詞でも、耳を塞ぐことは、決して許されない。
「……もういい加減観念なされてはいかがですか……今、志摩子お嬢様が取り続けてらっしゃるその態度は……
 この臭作めが志摩子お嬢様を捕らえた時……その時志摩子お嬢様をどう扱うかに……」
カチカチと鳴る歯の根をかみしめ、滲む不安な視界にそれでも飛び込むようにしてただ駆ける。
「……できれば最初はあまり乱暴ではない方が……この臭作めの思いやりをわかってくださいませんか……」
あっ、と気付いた時には、茂みに足を取られていた。転ぶ。
そして、それでもめげずにすぐさま立ち上がった志摩子の瞳に、絶望の光景が映し出される。
(行き止まり……!?)
涙を拭くと、森は、唐突に途切れていた。隠れる場所も無い、かなり拓けた野原のようなそこは、
しかも行く先が、とても登ることはできそうにない、高い崖の並びへと繋がっている。
「……っ」
慌てて振り返り、また、森の中へ戻ろうとする志摩子。
しかしその出鼻をくじくように、まさに志摩子が今飛び出してきたばかりの茂みが、ガサガサと不吉な音を立て、揺れた。
「……どうやらゲームオーバーのようでございますね」
ジャージの上下、首にかけた黄色いタオル、中年特有の中途半端な皺が、禍々しい笑顔に深く刻まれる。
しかし目だけが、全く笑っていなかった。
「ひっ」
声が裏返る。ダークグリーンの制服のスカートが、尻餅をついたせいで微妙なラインにめくれ上がっていた。
「(にやっ)」
鋭い視線が絶対領域を射抜く。
察した志摩子が慌てて制服の乱れを整えようとするが、しかしその手が、節くれだった臭作の手に掴まれる。
「いやぁっ! やめて、やめてください!!」
そして、もう一方の臭作の手が、今度は逆に志摩子の空いた手に掴まれ、
その動きをなんとかとどめようとする努力にも関わらず、スカートの中に進入しようと、邪悪に近づいてゆく。
「やめてっ!!!」

どんっ!!

彼女の友人たちが見れば驚くだろう。

あの、藤堂志摩子が、軽く相手を蹴るだけとはいえ、暴力という手段にすがる光景。
それだけ追い詰められていたということだろうが、しかし、この場面においてはそれは、あらゆる意味で逆効果だった。
「…………」
欲望にギラついていた臭作の目が、さらに危なげな恐ろしげなものに変わる。
「このアマッ!!!」

バシッ!!!

いきなり頬をはられ、痛さというより衝撃に一瞬呆然となる志摩子。
その隙を逃さず、すかさず臭作の手が、制服のタイにかかった。
「人が優しくしてやりゃつけあがりやがって!!!」
必死の抵抗もむなしく、タイを抜き取られてしまった志摩子を見下ろし、臭作がハァハァと息を荒げる。
「今すぐこのキリスト様でお前のマリア様をブチ破ってやるぜ……(どういう構造になってんだこの制服?)
 この世界のメス奴隷第一号はお前に……」


「  そ  こ  ま  で  !!!!!!! 」


「―――あぁんっ!?」
突如その場に響き渡ったよく通る声、出所を求めて、臭作の視線が、しばし、宙をさまよう。
「…………お」
ようやく気が付いた。丁度よいタイミングで朝日が顔を覗かせ、逆光になっていたため、顔立ち等、細かい部分はよくわからないが
見れば、崖の上に椅子に座った―――いや、あれは車椅子か?―――男が一人、
まるで睥睨するように、森の出口でもみ合っている、臭作と志摩子を見下ろしていた。
「……見料取んぞ、コラ」
よくわからないが、車椅子が必要な男一人くらいならば、特に恐れる必要も無い。
臭作はそう判断したのか、先の男の台詞を完全に無視する形で、さっきの続きをしようと
「……フゥ」
ため息とともに、車椅子の男が、扇のようなものを軽やかにふるう。

