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ブラックロックシューターこと黒衣マトは当然ながら非日常の世界の住人である。
生身の人間のものではありえない能力を持ち、普通に暮らしていては遭遇するわけもない戦闘行為を幾度も経験している。
よって彼女自身もそれを自覚し、自分はかなり特殊な人生を送っている特殊な存在なのだと自負している――はずだった。


「う~……」
6/氏と別れてから、マトは控え室とそのちょっと離れたところにあるトイレとを何度も往復していた。
お腹を壊したわけではない。下ではなく上が問題なのである。
二つも続けて惨殺死体(主人公子の死体も6/が写真を見せろと主催側に要求したために一緒に見る羽目になった)を見せられて、
非日常の住人とはいえ中身は普通の女子で死体にも慣れていないマトはリバースを繰り返していたのだ。
6/氏と一緒にいた時にはなんとかガマンしてクールを装っていたが、一人になった途端に脳裏に死体が何度も浮かび上がってきて、
その度に気持ちが悪くなって吐き気が襲ってくる。
「6/さんはなんであんなもんを見て平気なんですか……」
内心ではかなりビビッていたマトとは対照的に、6/氏は眉一つ動かさずに殺害現場を検分していた。
いろはの殺害現場など、6/氏が遺書のほうを調べ始めたために彼女は死体のほうを調べる羽目になってしまったのだ。
まさか死体が怖いから代わってくれ、などとはとても言い出せない雰囲気だった。
自分は非日常世界の住人だとばかり思っていたが、あの6/氏と比べたらまだまだなのかもしれない。
そんなことを考えながら(そして極力死体のことを思い出さないように努めながら)部屋に戻ろうとしたマトを呼び止める声があった。

「あ、あの、ブラックロックシューターさん……でしたよね?」

振り向くとそこには一人の少女がいた。確か自分と同じトーナメント参加者の一人で、何度か会場内ですれ違ったこともある。
「私、萩原雪歩っていいます。あなたと同じ参加者の一人で……それで、折り入ってご相談が……」
「はい、なんでしょうか」
正直さっさと話を切り上げてほしいマト、声音が自然と鋭くなってしまう。
「実は私、主催の方たちのはからいで二次審査については免除されているんです。
あ、いえその、私は他の人たちみたいにバトルしたりするのって得意じゃないんで……」
正直羨ましい話だと思ったが、そういう枠が設定されていることは予想していた。
戦闘力は無いけど他の部分に秀でている参加者を救い上げるためなのだろう。
「でも色々考えたんですけど……私、この二次審査免除権をあなたにお譲りしようと思うんです」
「本当に?」
一瞬耳を疑った。
「はい、あ、もちろん主催者さんにも了承を得ていますよ? それによってマトさんなら敗者復活戦免除で次の審査に進めるとのことです」
マトは目を丸くして考え込む。
正直話が上手すぎるとも思うが、彼女の話を字句通り信じるならこれ以上望めないほどの幸運と言うべきだ。
他の参加者に何を言われるかはわからないが、アイドルになるという最終目標を叶えるためになら……
「その代わりに、一つだけお願いがあるんです」
「……それは?」
ここまでの条件であるからには決して軽いものではあるまいと覚悟しながら聞いていると、

「はい。あなたと仲のいい6/さんを――殺して、いただけませんか?」

息を呑むマトの前で、少女はあくまでもじもじした態度を崩さずに言う。
「警戒心の強い6/さんは、他の参加者や審査員とも友好関係を積極的には築こうとしていません。
そんな中でご自分のほうから6/さんに近付いて仲良くなったマトさんはこれ以上ないくらい適任なんです。
無事成功したら、敗者復活戦免除だけではなくてそれなりの謝礼も……」
「お……お断りします」
早口でそう答え、後ずさって雪歩から離れるマト。
この少女をこのまま帰してはいけないことはわかっていた。
これがいつものような強い力を持った相手なら戦って打ち負かせばいい。
しかし彼女は戦闘能力など無いただの少女。自分が全力で攻撃すれば確実に死ぬだろう。
そんなことをしてもいいのか。
非日常の存在であるマトは、『現実』の戦いを前にしては全くの無力だった。
「そうですか、なら……力ずくでも、頷いてもらうしかないですね」
そこにはさっきまでのもじもじおどおどした少女の姿は無かった。
冷徹な顔に早代わりした雪歩は指を鳴らして合図を送る。

しかし、何も起こらない。

「なっ……どうして?」
呟きながら焦ったように周囲を見渡す雪歩。そこに一人の男が現れる。
「ああ、そこに隠れていた奴らならちょっと眠ってもらったぜ?」
クルミを左手で弄びながら登場した6/を見て、雪歩は観念したように脱力した。


