「眼鏡の主婦もこの程度か……正直がっかりだな」
アーカードが残念そうに呟く。もう玉子に対する興味を失ってしまったのだろうか。
辺りから聞こえてくる放送にすら、誰も反応しない。
「では貴様はどうだ? 貴様は人か? 狗か それとも唯の臆病者か?」
アーカードの冷たい目が、ジャイアンの母を射抜いた。
ジャイアンの母は何も言わずにアーカードを睨む。
「どうした? 貴様の友は及ばずながらも懸命に戦ったぞ?
どうした?? まだ仲間がひとりやられただけだ。
どうした!? 早く立て。武器を構えろ。私に一矢報いて見せろ!
HURRY! HURRY! HURRY!!」
「……助けて、姉さん……」
その言葉が無意識に僕の口から零れ落ちた。
怖かった。襲ってきたジャイアンの母が怖かった。でもアーカードも怖かった。唯それだけだった。
でも、アーカードは僕の事なんか気にならなかったようだ。
「……なんだ、貴様は戦うことも出来ない只の糞か。つまらん。全く以ってつまらん」
心底落胆した、といった素振りでジャイアンの母を見るシロッコさんの目は、侮蔑の感情で満ちていた。
でも、もし僕が襲われないのならそれでも良い。そのときは本当にそう思っていた。
――風が、吹いた。
「タケシはァッ……私が生き返らすよぉッ!!!!」
ジャイアンの母から聞こえてきた叫び声と共に、アーカードの体が吹き飛ぶ。
そして僕の目の前には、ジャイアンの母の背中があった。
ピンチに駆けつけるヒーロー。
そんなチャチなもんじゃあ、断じてない。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わった…。
「すご……」
思わずそう呟いてしまってから、しまったと思った。
でもそのときは、ただ純粋に凄いって、そう思ったんだ。
「カツオ、危ないから少し離れたまえ」
「……で、でも一人で大丈夫なの? あいつ、凄く強いんだよ……!?」
不安そうな僕に向かって口を開くシロッコさんの顔は、意味も無く自信満々だった。
「心配はご無用! なんといってもアーカードは吸血鬼、この程度では死んでいないだろう」
そう言うとシロッコさんは僕と一緒に物陰に隠れる。
どうやらシロッコさんが戦おうとしたわけじゃないみたいだ。
僕らが物陰に隠れると、ジャイアンの母はアーカードの方へ歩き出した。ゆっくりと。ゆっくりと。
アーカードとの距離がどんどんと狭くなってゆく。
3m……2m……1m……って、え? まだ止まらない!?
そしてジャイアンの母は、アーカードの眼前……高い鼻が触る程の近さで、立ち止まった。
静かな睨み合い。
本能的な恐怖を喚起させるようなあのジャイアンの母の眼光にも、アーカードは全く怯まない。
「なんだ、もうタケシとやらとのお別れの儀式は済んだのか?」
「タケシも私も生き残るよぉっ!」
「ならばどうする? 貴様に俺を倒せるとでも?」
「私はどんな奴でも0.2秒であの世に送る事ができるよぉぉぉぉぉっ!!!」
「面白いヒューマン、やってみろ!」
その刹那、限界まで張り詰めていたものが、弾けた。
ジャイアンの母は斧を振るった。
信じられないスピードだ! 本当にあの斧は、あの重い戦斧なの!?
盛大な音を立てて、大規模なクレーターが地面に出現する。
だがアーカードはそこにはいない。
上だ!
鈍い音を立てて、強烈な回し蹴りがジャイアンの母の顔面を直撃する!
「フフ、やるじゃあないか。素晴らしいスピードとパワーとタフネスとラックだ。
そしてそれを完全に我が物にしている。よくぞ主婦の身でここまで練り上げたものだ」
「まだまだこんなものじゃあないよぉっ!」
ジャイアンの母が足を振りぬくと、アーカードの体が一直線に北へ吹っ飛んでいき、南から戻ってきた。
だが、次の瞬間にはアーカードは立ち上がり、再度ジャイアンの母に突撃してゆく。
化け物だ。アーカードも、ジャイアンの母も。
「中々のタフネスだ。パワーも申し分無い。だがこれでは奴を倒すには不十分! NOT ENOUGH!!
