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「まったく、何やねんなもぉー……」

 ぶつくさとぼやく男が1人。
 唇の分厚い中年男性が、不機嫌そうな顔をしながら、大阪の街を歩いている。
 彼の名は、浜田雅功。
 吉本興業に所属する、ベテラン漫才コンビ・ダウンタウンのツッコミだ。
 デビュー当初から気性が荒いことで知られていた浜田は、やはりこのカオスロワでも、眉根をしかめて歩いていた。

「大体、何やねんTCBRって。これ何度目よ? なんべんやれば気が済むの?」

 アホか、と吐き捨てながら、路傍の石ころを蹴っ飛ばした。
 メタ的な話をするのなら、このテラカオスバトルロワイアルも、かれこれ実に10回目のことだ。
 同じネタを何度も繰り返すのは、芸人的にいかがなものかと、浜田はそう思ったのである。
 ……もっとも、彼に前回までのロワの記憶があるのかどうかは、実際のところ定かではないが。

(とりあえず菜摘達と、あと松本さんを捜さんとあかんな……)

 目下優先すべきは、家族と相方の捜索である。
 これがもし、全盛期の頃の浜田であったら、自分1人だけでも助かるために、ノリノリで殺し合いに臨んだだろう。
 しかし、そんな吉本の暴れん坊・浜田雅功も、今年で御年49歳。
 もう昔のようには、無理もきかなくなってきた。さすがに日本中の国民を相手に、1人で生き残れるとは思えない。
 故に、ここは優勝を狙うよりも、敵から逃れることを選ぶ。
 情けないやり方だとは思うが、手段を選べる状況ではないのだ。
 未だにバラエティ番組に出ては、ヤクザ呼ばわりされているものの、浜田も大人になったのである。

「――きゃああああっ!」

 と、その時。
 不意に浜田の鼓膜目掛けて、誰かの声が突き刺さった。

「!? 何や!?」

 振り返ったその先にいるのは、怪物に追いつめられた1人の少女だ。

「や、やだ! 来ないで! 助けてぇぇっ!」
「フヘヘヘヘェ……ボソグ、ボソギデジャス!」

 瞳に大粒の涙を湛えて、ふるふると首を振る少女に迫るのは、まさに半魚人という風貌の緑の怪物。
 あのままではまずい。
 言葉はよく分からないが、アイツは間違いなくあの子を殺す。
 直感的に理解した、浜田の行動は素早かった。

「あ゛ぁー……しゃーないなぁ、もぉっ!」

 だんっ、とアスファルトを蹴って。
 悪態を置き去りにして突っ走る。
 できれば無用な争いは避けたい。あんな化け物なんぞと戦って、余計な体力は使いたくない。
 それでも、放ってはおけなかった。
 今にも死にゆくその命を、見捨てるわけにはいかなかった。
 妻を持ち、子を授かり、父となった今の浜田なればこそ、助けを求めるその命を、放ってはおけなかったのかもしれない。

「何しとんねんボケェェェッ!」

 接敵と同時に、直撃。
 思いっきり振りかぶった突っ込みを、突進の勢いのままに叩き込む。

「グヘェェッ!?」

 怪人の無様な悲鳴が上がった。
 少女に迫っていた身体が、みっともなく前のめりに倒れた。
 敵は未知の存在だ。人間の常識から外れた姿を持ち、そして恐らくはその力さえも、人間の領域を超えている。
 直接攻撃を交わす前から、気配で察知していたことだ。本能的に「コイツはヤバい」と、理解させられるような相手だった。

「こっ、の……オラァァッ!」

 だからといって、それがどうした。
 たかだか人間を超えた化け物ごときに、この浜田雅功が止められるものか。
 芸人人生20年超――意地と年季で塗り固められた、この右腕のツッコミが、怪人ごときに負けるはずもない。
 怪人の背びれをひっつかみ、倒れた身体を持ち上げると、腹部目掛けてヤクザキック。
 勢いよく蹴っ飛ばされた怪人は、情けなく宙を舞い、道路に倒れる。

