あれからもう一年がたった。
日本の国民および来日外国人全てを巻き込み、実に一億人を超える死者を出した「バトルロワイヤル」。
生き残った日本人は、他国の支援を受けながら復興に力を注いでいる。
一時は焦土と化した国土の上に、ほんの少しずつ、町のようなものが再生しつつあった。
「まったく・・・・・・敗戦の時だって、これほどまでじゃなかったぞ」
私は、幼い日の記憶を思い出した。
年老いて、もう大きな事件に遭遇することなど無いだろうと思っていた私の人生の最後の最後で起こった最大の悲劇。
私の家族や友人たちも、ほとんどは死亡が確認され、何人かは今もって「生死不明」という扱いを受けている。
責任問題で大わらわな暫定自治政府はいざしらず、国際的な支援の輪を持ってしてもまだあの狂気の後片付けは終っていない。
私は今、プレハブ小屋の一室に住処を与えられて生活している。以前住んでいた古屋敷に比べても粗末な家だが、他の人のことを考えたら贅沢は言えない。
ほんの一年前までは子供達の声でにぎやかだった小学校の周りは、スラム街と化している。
私がこの仮設住宅に優先的に入ることの出来た理由は、おそらく私が身重だったせいだろう。
小さな窓の外に見える景色を、何を思うでもなくぼんやりと見ていた。
そんな私のつかの間の休息を、あの子はその泣き声で容赦なく中断する。
「やれやれ・・・・・・」
あの泣き方はミルクだろう。私は彼をあやすための歌を歌いながら、お湯を沸かすために狭い部屋の中を気をつけながら走った。
彼は、私が下手な日曜大工で作ったベッドの中で、粗末な毛布にくるまれて泣いていた。
私に支給されている助成金のほとんどは、彼へのミルク代やらオムツ代でほとんど消えている。
まだまだ今日の分のメシさえ十分に確保できない人が大半なのだ、仕方あるまい。
暫定自治政府に過剰な期待をするつもりもない。おそらく全国民が同じ気持ちだろう。
なにしろ、こんな馬鹿げた政策を作ったのは奴らと同じ連中なのだ。
海外では責任者は国際法廷にかけるべきだという声も大きいらしいが、今だこの国のお偉いさん達は国際社会で大きな発言権を持っているらしいし
そもそも我々にはそんなことを考えているような余裕もない。
ただ私は、個人の考えとして、こんなことを始めた連中を許せないというだけだ。
しかし・・・・・・一つ、気になることがある。
あいつが、死に際に言ったあの言葉だ。
あいつは死ぬ間際、私に向かって「
ごめんなさい」と、何度も何度も繰り返した。
命を落とすその瞬間まで、ずっと謝り続けていた。
あれは一体、何についての謝罪だったんだろうか。
あの時のあいつの、軽率な振る舞いについてか。
私の前で死んでしまうことへの謝罪か。
この子を置いて・・・・・・当時はまだ私の胎内だったが・・・・・・逝ってしまうことへの、後悔だったのか。
でも、私にはそのどれでもないように思えてならないのだ。
あの時のあいつの顔は、まるで、自分のせいでこんなことが起こってしまったのだとでも言っているかのようだった。
「・・・・・・まさかな」
私は、あの六日間を境に完全に変わってしまった。外見だけではなく、心までも。
この、西洋の女中のようなフリルつきのスカートの服にはもう慣れた。何故か脱ぐことの出来ない下着(すくうる水着、とか言うらしいが)も、もう気にならない。
ネコの耳としっぽも、今となっては無いほうが困るくらいだ。
だが、心は、あの時から止まったまま。
目の前であいつを失ってから、ずっと私の心は成長をしていない。
私はミルクを人肌に温めると、泣きじゃくる彼を片腕で抱き上げて哺乳瓶を加えさせた。
彼は一心不乱に哺乳瓶にしゃぶりつく。
「まったく、ワシが子育てをすることは・・・・・・」
こいつの名前は、まだ決めていない。決めることが出来ない。あいつの意見を、まだ聞いていなかったから。
「お前は、あいつに似て意地汚いなあ。丈夫に育てよ。パパは弱い奴だったけどな」
私が話しかけると、そいつはまるで言葉が通じているかのように、一瞬だけミルクを吸うのをやめて微笑んだ。
「あ・・・・・・」
その顔が。あまりにも似すぎるものだから。
