江戸川コナンは窮地に立たされていた。
刺々しいアーマーを身にまとった、時代錯誤的なモヒカン男に、単身追い詰められていたのである。
「くそっ……こいつ、寄るんじゃねえ!」
コナンは屈強な暴漢目掛け、手近なものを蹴りつける。
キック力増強シューズの恩恵を受け、威力の倍増されたシュートは、大概の相手なら無力化できるはずだった。
「へへっ! 効かねぇなあ~!」
しかし、相手は全くの無傷。
顔面に直撃したにもかかわらず、むしろうすら笑いを浮かべていた。
それもそのはず、このモヒカンは、やられ役ではあっても常人ではない。
核戦争後の世紀末を、拳の力で生き抜いた、百戦錬磨のモヒカンなのだ。
そこらのチンピラならいざ知らず、乱世の出身ともあれば、その戦闘能力は比較にもならない。
「このヤロ……それ以上近づくと――」
「近づくとどうなるってんだ? 教えてくれよ、なぁッ!」
びゅん――と風を斬る音が響いた。
トゲつきのバンドを巻き付けた、丸太のような腕が突き出された。
モヒカンの放つ鉄拳が、過たずコナンの顔面へと殺到する。
目にもとまらぬ一撃は、確かな手ごたえと共に静止した。
拳は少年の顔面を捉え、即座にその脆い命を撃ち砕いた。
「ヒャッハー! 一丁上がりだぁ!」
勝利を確信したモヒカンは、歓喜の声を響かせる。
相手は子供1人とはいえ、このバトルロワイアルの参加者だ。それを殺したということは、優勝に一歩近づいたことになる。
この調子で順調にキルスコアを稼いでいけば、いよいよ成り上がりの道も――
「――あーあー、やめとけって言ったのによォ」
と。
その時だ。
不意に、若い男の声が、どこからともなく響いてきた。
「な、何だ?」
聞き覚えのない声だ。今殺したガキのものではない。それよりも少しばかり低い。
自分と今殺したガキ以外に、誰かがいた様子はなかったはずだ。
ならば誰だ。どこにいるんだ。少しばかり焦りながら、モヒカンはキョロキョロと周囲を見回す。
「バーロー、どこ見てやがんだ。ここだよ、ここ」
「なっ!?」
続く言葉に、モヒカンは己が耳を疑った。
よくよく耳を澄ましてみれば、男の声が聞こえてくるのは、殺したコナンの方からだったのである。
これは一体どういうことだ。何故急に声変わりをしているんだ。
いやいやそもそもそれ以前に、あのガキは今まさに死んだはずだ。
自分の本気のパンチを顔面に食らえば、頭蓋骨が粉々に砕けているに違いないはずだ。
意を決してモヒカンは、今一度自分の拳の先にある、江戸川コナンの死体を確認する。
「なな、何だこりゃあ……!?」
今度は我が目を疑わされた。
今頃吹っ飛ばされ倒れているであろうと思っていた少年は、しかし直立不動のまま、顔面で拳を受け止めていたのだ。
これは一体どういうことだと、今度こそモヒカンは驚愕する。
有り得ない。小学生そこそこの少年に、このパンチに耐えられる筋力はない。
それは先ほど放ったシュートが、モヒカンに通用しなかったことが証明している。
にもかかわらずこの少年は、その常識を覆した。
拳の直撃を受けながら、何事もなかったかのように、平然とそこに立っているのだ。
(……?)
