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「……僕としたことが寝てしまったようだな」
神奈川県横須賀基地の医務室のベッドの上で、ジャック・バウアーは目を覚ました。
アイシアが食堂から帰って来るまでの間に、少しだけ休むはずがいつのまにか熟睡していたようだ。
医務室の他のベッドにはアイシアとエルルゥが眠っている。

ジャックが時計を見ると23時を過ぎていた。
「くそっ!こんなことをしている場合ではないのに」
CTUとの連絡を取るために、一刻も早く行動しなくてはいけないというのに、
ベッドでゆっくりと眠ってしまっていた自分をジャックは責める。
「とりあえず水でも飲むか……」
そう言ってジャックはベッドから腰を下ろし、熟睡している二人を起こさないように、
水を求めて食堂へと歩き始める。

「たしか食堂はここ……何だ?」
食堂の前まで辿り着いたジャックは異変を感じ取った。
食堂の中からなにやらおいしそうな匂いがしたのだ。
(誰かがいる……)
ジャックはホルダーからUSPコンパクトを取り出し、体勢を低くし音を立てないようして食堂に入る。
食堂内はおいしそうな匂いが充満していた。
ジャックは慎重に食堂内を見るが、中に人の姿は見つからない。
「となるとあとはあそこか」
ジャックの視線の先には食堂と厨房とを繋ぐ扉。
その扉にそっと近づき、手に持った銃を握りなおす。そして――

扉を勢いよく蹴破り、厨房に入る。
「動くな!両手を頭の上に乗せて床に伏せろ!」
厨房内にいた人物に、ジャックは銃を向けながら叫ぶ。
中には白いコック帽を被った一目でシェフとわかるような男が、
レンジ台の上に置いた圧力鍋の中身をおたまでゆっくりと混ぜていた。
「なんなんだね、君は」
シェフは鍋から目を離さずに声を出す。
「いいから両手を頭の上に乗せるんだ!」
「今スープを作っているんだ……邪魔をしないでくれ」
「悪いが料理は後にしてもらう」
ジャックのその言葉にシェフは軽く溜息をつく。
そして横に置いてあった注射器を手に取り、それにスープを入れる。
「まったくどいつもこいつも……私の邪魔ばかりしやがって……
 あの女子高生探偵も化け物も警察も……」
シェフはそう呟きながら、注射器の中に入ったスープを血管から注入(たべ)た。
「何をしている!」
ジャックの制止も空しく、シェフはスープを注入(たべ)きってしまった。

シェフがスープを注入した次の瞬間。
シェフの体中の筋肉が突然、膨張し始めた。
「なんだこれは……」
今までCTUの任務で様々なものを見てきたジャックだったが、これには驚きを隠せなかった。
膨れ上がったシェフの筋肉はさらに膨張を続け、着ていた服が音を立てながら四散する。

「完成だ……これぞ究極の料理『ドーピングコンソメスープ』だ!!」

そう叫ぶなり、筋肉の化け物と化したシェフはジャックに襲い掛かる。
(こいつは話し合いが通じる相手ではないな)
そう判断したジャックは、迫り来るシェフに向かって銃の引き金を引く。
しかし、放たれた鉛玉は硬質化された筋肉によって弾き返される。
「何だと!」
「そんな玩具でDCSの力に敵うと思ったのか?」
「くっ!」
銃撃を弾き返したシェフは、そのままジャックに拳を放つ。
ジャックは間一髪それをかわして厨房から食堂へと逃げる。
直後、ゴシカァンという奇妙な擬音が周囲に木霊する。
背後を見ると、ジャックがさっきまで立っていた場所に小規模なクレーターが出来ていた。
(なんだあいつは!あれがあのスープの力だというのか!いや、それよりもあいつをどうやって倒せば……)
テーブルの陰に隠れながら、ジャックは手に持った銃を見る。
(銃撃を弾き返すほどのあの筋肉……、バズーカ砲でもないと勝てそうにないな)
「フッフッフ、どうした出て来い!怖気づいたか!」
遅れて食堂に入ってきたシェフが何かを叫んでいる。
(そうだ!あれを使えば……!)
ジャックは基地の広場に銃よりも強力な兵器があったことを思い出した。
アイシアが乗ってきたデスティニーガンダムのことを。
(しかし、あれは僕には操縦できそうには……)

「そこか!!」

ジャックが隠れていたテーブルが木っ端微塵になる。
「くそっ!迷ってる時間は無いか!」
シェフの攻撃をまたもやギリギリのところでかわして、ジャックは食堂の出口に向かって走り出す。
「逃がさん!」
そうシェフが言うと同時に、ジャックが向かっていた出口に向かって無数のテーブルが飛ぶ。
そのテーブルが積み重なり出口は完全に塞がれてしまった。
「しまった出口が!」
「これでもう逃げ場は無いぞ……まあ逃げたところでDCSによって強化された脚力からは逃れられんがな」
そういいながらシェフはじりじりとジャックとの間合いを詰めてくる。

