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「さっさと行くぞ・・・・・・」
こんなことならば小盛りにしてよけばよかったと思う。
この星のカレーうまかったからラーメンも大丈夫だろうという発想がそもそも安直だったのだ。
あんな油まみれの代物がこの星で人気だというのなら、流石に地球人の感性を疑う。
仲間の伊狩鎧もあの店に行けば豹変するのだろうか。
ロットバトルだかなんだかわけのわからない事を叫びながら、ギトギトの麺を死ぬ気で貪るのだろうか。

(・・・・・・ラーメンはパスだな)
もし次に外食する機会があったとしても、この店に来るのだけはやめておこうと心に刻んだ。
ともあれこの腹痛もその内治まるであろう。 気を取り直してレンジャーキーと仲間の探索を続けることにした。





「未洗脳者発見!」
「これより洗脳を開始する!」
突然マーベラスと大樹はパンストを被った全身タイツの集団に囲まれる。
手には玩具の光線銃のような物を持っており、銃口は当然二人に向いていた。
地球人であればそんなもので何をするつもりだ?と首を傾げるのが普通なのかも知れない。
案の定、大樹は苦笑いを浮かべるが、宇宙を旅してきたマーベラスにはそれが何なのかわかっていた。

「来るぞ!」
「ん?」
マーベラスが叫んだ瞬間、彼らに向けて光線が発射された。
パンストを被った集団―パンスト兵達はガッツポーズをする。
彼らはこれでハイグレ魔王に従順な部下となるはずだ。
カラフルな光に包まれて、ハイレグレオタードに衣服を変えられ、身も心もハイグレ人間となるのだ。


―ウェザァァァスリィ!―
―カメンライド ディエンド―


「「「「!?」」」」
光が破られるが、洗脳終了の合図ではない。
電子音とともに現れたのはハイレグレオタードを纏ったハイグレ人間等ではない。
一人は太陽を象った紋章を入れたマスクとスーツ戦闘服で包んだ戦士『ウェザーレッド』。
もう一人は青い鎧に黒いプレートを連ねた銃士『仮面ライダーディエンド』。

「派手に行くぜ!」
イレギュラーな事態にパンスト兵達の間に動揺が走る。
こいつらも宿敵アクション仮面の仲間なのだろうか、もしそうなら雑兵である自分達が敵うはずがない、
だが悩む間も無くウェザーレッドと対角線にいたパンスト兵が殴り飛ばされる。
意識を失ったパンスト兵の手元から、光線銃がカランと音を立てて落ちた。
仰向けに転がった仲間を見て驚く一同であったが、彼の左右にいた仲間も同様に宙を舞うこととなった。
残ったパンスト兵達はウェザーレッドに光線銃を向けるも、赤い背中の前に立ち塞がるのはディエンド。
ディエンドライバーから撃ち出される光弾に彼らは次々と貫かれて倒れていく。
しかし、倒れていったパンスト兵に反比例してヒーロー達を囲む兵士の数は増えていた。

「増援か・・・・・・とっとと終わらせて先行くぞ」
「はいはい」
事前に連絡をとっていたのか、彼らの元には多くのパンスト兵達が集まってきていたのだ。
ウェザーレッドは怯むことなくパンスト兵の集団に飛び込み、
仮面の下に苦笑いを浮かべたディエンドも彼に続いて群れの中に走っていった。




「ラハールさんどこ行っちゃったんだろう」
周囲に人がいないことを確認しつつ、ルカは前かがみになって両手で膝をつく。
ラハールを探して駆け回っていたルカであったが、悪魔である彼の身体能力に一介の歌手がついてこれるわけがなかった。
二人の距離はすぐに遠のき、小さな魔王はすぐにルカの前から姿を消してしまった。
まだ荒い呼吸を整えながらもぐしゃぐしゃになった髪の毛を後ろにおろし、日々の運動不足を痛感する。

(ハクちゃんならこんなヘマしないんだろうけど)
酒癖の悪い幼馴染のことを頭に浮かべる。
弱音ハク、直接の血縁者ではないが、幼少の頃から家族同然に過ごした友人だ。
引っ込み思案の彼女からすれば、なんでもこなせるハクはスーパーマンみたいだった。
料理を始めとする家事全般を教えてくれたおかげで兄や姉から褒められた。
執拗に絡んでくるいじめっこを撃退してくれたこともあった。
鬼ごっこだといつも負けていたのだが、彼女なりに気を使ってくれてわざを捕まってくれたこともある。
テストで良い点とれたのも、彼女と一緒に勉強したからだ。

(・・・・・・ハクちゃん)
あの日、弟に純潔を奪われた日だって、彼女が慰めてくれなければ立ち直れなかったであろう。
彼女がいなければレンだって今頃生きていなかったかも知れない。
いつも家の周りを巡回していた、警察官達に連れていかれていたのかも知れない。
そしてそれら全てを弱音ハクが引き受けてくれた。 自分一人が犯罪者となって、必死でレンを守ってくれた。
ルカは見ていることしかできなかった。