まだまだ足りない! 足りないぞ!」
シロッコさんがコーヒーを飲みながら吼える。
すっかり観戦モードだ。
「貴様に足らないもの、それは――」 ジャイアンの母が跳んだ。
「タケシへの情熱!」――――アーカードに強烈なドロップキックが炸裂する。
「タケシを死なせない正義!」――――だがアーカードは倒れない。
「タケシとの友情!」――――アーカードが高速で手刀で薙ぐ。
「タケシの情報!」――――だが、やはりジャイアンの母には掠りもしない。
「タケシへの愛情!」――――しかしアーカードはもう一方の手で玉子の死体を放つ。アーカードを中心に、放射状に肉片が拡散する。
「タケシへの優しさ!」――――全包囲攻撃! 死角はあるの!?
「タケシを守る勤勉さ!」――――ジャイアンの母は何処に!? 右か? 左か? 上か? 背後か?
「そして何より――――理不尽さが足りない!!!」
――――正面だ!! 円形に広がる肉片の間合いの、更に内側にジャイアンの母の姿が現れる。
「トルネコだけはぁッ! 私が仕留めるよぉッッ!!」
ジャイアンの母の強烈な一撃がアーカードに直撃する。
アーカードの体が、まるでミサイルのように遠くに飛んでいった。
2……いや、3エリア以上向こうにまで飛んでいっただろうか。
流石にこれで僕の運命も終わり……?
いや、ジャイアンの母はまだ戦闘態勢を解除していない。
アーカードは、まだ健在だ……!
パン、パン、パン……
飛んでいった先と反対側から、吹っ飛ばされたまま、ついでに太った男(トルネコ)を引っ掛けて、アーカードが拍手をしながら戻ってくる。
「ブラヴォー。最高だ。最高だぞヒューマン。こんなに楽しいのは初めてだ」
不時着して巻き上げた粉塵の中から、アーカードが歩き出てくる。
その姿はボロボロなのに、その威圧感は全く衰えては居ない。
この男は、一体何度立ち上がるのか。
そして、アーカードと一緒に吹っ飛ばされてきた太った男は誰なのか。
「タケシの仇ぃっ!」
風が舞う。
瓦礫が舞う。
ジャイアンの母が走り出した。
今までに増して、凄まじいスピードだ。
まるで……光!?
対するアーカードは、手にしたトルネコを振りかぶる。
「ひぃっ!」
その悲鳴にもアーカードは動かない。
迫り来る一瞬に、自分の全てを賭けているんだ。
僕は必死に目を開いて、2人の姿を凝視する。
瞬きする間に終わってしまう、その瞬間を見届けるために。
「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッ」」
二つの点が、交叉する。
「ぐぅ……!」
「……アーカードさん! もっと頑張れぇ!!!」
僕とシロッコさんに焦りが浮かび始める。
この均衡状態が続けば、先にやられるのは確実にアーカードの方。もはや彼には左半身と顔しか残っていない。
そうすれば、トルネコも終わりだ。脂肪より先にトルネコの脳そのものが焼き尽くされるだろう。
そうでなくとも、極光を放っているジャイアンの母と極光を直接受けているトルネコ、どちらの消耗が早いかは自明の理だ。
僕の表情を少しずつ、だが確実に絶望が侵食し始め……
突然、斧が加速した。
ジャイアンの母の力ではない。その証拠に、彼女の表情には驚愕が浮かんでいる。
だが、その表情も空に浮かんだタケシの幻を見て変わった。
(……タケシ、お前も手伝ってくれるんだね)
強引な使い方をした所為か、バトルアックスもまた自壊を始めている。
けれど。しっかりと攻撃を出来るだけの機能は残している。
だから、叫んだ。全ての力を脂肪の塊へぶつけ、その奥にいる相手に思い知らせるために。
「これが、タケシと私の全力全開!!!」
『かぁちゃん!』
それが、消えかけた幻が最後に紡いだ言葉。霧散するタケシが出した最期の言葉。
タケシの思いが斧を押し出し、爆ぜる――消える前の蝋燭のごとく。
だが、それでも相手は伝説の商人である。そしてそれを担うは瀕死の吸血鬼。
どれほど思いを弱かろうと、その攻撃が不完全であってもただのデブに勝ち目はない。
――そう、トルネコ「だけ」ならば。
それだけではないのなら、打ち破れる。
単純な足し算だ。小学生でも、のび太でも分かる。
一つで足りないならば……数を増やせばいいだけの話!
