(とんだ偶然もあったもんだ)
まさか同じ名前の女を連れて歩くことになるとは。
宇宙には同じ顔が5人いるというが、同じ名前ってだけならいくらでもいる。
知らないだけで、すれ違う地球人達も聞き覚えのある名前を持っていたのかも知れない。
もっとも同じだったのは名前だけの話であり、立ち振る舞いから言葉遣い
おまけに色まで全く違うものであったが。
(どっちかってーとアイム? いやそれも違うか)
上品な物腰と色から別の仲間を連想し、それも当てはまらないと判断した。
ルカはおしとやか、というよりは気弱な女性であり、どこか頼りない印象を受ける。
そこらへんは海賊でもない一般人だから求めるのは酷である。
できれば何処かに逃げて欲しかったが、付き纏われるのがオチであろう。
内心余計な荷物を抱えてしまったのだとマーベラスは吐き捨てた。
「まあいい、とっとと行くぞ!」
「わかりました!」
「良かった、それじゃあ早く来てくれないか?」
「突然話に割り込んでくるな」
壁の裏側から集合を促してきたディエンドに、マーベラスは半ば苛立ちをぶつけつつも駆け寄った。
平時ならば言葉を返すだけであったが、今の大樹にはいつもの余裕が感じられない。
少なくとも彼は雑兵に手を焼く程度の実力ではないとは認めている。 ならば今までと違う敵が現れたに違いない。
モバイレーツを握る手に力がこもる。 まだ使っていなかったレンジャーキーを懐から取り出す。
海賊なんていつも命がけなので恐怖を感じることはない。 むしろようやく殴りがいがある相手が出てきてくれて心が躍る気分だ。
ディエンドがコンクリートの壁に叩き付けられる。 隣の路地からマーベラスが躍り出てディエンドの前に立つ。
後から出てきたルカが、ダメージで体が震えているディエンドを気遣いながらも後ろに下がる。
そして彼らはようやくこの事件の首謀者と対面した。
「オーホッホッホ! よくも今までかわいい下僕達を苛めてくれたわね。
今度は私がお仕置きしてあげるわ!」
「豪快チェンジ!」
―ダァァァイニッポンッ!!―
モバイレーツにレンジャーキーを挿入し、マーベラスはアイ・カミカゼに変身した。
そして現れたハイレグ姿の異星人にバンザイスティックの一撃を加える。
「ちょっとちょっといきなりはないんじゃない?」
おネエ言葉で返しながらも、異星人は体を反らしてスティックの一突きを回避する。
彼女こと、いや彼こそがパンスト兵達に命令して人々を洗脳したハイグレ魔王だ。
モヒカンヘアーに、青と黄色の薄気味悪い笑顔を浮かべた仮面がチャームポイント。
青い肌を包むのは、ショッキングピンクのレオタードと王であることを象徴するマントのみ。
あの異様な集団をまとめあげるには相応しい風貌であるかも知れない。
結局バンザイスティックは魔王のマントを撫でるだけに終わり、魔王の右手ががばっと開く。
視線の先で、スティックと並ぶ魔王の左手が動きを見せたと気づいた時はもう遅い。
バンザイスティックを持つ右腕が左手に掴まれ、反対の腕で脇を挟まれた。
「お返しよ!」
言葉とともにアイ・カミカゼの体は宙を舞う。 魔王を中心に弧を描くように投げ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
背中を強打した激痛で、持っていたバンザイスティックも落としてしまった。
「さーてこれで・・・・・・っ!」
「余所見している暇はないんじゃないか」
アイ・カミカゼに一本背負いを決めたハイグレ魔王にディエンドライバーの射撃が命中した。
仮面がひびを立てて、魔王の顔から零れ落ちる。 同時に星型の痣を浮かべた中性的な笑みが現れた。
狙撃主を見つけてニヤリと笑う。
「する必要がないだけよ」
そう吐き捨てた魔王は、足元に転がっていたバンザイスティックをディエンドに向かって投げつけた。
