時刻が9時を回った頃、とある天才科学者の手によって改造され、空飛ぶ島となった九州、その中にある福岡の街を三機のMSが疾走していた。
黒く重厚なフォルムを持ち、ホバーで高速移動する十字型のモノアイを持つその機体は「ドム」と言われる機体である。
黒い鋼の巨人たちの突然の出現に、付近の住人は巨人の周囲から逃げるように退避する。
殺し合いに乗っている者たちですら、その三機に攻撃を加えようとはしなかった。
様子見のためか、もしくは巨大な兵器に対抗できるような手段が無いのだろう。
三機の中で先頭を走るドムのパイロットは、髭面が印象的な中年男性のガイアだ。
彼は黒い三連星と言われるジオン軍のエースパイロットである。
ガイアはコクピットの中で他の二機に通信を送る。
「このあたりで間違いないのか、ヨハン?」
「ああ、間違いない。 福岡Yahoo Japanドームはここから直進して10km先だ」
「へへへ、さっさと野田の奴を抹殺して自由になるぜ!!」
「士気が高いのは良いことだが油断はするなよクロト」
他の二機に乗っていたのはガイアの部下で戦友であるマッシュとオルテガ……ではなく浅黒い肌を持つ冷静沈着な青年のヨハン・トリニティと、血の気の多そうな赤髪の少年クロト・ブエルだった。
ガイアと同じ小隊にいたマッシュとオルテガは大災害の時に行方不明になった。
その後、ヨハンとクロトと出会い、かたやテロリスト、かたやジオンと敵対するアースノイドではあったが利害が一致したために組む事にした。
ヨハンははぐれた弟と妹を探すため、クロトは己の保身と自由のために、ガイアは宇宙から避難してきたジオン国民だけでも助けるために野田を殺し、バトルロワイアルの破壊もしくは乗取りを目的としている。
「しかしよぉ~、こいつ飛べないし変形できないし、もっと良い機体はなかったのかよガイアのオッサン」
「我々が使っていたガンダムとは明らかにスペックが劣っているな、この程度がジオンのメカニズムとは……」
「うるさいぞお前ら! これでもジオンの最新鋭機なんだ!
災害で自分の機体がスクラップになったって言うから乗せてやったのに……文句を言うんだったらサクに乗せてやっても良かったんだぞ!?」
「ゲェーッ、サクはやめてくれよ、あんなダサい手抜き機体に乗るくらいならこっちの方がマシだぜ」
「同感だ。 あの機体で戦場を駆けるのは命がいくつあっても足りん」
「ったく、最近の若者ときたら……お?」
操縦の腕は悪くなかったために所持していた部下の機体を貸与えたが、我慢を知らない若者にガイアは腹を立てる。
そんなやり取りをしていると、コクピットのモニターにドームが映った。
その内部と周囲にはこのバトルロワイアルを開いた武装した日本政府の手先がいる。
この場所こそが九州ロボの中枢であり、主催者の本拠地である福岡Yahoo Japanドームだ。
「よし、見えてきたぞ。 カオスロワちゃんねるとやらの書き込みは本当だったようだな」
「日本政府関係者と思わしきが集団がドームを占拠し、その中にドジョウのような顔をした男もいた……政府による検閲ですぐに削除されたがな」
「そのドジョウ
みたいな奴が野田だったら見つけ次第、瞬殺してやるぜ! ついでに周りの連中も皆殺しだ」
この三人はつい一時間前にインターネットで日本政府及び野田の所在を掴んだ。
そして、主催を殺せる絶好のチャンスであると踏み、一気に進撃を決めたのである。
「周囲には電波を阻害できるミノフスキー粒子の散布も終わった。これで主催側のリモートによる首輪爆破はできなくなったハズだ」
「よし、頃合いだ。 いくぞ、おまえたち!」
首輪対策もしっかり行い、三機のドムが各々の武器であるバズーカ、刺付き鉄球、スナイパーライフルを構え戦闘態勢に入る。
一方、異常を察した主催者側も迎撃のためにMSを出撃させていた。
しかし、出撃してきたのはいまいち強そうに見えないジムがたった三機であった。
これに対して敵に過小評価されたと感じたクロトは憤慨する。
「たったのあれだけ? アイツらボクたちを舐めてるのか!?」
そんなクロトをヨハンとガイアは諭す。
「違うな、アレだけしか出撃させられなかったんだ」
「どういうことだよ?」
「奴らがここを占拠したのはたかだか小一時間前だ。 まだ防衛部隊の展開が終わってないんだろう。
おまけにこのドムの高機動力にモノを言わせた電撃戦を仕掛けられて、対応が間に合わないようだな。