「ウォォォォォオオオオオオオ!」
玉子が叫ぶ。目の前のジャイアンの母へ。
だが叫ぶだけで現実は変わらない。タケシの思いに、玉子の勢いが殺されていく。
だからこそ……
「八回目のォォォォォオオオオオオオオ!
死亡ォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
再び加速する。
目の前にある物がどんなものであろうと関係ない。
それが「壁」の体を成すならば……玉子がすることはただ一つ。
「死の役目は私ィィィィィィィ!!!」
衝突死する、それだけだ。
目前の光と熱に目を瞑りながらも、決して突進だけは止めようとはしない。
限界を迎えたジャイアンの母のバトルアックスが飲み込まれ、消える。
衝突によって生み出された強力な熱が玉子を燃やし尽くす。
だが、それでも玉子以外誰も死なない。
「倒れない、倒れないよぉっ……倒れるとしても仇を討ってからだよぉッ!!!」
叫ぶ。意志が尽きないことを、声とその右腕で示す。
斧さえも消失した今、道しるべは己が拳唯一つ。
焼けていく肌も意に介さず、ただ前だけに突き進み。
そしてついに、命を宿した矢を先導に――拳一つで、トルネコを破裂させた。
圧倒的な熱量によって、ジャイアンの母の体中には火傷と裂傷が新たに刻まれている。
ドロッチェとの戦闘によるダメージも未だに残っている現状、万全とはとても言い難い。
……しかし、半身のアーカードにも言えることだ。
「くっ……『闇のランプ』!」
だからこそ、頼りとするランプをアーカードは使った。
昼を夜に変える魔法のランプ。コレを使えば有利になるだろう。
――しかし、景色は変わらず。
この圧倒的に押されている現状に、今が夜であることを忘れていた。
唖然とするしかないアーカードへ、ジャイアンの母の拳が叩きつけられる。
とっさにランプで受けたものの、そのような腑抜けた防御で受け止められる攻撃ではない。
今度もやはりアーカードが吹き飛ばされる番だった。
「今度こそ! タケシのために勝つよォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
相手を地面に叩きつけるべく、ジャイアンの母の拳が唸る。勝利の確信を胸に抱き。
勝ち誇った笑みと共に、拳が加速する。
しかし地に散らばったトルネコの脂肪に足を滑らせる。
それはアーカードにとって喜ばしいことであり、ジャイアンの母にとっては最悪なことだ。
このままいけばジャイアンの母は無様に転倒し、その間にアーカードの殺されて終わりだ。
もっとも、アーカードは待つ気さえないようだった。
転倒するジャイアンの母へ向け、踵を振り下ろす。
ジャイアンの母とて、黙っているわけではない。
すぐに地面を叩きその衝撃で空中にあがり、攻撃の準備を開始していた。
その際地割れが起きるが、アーカードはそれを上手くかわす。
(まだだ、まだ諦めないよ!)