(すっかり差、つけられちゃったな)
芸能界に入ってもそれは変わらない。
自分は歌手で彼女は芸人と分類は違うが、彼女はやっぱりなんでもできた。
持ち前の社交術で瞬く間に先輩達と交流を持ち、クイズバラエティエンターテイメントなんでも問わず、
様々な仕事を受けることができた。 今やメジャーな番組で弱音ハクが出ないことはほとんど無い。
唯一歌では自分が勝っていたが、所詮兄や姉に劣る半端なものだ。
新人故に物珍しさでCDを買ってくれる人はいるが、
売り上げのランキングなど時間がたてばすぐに落ちていくだろう。
でもそれでも歌っていくことしかできない。 自分はそれ以外取り柄が無いのだから。
結局自分は何一つ彼女には敵わないのだ。

(今どこにいるんだろう)
考えれば考えるほど彼女に会いたくなる。
お人よしの彼女のことだ、今も家族や見知らぬ誰かのために戦っているに決まっている。
このゲームを破壊するために頑張っているに決まっている。
だから会いたい。
一人ぼっちでどうしよう無く不安な自分を守って欲しい。
握り慣れたあの手でこの怖い世界から助け出して欲しい。
弱い自分を抱きしめてあの日のように励まして欲しい。
目を瞑ると今でも彼女は優しく微笑みかけて、そっと手を差し出してくれる。
それが幻だとわかっていても、掴めば温かい感触が返ってくるような気がして虚空に手を突き出してしまうのだ。
だが彼女には、そんな自己満足ですら十分に行うことができなかった。



(―――足音?)
聞きなれた足音が耳に入ったため、ルカは思考を中断せざるを得なかった。
左右を見渡すと小さいながらもパンスト兵の集団が近づいてきていることがわかる。
このまま挟み撃ちになってはたまらんと、建物の隙間から路地裏に向けて走り出す。
しかし出口の近くまで走ったところでパンスト兵がぬっと顔を出してきた。

「ひっ!」
情けない声を出しながらも銃を持つ手は休めない。
人を撃つということには抵抗があったが、光線銃を向けられたことに気づくと反射的に指が動いていた。
『パンッ』などと玩具のような音は出るはずも無い。 鈍い衝撃音がルカの腕に返ってきたため目を閉じる。
硝煙の臭いが鼻をつき、ゆっくりと目を開けてみると、倒れて胸を抑えているパンスト兵が映った。
マスクごしだから表情はわからないが、呻き声を上げて悶えている様は苦しんでいるようにしか思えなかった。
それはすぐに動かなくなった。

(まだいるの!?)
生まれて初めて作り出してしまった死体に感慨を抱く間も無いまま新たなパンスト兵が現れる。
銃声を聴いて駆けつけてきたのであろう。 足元に倒れ付す仲間とルカの姿を交互に見つめると、
この場で起こったことを理解したのかルカに対して光線銃を向けた。 心なしか、両足は震えているように見えた。
恐ろしくなったルカは第二射を放つが、咄嗟に腕で庇われたため致命傷にならなかった。

「こ、この!」
三発四発五発と次々と弾を撃つが、どれも同じ腕に当たるだけで怯ませる程度にしかならない。
狙いを変えるという選択もあったが、生憎今のルカにはそこまで頭は回らない。
パンスト兵は痛みに耐えているためか反撃はしてこないが、すぐに立場は逆転する。

(あれ?)
引き金にかけた指の感触が変わった。 あれほど重かった引き金から重さが無くなっていたのだ。
力を込めるはずだったのに、あっさりと引き金が押し出されて軽い金属音が鳴っただけだった。

「この!この!」
何度引いてもカチカチっと鳴り響くだけである。 そして弾は出ない。

(た、弾切れ!?)
こういう時にはどうすれば良いか、ゲームや映画の登場人物は弾の交換をしていたはずだ。
弾はどこいったのかとルカは思考を巡らせるが、残念ながらデイバッグに入ったまま。
取り出す暇も無く攻撃が止んだと判断したパンスト兵が襲い掛かってくる。
光線銃を発射しようと腕を伸ばす。 弾速は考えるまでもないだろう。
距離にして4、5メートル、素人のルカでさえ銃を当てることができた距離だ。
訓練されているであろうパンスト兵ならば容易く捉えられる。

「嫌っ!」
もう駄目だと頭でわかっていたけどそれでもルカは飛び出した。
あれを喰らっても自分は死なないということはわかっている。
だけど消される。 望んでもいない幸せを押し付けられて、ありもしない忠誠心を植えつけられる。
今まで畏怖していた暴徒達が、一家の大黒柱のような絶対的な存在になるのかと思うと身震いが止まらない。
この場で奴隷となってしまうのは嫌だった。 戦意は消えても家族への執着は消したくはなかった。
ルカはルカのままでいたかったのだ。 今までのように家族や友人を愛していたかったのだ。

だが想いで結果が変わるわけでもない。 パンスト兵から放たれた光線は無常にもルカに牙を剥く。
さながらチーターのような瞬発力で、疲労した草食動物に飛び掛る。
余計な感情を喰らい尽くして主君への貢物にするために。



