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上条当麻の目的はこのバトルロワイアルというふざけた幻想をぶち殺すことである。
しかし今、その志気は彼の隣を歩く忌々しい同行者によって大きく殺がれていた。

『せ~の♡でもそんなんじゃだ~め♪もうそんなんじゃほ~ら♪こころ~はしんか~するよ~もっともぉっと♪』
いくつもの巨大な螺子で器用にジャグリングしながら、気の抜けるような鼻歌を歌っている童顔の男。
その顔からは、つい先ほど人を――不思議な力は持っていたが姿は人間の少女だったものを――殺したことに対する感情を一切読み取ることが出来ない。

今まで上条が出会った人の中にも殺人の罪を犯した者はいた。殺し合いの世界で生きてきた者も知っている。
だが自分の横を歩くこの男――球磨川禊は彼らと比べても、いや、上条の知っているあらゆる人物と比べても全くの異質だった。

『そういえばここは宮城県らしいね』
『宮城県の仙台市はジョジョの奇妙な冒険第4部の舞台であるM県S市杜王町のモデルになったところなんだよ』
『ってこれくらい小学生でも知っている一般常識か』
「……そーですか、今の今までそんな一般常識があることすら知らなかったぜ」
突然鼻歌を打ち切ると上条にどうでもいいことを話しかけてくる。球磨川は二人が行動を共にしはじめてから延々とこのパターンを繰り返し続けてきた。


「おい球磨川」
『あ、やっと上条くんの方から話しかけてくれたね』
『よかった。ずっと僕が話を振り続けて一方通行のままかと思ったよ』
『話し合うことは大事だからね』
『心をこめて話し合えば何時か必ず人と人は分かり合えるんだよ』
『前に見たアニメで言ってたんだから間違いない』
「…………」

球磨川自身についての情報を聞き出してみようと口火を切った上条だったが、いざ聞こうとすると躊躇ってしまう。
正直こいつに関することなど何一つ知りたくない。係わり合いになりたくない。
集団行動ルールがなければとっくの昔にこいつから離れて……
いや、それは駄目だ。
球磨川は危険だ。こいつを野放しにしておくことは出来ない。
今の上条当麻の目的は2つ。バトルロワイアルを打破する事と、球磨川禊を抑えて、もう2度とあの少女のような犠牲者を出さない事。

「念の為もう一度言っとくけど、もう絶対に人は殺すなよ」
『えっ』
上条の言葉に球磨川はわざとらしく疑問の声を上げ、わざとらしく首を傾げた。
「お前……さっきもう人は殺さないって言ってたじゃねえか」
『そうそう、それで聞きたかったんだけどさ、じゃあもしも殺されそうになったら僕はどうすればいいの?』
「出来る限り殺すな」
『出来る限り? その出来る限りの出来るの範囲は上条くんが決めるの?』
『いいの? 人を殺して良いか悪いかの境界線を上条くんが引いちゃっていいの?』
「違う!俺が言いたいのはそういうことじゃない。無闇に人を殺すなって言ってんだ」
『ふーん……じゃあ例えばさ上条くん』
『この先バトルロワイアルのルールが変わって「30分以内に人を殺さなかった者は首輪が爆発して死ぬ」って言われたらどうする?』
「それは……」
ゲームに乗って人を殺しているような悪人を殺す? でもそれじゃそこまでノーキルの善人でいたとしても結局悪人と変わらないよね』
『彼らだって自分が生きたいから他の人を殺してるかもしれないでしょ? ま、それはいいや』
『もしもその30分以内に悪人に出会えなかったらどうする?』
『出会ったのがバトロワの中で怯えて逃げ惑っているだけの善良な人たちだけだとしたら?』
『その人たちを殺す? それとも最後まで誇りを貫いて爆発で死ぬ? 上条くんがそうしたいなら別に良いけど』
『でも僕は? 君に人を殺しちゃいけないと命令された僕は君と一緒に自爆して死ななくちゃいけないの?』
『僕の生き死にを君が決めるの?』
「お前ッ……!」

上条は湧き上がる怒りを堪える。ここで奴の煽りに乗せられてはいけない。

『ああ、その30分間で決着をつけるって方法もあるね』
『君の主人公補正なら出来るんじゃない?』
へらへら笑いながら訳の分からないことを話す球磨川を上条は睨みつける。

「いいか球磨川。俺はお前が何者なのか知らない。何の目的で動いているのかも知らない!
 だがお前が何を企んでいるにしても……それが誰かを傷つけるようなものなら!
 絶対に俺はそのふざけた幻想をぶち殺す!!」
『おいおい人を悪者みたいに言うなよ』
『僕が目的としているものは、そうだな強いて言えば――』
『世界平和かな』


そして彼らは誰にも会わぬまま市街地へと足を踏み入れた。その時だった、彼らの耳にその声が飛び込んできたのは。



うー うー うー


それは年端もいかぬ少女の声、まるで誰かに助けを求めているような泣き声だった。

「!? おい!誰かいるのk」
声を上げた上条の顔面を、球磨川の裏拳が直撃した。
「!!? てめぇ何を!」
『おいおい、いくらなんでも非常識じゃないのかい上条当麻くん』
『この世界は今や丸ごと戦場なんだぜ。戦場で大声を上げるなんて殺して下さいと言ってるようなものじゃないか』
『僕が鬼軍曹だったら君の顔面に百烈パンチを叩き込んでいるところだよ』
「この声はどう聞いても小さな女の子の声だろっ!」
『さっき君を殺そうとしていた怪物も小さい女の子の声と姿をしていたじゃないか』
『……ははぁ、成程そういうことか。読めてきたぞ』
「読めてきただと?」
『そう、きっとこのうーうー言っている声の主はさっき僕たちが殺した怪物の姉妹か何かなのさ』
『妹の復讐のために僕たちを殺しに来たんだ』
『この声は僕たちをおびき寄せるワナだ!危ない!行っちゃいけない!』
球磨川は笑顔で、芝居でもしているように言葉を吐き続けていた。その間にも「うー」という泣き声は激しさを増している。
上条は球磨川を無視し、声のする方へ駆け出そうとした。