弾薬やエネルギーが限られている俺たちにしちゃあ、敵さんは少ない方が助かるぜ」
「なるほど……ボクとしては敵がわんさかいた方が楽しそうだったけどね」
納得いかないクロトを余所に、三機のジムがドームまでの道を塞ぐようにフォーメーションを組み、交戦を始めようとしている。
敵の間合いに入る前に、ヨハン機はライフルの引き金を引いた。
次の瞬間にはライフルから放たれたビームがジムのコクピットがある胴体に直撃し、パイロットを蒸発させた。
【サマナ・フュリス 機動戦士ガンダム外伝 THE BLUE DESTINY 死亡確認】
「ガンダムマイスターの敵ではない」
他の二機は僚機が一瞬でやられたのを見て、泡を食って反撃を始める。
ガイアたちにビームの弾幕が降り注ぐが、ホバーによる回避か、周りの建造物を盾にするなどして防御しやり過ごす。
そして弾幕が途切れた隙に、次はクロト機の鉄球攻撃が炸裂する。
「ハアアアアーーーッ!! 滅殺!!」
チェーンによって伸びたハンマーが一気のジムに命中する。
ジムは盾で防ぐが防御力が足りず、盾も機体もパイロットも粉々になり爆散した。
【トール・ケーニヒ 機動戦士ガンダムSEED 死亡確認】
最後に残った一機が吶喊するようにビームサーベルでガイア機へ玉砕覚悟と言わんばかりに襲いかかる。
されどパイロットとしての度量も技量も高いガイアはこれを慌てずに捌く。
「その程度の腕で俺が墜とせるか!」
ドムの胸の部分に搭載されている拡散ビーム砲の眩い光で敵の視界を潰して突撃の勢いを殺し、防御もできない内に至近距離からバズーカを叩き込む。
最後に残った一機も大破炎上し、福岡の街に散った。
【ジョブ・ジョン 機動戦士ガンダム 死亡確認】
全滅させたMS小隊にガイアが言葉を吐き捨てる。
「素人共め、ジェットストリームアタックを使うまでもなかったな。
よし、援軍が来ない内にドームを叩くぞ!」
「了解」
「ヒャッハー! 殲滅だー!」
三機のドムが主催者がいるであろう福岡Yahoo Japanドームに一斉攻撃の準備に入った。
他の防衛隊はまだ駆けつけていない。
黒い巨人たちの進撃を止められる者は誰ひとりいなかった……突如、モニターに敵影が映るまでは。
「二人とも待て! ドームから何かが出てきたぞ……なんだアレは?」
ドームから一機のロボットが現れた。
MSではなく、MSよりもふた回りは小さい機体であり、見る限りではフォルムはドムと似たような重装甲かつ重武装、配色が某青狸に見えないこともない複眼のロボットであった。
それを見たヨハンが二人に解説する。
「あれはAC(アーマードコア)と言われる機種だ。 レイブンと言われる傭兵が乗っている。
そしてあのAC……フォックス・アイに乗っているレイブンは‘ジャック・O’。
経歴上では一介の傭兵でありながら多数の組織をまとめたこともある男だ」
「解説乙」
「なるほど、それで奴さんは強いのか?」
ガイアの質問にヨハンは口元を綻ばせて答える。
「組織を率いれるカリスマは本物らしいが、逆に言えばそれだけの男だ。
パイロットの腕は取るに足らないものだとソレスタルビーイングに所属していた時に聞いたことがある。
何よりあの機体は重装備な分、機動性は劣悪で一定の機動力がある機体には太刀打ちできない。
ろくに動けない砲台や戦車ならともかく、高機動と重装甲を両立させたドムでは戦いにならないだろうな」
「ふん、そうか。 半端な実力の傭兵を雇うとは野田の底も知れているな。
しかし、機体の性能差はもちろん一機で三機を相手にしようとするジャック・Oの勇気は見事だ。
敬意をもってあの技をお見舞いしてやろう」
「あの技をやるんだな、オッサン?」
「そうだ! クロト! ヨハン! ジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!」
こちらに向かってくるACに対し、三機のドムは一列に並んで突撃を開始する。
ジェットストリームアタックは一列に並ぶことで被弾性を下げ、先頭から順番に攻撃する波状攻撃で敵に深い打撃を与える技だ。
先頭を走るガイア機がヒートソードを抜く、次にクロト機が鉄球を叩き込み、最後尾のヨハン機がトドメのライフルを放つ。
この連携の前には並のパイロットでは死亡確定、三人は勝利を確信していた。
――だが、しかし。
フォックスアイは初撃のヒートソードをかわした、だが、これはある意味想定内だ。
