全ての人間が善意のある者という訳ではない、なんて事は嫌になる程に解っていた。
自分の欲望の為に他者を傷つける人物もいるし、意味も無く人を殺すような悪人だっている。
ましてや今は自分の命を握られて強制された殺し合いだ。
恐怖に駆られ、或いは他愛も無い誤解から他人に手を掛けてしまうなんて事も起こってしまうだろう。
今までの長い冒険の中でもそんな光景は幾度と無く見てきた。
それでも、これは仕方の無い事なんだと諦める事だけはしたくはなかった。
例え全てを救う事が無理でも、例え敵意を向けられる事があっても。
できるだけ多くの人を助けたい、こんな殺し合いをやめさせたい。
おせっかいと言われようと、偽善者と言われようと、この意思だけは曲げたくはなかった。
―――だって、これがあたしだから。
―――いや、あたし、ルシア=マーベリックだったから。
果ての世界にいた頃は考えもしなかった。
いや、ここ果て無き世界でも、彼の話を聞くまではこんな考えをする事はなかっただろう。
殺し合いの果てに起きうる最悪の可能性なんて。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「お嬢ちゃん、あんた本当にそれでいいんですかい?」
「どういう事よっ!」
彼、ターランジが現れたのは、あたしが主催者を倒す決意を固め、あたしは殺し合いに乗らないと口にした時だった。
ターランジはあたしが戦ってきた中でも心を抉ってくる悪魔のような最悪の男だったから警戒をしていたのに。
「あっしはね、夜の旦那に聞いて知っているんですよ。あんたの一族の宿命ってやつを。世界の成り立ちを」
果ての世界は果て無き世界にいるあたしの一族、今は中条椎名によって形成されているという事。
しかし果ての世界は一定周期で壊れそうになり、その世界の修復により一族は命を多いに削り取られてしまうという事。
そしてあたしは果ての世界の破壊を防ぎ椎名の命を守る為に、果ての世界へと転生した椎名の母親であるという事。
そんな、あたし以外誰も知りえない事を話す彼の言葉に、あたしはつい耳を傾けてしまった。
「あの旦那は夜の旦那よりもずっと強大だと思うんですがねえ」
「そんな事分かってるわよ! でもあの時のようにみんなの力を合わ―――」
それでもあたしは何とか反論をしようとした。
でもターランジはそんな反論を予期していたかの如く、次々と言葉を返す。
「ルール説明を聞いてなかったんですかい? 現状2、3人としか組めないのに本当に勝てると思ってるんですかい?
武器の所持制限だってあるし、食料だって殺さなくちゃ確保できない。
反抗するなら首輪も解除しなきゃいけないし、その首輪だって結局死体が無きゃ解析もできない。
おまけに今後もっと厳しいルールが定められるかもしれやせん」
「だからって殺し合いなんかできるわけないじゃない!」
「そういやぁ、あっしらと戦ってるときも一兵たりとも殺しはしていやせんでしたね。
でもこの場でもそうしようとしてるんなら、ちょっと考えが甘すぎやしませんか?」
「何て言われようと変える気はないわ、これがあた―――」
「これがあたしだから……ですかい? 助けられる人は助ける。いや、結構な事ですがねぇ。
そもそもお嬢ちゃんは椎名って嬢ちゃんを助けるために転生したんじゃありやせんでしたか?
その椎名って嬢ちゃんの命が危険に晒されてもその意思を変える気はないんですかい?」
「―――っ!?」
「今こうしている間にも命を狙われているかもしれない。戦う力なんてないんですから尚の事。
椎名って嬢ちゃんが死ぬだけならまだしも、一族が全滅したら果ての世界の生物全てが滅ぶ事にもなりやす。
見ず知らずの他人を助ける事に腐心してそんな結果になったとして、お嬢ちゃん、それで本当に幸福ですかい?
何も皆殺しをしろって言ってる訳じゃありやせん。大切な人を傷つけうる奴を殺すだけでいいんです。
それが結果的に弱者を救うことにもなりやす」
「あたしは……あたしは……」
「……お嬢ちゃん、確かにあんたは『赤の英雄』ルシア=マーベリックでさぁ。
でもそれ以前に、椎名の母親である中条未来なんじゃないですかい?」
「…………」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
結局あたしは悪魔の囁きに逆らう事はできなかった。
思えばあたしがルシアとして転生する前、椎名が助かるなら悪魔にだって願うと決意をした時から、こうなる運命だったのかもしれない。
ごめん、アンナ、ライ、みんな。椎名を助ける為にあたしはみんなの気持ちを裏切る事になる。
―――だって、これが本当のあたし、中条未来だから!!!
【ルシア=マーベリック@扉の伝説~風のつばさ~】
【状態】健康
【装備】何らかの剣@何らかの作品
【道具】不明
【思考】
1:椎名の未来を守る為には殺人も止むを得ない。
【エド=ターランジ@扉の伝説~風のつばさ~】
【状態】健康
【装備】不明
【道具】不明
【思考】
1:暫くルシアについて行って幸福を探す。
最終更新:2011年01月26日 01:16