しかも、よく見ると何かがおかしい。
攻撃を食らったその頬に、何やら黒い模様が見える。
タトゥーだろうか? いいやこんな不細工な模様は、つい先ほどまでなかったはずだ。
まるでヒビが入ったかのような、こんな妙ちくりんな刺青など――
「!?」
その時。
唐突に、ばりん、と音が鳴った。
ガラスが割れるような音と共に、少年の頬が砕けたのだ。
文字通り割れた頬の破片が、ぱらぱらと音を立て床へと落ちる。
穴の空いた顔の奥には、がらんどうの暗闇だけがあった。
何もない、空洞だ。まるで中身のないマトリョーシカ人形を、そのまま砕いて覗いたように。
「オーバーボディって知ってるか? こいつは俺の本体を隠す、仮の身体だったってことさ」
「ひ、ひぃぃぃっ!?」
逃げようにも既に手遅れだった。
モヒカンの拳は何者かの手に、がっちりと掴まれていたのだから。
腕は闇から伸びている。江戸川コナン少年の頬から、大人の男の腕が伸びている。
がらんどうの子供の中から、明らかに別の人間の腕が、ぬぅっと姿を現したのだ。
もはや訳が分からなかった。理解できようはずもなかった。
こんなオカルトめいた存在など、世紀末にすら存在しない。
それこそ幽霊か何かが、化けて出たとしか思えない怪現象だ。
「なななな、な、何なんだてめぇはァァァ!?」
失禁し内股を濡らしながら、大の大人が喚き散らす。
ぼろぼろと涙をこぼしながら、恥も外聞もなくモヒカンが叫ぶ。
最期に彼が見たものは、闇の向こうで爛々と煌めく、2つの瞳の光だった。
「――工藤新一、探偵さ」
◆
「あーあ……まさかショック死しちまうとはな。殺すつもりはなかったのによ」
眼下に倒れる死体に向けて、悪かったな、と言って頭を下げる。
喪われたモヒカンの魂を悼むのは、1人の高校生探偵だ。
全てが終わったその場所に、工藤新一が立っていた。
「しっかし、これどうやって説明するかねぇ……もう元には戻れねぇわけだし」
ぶんぶん、と調子を確かめるように、新一は己の右腕を振る。
名探偵江戸川コナンといえば、毒薬・APTX4869を飲まされ、幼児化したという話で有名だ。
表向きには、一時的に解毒作用を発揮することはできるものの、完全には回復されないと言われているが、それは事実とは異なっている。
実は工藤新一の身体は、江戸川コナンの身体の内側で、少しずつ元の形に再生されていたのだ。
それが長期連載の中、ある時完全なる復活を遂げ、以降はあのコナンの身体――本体を隠すオーバーボディに、姿を潜めていたわけである。
あとは正体を隠している間に、ある時カオスロワに巻き込まれ、モヒカンにオーバーボディを壊され今に至る、というわけだった。
「……にしてもやっぱ、風呂入ってねぇと臭ぇな」
げんなりとした表情で、新一は己が体臭を嗅いだ。
毛利家でオーバーボディを脱ぐわけにもいかないので、洗うことができるのは、普段のコナンの身体だけである。
内側に引きこもった新一の身体は、垢や汗を洗い流せず、不潔な状態だったのだ。
(小さい身体に入り込むべく、ギリギリまで体積を減らすため、全裸でいるのは言わずもがなである)
「服も調達しねぇといけねえし、とりあえずは風呂にでも入るか」
ここがホテルであったこと、そして大浴場が近かったのが幸いした。
この規模のホテルなら、脱衣所には浴衣くらい置いてあるだろう。
こうして全裸の新一は、かつて江戸川コナンだった破片をその場に残し、ひたひたと足音を立て大浴場へ向かった。
【一日目・8時50分/日本・東京都のホテル・男湯の脱衣所】
【工藤新一@名探偵コナン】
【状態】健康、垢まみれ
【装備】全裸
【道具】支給品一式、キック力増強シューズ、ホテルの浴衣、その他不明
【思考】
基本:殺し合いを止める
1:風呂で身体を洗う
2:仲間達と合流する
3:歩美達にどう言い訳するかを考える
一方その頃、織莉子と蓮子は。
「ババンババンバンバンっと……はぁ、いいお湯ねぇ」
「そう、ですね……」
隣の女湯で朝風呂に浸かっていた。
【一日目・8時50分/日本・東京都のホテル・女湯】
【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ】
【状態】健康、困惑
【装備】全裸、ソウルジェム
【道具】支給品一式、衣服、その他不明
【思考】
基本:どうしようかしら
1:入浴する
2:蓮子と行動を共にする
3:キリカと合流したい
4:こんなことしていていいのかしら……
【宇佐見蓮子@東方Project】
【状態】健康
【装備】全裸
【道具】支給品一式、衣服、その他不明
【思考】
基本:とりあえず生き残ることを考える
1:入浴する
2:織莉子と行動を共にしておく
3:メリーと合流したい
4:ほっこり
【モヒカン@北斗の拳 死亡確認】
死因:ショック死
最終更新:2011年11月27日 11:46