「……あれ何なんですか」
基地の外に出たジャックとエルルゥ。二人の目には信じられないものが移っていた。
巨大な二足歩行ロボットである。
「僕にもわからない。が、今重要なのはあれの正体が何なのかよりも、あれが僕たちに危害を加えるかどうか、だ」
「見てください、あれ!」
エルルゥが指差す方向――ロボットの胸の部分がゆっくり開いてゆく。
(おそらくあれはコックピットのハッチだ。と言うことは中に人が乗っているのか?)
ハッチが開き中から小さな人影が飛び出した。
「女……の子……?」
コックピットから現れたのは意外なことに少女だった。
「どうしてあんな物に女の子が……」
「うーーんいいお天気~~」
デスティニーのコックピットから降り立ったアイシアは空を見上げ言った。
ここはどこだろう? とあたりを見回す。
広大な敷地だ。見たところ何かの軍事施設だろうか。
しかし人の気配は全く無い、自分の周囲にはデスティニーと乗り捨てられた軍用車両。
「お腹すいた……」
デイパックの食料は昨日のうちに食べてしまった。
「これだけじゃ全っ然足りないよ……あそこの建物になら何かあるかなあ」
数十メートル向こうに大きな建物があった。まずはそこにとアイシアは歩を進めた。
「こっちに来るぞ! 隠れろ!」
ジャック達は入り口付近の物陰に隠れる。
「あれ? 今あそこに人がいたような……」
いぶかしむアイシア。自分以外に人がいるのかも。
「すみませ~ん~、誰かそこにいますかぁ~」
手を振りながら建物の入り口に駆け寄る。とその時だった。
「おっと動くな。いいか、手を上げゆっくりとこちらを振り向け」
物陰から聞こえる男の声。
「ひっ……」
こめかみに突きつけられる硬い感触。
「ジャックさん!!」
「エルルゥは黙ってろ。さあ振り向け5秒以内にだ。3、2、1――」
「はっはいっ、今すぐ振り向きます! だから撃たないで~っ」
「よーしいい子だ」
ジャックは振り向いた少女を眺める。
彼女は北欧系の顔立ちでアッシュブロンドの髪と赤い瞳を持ち、服装はハ○ー・ポッターにでも出てきそうな黒いマントを身に纏っていた。
「ジャックさん乱暴はやめて!」
銃を見たことがないエルルゥはジャックの手に握られた物が何であるかはわからなかった。
だがジャックの雰囲気と少女の怯えた表情でそれが人を殺傷可能な武器であることは理解していた。
「エルルゥ。この子を連れて食堂へ行くぞ」
「なるほど『願いを叶える魔法の桜』が君の目的か」
食堂ではジャックのアイシアに対する尋問が行われていた。
「そうなんですよぉ、それでお腹が空いたからここに来たら……」
テーブルを挟んで椅子に座っているアイシアはこれまでのいきさつを語った。芳乃さくらのフリーダムガンダムを撃墜したことは伏せてだが。
ジャックは念のためアイシアを椅子に縛り付けることを提案したが、エルルゥの猛抗議によって却下された。ついでに銃も取り上げられた。
「魔法などとはにわかには信じられない話だが……先ほど君の『魔法』とやらを見たからには信じないわけにはいかないな」
アイシアは「自分は魔法使いだ」と言った。ケーキを魔法で出すと言ったので試しにやらせてみたら確かに何も無い空間からケーキ状の物体が現れたのである。
「もっとも、アレをケーキだと言ったら世界中のケーキ職人に申し訳ない」
ジャックはテーブルの上に置かれた物体に目をやる。極彩色に彩られたおぞましい物体だ。
「もっと練習すればちゃんとだせますよーだっ」
頬を膨らますアイシア。ころころ変わる表情が愛らしい。
「まあいい、とりあえず食事にしよう。エルルゥ、何か食べる物は見つかったか?」
ジャックは厨房にいるエルルゥに声をかける。
「うーん……私には見慣れないものが多すぎてよくわからないです」
「そうか、僕も探そう」
「あっわたしも探しま~す」
「うわぁ~これすっごくおいしいです…これ何なんですか?」
目の前の食事に目を丸くするエルルゥ。
「何って…ただのレトルトのカレーだが」
厨房の中を探しまわったが、結局食べられそうなものはボ○カレーとサ○ウのごはんぐらいしかめぼしい物は見つからなかった。
当然ながらアイシアが魔法で生み出した名状しがたき物はゴミ箱に捨てておいた。
アイシアは「捨てるのもったいないですよ~」と抗議したがジャックが「ならお前が食べろ」と言ったら黙ってしまった。
「エルルゥはカレーを食べたことは無いんですか?」
「これ『かれえ』って言うんですね、私こんなの初めてです!」
「へえ……そういえばエルルゥ? ずっと気になってたんですけど……」
「何かしら」
「その耳と尻尾は飾りなの?」
「へっ?」
エルルゥの耳と尾はふさふさの毛に覆われていてまるで本物のようだった。
「これコスプレですか? ほらこの尻尾なんて良くできていますよね。ほらふさふさで……」
アイシアはエルルゥの尾をぎゅっと掴む。
「ひゃん!?」
尾を掴まれたエルルゥは素っ頓狂な声を出す。
「ふさふさで――この硬い感触は骨…? えーっもしかして本物ーッ!?」
「ふにゃにゃにゃにゃぁ~~」
完全に力が抜けテーブルの上に崩れ落ちるエルルゥ。
(ジャックジャック! これ本物じゃないですかぁ~)
(そうだな)
(そうだなって……今まで気にならなかったんですか! っえ――!?)