ジェットストリームアタックは三段構えの技であり、一撃目を回避しても二撃目、三撃目が襲い来る。
しかし、フォックスアイは次もその次の攻撃もかわした――目にも止まらぬ速さで。
情報では相対する機体は鈍重であると聞いていた三人は驚きを隠せなかった。
「な、なにぃ!? かすりもしないだと!?」
「コイツ速いじゃないか! ヨハンてめー、話が違うじゃねーか!!」
「馬鹿な……この機動力は‘通常’のACを超えている?!」
フォックスアイは重そうな機体に似合わずふわりと浮く。その際には眩い光を放っていた。
そこでヨハンが気づき、その答えを口ずさむ。
「この光は……コジマ粒子!! 奴は強化されたAC、ネクストだ!!」
ネクスト――それはコジマ粒子の恩恵により機体をノーマルACとは比較にならないほど強化されたAC。
ノーマルACの積載能力では装備できない兵装を装備できるパワー、要塞の一つや二つは簡単に瓦礫に変えられる火力、クイックブースト・オーバードブーストによる高起動力、プライマルアーマーと言われるバリアによって防御力までも、全ての面で普通のACを上回っていた。
代償としてパイロットはリンクスという強化人間への改造が必要であり、搭乗するたびに有害なコジマ粒子を体に浴び続ける。
このフォックスアイは見た目こそ変わってないが、機体から放たれたコジマ粒子や素早すぎる挙動からネクストであるのは明確であった。
本来ならありえぬ事だが何者かの手によって機体とパイロットが魔改造されたようだ。
「ここは引くべきだ、ガイア大尉。 せめてガンダムが手に入るまでは戦力的にまずい!」
「はぁ!? 何弱気なってんだてめー?」
「ここで撤退しても次の襲撃の時には三機では突破できなくなるほど防御が固められるだけだ! 今更引けん!
あと、ドムをなめんなよ、若造が!」
ドムでは部が悪いと予測したヨハンは撤退を進言するも他の二人からは拒否され、そのまま迎撃戦に移行する。
三機が密集し集中した火力でフォックスアイへと攻撃を仕掛ける。
だが、ほとんどの攻撃を上下左右に飛び回られ、かわされてしまう。
あたってもバリアによって弾かれてしまい、傷の一つもつかない。
最初は強気であった歴戦の戦士も、次第に弱気になりだしてきた。
「クッ……弄ばれているのか、この黒い三連星のガイアが!?」
黒い三連星(仮)は撃ち続けるも、弾の一発も届かない……敵には翻弄されている形である。
スペック差は圧倒的であった。 機動力も防御力も、火力すらも――
「撃ってくるぞ、ガイア大尉!」
味方の警告に従ってガイアがモニターを見ると、フォックスアイの持っていた巨大な銃――KARASAWAの銃口には眩いばかりの光が収束していた。
あの光が放たれ、直撃すればMSといえど粉微塵……直感で危険を察知したガイアはすぐさま他の二機に指示を出した。
「まずい、散開だ!! ……うおおおおおおお!?」
KARASAWAから閃光が放たれ、三機が密集していた中央の辺りに落ちていった。
直後に光が落ちた地点を爆心地とし、強烈な光が三機を飲み込んでいった。
光が止むと、三機のドムは黒煙やスパークを上げて無残にも地面に倒れふしていた。
一撃のもとでMS一個小隊が沈黙したのである。
しかし、幸運にもドムに搭乗していたパイロットたちはまだ生きていた。
機体自体の大破は防げなかったものの、直前の散開指示で直撃を避けた事に加えドムの重装甲が三者の命を救ったのである。
「クッ……この俺がなんたるザマだ」
「チクショーッ! 秒殺されたぁ!?」
ガイアとクロトはコクピットにあった自動小銃を手に急いでMSのハッチを開けて、搭乗機から離脱する。
損壊した搭乗機が爆発する危険性や、ジャック・Oが止めを刺しに来る可能性を考慮してのことだ。
だが、ただ一人だけ脱出が遅れていた。
「おい、何やってんだヨハン! 早く脱出しろ!」
ヨハン機へ遠巻きから催促するガイアだったが、それが聞こえているにしろ、いないにしろ、ヨハンの脱出は困難を極めていた。
「ハッチが開かん……今の一撃で故障したのか?!」
開かないハッチの開放に尽力を尽くすヨハン。
攻撃でモニターや計器も故障してしまったため、外界がどうなっているのかわからない恐怖が彼の焦りを加速させる。
そんな中でゴツリッ、と外から何かが当たる音がした。 ヨハンから見て、ちょうどハッチの裏側である。
「……何の音だ?」
味方であるガイアたちが、脱出に手間取っているヨハンを助けに来たのか?