銃を構えていたが撃ち落せないと判断したディエンドは、右に一回点してスティックを避ける。
彼がいた背後の壁にスティックがめり込み亀裂を立てて、ルカは短い悲鳴を上げた。
「あらあら、子猫ちゃんそんなところにいると死んじゃうわよ」
「ひっ!?」
尻餅をついたルカに、ハイグレ魔王がにじり寄る。
僅かに後退することしかできない彼女をじりじりと、背後の壁まで追い詰めていく。
そして程無くしてコンクリートの壁に当たり、逃げ場を失う。
「このままハイグレ人間にしてもいいけど、せっかくだからもっと遊ばなきゃね」
壁に刺さったバンザイスティックを引き抜いて、目を潤ませて震えているルカに突きつける。
奴隷にするつもりだから殺す気は無い。 軽く痛めつけてやるだけだ。
しかし目論見とは裏腹に魔王はルカとは明後日の方向を向いてスティックを振った。
常人の目では追いつくことも適わぬレーザーガンを、魔王は次々と弾いていく。
「中々やるみたいだね・・・・・・」
またしても直撃を外したディエンドは、両手を横に垂らして首を振って落胆の意を示す。
「特攻・ゼロ戦パンチ!」
魔王に悩む隙は与えないと、立ち上がったアイ・カミカゼは十八番の技を放つ。
太平洋戦争末期に敵軍に特攻を仕掛ける艦上戦闘機をバックに浮かべ、渾身の力を込めて叩きつける。
拳は魔王の背中に減り込んで鈍い音が響く。 確かな感触に口元を吊り上げるマーベラスであったが、
直後に後ろ回し蹴りが腰に決まり、派手な音を立ててディエンドの方へと飛んでいった。
「結構きつかったけどね!」
ディエンドに衝突して、ともに倒れるアイ・カミカゼ達の姿に魔王は高笑いをあげる。
噂の宇宙海賊と仮面ライダーも一人ならばこの様か。
やはり彼らは前座、アクション仮面との戦いのウォーミングアップにしかならない。
パンスト兵は大分倒されたが、また『彼ら』から補充してもらえばいいのだ。
いくらでも使い捨てできる。 どうせならこの際もっと強力な兵も雇っておいてもいいだろう。
今は彼らに依存するしかないが、そのおかげでバトルロワイアルに置いても軍事力を持てるのだ。
このまま洗脳者を増やせばあるいは・・・・・・と、ハイグレ魔王の思考はここで中断せざるを得なくなる。
「・・・・・・何のつもり?」
「マ、マーベラスさん達を傷つけないで・・・・・・!」
少し目を離した間に腰を抜かしていたはずのルカが立ち上がっていたのだ。
両腕で白い拳銃を握り締めて、ハイグレ魔王に照準を合わせている。
それだけだ。
「足震えているわよ」
「!?」
ほくそ笑む魔王の指摘通り、大に開いた彼女の両足は震えていた。
それこと今持っているスティックでちょっと触れれば崩れ落ちてしまいそうに。
所詮ただの人間の悪足掻きなど、虫に突付かれたようなものだ。
「怖がらせてごめんね、今なら楽にハイグレ人間にしてあげるわ」
子供の悪戯を嗜めるかのように優しく語り掛ける。
まずは落ち着かせ、冷静に物事を考えられる状態にしてあげるのだ。
「王子様達はもう駄目みたいよぉ、早く覚悟決めちゃいなさい」
両腕で体を支えているアイ・カミカゼ達を指差して笑う。
守ってくれるならず者達はもういないのだから、この後自分がどうすればいいぐらいかはわかるだろう。
何も殺しはしないのだ。 仕える喜びを教え、幸福を共有させてあげるのだ。
「あんたなら心配いらないわ。 奴隷として働けばいいだけだから命は助けてあげる」
ハイグレ魔王に従えばこのバトルロワイアルにおける勝利を約束させる。
証拠には物足りないかも知れないが、短期間で県をほとんど支配した力を見れば
意思の弱い人間なら従ってしまう。
だから大人しく快楽に身を任せていけば良い、と囁くように尋ねかける。
だが銃口が下りることは無かった。
―――BAN!
