石原は街を破壊し回っていた。
もはやそこに分別はなく、見る者全てを変態だ、アブノーマルだ、と叫びながら砲弾を発射している。
石原の顔も当初のような険しい物ではなく、寧ろどこか恍惚としているような、かといって笑っている訳でもない奇妙な物に変わっていた。
「気の毒で……DNAが……」
口から漏れだす声も先ほどからそんなことばかりで、締まりがない。
しかし、当の石原の頭の中はとてもクリアなものだった。
抹殺する。
その一点に尽きているのだ。
人も漫画も建物も国も、そして世界さえも理想を邪魔する物は全て抹殺する。
そんな思いが胸中を占めていて、同時に自分ならそれができるという妙な自信も彼には存在しているのだ。
「抹殺するんだ……アニメも漫画も人も……そして……」
街を破壊し終えた石原はぶつぶつと、そう呟いている。
破壊され、焦土となった光景を見ると何か達成感が沸き上がって来るのだ。
しかし、まだ終わりじゃない。破壊しなければいけない物は沢山残っている。
否、終わりなど果たしてあるのだろうか。
そんな思考に浸っていると、石原はふと気がつく。
何かが聞こえる。
音楽のようだが、破壊した筈の街で何故――?
「君の戦いは終わらないよ。
君にはもう何かを成し遂げるという精神が残っていないからね」
それが口笛によるものだと気付いた時、そんな声が聞こえてきた。
誰だ、抹殺しなければ、そう思って周りを見回すと、そいつはそこに居た。
黒い筒のような、奇妙としか言いようがない長帽子を被っていて、服装もそれに劣らず所謂コスプレような妙なものをしている。
変態だ、抹殺しなければ、そう思ってそいつと向き合った時、声がした。
「抹殺という名の破壊の先において、君は何も成し遂げることはできない。
ただ破壊するだけの君はもう――世界の敵でしかない」
唐突にこの曲が何であるを思い出した。
そう確かワーグナーの――
「ニュルンベルクのマイスタージンガー……だと?
まぁとにかく変態だ。DNAが狂っていて……」
「君はそうやって破壊を続けた先に何をすると言うんだ」
黒帽子――ブギーポップがそんなことを聞いてきた。
石原はやはりどこか締まりのない口調で言葉を返した。
「決まっている。お前達のような変態共を抹殺した先に私は……」
そこで気付く。
私は……何をするのだ。何をしようというのだ。
クリアな筈の頭の中でも、そこだけは何故か靄が掛かったかのように不鮮明になっていた。
以前なら違った筈だ。
少なくとも昨日までなら、毅然として自らの論を主張できた筈だ。
なのに今はどうしてもそれができない。
出て来るのは変態だとか、アブノーマルだとかそんな言葉ばかりで、何に基づいてこんな行動をしているのか言うことがさっぱりできないのだ。
「今の君は何も言うことができないだろう。
何かを成し遂げる、という概念が抜け落ちてしまっているからね」
「うう……」
「何かを成す為なら良かった。
君の規制や抹殺の果てに為すべき何かがありさえすれば、僕は別に出てこなかったんだ」
「うう……」
「ただ破壊するだけでその先には何もない、君のその精神はいずれ世界を破壊しようとするだろう」
「う、うう……」
「それ以外に道がない以上、僕は君を遮断するしかない」
「ううう………うぉぉぉぉぉぉ!」
石原は突如動き出し、黒帽子を抹殺すべく戦車を向けた。
変態だともDNAがとも言わないそれは正しく、ただの破壊だった。
しかし、砲弾が発射される直前、黒帽子は腕をついと上げた。
そして、
「なっ……!?」
「君はもうどこにも行くことができない」
首筋に熱い何かが走った。
それが何なのかを知る前に、石原の精神は闇に沈んでいった。
次に石原が目覚めた時、既に空は白み始めていた。
それを石原はぽかん、と間の抜けた表情で眺める。
自分は何かをしなければならなかった――筈なのだが、どうにもそれが何なのかが分からない。
先ほどまであんなに必死だった筈なのに、どうにもやる気が起きないのだ。
憑き物が落ちた、まさにそんな言葉が似合う状態だった。
隣を見ると地デジカが気絶していた。
それと共に石原は訳も分からず、呆然としていた。
【一日目・4時0分/日本のどっか/天候・?】
【石原慎〇郎@現実】
【状態】茫然自失
【装備】なし
【道具】なし
【思考】
1:……………
【地デジカ@現実】
【状態】気絶
【装備】なし
【道具】支給品一式
【思考】
1:……………
せんと君とブギーポップは石原が目覚める三時間前に神奈川を離脱していた。
「殺さなくて良かったのか?」
「もう彼には世界の敵となれるだけの精神は残っていない。
まぁ所謂『やる気』を失ってしまったんだ」
ブギーポップのそんな言葉に対して、せんと君はいやしかし、と不服そうに
「また、何時かああなるかも知れないぜ。何にせよ野放しってのはどうよ」
「その時はまた僕が出張るだけさ。何しろ、僕は自動的なんでね」
「ふぅん、大変なんだな」
せんと君はどうでもよさそうに言った。
するとブギーポップは左右非対称な顔をして言った。
「そうだね。
――特に君のような存在がいると」
その言葉が放たれると同時にせんと君の身体はワイヤーで切り刻まれた。
せんと君は最期の言葉すら言うことできずに、絶命した。
せんと君の身体から何かが転がる。
「やはり、今回は中々根が深いようだ」
ブギーポップはその手にあるものを弄びながら、そう呟いた。
それは石原の首に張り付いていたものであり、同時にせんと君が今持っていた物と同一のものだった。
それを知るは言うだろう。
肉の芽、と。
「誰がやったのかは知らないが、やれやれまだ終わりじゃなさそうだ」
【せんと君@現実 死亡確認】
【一日目・1時5分/東京/天候・嵐】
【ブギーポップ@ブギーポッシリーズ】
【状態】左右非対称な顔
【装備】ワイヤー@現実
【道具】不明
【思考】
1:僕は自動的なんだ。
【宮下藤花@ブギーポッシリーズ】
【状態】健康
【装備】ワイヤー@現実
【道具】不明
【思考】
1:……………
【一日目・0時30分/日本/天候・嵐】
【のび太@
ドラえもん】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】不明
【思考】
1:何だったんだ、あの夢
【ドラえもん@ドラえもん】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】不明
【思考】
1:へぇ
最終更新:2011年01月31日 19:56