  ジ ャ ――――― ン   ジ ャ ――――― ン

どこからともなく銅鑼の重低音が響き。
同時に、ドドドッドドドッという大地を揺らす、腹にこたえるような振動が臭作の体を揺らす。

「―――クソッ! なんなんだ、一体!!!!」

別に合体を妨げるほどの振動ではないが、鬱陶しくてしょうがない。再び顔を上げた臭作の眼前に

「――――げぇっ!!!!」

一体どこから現れたのか、古代中国の戦国時代に使われていたような槍をかついだ騎馬武者が、もう、すぐそこにまで迫っていた。

「ひぇっ」

慌てて左前方に飛びのくと、そのすぐあとに、ブゥンと音をたてて槍が通り過ぎる。

「アワワワワ」

へっぴり腰でそのまま、前方に迫る森の中へ逃げ込もうとする臭作。だが

  ジ ャ ――――― ン   ジ ャ ――――― ン

再び銅鑼の音が響くと、なんと目の前の森からも、枝と下草をかきわけ、さっきと同じような馬群と鎧の武者があらわれる。

「ヒィ――――――――」

声を裏返らせ、死に物狂いで野原の対角線上を横切り、やっと辿り着いた三つ目の森の出入り口―――――

  ジ ャ ――――― ン   ジ ャ ――――― ン

「か、勘弁してくれ――――!!!!」

案の定あらわれた三つ目の軍団に、臭作はまたしても平野へと逆戻りすることになる……。




「凄ェ!」

崖の上。広場を、ピンポン玉のように目まぐるしく逃げ回る臭作と、次々に現れる騎馬軍を見下ろす位置で
車椅子―――特製の四輪車―――に乗る蜀の丞相・諸葛孔明の隣に、目の細い、一人の青年が座っていた。
眼下の光景にキラキラと目を輝かせた彼は、そう叫ぶと立ち上がり、それから孔明に向き直って、こんなことを言いはじめた。
「凄ェよ孔明さん! なあ! あんたなら、しち面倒くさい準備なんかしなくても、余裕であのクソ総理を殺れるんじゃねェか!?」
「……そう簡単にはいかないでしょうね。貴方の話が事実なら
 私たちの世界は、この世界から見て、かなり遡った『過去』となるのです。
 戦争に関する基礎技術と、それに関する基礎知識に、それ程の隔たりがあるのでは……」
「そっか……」
「ム……無事でしたか」
そこへ、馬岱に馬に乗せられて、藤堂志摩子が連れてこられた。
「……リリアン女学院二年、藤堂志摩子と申します。この度は……本当にありがとうございました」
馬から降り、ぺこり、と志摩子が頭を下げる。
「無事でなによりです。私は、漢帝国の再興を旨とす蜀の丞相、諸葛孔明と申します」
「俺は加藤ってんだ! よろしくな志摩子さん!」
(綺麗な人だな……)
それに、なんだか神聖な雰囲気がする。
とても口に出して言えたことではないが、今も崖下で馬群に追い掛け回されているあの男の気持ちも、正直、わからなくはない。

「しかし……暗君をいただいた国というのは、哀れなものだのう……」

ため息を吐き、夜を駆逐しつつある空を見上げながら、孔明は疲れたようにそう呟いた。
「ハ」
唇をかみ締めた馬岱が重く頷く。
蜀の二代目皇帝劉禅も、お世辞にも名君とは言いがたい人間だったが、少なくともこんな真似をするほど『邪悪』ではなかった。

(来れた以上、帰れぬということもなかろうが……さて、どうしたものかのう……)


【京都府郊外の森 2日目:6時】
【諸葛孔明@三国志(横山光輝版)】
[状態]:健康
[装備]:蜀軍三十万。含む、馬岱、魏延、趙雲、姜維(時期的には劉備の死後であるため関羽や張飛は居ない)。
[道具]:不明
[思考]
1:さて、どうしたものかのう…
2:元の時代に戻りたい(どうしても無理なら総理を止める。基本この時代のことはこの時代の人間に任せたい)

【京都府郊外の森 2日目:6時】
【藤堂志摩子@マリア様がみてる】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
1:助かった…orz
2:臭作の助命嘆願をするか、すこし迷っている

【京都府郊外の森 2日目:6時】
【加藤@彼岸島】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
1:凄ェ!

【京都府郊外の森 2日目:6時】
【伊頭臭作@臭作】
[状態]:疲労困憊
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]
1:た、助けてくれ!
2:クソ、あの女いつか絶対メス奴隷に




最終更新:2006年12月19日 22:53