BR法の制定により、大きな戦渦に巻き込まれつつある日本。
その北に位置する北海道の地で、二人の男が火花を散らしていた。
赤い髭親父と緑の髭親父。
マリオとルイージ。
彼らは世間からスーパーマリオブラザーズなどと呼ばれている人気者だ。
この二人が力を合わせれば、いかなる困難も打ち破れる。
そうなのだと、誰もが信じて止まないこの二人が対立していた。
「何故だ……ルイージ! 何故ピーチ姫を殺した!」
叫んだマリオの視線の先には、黒い炭の塊
みたいな物を踏みつけるルイージの姿がある。
「ピーチ姫? あぁ、これのことか」
ルイージはそう言いながら、黒い塊――ルイージのファイアボールによって焼き尽くされたピーチ姫の亡骸に目をやる。
そのピーチ姫であった物を見る目には、一切の感情の起伏も感じられない。
あれほど親しかった人間を殺したというのに、彼はそんなことを微塵も気に留めていない様子だ。
「別に殺す相手は誰でも良かったんだよ。こんな女じゃなくてもね」
ただ淡々と、ルイージは事実だけを告げるように言葉を紡ぐ。
「僕の目的は兄さん……あんただよ」
「どういうことだ!?」
「僕はね、生まれてからずっと兄さんに劣等感を抱いて生きてきた。
同じ月日に生まれた双子だと言うのに、いつもみんなから褒められるのは兄さんだけ。
二人で力を合わせてクッパを倒したり、どっかの国を救ったりしても結局は全部兄さんの手柄になる。
僕はそうやって兄さんが祭り上げられているのを、ただじっと、隅のほうで指を銜えて見ていることしかできなかった」
狂気に彩られたルイージの瞳には、もはや他人に対する思いやりの心が失われていた。
「だから僕は常にチャンスを窺っていた。
あんたを主役の座から引きずり落とし、なおかつ屈辱的に殺してやれる機会を。
そしてそれは今日、思いもよらぬ形でやってきた!」
マリオとルイージ、そしてピーチ姫は、旅行を楽しむためにこの北海道に来ていた。
たまには戦うことを忘れて、ゆっくりと体を休めるようにとのピーチ姫の計らいでだ。
「僕はこの旅行だって吐き気がするほど嫌だったさ!
どうせこの女と兄さんがイチャイチャする所を延々と見せ付けられるだけだからね。
……だけど、そう思って諦めかけていた時だ、奇跡が起こった」
ルイージは一人で孤独な演説をしながらも、両手を大きく広げて空を仰ぐ。
「BR法だとかいう素晴らしい法案が、今僕達がいるこの国で可決されたんだ!
テレビで、ラジオで、新聞で、ありとあらゆる場所でこの報道を目にしたとき、僕は思ったんだ!
念願を果たすなら今しかないとね!
兄さんと親しかった全ての人間を殺し、最終的には兄さんも殺して僕が新たなる主役となる!
その目的を叶える絶好の、千載一遇のチャンスだとね!」
ルイージは楽しそうに自分の計画をマリオに語ってみせた。
まるで小さな子供が、母親に自分の書いた絵を見せるかのように。
そしてその中に潜む、ルイージの悲痛な叫びをマリオは確かに聞いた。
それはどれほど努力しても報われなかった男の、自らの人生を否定した男の断末魔。
マリオはその心を痛いほどに理解した。
だが――
「……その程度のことで」
「は?」
「その程度の理由でピーチ姫を殺したのか!」
――その心を理解したからといってマリオの中の怒りが消えるわけがない。
「お前の言い分は聞いた! お前が戦う理由は理解した!
その上で言わせてもらうぞ!」
マリオは、自分に出せる限界以上の大声で叫ぶ。
「そんなものはゲロ以下だ!
自分が周りからちやほやされたいがためだけに、そんなちっぽけな理由のためだけに人を殺していいわけがない!