「食堂でお食事をするって言ってませんでした?」
「ああ、けど気が変わった。さっき、俺とお前があの『殺害現場』で感じた違和感の正体に気付いたんでな。
まあお前も気付いたんじゃないかと思うんだが……」
「はあ……」
会場内の、倉庫として使われているらしい一室で6/とマトは向かい合っている。
正直さっぱりわかっていなかったマトは曖昧に首をかしげていた。
それを見た6/は口を開く。
「まあ俺がまず気付いたのは遺書に関する不自然さだからな。お前がわからなくても仕方は無いか。
死んでいた猫村いろははボーカロイド、人間とは違う。あいつは普段は両手にスピーカーを嵌めていたようだが、
そのスピーカーを取れば遺書を書くくらいは出来るだろう。実際、手で槍を握って死んでいたしな。
しかし、『拇印』だけはありえない。人間ではないボーカロイドに指紋なんかあるわけが無い。
念のために死体の指先を見てみたが、ミクとかの他のボカロと同じで案の定ツルツルだったよ。
拇印を偽造するならそれくらいのことは確認すりゃ良かったと思うけどな、演出過剰ってやつだ」
「な、なるほど、言われてみれば確かにそうですね」
「もう一点は血の飛び散り方だ。すでに現場はかなり掃除されていたが、死体からかなり離れたところまで血しぶきが飛んでいた。
自分で刺したならあそこまでは飛ばん、増してや女の力じゃあな」
淡々とまるで当然という感じで語る6/だが、その落ち着いた口調と語る内容は、彼がかなりの数の死体を見てきたことを物語っていた。
「じゃ、じゃああれは自殺じゃなくて……」
「他殺だ。それは間違いない。それも犯人はカオスロワンアイドルの主催者の中にいるか……
もしくは、主催者にその犯人を庇わないといけない理由があるか、だ。
第一の事件の犯人と同一犯かどうかはなんとも言えないけどな」
「なるほど……ところで6/さん」
「なんだ」
「は、吐いてもいいですか?」
見るとマトは真っ青な顔で口元を押さえていた。
「……つい五分ほど前にも吐いてたはずだがな」
そう言いつつも、こんなこともあろうかとポケットに大量に入れていたビニール袋を一つ渡す6/。
マトは部屋の隅に走っていってリバースした。
さっきの6/の話でまた死体を思い出したようだ。

「あの~……あなたたち、いつまで私を放置されるおつもりなんでしょうか」
焦りのような呆れのような顔で呟いたのは、椅子に後ろ手に縛りつけられた雪歩である。
6/とマトはとりあえず抵抗されないように彼女を縛った後ここに連れてきたのだった。
ちなみに6/の倒した雪歩の私兵たちも同様に縛られている。
「あんたもちょっと功を焦りすぎたな。もうちょっと慎重にやってれば良かったんだ」
自分が殺すはずだった標的自身にそう言われて唇をかみ締める。
確かに彼の言うとおりだ。もっと堅実なほうほうもあったはずなのに、早く結果を出そうとしたためにこんな失態を演じてしまった。
「で、あんたが今回の黒幕……じゃ、ねえよな。背後に誰がいる?」
クルミを突きつけて迫る6/だったが、雪歩はそれだけは頑なに口を閉ざした。
「それでどうするのですか、6/さん?」
吐き終えたマトが戻ってくる。
「主催者に報告するしか無かろう」
「そんなことをしたら、今度こそ企画がストップしかねませんよ?」
「いや、そのほうが今は最善だ」
信じられないといった顔をするマトに6/は説明する。
「次の試合に備えながら、殺害事件の犯人を捜し、襲撃者からも身を守る……
そんな綱渡りをするのは並大抵のことじゃない。
なら一時的に企画をストップしてもらって、その間に色んな懸案を片付けるほうがむしろ早い」
「でも……」
マトはなんとか反論しようとする。何しろそれは、一歩間違えれば『一時中断』ではなく『中止』という可能性が常にあるのだ。
「大丈夫だ。中止はさせない」
不安そうな顔をするマトに向かって6/が告げた。
「お前ともまた戦いたいしな……それに、俺一人に限っての話だが、今回の件は主催者の耳に入れておいたほうが安全だってこともある」
「なるほど、自分を狙っている誰かがまだいるかもしれないと訴えれば、護衛をつけてくれたり
保護してくれる可能性もありますね」
「ああ。まあその時には俺じゃなくてお前の護衛も一緒に頼むことになる。
今回のような接触がまた無いとも限らないし、その時の相手は今回ほど下手には出ないかもしれん」
自分の命がはっきり狙われた直後だというのに、必要以上に恐れも怖がりもせず最善と思える対策を冷静に述べる6/。
その横顔を見ているとマトは羨望かあるいは嫉妬にも近い感情を抱いた。
どんな非日常的なことが起こっても動じない精神力。
これほどのものを、一体どんな人生を送れば身につけられるというのか……

「……ところで6/さん」
「なんだ、またリバースか?」
急に真っ青な顔になったマトを見て呆れたように言う6/。
「違います……今度は、その、ええと……おトイレです」
そう言って腹を押さえる。
「ああ……ま、そんな常時お腹を出した格好でいればそうなるよなあ」
「ま、まあそういうことです。正直この服のせいで私は常時下痢なのです。夏場涼しいだけで何もいいことはありません」
「いやそんな情報はいらん」
「あ、あの……女の子の前であんまり吐くとか下痢とか、言うのはその、良くないような気がするんですけど……」
もじもじモードに戻った雪歩も非難がましい目を向ける。
「そんなわけでトイレに……」
「ああ待て」
縛った雪歩たちを見渡す6/。この状況からの逃亡は不可能だろう。
それよりもマトを一人にするほうが危ない。
「仕方ない、俺も行く」
二人は連れ立ってトイレに向かい、倉庫の中には縛られた雪歩たちだけが残された。