「はよ、逝けやァ!」

 ぐっ、と胸板を踏みつけて。
 仰向きの怪人へと右手を突き出す。
 その腕の先で光るのは、懐から引き抜いた一丁の拳銃。
 全長39cm、重量16kg、専用13mm炸裂徹鋼弾を使用――人類の限界を超越した、漆黒の猟銃・ジャッカルである。

「ガァアアアアッ!」

 だん、だん、だん、だん。
 連続して瞬くマズルフラッシュと、鼓膜を突き破らんばかりの轟音。
 破壊の爆音が轟く度に、無様な悲鳴と血しぶきが上がる。
 それでも浜田の手は緩まない。激烈な反動が襲いかかっても、なお平然とトリガーを引く。
 稲妻のごとき輝きの中、それにも負けぬ唸りを上げて。
 たっぷり6発の弾丸を浴びせた後、ようやく浜田雅功は、怪人の死亡を理解したのだった。

「はぁ……あー、しんど……」

 緊張の糸が解けた瞬間、浜田はがっくりと肩を落とす。
 久々に思いっきり暴れてはみたが、やはり寄る年波には勝てないものだ。
 ツッコミとキックをお見舞いし、おもちゃのチャカをぶっぱなす。
 たったこれだけの運動でも、身体には疲労がのしかかる。これでは殺し合いの優勝など、夢のまた夢というものだ。

「あの……ダウンタウンの、浜田さんですよね?」

 と、その時。
 ふと横合いから聞こえてきたのは、先ほど泣いていた少女の声だ。
 振り返ったその先には、桃色の髪をツインテールにした、学生服姿の少女がいた。

「まぁ、せやな」
「えっと、助けていただいて、ありがとうございました!」
「あーんなもん、ええってええって」

 ぺこぺことお辞儀をする少女を前に、頭を掻きながらに浜田が言う。
 芸能人でもない一般人の少女に、面と向かって礼を言われるのは、何とも照れくさいものがあるものだ。

「とりあえず、この辺もまだ危険かも分からんし、ひとまず隠れるとこでも探そか」
「あ……は、はいっ」

 そう言って死体を見送ると、浜田は少女を連れてその場を発つ。
 照れくさいとは言うものの、放っておけないのは変わりなかった。
 ひょっとするとこの大阪にも、まだ殺し合いに乗った者が、そこかしこにウヨウヨしているかもしれない。
 自分の命と彼女の身、どちらも確実に守るには、急いで身を隠すことだ。

「えーっと嬢ちゃん、名前何やっけ」
「あ、えっと……鹿目まどかって言います」
「あー、うん、まどかちゃんは……その、好きな芸人とかおんの?」
「ええっと……おぎやはぎの2人とか」

 また渋いな、オイ。
 そんな率直な感想を抱いた。
 何の気なしに聞いたことだったが、よもやその答えがおぎやはぎとは。
 何度も番組で共演した、冴えない眼鏡ヅラが脳裏をよぎる。
 女子の趣味やないやろ、と思いつつも、それを言うとまた面倒なことになりそうなので、胸の内に留めておくことにした。

「……あの……」
「? 何や?」

 少し内気な子なのだろうか。
 やや歯切れの悪い切り出しに、少し不機嫌そうに尋ねる。

「浜田さんって……思ったよりも、優しい方なんですね」
「……まぁ……テレビ的なこともあるからな」

 それでも、こんな殺し合いの中で見せてくれた、その笑顔は悪くないかもしれない。
 そんな感想を抱きながら、それでも浜田雅功は、またしても照れ隠しをするのだった。

【一日目・00時20分/日本・大阪】

【浜田雅功@現実】
【状態】疲労(小)
【装備】ジャッカル@HELLSING
【道具】支給品一式、その他不明
【思考】
0:殺し合いの中で生き残る
1:まどかを安全な所へ隠す
2:家族と松本さんを捜して保護する
3:優勝狙いはもう体力的にも無理やろ

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式 その他不明
【思考】
0:とにかく生き残りたい
1:浜田について行く
2:友達に会いたい


【メ・ビラン・ギ@仮面ライダークウガ 死亡】
死因:銃殺
最終更新:2012年07月24日 08:22