――違う。
音の正体は、フォックスアイがKARASAWAをヨハン機のコクピットに押し当てた音である。
巨銃の引き金が引かれ、膨大な閃光がドムごとヨハンを包み、蒸発させた。
【ヨハン・トリニティ 機動戦士ガンダム00 死亡確認】
「ヨハン!! クソッ、間に合わなかったか……」
「オッサン、早く逃げないと追手がくるぞ!」
「……MSがやられた以上、撤退するしかない。 逃げるぞクロト!」
仲間が殺されたことを悲しむ暇もなく、MSを失った二人組は敵の追撃を逃れるために福岡の街中へと逃げていった。
$
主催者襲撃を狙ったドム三機は倒れ、戦場に立つのはAC……否、ネクストAC・フォックスアイのみ。
徐々に襲撃前の静寂が戻っていくこの場所に、一人の男が新たに現れた……機械も使わずに何かの力で空を飛んでいる。
男は戦闘服のような物を纏い、やたらと広がった髪を持った頭部にはスカウターと十字傷と赤いハチマキが特徴的な男だった。
ジャック・Oがその者の存在に気づくやいなや、頭部を向けて通信とスピーカーをONにした。
「遅かったじゃないか、バーダック」
バーダックは戦闘民族サイヤ人であり、孫悟空もといカカロットの父親である。
故にその顔立ちは息子とよく似ていた。 違いは鋭い眼光と、より戦闘民族に近い気性だろう。
「おまえ程度に倒せるなら俺の出番はないだろう。
野田の首を狙おうとした奴らが現れたと聞いたから期待してすっ飛んできてみれば、トンだ無駄骨だったぜ」
「フフーフ、そう、言わないの。 野田総理には死んでもらうと困るんだから」
呆れてるバーダックの後方から独特の笑い声をはらんだ女の声と、一機のヘリと飛行機をミックスしたような航空機――オスプレイが現れた。
「ココ・ヘクマティアルか。 それ以上近づくとバーダックはともかくとして、ただの人間はコジマ粒子で汚染されるぞ?」
「あら、優しいのね。 ジャックはどっかの牛蒡さんと違って女性に紳士的だこと、フフーフ」
「……フン」
オスプレイにはパイロット以外に長い髪から肌・服まで白づくめの女性が乗っている。
武器商人ココ・へクマティアルだ。
若く美人であるのだか白蛇か何かを思わせるような雰囲気を持ち、どこか不気味さを持ち合わせている。
「ジャック、私がもっていた他企業へのパイプを使って、リンクスとして改造されたあなたと、見た目はそのままにネクストとして生まれ変わった愛機の感想はいかかがかしら?」
「正直なところ、あまり良い印象は無いな」
「あら、何がお気に召さなったのかしら? 火力? 機動性? まだ足りないところがあれば更なる改造も――」
「違う。 弱いから気に入らなかったのではなく、強すぎるのが問題なのだ」
ジャックの受け答えにココはキョトンとする。
足りないことに文句を言う客は多けれど、余りあることに不満を持つ客は滅多にいないからだ。
「間違いなくこの私とACは強くなったが、イマイチACに乗って戦っている感じがしない。 いくら強くとも私はリンクスよりレイブンの方が性にあっているらしい。
しかし、我々の目的を達成するためにこの力は必要だ。 ありがたく使わせてもらう。
……できれば全てが終わった時、私とこの機体を元に戻してくれないか?」
「……目的を成し遂げた後にお互いが生き残っていればね。 請求は高くつきますよ?」
「構わない」
会話を続ける二者にバーダックが割って入った。
「今スカウターで調べたが、このポンコツに乗っていた奴らのうち二人が北の方向に逃げたようだぜ?
