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「それにしても……殺し合い以外の面でも、色々と戸惑うことばかりですねえ」

ペガサスに跨りながらパソコンの画面を見る紫の着物姿の男、という、文字で説明するとわけのわからないものが空中を飛んでいた。
ピンクの死を受け入れながらも、突然の六代目円楽襲名や「ボーカロイド」という聞きなれない単語に戸惑う六代目円楽は、とりあえず支給品のノートパソコンを開いて無線RANでインターネットに接続した。
とりあえず情報を集めなければ、この時代ではやっていけそうにない。
まず調べたのは笑点のページ。ピンクの言う通り、司会者はあのジジイになっており、新メンバーも加入していた。
皆は無事だろうか。それにしても、サイトに顔写真の載っているピンクとは二度と共演することはないかと思うと、流石に涙が出そうになってくる。
その気持ちを抑えるためにページを閉じ、次には例の危険人物の情報の集まった掲示板を開いた。
しかし、読み進めるうちに妙なことに気がついた。さっきまでは気がつかなかった違和感がある。

(もしかしたら、さっきの女性の言っていたこともあながち間違いじゃ……)

その時、ペガサスが激しく嘶いた。円楽に何かを知らせようとしているらしい。
パソコンから目を離し、眼下を見た円楽は驚嘆した。
線路の中央に一人の少女が倒れていた。それも動けないようだ。良く見るとそばにマンションがある。どうやらそこから落下したらしい
悪いことには、一台の電車がそこを間もなく通過しようとしていた。
是非も無い。一人と一頭は、すぐさま急降下を開始した。
少女も電車の接近に気付いて逃げようとするが、足を痛めて立てないようだ。

(間に合ってくださいよ……)

間一髪、というタイミングで天馬は少女の服の襟を咥え、電車をかわして空へと舞い戻った。


「つまりはこういうことですか? KAITOと初音ミクという二人が残虐な振る舞いを行っているというのは真っ赤なデタラメ、何者かの姦計だと?」
「うん、そうに違いないんです!! そんなの何かの間違いですから!!」

数十分後。
線路上から助けた少女、鏡音リンと円楽が情報交換をしていた時、必然的にその話題となった。
応急処置をした足を押さえながらも、リンは訴えるような目で円楽を見る。
しばしの沈黙の後、六代目円楽は答えた。

「……いいでしょう。信じましょう」
「ええ!?」

むしろ驚いてしまった。容易に信用してもらえるなどとは思っていなかったからだ。

「私はお二方の人となりを詳しくは知りません。ですが、状況的には、身内だというあなたの言っていることのほうが筋が通っている。
殺し合いに乗っている人などこの日本中にいくらでもいるはずなのに、二人にだけ非難が集中するのはおかしい。
それに、これだけの数の写真がアップロードされているにも関わらず、お二人が実際に悪事を働いている場面を納めたものは皆無。
唯一怪しい写真と言えば、お兄さんのほうが妹さんのお尻を……ああいえ、余計な話は後回しにしましょう。
とにかく、よってここに書かれている内容は、デマである可能性のほうがおそらくは高い」
「で、でも、だからって私の言っていることが正しいとは……」
「なかなか頭の回る方ですね。ピンクさんがいなくなった今、うちの番組の解答席に座る気はありませんかね?
いえ、失礼、無駄口を。それもそうですが、あなたの人格は信用できそうですし、疑い出せばキリが無い」
「……ありがとうございます、円楽師匠」

話が一区切りすると緊張が抜けたのか、リンは大きなため息をついた。
その横顔を見ながら円楽も胸中で嘆息する。まさかまた「ボーカロイド」とやらに出会うとは、それも話を聞く限りではさっき自分たちを襲った女性の妹らしい。

「そうそう、聞きそびれていましたが、なんだってあんなところで立ち往生してたんです?
その足は、やはり誰かに襲われて……?」
「いえ。その……」

それまでは闊達に話していたリンが何故か口ごもる。

「……師匠みたいな立派な方からしたら、笑われてしまうかもしれないですが」
「そんなことするもんですか。私は腹黒でも人の不幸までは笑いませんよ」

「自殺を、するつもりでした」

絞り出すように、少女は言った。

「殺し合いとか急に起きてワケわかんないし……私みたいな、歌しか取り柄も無い子供が生き残れるほど甘くはないってことくらいは判ったし……
それに、兄さんも、姉さんも、レンもどこかに行っちゃって、私殺し合いが始まってからずっと一人で、不安で、怖くて、こんな怖い思いをして殺されて死んじゃうことになるなら……」
「いっそ自分で自分を、と、こう考えたわけですね?」

責めるでもなく、円楽は言葉を補った。

「でも……」

リンが感情を溢れさせたのは、その直後だった。

「死に切れなかった!! 高いとこから落ちたつもりだったのに、足を折っただけで!!
そして電車が実際に迫って来た時……私は急に怖くなって逃げようとした!!
死ぬ覚悟で飛び降りたはずだったのに、実際に目の前に迫ったら意気地が無くなって!!」

大粒の涙を流しながら告白するリンに、円楽は諭す。

「それはそういうもんでしょうよ。そんな簡単に人間死ねますか。あなたの行為は意気地なしなんかでは無く、生きたいという気持ちの証じゃないですか」
「ひっく、でも、ぐすっ、き、きっと私がこんなだから、みんな私を置いてどこかに……」

円楽は嘆息する。頭も良くてはっきりした娘だと思っていたが、心の中に弱い部分を抱えていたらしい。

「あのですねえ、誰にだってそんな時はあるもんなんです。それも殺し合いをしろなんて言われて平静でいるほうがおかしいでしょう。
そう自分を責める必要はありませんよ。その代わりに……もう二度と、そんなことは思わないでくれませんか?
死にたい、などとはね。それだけはいけません」

どこまで気持ちが伝わったのか、リンはしばらくして泣き止んだ。
円楽の脳裏に浮かんだのは、先刻知り合った彼女の姉らしき女性の顔だった。
家族に対する侮辱に激怒し、その結果として、命を落とすことになった彼女。

(あんな姿を見せ付けられたら……そりゃ、見捨てるわけにゃいかないじゃないですか。
ご自分の命を賭けてまで彼女が守ろうとしたご家族を。
それに……私も、信じることにしましょう。彼女があそこまで怒って無実を信じた、二人のご兄妹のことも。
ピンクさんの死を無駄にしないためにも、ですかね)

「あの……すいません」
「いいですとも。それより、ずっとこのままだと風邪を引きます。どこかで一休みするとしましょう。
あなたの足も、もう少しちゃんと手当てが必要です」

天馬は翼を広げながら、ゆっくりと高度を下げていった。


【一日目・6時/東京都江戸川区】

【六代目三遊亭円楽@現実】
[状態]:腹黒い心を持ちながら激しい怒りとピンクの死により燃える落語戦士。
[装備]:笑点の服(紫) 騎英の手綱(ベルレフォーン)@Fateシリーズ
[道具]:支給品一式、ノートパソコン
[思考]
1:ピンク(名前は忘れた)の遺志を継ぎ、殺し合いを止める
2:リンと更に情報交換をする
3:笑点メンバーが心配

【ペガサス@ギリシア神話】
[状態]:暴れ馬の心を持ちながら激しい怒りとピンクの死により燃える天馬。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
1:円楽に従う
2:ピンク(名前は忘れた)の敵は討ちたい

【鏡音リン@VOCALOID】
[状態]:やや情緒不安定、足を骨折
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、他不明
[思考]
1:円楽と更に情報交換
2:家族が心配
最終更新:2012年11月15日 15:08