お前のエゴで、どれほどの人間が苦しむ破目になるか分かっているのか!?」
「知らないよ、そんなの」
ルイージは鼻で笑いながらマリオを見る。
その目を見たマリオは悟る。最早、言葉での説得などに意味はない。
「そうか、そういうことなら覚悟しろ。
俺が今から全力でお前を倒す。
そして分からせてやるよ、お前が犯した罪の重さを!」
(これが真の主役の気迫か……)
目の前で殺気を開放するマリオを見ながら、ルイージは退屈そうにそう思った。
「……言ったはずだよ兄さん、あんたを殺すのは最後だと。
それは今じゃない、あんたと親しい人間全てを殺した後だ」
瞬間、辺りを強烈な閃光が包み込んだ。
「ぐっ、これは……!」
それがルイージが隠し持っていた閃光手榴弾の光だと気が付くまでに3秒。
マリオの視力が戻るまで数分の時間が経過した。
視力が回復して再び周囲の景色が見えるようになった時、すでにルイージの姿は影も形もなくなっていた。
ただ、遠方の空に神秘的な光を放ちながら飛んでいく、氷の鳥の姿だけがマリオの視界に入った。
伝説のポケモンの一匹、フリーザー。
それがルイージに支給されたもう一つのアイテムだった。
「まずい……みんなが危ない!」
物凄い速度で視界から遠ざかっていく伝説の鳥。
あの速さのまま行けば、直ぐに日本に遊びに来ている他の仲間達の元へ辿り着いてしまう。
ヨッシー、ワリオ、ワルイージ、デイジー、マロ、ジーノ、クッパ、ドンキー、その他諸々のかつて共に戦った仲間達。
彼らはルイージがこの殺し合いに乗っていることを知らない。
このままではピーチ姫のような犠牲者が増えてしまう。
「俺の……支給品!」
咄嗟に、救いを求めるかのように自身に配布されたデイパックの中身をぶちまける。
あの伝説級の速度に追いつけるほどの速さを持った支給品があれば……。
そのマリオの願いは無慈悲にも打ち砕かれる。
デイパックから出てきたのはPS3、Wii、Xbox360。
殺し合いには何の役にも立たない次世代ゲーム機ばかりだった。
「ちくしょう……!」
怒りと焦りのあまり、ガッと地面に拳を穿つ。
もう足で追うしか手段が残されていない。しかしそれでは間に合うはずがない。
相手はあのフリーザーだ、並大抵の速度なんかでは……。
と、そこまで考えたとき、マリオの視界にあるものが映った。
マリオは思い出したかのように『それ』を拾い上げる。
「これはピーチ姫の支給品……」
今は物言わぬ屍と成り果てた姫を見下ろしながら、マリオは彼女の形見のモンスターボールを投げる。
地面にぶつかったボールが二つに割れ、その中から一匹のポケモンが現れる。
マリオは一秒も躊躇うことなく、出てきたポケモンの背に飛び乗った。
「ピーチ姫……今はあなたを埋葬している暇がないんだ、許してくれ。
まだ生きている他の仲間は必ず救う。あの馬鹿な弟も……救ってみせる!
だから少しだけ、あなたの持ち物を借ります」
ピーチ姫の亡骸から目を逸らさないように、起きてしまった現実を全て受け入れる。
そして信じる。
絶対に弟の奇行を止められると。
マリオはピーチ姫の支給品のポケモン――エンテイに命令を下すと、その場から神速の如きスピードで立ち去っていった。
後に残されたのは炭化した姫の亡骸だけ。
時刻は午後18時。沈みかけた夕日が夜の訪れを報せていた。
【一日目 18時00分】
【北海道】
【マリオ@マリオシリーズ】
[状態]:激しい怒り
[装備]:エンテイ@ポケットモンスター
[道具]:PS3、Wii、Xbox360、支給品一式
[思考]:
1:ルイージを力ずくで止める。
2:BR法も撤廃させる。
【一日目 18時00分】
【青森県上空】
【ルイージ@マリオシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:フリーザー@ポケットモンスター
[道具]:支給品一式
[思考]:
1:マリオと親しい人物達を一人残らず殺す。
2:邪魔をする者も迷わず殺す。
最終行動方針:マリオを殺す。
【ピーチ姫@マリオシリーズ 死亡確認】
最終更新:2007年05月19日 23:54