アイシアが振り向くとそこには憤怒の形相のエルルゥが立っていた。
「ア・イ・シ・ア~~~~~~~!!」
「ご、
ごめんなさ~~~~~~い!!」
(アイシア、君の尊い犠牲は無駄にしない)
結局エルルゥの耳と尾について言及することはやめておくことになった。
少し遅めの昼食を終えた三人は今後について話し合うことに。
「君たちに支給された道具を見たいのだが……いいだろうか?」
「私は別に構いませんよ」
「わたしもいいですよ、ってもう二人は知ってますよね」
「ああ、あの巨大な二足歩行ロボットだな」
「正確な名前はZGMF-X42Sデスティニーガンダムって言うらしいです」
「“運命”の名を冠するロボットか……」
「ジャックは何が支給されたんですか?」
「僕のはこれだ」
テーブルの上に出された拳銃――USPコンパクト
「これ本物ですよねえ……そういえばジャックの仕事は警察か何かですか?」
「まあそんなところだ」
「うわあカッコ良い! わたしにこれを向けた時の身のこなしなんてまるでプロの動きだったもん! すごいなあジャックは」
「でエルルゥは何の道具を支給されたんだ?」
「私ですか? そういえばまだ中身を見てませんでした」
そういってエルルゥはディパックの中を漁る。
地図、コンパス、筆記用具、時計……ここまではアイシアやジャックと変わらない。
そして――
「これ……は……あ゛ーーーーーーーーーッ!!!」
突然エルルゥが大声を上げた。
「――っ! どうしたエルルゥ!」
「これお面…ですよね」
「ああ、紙でできたおもちゃの仮面だな」
「これはハクオロさんの……」
「「は?」」
ジャックとアイシア二人の声がハモる。
二人は感じていた。エルルゥの様子が明らかにおかしいことに。
「萌えーーーーっ! 超萌えーーーッ!!! はあぁぁぁあああ~~~!!」
「エ、エルルゥ!?」
「ハぁッハクオロさんの……仮面だよ……ジャックさん……その仮面かぶってください……」
エルルゥの只ならぬ気配にたじろいだジャックは言われるままに仮面をかぶる。
「すっごい……」
「これでいいのか?」
「どきどきする……」
「ジャック~エルルゥがおかしいよ」
「私を見て…私を見て…私を見て……ハァハァ……お願いエルルゥと言って…ハァハァ…ハァハァ…ハクオロさん……」
完全に上気し潤んだ目でジャックを見つめハクオロの名を呼び続けるエルルゥ。
「エ…エルルゥ」
それが最後のいちじくの葉。
「ハクオロさーん! は、はーっ、ハアアーッ!! ハアーッ!!」
そしてエルルゥは嬌声を発し絶頂に達する。
「まずいエルルゥが壊れたっ! アイシア!」
「はっはい!」
「何でもいい! 魔法で食べ物をだすんだ!」
「わっ…わかった……えい!」
念じたアイシアの手の平に再び虹色の名状しがたき物(パン)が現れる。
「貸せ!」
ジャックは虹色に輝く物体(パン)をエルルゥの口にねじ込む。
「~~~~~~~~~~ッ!」
エルルゥの顔が赤から青、青からオレンジと虹色に変化していく。
そして――エルルゥの身体はゆっくりと床に崩れ落ちた。
「すまないエルルゥ……だがエルルゥをここまでさせるハクオロとは何者なんだ……?」
【神奈川県横須賀基地内の食堂 2日目 15:00】
【ジャック・バウアー@24】
〔状態〕戦慄
〔装備〕USPコンパクト
〔道具〕支給品一式
〔思考〕しっかりしろエルルゥ!
【アイシア@D.C.S.S.】
〔状態〕戦慄
〔装備〕デスティニーガンダム(機体は基地の広場)
〔道具〕支給品一式
〔思考〕エ、エルルゥが~
【エルルゥ@
うたわれるもの】
〔状態〕絶頂のち気絶
〔装備〕なし
〔道具〕支給品一式 紙製ハクオロ仮面
〔思考〕ハクオロさーん! は、はーっ、ハアアーッ!! ハアーッ!!
最終更新:2006年12月21日 15:36