「・・・・・・」
「え?あ・・・・・・」
放たれた銃弾はハイグレ魔王の肩を掠めるだけで終わった。
皮膚を貫くには至らなかったため、弾薬はハイレグレオタードに焼け跡をつけるだけだったのだ。
特殊強化スーツで身を包まれたアイ・カミカゼのパンチや、
オーバーテクノロジーで作られたディエンドライバーの銃撃さえ止めるのだから、
この場にいた者全員が撃つ前から結果は想像できていただろう。
「ちょっと」
ハイグレ魔王から笑みが消える。 力の差を理解できてないルカを同情しているからではない。
かと言って呆けているわけではない。 ハイレグレオタードに傷がついたのだ。
魔王のお気に入りのレオタードを傷つけたのだ。
「なにしてくれんのよ」
単に気に食わなかった。 抵抗するだけならまだかわいい。
しかし虫けらの地球人の分際で、高尚なハイグレ星人様の召し物を汚すなんて許されないことだ。
「い、嫌・・・・・・」
首根っこを掴んで持ち上げると、震えながら涙を浮かべる。
この雌は最下位の奴隷に調教して、女に生まれたことを後悔させてやろう。
まずは骨の数本でも砕こうかとバンザイスティックを振り上げようとした時、
スティックを持つ手に違和感を感じた。
『タコヤキ! マァァァントマンッ!』
「スティックが消えた?」
電子音のした方角から赤色の光が帯を描いて飛んでくる。
光の戦闘にいるのは蛸の脚が突き出しているたこ焼き頭の少年だ。
「紅ショウガクラッシュ!」
アイ・カミカゼからたこやきマントマン・レッドに変化を遂げたマーベラスは、
ベルトから細かく刻んだ紅生姜の嵐を吐き出した。
狙いはもちろんハイグレ魔王の顔面だ。
「ちょ!何これ酸っぱいじゃない!」
レッドは紅生姜まみれになっている魔王からルカを救出し、ディエンドの後ろへと着地する。
「ありがとうマーべr・・・・・・」
「さっさと下がれ!」
「でも・・・・・・」
「下がれ!」
感謝の言葉を述べようとするルカであったが、レッドの怒声により身を竦める。
ルカの行為は賭けですらない最悪の悪手だ。
どうしてあんな無茶をしたか問い詰めてやりたいところであるが、今はこの状況をどうするかが先決だ。
(とは言ってもこれじゃどうしようもないな)
マーベラスが力を借りてきたスーパー戦隊の一員は、五人六人で戦って始めて力を発揮できる戦士だ。
日々進化を重ねる侵略者相手に、スーパー戦隊は一人ではなく力を合わせて戦うことを選んだ。
大日本やたこやきマントマンという戦隊は聞いたことがないが、彼らも性質的には似たようなものだろう。
仲間との絆を合わせた、本来の愛國戰隊大日本やたこやきマントマンならばハイグレ魔王も倒すことができるはずだ。
「よくも紅生姜まみれにしてくれたわねぇ」
紅生姜から立ち直ったハイグレ魔王がマーベラス達を睨み付けていた。
このまま戦えば敗色濃厚。 既にマーベラスは撤退を前提に次の行動を考えていた。
「逃げようたってそうはいかないわよ」
ハイグレ魔王の言葉に合わせて、パンスト兵達が周囲に集まってきた。
大分倒したはずなのだが流石は戦闘員、数だけは揃えている。
「どうするんだい? 正直今だと僕達だけで逃げることも厳しいよ」
「ちぃ・・・・・・」
何処から出てきたのか、最初に自分達を取り囲んだ数と同じぐらいパンスト兵がいる。
地上だけではなく、妙な空中からも様々な乗り物に乗った戦闘員が包囲しているのだ。
疲弊した今だと強行突破されも難しいかも知れない。
(カクレンジャーのレンジャーキーはねぇ・・・・・・こうなったら最悪覚悟しといた方がいいかもな)
忍者戦隊の力さえあれば逃げ出すことは容易いものの、主催に奪われてしまっている。
奴らに洗脳されるなんて真っ平
ごめんだ。 最悪、共倒れをしなければならない。
そうなってしまった場合、残った仲間には申し訳ないが、彼らが雪辱を晴らすことを祈るしかない。
「さて、どうするかねぇ」
「諦めなさい。 今なら側近にしてあげてもいいわよ」
「誰が!」
「そう・・・・・・じゃあ遠慮はいらない『待てい!』
「な、何!?」
不意に響いた声に、ハイグレ魔王だけではなくマーベラス達も驚く。
パンスト兵に至っては首をきょろきょろさせて声の主を探している。
やがて民家から昇る人影に気づいた兵士の一人が指差して、その場にいた者全員が屋根の上を凝視した。
最終更新:2011年12月13日 11:58