『おい待てよ上条当麻』
球磨川が笑顔のまま、上条の右肩を掴む。その風貌からは想像もできないほどの強い力で。
『人の善意をシカトするなよな。考えなしに敵に向かっていって怪物と戦闘になったらどうするんだい?』

上条は無言のまま、右手で球磨川の腕を打ち払った。
『ああそうか、さっきもその不思議な腕で戦っていたね』
『その手はどんな攻撃でも防げるの?』
『たとえばさっきみたいな不思議な光の弾じゃなく……ピストルの弾やロケットランチャーでも?』
それを聞いた一瞬の、上条の僅かな表情の変化を見て
球磨川は口の両角を上げ、ニタリと笑った。
『へえ、それは防げないんだ』

上条は今度こそ球磨川を振り切って泣き声の方へと走り出した。その背中に球磨川の声が掛かる。

『僕は本当に君のことが心配なんだよ』
『君に万一の事があったら僕はどうすればいい? 集団ルールはまだ続いているし、それに――』


『僕は君みたいな特殊な力は持っていない、普通の人間なんだぜ』

巨大なビルの裏側の路地に泣き声の主はいた。奇妙な模様のドレスを着て、頭に黒い王冠のようなものを被った少女が。
「うー!ママぁー!うー!うー!うー!」
そう泣き叫ぶ少女を、上条はようやく見つけることが出来た。
「待ってろ!今行くからな!」
当麻の声を聞いた少女は、彼を泣き腫らした目で見た。もう距離は100mもない。
それが悪意を持った者の罠かどうかなど、上条当麻は考えない。
ただこの少女を助けたい。それだけが今の彼の行動理念だった。

上条がその少女に走り寄ろうとした時に異変は起こった。
パラパラと舞う石片、そして何かが砕ける音。
次の瞬間、ビルの一部、ちょうど泣いている少女の真上にあたる部分の辺りが崩壊を始めた。
「!!!おい!今すぐそこから離れろ!!」
上条は叫ぶとともに少女に向かって全速力で駆け出していた。
少女は呆けた様に崩れ落ちるビルを見ている。恐怖のあまりに動けなくなったのか。
(間に合え!間に合えよ!)
上条当麻は少女の元へ、全速力で駆ける。そして――



少女は、彼の目の前でビルの残骸に押し潰されて即死した。




叫び声が聞こえる。あの少年の叫びが。
それを聞きながら球磨川禊は自分の能力と上条当麻の能力について考察を巡らせる。
(『僕の大嘘憑き(オールフィクション)で「あのビルが向こう側へ崩落しない事をなかったことにする」ことは出来た』)
(『僕の能力は普通に使える。一方で彼、上条当麻に対しては僕の大嘘憑きは「一切効果がなかった」』)
(『それはここに来るまでの道中で何度も試している。そしてさっきの反応から上条当麻の能力は「異能の力のみを全自動的に打ち消すこと」で間違いない』)
『……さて、そろそろ彼の元へ行くか』

『大丈夫かい上条くん』
血が滲み出している瓦礫の前に座り、上条当麻は震えていた。
何度も地面を殴ったのか、右手からは出血し近くのアスファルトにはクレーターが出来ていた。

「俺が……後少しでも早くここに来ていれば……」
『上条くん、冷たいようだが自分を責めても何も始まらないよ』

『君が自分を責めたところで「その女の子の死をなかったことにする」ことはできないんだから』

そう言いながら球磨川は瓦礫に埋まった少女の死体を観察する。変化はない。
(『上条当麻自身に掛けるだけでなく、上条当麻が近くにいるだけで僕の大嘘憑き(オールフィクション)は打ち消されるのか』)
(『しかしある程度距離をとった場所からは大嘘憑きを発動させることが出来た』)
(『なるほどなるほど』)
球磨川がそんなことを考えている間に、上条は立ち上がると死体の上の瓦礫を除け始めた。

『上条くん、何をしているんだい?』
「……この子をこのままにしておけねぇ」
『そういうことなら僕も手伝おう』
(『僕の過負荷(マイナス)で発生した瓦礫に彼の右手が触れても、特に変化は見られない』)
(『異能の力を受けた結果として物理的に起きた現象は無効化出来ないのかな?』)
(『いや、これについてはもう少し調べてみる必要があるか』)
(『……それにしても』)
球磨川は黙々と瓦礫を除け続ける上条当麻を見る。
(『彼が悲んでいる姿を見るのは楽しいなあ』)


瓦礫運びを手伝いながら、球磨川禊は上条当麻に声をかける。
『上条くん、仲直りをしよう』
『僕は今まで君に非協力的だった。それがこんな結果を招いた。後悔しているよ』
『これからはお互いを信じ、力を合わせよう』


『きっと、僕たちは素晴らしいコンビになれるよ』

【一日目・0時30分/宮城県/天候・嵐】

【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
【状態】右手にダメージ(小)、少女を救えなかった自分への怒り
【装備】不明
【道具】支給品一式
【思考】
基本:殺し合いの打倒
1:少女(右代宮真里亞)の死体を埋葬する
2:球磨川を厳重に警戒しながら行動する

【球磨川禊@めだかボックス】
【状態】健康
【装備】大螺子
【道具】支給品一式
【思考】
基本:???
1:上条と行動する

【右代宮真里亞@うみねこのなく頃に 死亡確認】
最終更新:2011年01月26日 01:13