「……で、だ」
マトを伴ってトイレから戻った6/はその光景を見て頭を抱える。
「なんでこいつら死んでやがる?」
置いていった者たちは一人残らず、こめかみを撃たれて殺されていた。
今度ばかりは主催者も自殺とは言い張れまい。凶器は無いし、なによりどうやって手を縛られたまま自分を撃つというのか。
ちなみにマトはその光景を見た瞬間にリバースを起こし、今も床の上で吐いていた。
もういろはの時みたいに一時的にガマンすることも諦めたらしい。
「現場保存もクソもねえなあ……」
あとから殺害現場を調査する奴らにこの吐瀉物について聞かれたらどう答えたらいいのだろうか。
(とにかく、これは悠長なことは言ってられんな)
彼女たちが殺された理由は考えるまでも無く口封じだろう。
ようやく立ち上がったマトに向かって険しい顔で告げる。
「このことを報告に行くぞ」
「はい……でもその前に……」
「なんだ、もうちょっと吐きたいのか?」
「いえ、今度はトイレです」
「もうお前帰れー!!」
ここに来て6/は冷静さを失って素で叫んだ。



【一日目・5時20分/東京・カオスロワンアイドルセカンドステージ会場/天候・雨】


【6/氏@テラカオスバトルロワイアル】
【状態】疲労(中)、カオスロワ参加者として引退中
【装備】カオスロワンアイドルの番号札、万年筆
【道具】支給品一式
【思考】基本:カオスロワのアイドルの頂点を目指す。
1:主催者に一部始終を報告し、保護を求める。
2:二回戦も頑張る。
3:新必殺技が……………?
〔備考〕
※今までのカオスロワや他のロワの登場、活躍を全て知っている6/氏です。

【黒衣マト(ブラックロックシューター)@BLACK★ROCK SHOOTER】
【状態】吐き気、腹痛
【装備】★Rock Cannon
【道具】不明
【思考】基本:アイドルになる
1:主催者に一部始終を報告する。
2:全面的に6/氏を信頼

【萩原雪歩@アイドルマスター2  死亡確認】
【カオルロワンアイドルの係員に成りすましていたアンチ連盟の人@テラカオスバトルロワイアル  死亡確認】

審査員用の控え室の一室で、二人の男が話をしていた。
「全く君も容赦が無いねえ。何も殺すことも無かったろうに」
井口ヒロミがそう言うと、猟銃を持った男が不敵そうに答える。
「なに、敵の手に落ちるようなマヌケどもなど俺たちアンチ同盟の恥ってもんよ。
それにあの程度の奴らを切り捨てても同盟は痛くもかゆくも無い」
男は和服姿だった。猟銃もかなり古いタイプのもののようだ。
そしてその足元には一匹の狐がいた。
「ま、さすがにこうなっては仕方が無い。このまま予定通りに企画を進めるわけにはいかないね。
全く余計な仕事を増やさないで欲しいよ。まあじきにここにあの二人が駆け込んでくるだろうが……」
「まあそしたら奴らの要求を全部聞いてやんねえ。そうすりゃしばらくは表立った動きは控えるはずだ」
そう言って猟銃の男は酒を飲む。
「それよりあんたの立場のほうが俺は心配だよ? カオスロワンアイドルの運営側でありながら俺たちアンチ連盟とつるんだりして」
「別にいいさ。この際教えてあげるけど、僕はこのアイドル企画そのものにはそこまで興味は無い。
僕が求めているのはカオスロワのアイドルを作ること、なんかじゃないからねえ。
僕が求めているのは結果じゃない、過程なのさ」
「ほう、そりゃあいい」
その時、男の足元で寝ていた狐が、迫る駆け足の足音に気付いて耳を立てて立ち上がった。


【一日目・5時20分/東京・カオスロワンアイドルセカンドステージ会場/天候・雨】


【井口ヒロミ@本格的ガチムチパンツレスリング】
【状態】健康 
【装備】スタッフ証
【道具】支給品一式ほか多数
【思考】
基本:カオスロワンアイドルのお手伝い。
1:さて、どうしたもんか……

【兵十@ごんぎつね】
【状態】健康 
【装備】猟銃
【道具】支給品一式ほか多数
【思考】
基本:カオスロワンアイドルのスタッフに成りすまして目的を達成する
※アンチ連盟の刺客です


【ごん@ごんぎつね】
【状態】健康 
【装備】不明
【道具】支給品一式ほか多数
【思考】
基本:カオスロワンアイドルのスタッフに成りすまして目的を達成する
※アンチ連盟の刺客です
最終更新:2011年02月11日 12:55