――海山商事
マスオに言われ、志乃とタラオと共にここまでやって来た白鳥は安堵の溜息をついた。
「な、なんとか迷わずに到着できたね……」
そう言って、二人の方を見るが、二人の顔は明るくなかった。
まぁ元々、表情の起伏が余りない志乃と父親が戦っているのを知っているタラオに笑顔を求めるのは端から無謀ではあったのだが。
「そ、それじゃあ中に入ってみようか! マスオさんの友達の穴子さんっていう人がこの中にいるって言うし」
やはり返事はない。
白鳥は一人、小さく溜息をついた。
「失礼しま~~す」
海山商事ビルの中に入った白鳥はまずその暗さにぞっとした。
ざっと入口部分から周囲を見ても、どこにも照明が灯っていなかった。
「く、暗いね……」
「夜に照明を点けていなかったら当然」
「そ、それじゃ、スイッチを探して明かりを――」
「それはダメ。そんなことをしても、さっきのような殺人を考えてる人に自分の居場所を堂々教えるだけ。危険が増える。この場合、携行できる照明器具を使うほうがいいと思う」
志乃の言うことは尤もだ。
白鳥はそれを聞いて、支給品として配られたバッグの中に入っていた懐中電灯の存在に気づき、それを取り出そうとする……が。
「明かりって、これのことですか?」
それよりも前にタラオがポケットから何かを取り出し、志乃に差し出していた。
「これは……」
「ライター……ま、まさかタラオ君、タバコを!?」
白鳥が驚き慌てふためくと、タラオも釣られるように慌てながら弁解する。
「ち、違いますう。気づいたらポケットの中に入ってたんですう」
「……いわゆる支給武器ってやつね」
冷静な志乃の言葉に、白鳥はようやく納得する様子を見せる。
「な、何だぁ。そういうことかぁ。……はぁ、よかったぁ」
「でもライターを武器として配るなんて……これは外れね」
「まぁ、人を殺すような道具じゃなくってよかったような気もするんだけど…………」
白鳥はライターをタラオから受け取り、何気なくそれに点火する……が。
それは突如、通常のライターとは思えないほどの火力を見せ、その炎はフロアの天井を焦がさんとする勢いで上っていった。
「うわ、あちちちち! な、なな何これ!!!」
「ライター……に見せかけた一種の火炎放射器だったみたい」
「白鳥のお兄ちゃんすごいですぅ」
「の、のん気に見てないで、どうにかし――あちちちっ!!」
白鳥が、その火炎放射器を普通のライターと同じ要領で火を消すことが出来ることを知ったのは、それから十数秒後、彼の前髪が焦げ始めた頃のことであった。
「何で僕がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ……」
ぶつぶつ自分の巻き込まれ体質を恨みながら、白鳥は懐中電灯片手に先頭を歩いていた。
今彼が歩いている場所は薄暗く、自分の声が響くくらい静寂だった。
まるで、誰もいないかも如く。
「……というよりも、本当に誰もいないような気がするんだけど……本当に穴子さんっているのかなぁ。ねぇ、志乃ちゃん」
「パー、それは分からない。グー、だけどこの子の父親の言葉をグー、無碍にするわけにもチョキ、いかないグー」
志乃の間の抜けた返答に、白鳥は思わずコケそうになる。
「……な、何やってるの、志乃ちゃん」
「後だしジャンケン。支給品で思い出して、ちょっとやってみてる」
確かに志乃の手には紛うことなきニンテンドーDSが握られている。
「お姉ちゃんのそれ、何ですか?」
タラオはそんな志乃の握るものを見て目を輝かせていた。
「携帯ゲームよ。ジャンケンの。……やってみる?」
「はいです!」
DSを譲ると、タラオはそれに夢中になって、“グー”だの“パー”だの喋り始めた。
その顔は先ほどまでよりも、どこか明るくなっている。
白鳥はそんなタラオと志乃の顔を交互に見やりながら、ふと思う。
「……ねぇ。もしかして志乃ちゃん、タラオ君を元気付ける為に……」