瞬間、それに答えるかのように拳が光りだした。
アーカード以上に事態が全く理解できないジャイアンの母の脳裏によぎったのは、鬼のような男。
(まさか……アンタの……)
その考えは直感によるものに過ぎなかったが……紛れもない真実であることに変わりはない。
ほんの偶然だ。地割れに飲み込まれた勇次郎の体が残っていたのも、それがたまたま別の地割れから現れたのも。
だが……偶然であろうと必然であろうとここに在ることもまた、変わりはない。
「こ、これは!?」
「……これは! この光は! 私とオーガの!!! 輝きだよォッ!!!!!」
不死の体さえ上回る、理不尽のパワーが吸血鬼へ奔る。
そう、ジャイアンの母にとって理屈など関係ない。
無想転生で勇次郎の力が上増しされた、などという理屈は関係ない。
必要なのはただ一つ――オーガが手を貸してアーカードと戦っているという事実のみ!
それでも、撃つとすれば一撃だけだ。
北斗というロウルートに参戦していない作品の技を使い、
更にほとんど手間も掛けずに編み出した技。どう足掻いても、文句だらけの厄介なキャラにしか成りえない。
だが、その一撃は――
『「タケシの事ォォォォォオオオオオオオオオオオオ!!!」』
ジャイアンの母が叫ぶ。
その声に、どこかゴツイ声が唱和しているような気がしたのは、カツオの気のせいだっただろうか。
『「生き返らせるよォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」』
そう、その一撃は――二人分の、重さがあった。
☆
「しかし、カツオが無事で何よりだ」
「……姉さんは無事かなぁ」
そんな殺し合いの場には不似合いな会話を、僕たち2人は交わしていた。
本当は、現状ではそんな暇なんて無いのだろうけれど。
だけど次の行動を起こすためには、僕にはもう少しだけ時間が必要だった。心の整理をつけるための時間が。
「……ところでさ、シロッコさん。アーカードさん……死んじゃったんだよね?」
「アレで生きているのは正真正銘の化け物だけだろう」
僕は確かに見ていた。
ジャイアンの母の必殺の一撃をまともに受けたアーカードの体が、まるで爆発するみたいに四散して吹っ飛んでいくのを。
あれだけの化け物を倒す相手がまだいるのだろうかと、心の片隅に僅かな不安がまだこびり付いていた。
「それよりも、早くサザエを見つけなくてはな」
【H-3 5:30】
【シロッコ@Zガンダム】
[状態]:健康、疲労
[装備]:ライトセーバー@スターウォーズ
[道具]:支給品一式 、あべこべクリーム@どらえもん(カツオの支給品)、闇のランプ@ドラクエ
[思考]:1:優秀な女性を探し、生き残らせる
2:サザエという女性に魅力を感じる
3:サザエ以外に優秀な女性がいたら、そちらにつく
4:主催者打倒の可能性を探る
【
磯野カツオ@
サザエさん】
[状態]:顔面軽傷
[装備]:ボウガン(元中島の支給品)
[道具]:支給品一式
[思考]:1:サザエを探す
2:シロッコについていく
3:アーカードは吸血鬼なので信用できない
【F-1 5:30】
【アーカード@ヘルシング】
[状態]:四肢が千切れる等損傷極大( 心臓は辛うじて無事)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:1:強者との闘争を希望
2:ジャイアンの母とはぜひ再戦したい
3:シロッコの選ぶ指導者(サザエ)とやらを見定める
4:闇のランプを使い続け、常に夜を保つ
【??? 5:30】
【ジャイアンの母@
ドラえもん】
[状態]:息子のことを思うあまりに錯乱
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:
1:他の参加者を皆殺しにし、息子を生き返らせる
[備考]:アーカードは死んだと思ってる。
【
野比玉子@ドラえもん 死亡確認】
【トルネコ@トルネコの大冒険 死亡確認】
【野比玉子@ドラえもん 死亡確認】
【バトルアックス 消滅確認】
※
範馬勇次郎とトルネコの死体はH-3にあります。
※ジャイアンの母が作った地割れはエリアの南端から北端まで達し、周囲の木々は飲み込まれています。
また、隣接するエリアにいる全員がこの地割れが起こした音を聞いた可能性があります
※トルネコのザックはB-5に放置してあります。
【参考】
アニロワ
213話:FOOLY COOLY
191話:これがあたし達の全力全開
最終更新:2007年03月12日 19:50