俺はどうでもいいが、おまえらはノダに義理立てするために追った方がいいんじゃないか?」
バーダックの疑問に二人は冷静に答えた。
「必要ない。 ‘あの二人’が既に追撃と待ち伏せに出ている」
「今から私たちが追っても無駄そうだし今回は手柄を譲るわ」
$
福岡の街中、迷路のような路地を敗走者たちが駆ける。 とにかく主催者の追手を振り切らなければいけない。
幸い、パイロットスーツとヘルメットで顔を隠しているため正体はバレていない。
首輪を爆破できないだろう今だけが逃げるチャンスなのだ。
その最中に、クロトが喚くように先頭を走るガイアに質問を投げかけた。
「これからどうすんだよ!? MS壊されちまったぞ!」
「MSはまたどこかで手に入れればいい。 パイロットが入ればMSは動く。
……主催側にあんな化物がいたのは想定外だったがな。 次に攻め込む時は中隊……いや大隊規模のパイロットと兵器を集めよう。
そのための撤退だ。 逃げきってから再起を伺うぞ!」
ガイアは一度の戦闘で敗れ去っても、生きている限りは希望と勝利を諦めなかった。
一人の軍人として、あくまで冷静に次の戦いへの準備を考えていた。
――そんな彼に冷酷な追手が迫る。
「いいや、おまえたちは生きてここからは出られぬ。 コーホー……」
「誰だッ!!」
突如、後方から声と呼吸音が聞こえ、ガイアとクロトは急いで振り返り、銃を構える。
そこには、マスク・ヘルメット・機械的なスーツ・マント……全てが黒づくめの男がいた。
「主催の手先か!」
「いかにも、余の名はダース・ベイダー。 総理の指令により貴様らを抹殺しにきた者だ」
ガイアは目の前の男を直感で危険と判断し、なるべく交戦を回避しようと思考する。
しかし、血気にはやるクロトはベイダーの威圧に構わずに戦う道を選ぶ。
「なんだかしらねえが、たった一人か? 銃殺してやる!!」
「やめろクロト!」
頭に血が上っているクロトはガイアの制止も聞かずに小銃を乱射しながら突撃する。
対するベイダーは、特に銃弾を放たれて一切動じた様子もなく、呼吸まじりに吐き捨てた。
「力量もわからぬとは愚かな……」
ベイダーが手を正面にかざすと、クロトが放った複数の銃弾が目標に当たる前に宙で制止し、地に落ちた。
「なにィ!? ……がはッ!」
それだけに留まらず、クロト自体も見えない何かに首を強い力で押さえつけられて、呼吸困難に陥る。
この不可視の力の正体は一種の超能力である‘フォース’である。
そして、そのフォースの力でクロトはベイダーの下へと手繰り寄せられる。
ガイアが仲間を助け出そうとした時には手遅れであった。
ベイダーが赤い光の刀――ライトセーバーを懐から取り出し、そのまま手繰り寄せた少年を一閃する。
「クロト……ッ!!」
叫ぶ暇も与えられず、体と分離したクロトの首がコロコロと地面を転がった。
切り口をライトセーバーの熱で焼かれたために、体からも首からも血は出ない。
されど、一刀両断された躯は誰がどう見ても即死であった。
【クロト・ブエル 機動戦士ガンダムSEED 死亡確認】
「クソッ……」
一瞬でもう一人の仲間の命を奪われたガイアは歯噛みする。
ベイダーに憎しみを抱くも、弾を届かせないほどの超能力者相手に銃一丁で勝てる見込みはない。
己の無力さに心を締め付けられる男に、ベイダーは表情の読めないマスクごしに告げる。
「今、投降すれば命を……助けることはできないが、せめて苦しませずに殺してやろう」
「……悪いがそれを受け入れるわけにはいかんな」
告げられたのは死刑宣告。 だが、ガイアはこれを拒否する。
この言葉の直後にガイアは隠し持っていた閃光手榴弾をベイダーに投げつけ、同時に脱兎の如く逃げ出した。
ベイダーがマントで体を覆い、閃光をやり過ごした時には標的はフォースの射程圏外より遠くまで逃れていた。
にも関わらず、ベイダーは特に焦る様子は見えなかった。
「コーホー……難を逃れたつもりだろうが、その方角には恐ろしい相手が待っているぞ」
$
「クッ……仲間を半ば見殺しにした上に、敵に背を向ける恥をかくとは……ッ!」
辛くもダース・ベイダーを振り切ったガイア。
路地を走り回る彼の胸中はとても穏やかではなかった。
(この失敗は俺の見積もりの甘さと主催を過小評価しすぎていた結果だ。
辛酸は嫌でも舐めるしかない。 だが、この雪辱は必ず晴らすぞ、野田め!)