そうたずねても返事はない。
その顔は相変わらずの無表情だ。
だが白鳥は一連のやり取りを見て志乃もやっぱり棗に似ているところがあるのかも、と思ってしまった。
そして、そう思い顔が緩もうとしたまさにその時、志乃が急に白鳥の方を向いてきた。
「……ところで、白鳥。あなたは何を配られたの?」
「え? いや、その……僕は……」
いきなりこちらを向かれたのに驚くのと同時に、白鳥は支給品の事を聞かれたことにも動揺していた。
そう、彼にとって“それ”はで切るだけ見せたく無い物だったのだ。
「教えてもらえないのですか?」
「えっと、その……見てもつまらないと思うし……」
「それは私が見て判断することだから構わない。……それとも、もしかして私たちを信用していないとか」
「そ、そんなことないよ!!」
思わず出てしまったそんな言葉。
しまったと思ったときにはもう遅く、白鳥は自分の愚かさを呪う。
「それじゃ見せて」
「わ、分かったよ。…………こ、これが僕に配られた支給品ってやつさ」
白鳥がカバンから取り出したのは、金髪のストレートロングのカツラ、ワンピースドレス、パッド、そして……
「…………」
志乃の手には、女性から見ても際どいと思われるような下着が握られていた。
「だから見せたくなかったんだよぉ……」
頭を垂れて、がっくりと白鳥は落ち込む。
その支給品――白鳥隆子爆誕セットを受け取ったとき以上に。
支給品を女の子に見られたショックを乗り越え、白鳥は海山商事の中を更に進んだ。
廊下を歩き、オフィスを調べ、階段を上り……。
だが、いつまで経っても、彼らは穴子というマスオの同僚どころか、人っ子一人会えなかった。
「やっぱり、誰もいないなぁ。どうしたんだろう一体。まだ誰か残っていてもいいのに」
「今はバトルロワイアル中。……きっと、会社に行く暇なんてないんだと思う」
「……それが真っ当な解答だよね。でも、それじゃどうしようか。このままじゃ
アナゴさんって人には会えなさそうだけど」
「その人物に会えなくてもここには仮眠室がある。そこで休息を取るべき」
志乃の言葉を聞いて、白鳥は仮眠室の事を思い出す。
確かに今は休息を取ったほうがいいのかもしれない。
子供であるタラオや志乃を休ませる為にも。
そして、遅れてやってくると約束したマスオを待つためにも。
「そうだね。もう時間も夜だし、志乃ちゃんの言うとおり、仮眠室を探し――」
――て休憩を取ろう。
そう言おうとした時だった。
――ヴルァァァァァァァ!!!
廊下にそんなどこからか漏れ出した雄たけびが響き、白鳥は驚き腰を抜かしてしまった。
「な、ななななな何だ今のは!? だ、誰かがいるの!?」
慌てて手に持っていた懐中電灯を竹刀のように構える仕草を取り、周囲を見るが誰もいない。
すると、その声を聞いてタラオが
ゲームから目を離し、声を上げる。
「この声は……アナゴさんですぅ~~」
「あ、アナゴさんって、マスオさんの友達っていう?」
「はいです~。この声はアナゴさんそっくりです~」
タラオの言葉に白鳥は、穴子という人物が何者なのか分からなくなってくる。
いかにもサラリーマンなマスオの同僚だという穴子。
それが何故あんな雄たけびを……。
そんな白鳥の心配を余所に、タラオは廊下を駆け出した。
「こっちから聞こえたです~」
「あ、タラオ君待って!!」
白鳥と志乃が謎の効果音を出しながら走るタラオを追いかける。
すると、タラオは廊下の途中にあるドアの前で立ち止まった。
「ここから声がします~」
タラオに促され、ドアの方を見てみると確かにそれは僅かに開いており、中から光も漏れていた。
そして何より、中から男のものらしき声がする。
誰かが中で電気を点けて何かをしている何よりの証拠だ。
「この中に穴子さんが……」
雄たけびは怖かったが、マスオが頼れと言った以上、信用の置ける人なのだろう。
白鳥は意を決してドアを開いた!