(ここまでか……)
ジャックが諦めかけたその時だった。
「ジャックさん!大丈夫ですか!」
「そこにいるのジャック!」
塞がれた出口の先から声が聞こえてきた。
「エルルゥ、アイシア!そこにいるのか!」
目の前のシェフから目を離さないようにしながらジャックは叫ぶ。
「はいっ二人ともいますよ、凄い音がしたんでここまで来たんです、一体どうしたんですか!?」
「厨房に危険な奴がいて、今そいつに襲われている!こいつには銃が効かないんだ!
 アイシア、外にあるデスティニーガンダムを使うしかない!エルルゥを連れて今すぐ広場に行くんだ!!」
「で、でもジャックさんは?」
「僕はこいつを足止めする……」
ジャックはそう言いながら銃をシェフに向ける。
その様子を見てシェフはニヤリとほくそ笑む。
「私にそんなものは効かないと言っただろう、おとなしく仲間共々殺されろ」

「アイシア、エルルゥ早く行くんだ!僕なら大丈夫だ!」
もう一度、ジャックは二人に向かって叫ぶ。
「……わかった、行こうエルルゥ!」
「で、でもジャックさんが……あぁ、引っ張らないで!自分で走るから!」
そのやりとりを最後に、二人の声は聞こえなくなった。


「仲間を逃がすために囮になるとは、泣かせるじゃないか」
「逃がすためじゃない……貴様を倒すためだ!」
そう言うと同時にジャックはシェフに向かって銃を放つ。
「無駄だ無駄だ!私に敵うものなどいない!!」
弾丸を全て弾きながら、シェフはジャックに肉薄し、拳を振り上げ攻撃する。
しかし、いくら筋肉が強化されようと攻撃の仕方は素人。
大きなモーションから繰り出された一撃は、幾多もの修羅場を潜り抜けてきたジャックにまたもやかわされる。
「食らえ!」
攻撃を回避したジャックは、そのままシェフに足払いをかける。
渾身の一撃をかわされ、前のめりになっていたシェフは、その足払いによって体の重心を失い転倒する。
「猪口才なまねをしやがって……」
立ち上がりながら、シェフは近くにあったテーブルを鷲づかみにする。
「フゥーフゥー…クワッ」
そのテーブルをジャックめがけて投げつける。
ジャックは飛んできたテーブルを横に跳ぶことで回避する。
が、跳んだ先にはシェフが拳を振り上げ待ち構えていた。
「これで終わりだぁ!!」
そして、まだ体勢を立て直せていないジャックに向かって拳が振り下ろされる。
今度ばかりは回避できそうにない。

(もう駄目だ……僕はここで死ぬ。すまないキム、父親らしいことを何もできなくて)
ジャックの脳裏に浮かんだのは、自分のたった一人の娘の姿。
ジャックは自分の死を覚悟した。



刹那、鼓膜が破れそうになるほどの爆音が聞こえ、食堂の壁が吹き飛び、
そこから巨大な機械の手が現れ、シェフを鷲づかみにした。
「なんだこれは!くそ、離せ!」
その手から逃れようとシェフは必死に暴れている。

「ジャックさん!大丈夫ですか?」
壁に開いた穴からエルルゥが現れる。
「あ、あぁ……大丈夫だ」
倒れていたジャックはよろよろと立ち上がる。
「ジャックごめんね!遅くなっちゃって!」
外からアイシアの声が聞こえる。
「いや、おかげで助かった」
「そう……、それよりこの人どうするの?」
シェフを握っているデスティニーガンダムの手がブンブンと上下に動く。
「やめろぉ!離せ離せ離せ離せ!私はドーピングコンソメスープを足掛かりに、食の千年帝国を築くんだ!」
まだ諦めずに暴れ続けているシェフを、ジャックは冷たい目で見る。
「……そうだなフジヤマの火口にでも捨ててきてくれ」
「わかった。すぐに戻るね」
アイシアがそう言うと壁から出ていた手がシェフを掴んだまま引っ込み、消えてしまった。
シェフは最後まで何か喚いていた。

「そうだ、まだすることがあったな……エルルゥ、ここで少し待っててくれ」
「あ、はい」
ジャックはゆっくりと厨房に向かって歩き出す。
一日を締めくくる、最後の仕事をするために。


ジャックは鍋の中に入っていたドーピングコンソメスープを捨てながら思った。
(今日も長い一日だったな)
鍋の中身が空っぽになるのと、狂気のシェフ至郎田正影が富士山の火口に放り投げられたのは、ほぼ同時刻だったという。



【神奈川県横須賀基地 食堂 三日目 00:00】
【ジャック・バウアー@24】
〔状態〕精神的・肉体的共に疲労
〔装備〕USPコンパクト
〔道具〕支給品一式
〔思考〕
1:CTUと連絡 

【エルルゥ@うたわれるもの
〔状態〕健康
〔装備〕なし
〔道具〕支給品一式
〔思考〕
1:困惑 
2:ハクオロと合流


【静岡県・山梨県 富士山上空 三日目 00:00】
【アイシア@D.C.S.S】
〔状態〕健康
〔装備〕デスティニーガンダム
〔道具〕支給品一式、うまい棒コーンポタージュ味×10
〔思考〕
1:桜の木の復活 
2:ジャックとエルルゥの所に戻る


【至郎田正影@魔人探偵脳噛ネウロ  死亡確認】




最終更新:2007年01月09日 21:52