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右腕につけている腕時計の短針が、いつの間にか1の文字を指し示していた。

僕、阿良々木暦……いや、全人類を巻き込んだこのバトルロワイアルが開幕してから、一時間が経過したようだ。
一時間。
ようやく一時間なのか、やっと一時間なのか、この状況でどちらが妥当なのかは知らないが、
間違いないのはこの殺し合いはまだまだ終わる気配を見せないと言うことだ。
僕らは今、市内の廃ビルの比較的良コンディションな部屋で嵐を凌いでいる。
先ほど軽く確認したところ、僕と戦場ヶ原の他には誰もいない。体を休めるにもうってつけだ。

「体を休めると言っても、阿良々木くんにはそんな必要は無いんでしょうけどね」

背後から響く声。
わざわざ振り向くまでも無く、戦場ヶ原のものだとわかる。
まあ、実際のところは振り向けないんだけどな。だって今、戦場ヶ原ほぼ裸だし。
言っておくが何もやましいことは無い。単に服が雨に濡れたから乾かしているだけだ。この状況下だ、僕だって自制するさ。
とはいえ、いきなり服を脱ぎだされた時はさすがに驚いたけど。堂々としすぎなんだよ、こいつ。

「濡れた服を乾かすのは普通でしょう。あの程度でビビるなんて、さすが童貞は違うわね」
「うるせえよガハ裸さん」
「あなたもね阿裸々木くん」
「僕は別に脱いでねえよ!」

そう、戦場ヶ原と違って、僕はいつもの学生服を着たままなのだ。
当然濡れてはいるんだけど、吸血鬼もどきの僕にはちょっと不快感がある程度。
僕にとっては、それよりも半裸で戦場ヶ原と二人きりってシチュエーションの方がきつい。

「そうなのよね。阿良々木くんは、服が濡れた程度の寒さは平気で耐えられるのよね。ただの人間の私と違って」
「……戦場ヶ原?」

さっきから、何か様子がおかしいと思ってたけど――戦場ヶ原は戦場ヶ原で、この状況に思うところがあるのだろうか。
人間の戦場ヶ原と一緒にいるから、吸血鬼の僕の行動が制限されてしまっているとか。自分が枷になってしまっているのではないか、とか。
だとしたら、それは誤解だ。

「あのな、戦場ヶ原。僕は確かに普通の人間じゃないけど、それでも消耗はするんだ。無茶を過ぎれば、普通に倒れたりはする。
 だから、僕は僕で休む必要があったし、それはお前が気に病むようなことじゃ――」
「だって阿良々木くん、マゾだもんね」
「そっちかよ!?」

想像以上に酷い誤解をされていた!
マゾだからって別に疲れや寒さも平気ってことは無いだろうに!
どれだけマゾを買い被ってやがる……いや、そもそも僕はマゾじゃないからな!

「さすが名前にMの文字が入ってるだけのことはあるわね。阿良々木こよMくん」
「そんなの関係あるか!」
「ちなみに私はSの文字が入ってるわ。S場ヶ原」
「やばい、関係ありそうだ!」

と、まあ、こんな感じでぐだぐたしていたわけだが。

現状、恋人と無事合流を果たし(恋人が仮面ライダーになっていたのを無事と言っていいのかはさておき)、順風満帆――と言うわけでは無かった。
戦場ヶ原の無事を確認できたのは何よりだが、未だに僕は自分の家族や、友人たちと連絡を取れていない。
父親も母親も、妹達も、羽川も、八九寺も神原も千石も、おそらくは忍野も、この殺し合いに巻き込まれているはずだ。
彼ら彼女らならば僕なんかよりもずっとこの状況における適切な行動を取れるはずなので、心配なんていらないのかもしれないのだが。
それでも心配せずにいられないのが、人間ってものだろう。僕は正確には人間じゃないけど。

とか何とか、徒然とそんな事を考えていた時のことだった。

突如として、勢いよく部屋のドアが開かれた。
しまった――ついいつものノリで戦場ヶ原に突っ込んでいたが、今は殺し合いの真っ最中。
このビルのボロボロ具合だ、大声で騒いでいればどこから音が漏れていてもおかしくないというのに。
くそっ、入ってきたのが殺し合いに乗った人間なら、どうにか戦場ヶ原だけでも逃がさないと……!
だが――どうやら、その必要は無いようだった。


「こ、暦お兄ちゃん……?」


それどころか、心配ごとが一つ減ったらしい。
長い前髪で目を隠した、妹でもないのに僕を暦お兄ちゃんと呼んでくれる少女。
ドアを開いて部屋に入ってきたのは、紛れもなく僕のよく知る千石撫子だった。

「千石……よかった、無事だったんだな」
「わ、私……一緒にいた人とはぐれて……このビルに誰かいないか探してたら、こ、暦お兄ちゃんの声が……」
「落ち着け、もう大丈夫だ千石。お前のことは、この僕が全身全霊で守ってやるから。な?」
「暦お兄ちゃん……」

災い転じて、福と成す。
こんな言い方をしたくはないが、仮に千石が僕らの存在に気が付けなかったとしたら。
その時はきっと、想像もしたくない結末が待っていたのだろう。僕の間抜けっぷりも少しは役に立ったわけだ。












ここで、終わってればよかったんだけどな。

どうやら今回の場合、災いは転じたところで災いらしかった。




後日談というか、今回のオチ。


「変身」


背後から響く声。
その声は、あまりに冷たく、あまりに重く、僕は暫し気付くことができなかった。

その声の主が、自分の恋人だと。
振り返ればそこには、先刻僕の命を救った金色の仮面ライダー。

「戦場ヶ原……?」
「その子、阿良々木くんの友達かしら。だったらごめんなさい。私、その子と戦わなくちゃいけないわ。
 このカードデッキを支給された時、説明も一緒にあったのよ。同じカードデッキの持ち主を、殺さなくちゃいけないって」

お前は何を言っているんだ。
そう言おうとした僕の声は。

「変身」

千石によって遮られた。
とても千石の口から出たものとは思えない、空気が凍りつくような冷え冷えとした声。
ひょっとしたら、ここで振り向かなければ何かが違っていたかもしれないが。
振り向いた僕は、決定的な瞬間を目の当たりにすることになった。

千石撫子が、紫色の仮面ライダーに変身する瞬間を。

金と紫。
二人の仮面ライダーは僕を挟んで向かい合い、そして――激突した。

【一日目・1時05分/新潟県・廃ビル/天候・嵐】
【阿良々木暦@化物語】
【状態】健康
【装備】召喚機@ペルソナ3
【道具】不明
【思考】
1.生き残る
2.二人を止めたい

【戦場ヶ原ひたぎ@化物語】
【状態】変身中
【装備】カードデッキ(シザース)@仮面ライダー龍騎、ホッチキス@現実
【道具】不明
【思考】
1.生き残る

【千石撫子@化物語】
【状態】変身中
【装備】カードデッキ(王蛇)@仮面ライダー龍騎
【道具】不明
【思考】
1.生き残る
最終更新:2011年01月29日 01:11