「トレ~ビアン! まさかこんなところで大金を手に入れられると……死中に活を見出すとはまさにこのことだぁねぇ!」
「音速丸さん、それちょっと使い方違いますって!」
ドアを開けた先。
経理課のオフィスの中には確かに先客がいた。
一人は黒い衣に身を包んだステロタイプな格好の忍者。
そしてもう一人……いや、もう一体はなにやら黄色い球体に手足と顔がついたような生物で……。
「このバトルロワイアルという非常事態にもぬけの殻になったオフィスの隙を突いて、金庫を開けてお金をガッポガッポ……作成大成功だろぉ?」
「はい! そりゃあもう! ですけど、本作戦においてはこの私、サスケが持っていたピッキングセットが役立ったことをお忘れなく!」
「あ~あ~、分かってる分かってる。俺らの野望達成の暁には獲得賞金の一割をやろう。それでフィギュアでも限定アニメグッズでも買うが良い!」
「あ、ちょっとちょっと! 一割は酷いでしょう! せめて半分ずつってことで!」
「にゃにを~。立案は俺だぞ~。発案者マージン九割は鉄板だろうがぁ」
「いやいや作戦実行時の功労者である俺にこそ、利益の大半を手にする権利があるはずです!」
「あ~うるちゃいうるちゃい! テメェ、だったらいますぐここで白黒つけてやるかぁ~、ヴルァァァァ!!!」
そう叫ぶや否や、黄色い球体は一瞬にして、筋肉質な気持ち悪い体に変化する。
「あ、ちょっとそれ反則! ってか暴力反対~~!!」
「だまらっしゃい! 正々堂々、尋常に勝b――」
「あ、あの~~~~」
黄色いマッチョが忍者に飛び掛ろうとしたまさにその時。
ドアを開け、今まで呆然とその様子を見ていた白鳥がようやく口を開いた。
白鳥の言葉は、そのオフィスに静寂を呼び、黄色い物体も忍者も動きを止めて、そちらを見る。
「え、えっと、そのあなた達は一体……」
静寂が支配する部屋で、白鳥は一人そう問いかけながら部屋へと一歩足を踏み入れる。
だが。
「サ、サツのガサ入れだ!! サスケ逃げるぞ!!!」
「いや、これはどう見ても警察じゃ……って、あぁもう逃げてるし!!!」
忍者が振り返ると黄色い物体は窓を破って、既に空へと飛び立っていた。
そして取り残され、札束を包んだ風呂敷を手持ち無沙汰にしていた忍者はというと……。
「し、失礼しましたぁぁぁぁ!!!!」
呆然とする白鳥達の横を潜り抜け、目にも留まらぬ速さで廊下へと消えていった。
「え、えっと、その…………」
白鳥は忍者が消えた方向に手を伸ばし、引き止める仕草をするがそれにはもう意味がない。
彼はその伸ばした手を後頭部にまわすと、志乃とタラオの方を向く。
「そ、それじゃ、とりあえず仮眠室に行こっか」
二人がそれを断る理由は無かった。
【東京都 海山商事 3日目21時半】
【白鳥隆士@まほらば】
〔状態〕健康 右手に若干の火傷
〔装備〕クロードのライター型火炎放射器@BLACK LAGOON
〔道具〕支給品一式 隆子爆誕セット(カツラ、ドレス、胸パッド、下着)
〔思考〕
1:仮眠室で休憩しつつ、マスオを待つ
2:蒼葉梢と、志乃の探し人である『彼』の探索
3:志乃とタラちゃんを守る
【支倉志乃@SHINO】
〔状態〕健康
〔装備〕無し
〔道具〕支給品一式
〔思考〕
1:『彼』を探す
2:今はひとまず白鳥、タラオと行動をともにする
【フグ田タラオ@
サザエさん】
〔状態〕健康
〔装備〕ニンテンドーDS(脳トレ)
〔道具〕支給品一式
〔思考〕
1:パパが戻るのを待つ
【音速丸@ニニンがシノブ伝】
[状態]:飛行形態
[装備]:頭領のヒゲ
[道具]:支給品一式 1億円相当の札束
[思考]
1:逃走!
2:サスケ……お前の犠牲は無駄にしない
3:資金調達を続行する
【サスケ@ニニンがシノブ伝】
[状態]:疾走
[装備]:ピッキングセット
[道具]:支給品一式 風呂敷 1億円相当の札束
[思考]
1:音速丸さん待ってくださいって!!
2:集めた金でアニメグッズを買占める
最終更新:2007年01月14日 21:10