「・・・・・・のび太」
たった六日間だけ一緒に過ごした少年。いつもうちの窓ガラスを割っていた少年。
日本男児にあるまじきほどひ弱で、頭も悪くて、だけど、だれよりも大きく強い勇気を持っていた男。
「のび太・・・・・・のび太、のび太ぁっ!! 」
限界だった。膝を床に着き、赤ん坊が驚かないように注意することも忘れて、大声を上げて泣いた。
涙は、いつになっても枯れてなんかくれない。
あいつが私に残していったものはただ二つ。この子と、もう二度と取り返しの付かない後悔だ。
なんで、守ってやれなかったんだろう。
あいつは私を頼ってきたのに。私には、あんなに凄い魔法の力があったのに。
そして、なんで最後まであいつの気持ちを、気がつかないふりなんかで通そうとしたんだろう。
あの晩、私が風呂に入っている時に押し入ってきたあいつをなぜ受け入れたのか。私はそれが、自分でもずっとわからないままだった。
だけど、ついこの前ようやくわかった。私も、のび太が好きだったんだ。元の性別なんか関係は無かったのだと思う。
そもそもあの魔法を使って以来、私は体も心も女になってしまったんだろう。
私にはあいつの好意に答える準備はあったはずだ。
なのに。
私は、最後までカミナリおじさんとしての意地を張ったままで。
いまさら取り返しのつかない後悔が、私を内側から責めたてていた。
そう、思い返せばあの殺し合いが始まる前、私は自分の家にボールを投げ込む少年達に怒りで接してきた。
だけど、そこに彼らへの愛着が無かったわけでは決して無かった。
一人暮らしの私は、たまに元気な声を聞かせてくれる少年達の声で、どれだけ元気付けられたことか。
だけど、私はみんなの前では短気で偏屈な「カミナリおじさん」のままで。
一度たりとも、子供に優しい言葉をかけてなんかあげなかった。
あんなにあいつらが好きだったのに。彼らのいない日常が、こんなに寂しいものだなんて知ってさえいれば。
ああ、そうか。
結局私は昔から、自分が大切に思っているものや、自分が好きな人のことさえ、一度も真面目に考えてなんかいなかったんだ。
夜の帳が下りると、スラム街は無法地帯へと変貌する。
今もあそこでは、食料の奪い合いなどは頻繁に起きているだろう。
もう、殺し合いなんか終っているというのに。
私は赤ん坊を抱いて、この不安な夜を過ごす。ここにこの子の父親がいてくれれば、私はどれだけ強く生きれただろう。
これから私は、目的も意識も無くただの抜け殻として生きるんだろう。少なくとも、仲間達の死を酒の肴に語って涙するような最低な真似はしたくない。
もし、私からすべてを奪っていったあの殺し合いに何らかの意味があったとしたら・・・・・・それはきっと、後世にもたらされるものだろう。
私はただ、この子を抱いて生きていく。
【テラカオスバトルロワイヤル 主な参加者の消息(A国調べ)】
【
野比のび太 殺し合いの中で死亡】
【骨川スネ夫 殺し合いの中で死亡】
【源静香 殺し合いの中で死亡】
【出木杉英世 殺し合いの中で死亡】
【
剛田武 消息不明 現在調査中】
【
アーカード 消息不明 現在調査中】
【
範馬勇次郎 殺し合いの中で死亡か?】
【
シマリス 生存(五年後、老衰により他界)】
【ドロッチェ 殺し合いの中で死亡】
【岡崎直幸 生存 法廷にかけられるが、無罪判決】
【ジャイアンの母 生存 法廷にかけられるが、無罪判決】
【先生 殺し合いの中で死亡】
【坂本龍馬 消息不明 現在調査中】
【上条当麻 生存 現在服役中】
【
キョン 生存 現在服役中】
【白鳥隆士 殺し合いの中で死亡】
【黒田官兵衛 殺し合いの中で死亡か?】
【わくわくさん 生存 後に歌手デビュー】
【フグ田タラ夫 刑死】
【支倉志乃 刑死】
【
涼宮ハルヒ 刑死】
【ニケ 軽視】
【安部総理 消息不明 現在のところ生存の確証は無し】
【せがた三四郎 殺し合いの中で死亡】
【ガチャピン 生存 服役の後、現在は平和運動に従事】
【ドイツ人少年 強制送還】
【
野比玉子 死亡を確認 しかしその後も各地で目撃証言が相次ぐ。現在調査中】
最終更新:2007年02月22日 21:35