「ちょっとどいてろ」
突然現れた赤色の男にルカの表情が固まる。
だがウェザーレッド・・・・・・もといマーベラスは、彼女の顔色を伺うこともなく肩を強く押した。
その反動を利用して彼女の頭上を飛び越える。 不意に加えられた力により、ルカは転んで前のめりに倒れていく。
ちょうど二人の隙間を潜るように光線は通り抜けていき、次第に収縮して消えていった。

「!?」
再び狙いを合わせようと空を見上げたパンスト兵であったが、
既に景色は拳を振りかざすウェザーレッドでほとんど埋まっている。 そこで困惑。
攻撃するには絶好のチャンス。 予備動作から考えても先手を打てるのは確実である。
しかしだからといって、ハイグレ光線銃はあくまで洗脳用であるため殺傷能力などまるでない。
そして目の前の男は憎き宿敵アクション仮面のようなヒーローと呼ばれる人種とも判断できる。
でなくては意匠を凝らした戦闘服など着ているはずはないだろう。 それともただのコスプレマニアか?
ともかくアクション仮面に洗脳が通じない以上、奴に光線銃が効く保障はない。
無闇に手を出せば返り討ちにあうことは必然だ。 よってこの場は引き下がるのが得策。
いや待てよ絶対通じないとも決まったわけではないし、もしかしたら「遅ぇよ」

パンスト兵の視界が白い拳で埋め尽くされる。
一瞬の動きが勝敗を左右する戦場において悩むことは致命的だ。
今必要とされる選択に一々迷っているようでは、いつも後手に回ってしまう。
案の定、パンスト兵はウェザーレッドに殴り飛ばされる結果となった。

「大丈夫か?」
「は、はあ・・・・・・」
両腕で体を支え、起き上がろうとしているルカにウェザーレッドが話しかける。
埃を叩きながらも立ち上がったルカは、彼の姿をまじまじと見つめる。
特撮番組の撮影に出てきそうな全身タイツの姿は平時なら間違いなく不審者(公認である場合はまた別だが)であるが、
侵略者が徘徊する今の街ならば見事にマッチしてしまっている。
だが悪い方ではないとわかっていたため、特に嫌悪することもなかった。

「しっかしこの街は一体どうなってやがる。 ラーメンは不味いし変な格好したやつらが多いし・・・・・・
 お前、何か知らないか?」
「(ラーメンが不味い?)さあ・・・・・・私もさっき訪れたばかりですから・・・・・・」
「そうか、じゃあな」
「え、ちょっと」
聞くべきことは全て終えたウェザーレッドは、ルカを横切って自分が入ってきたところを戻っていく。
そっけなく彼女の元を去るウェザーレッドをしばらくは目で追いかけていたルカであったが、
完全に自分への興味を無くしたと気づくと咄嗟に彼の前に駆け出した。

「待ってください!」
「なんだまだあるのか?」
気だるそうだが、一応耳を貸してやろうとウェザーレッドは足を止める。

「実は私も連れていってほしいんです!」
「はあ?」
マスクの下では眉を顰めているであろうウェザーレッドにルカは懇願した。
同行者とはぐれてしまったから探すのを手伝ってほしい。
彼はパンスト兵のリーダーを倒そうとしているから、ウェザーレッドならばいずれ会うであろう。
だから一緒に協力してこの街の異変を解決してくれないか?



「そういうことか・・・・・・」
マーベラスは彼女の話に首を縦に振る。
パンスト兵達が街を仕切っていたことは判断できたが、
元々いたこの街の住人達を洗脳した上で支配していたのだ。
強制的に相手を隷属させる光線なんて、ある意味では宇宙帝国ザンギャックよりも性質が悪い。
気に入った星が得体の知れない集団に侵略されているとは気分の悪い話だ。 不味いラーメン食わされた借りもある。

「いいぜ、乗った」
「ありがとうございます!」
特別断る理由の無い。
同行を許可してやると彼女は両手を握って深く頭を下げてくれた。

「そういえば名前はなんだ?」
変身を解除し、キャプテン・マーベラスとしての姿を彼女に見せる。
そういえば名前を聞いていなかった。 元よりそれほど交流を持つつもりはなかったため、
当たり前だといえば当たり前だ。 女は目を丸くしたが、現在の姿が非戦闘用だと理解するとすぐに質問に答えた。

「―――ルカです。 一応『巡音ルカ』という名前で歌手をさせて頂いています」
「ルカ?」
「はい」
最初に答えた方は彼女の本名らしい。 そして姓を変えただけの芸名が彼女の通り名であるそうだ。
ルカ・ミルフィ。 マーベラス率いる宇宙海賊の一味であり、彼の大切な仲間の一人である。
性格は守銭奴で明朗活発、派手好きで金のことに目がない女だ。
そのくせ支配された惑星の貧民だったせいか人情に厚く、
無一文の親子に大金を渡した経験もある(自分の取り分もきっちり確保している辺り彼女らしい)
最終更新:2011年12月13日 11:56