ジャックやベイダーのような化物にも対抗できる手段はあるはずだ。
それが見つかり次第、散っていった仲間のためにも主催に報復しようとガイアは心に誓ったのだった。
そんな彼が迷路のような路地を抜けた先にたどり着いたのは黄色く咲き乱れる広大な花園だった。
「なんだこれは……ひまわり?」
太陽に花びらを向けて高く伸びている向日葵畑がガイアの視界に入ってくる。
とても鮮やかな園ではあったが、今はのんびりと眺めている場合ではない。
ベイダーのような者がまた襲ってくるかもしれないので、彼はここを突っきっていくことにした。
すると正面に一人の少女の姿が写った。
ウェーブの入った緑の髪に白いシャツと赤いロングスカート、開かれた日傘が特徴の少女だ。
武器らしきものは何も持っておらず、雰囲気だけ見れば殺し合いには乗っていなさそうだ。
――民間人か? そう思ったガイアはとりあえず少女に注意を呼びかけることにした。
このまま放っておくと、自分と追手との戦いで犠牲になるかもしれないからだ。
「そこのお嬢ちゃん、ここは危険だぞ。 早く遠くへ行くんだ!」
「? ……!!」
ガイアの呼びかけに応じたのか、少女は日傘をたたみ――その先端を殺意を込めた赤い瞳と共に向けた!
「なッ!?」
傘の先端にはエネルギーらしきものが収束している。
少女の気迫に一時呆気にとられたガイアだったが、一瞬後に状況を理解し、銃を構える。
「おまえも主催者の手先だったのか!!」
敵よりも先手を取るべく、ガイアは敵に向けて即発砲。
「う……撃てない」
――できなかった。
小娘だから迷いが生じたから撃てなかった、わけではない。
相手が敵である以上は殺るか殺られるしかなく、実際にガイアに迷いはなかった。
発砲できなかった原因は彼にあるのではなく、彼のある銃に問題があったのだ。
何かツル状の物が銃に絡まり、引き金を引けなくしていたのだ。
「なんだ!? ひ、ひまわりだと!?
手や足にまで……動けん!!」
絡みついてきた植物の正体は周囲に生えている向日葵が伸びてきたものであった。
それらの植物は銃だけではなく、いつの間にかガイアの足首や手首にも絡みつき彼の自由を奪っていた。
誰の仕業か? 犯人は緑髪の少女に違いあるまい。
ガイアはまとわりついた向日葵を振りほどこうとするが、非常に強く捕縛されているため解けない。
そして、少女は苦しむ男をあざ笑うかの如く微笑んだ。
「しまった!」
彼女の微笑みと同時に傘の先端から閃光が放たれ、ガイアの胸元を貫いた。
くり抜かれたように胸には風穴が開き、血と悔恨の念を吐きながら男は息絶えた。
「ぐふッ……虫けらのように殺さ、れ……まるで踏み台に、でも……された気分だ……」
【ガイア@機動戦士ガンダム 死亡確認】
$
襲撃者を追っていたベイダーが向日葵畑にたどり着いたのは数分後のことであった。
向日葵畑には主催者の手先であり、仲間である少女――植物を操る大妖怪がいた。
彼女が友達と言って大切にしている向日葵の世話でもしているのか、少女はベイダーに背を向けてゴソゴソと何かの作業をしている。
「風見幽香よ」
風見幽香と言われた少女は振り向かずに返事だけをベイダーに返す。
「どうしたの? 私は今、忙しんだけど?」
「この辺りに主催者を襲撃してきた者がきたハズだ。 鉢合わせしなかったか?」
「それだったら、はい」
幽香はベイダーに向けて血のついた黒いヘルメットを投げて寄越した。
その見覚えのあるヘルメットは間違いなく襲撃者のものであったが肝心の物が入ってなかったので、それについて幽香に尋ねた。
「……中身はどこにいった?」
少女は淡々と質問に答える。
「大災害のせいで、お友達にあげられる肥料が手に入らなくなったから困ってた。
このままだと友達がやせ細ってしまうと悩んでいたら、肥料が向こうからやってきたの。
だから、着ていた変な服以外は全部利用させてもらうことにしたわ。
ふぅ、やっと終わった」
作業を終えたようである幽香は笑顔で額の汗を拭う。
彼女の前には数百、数千に小分けされた赤黒い塊が地面の上に転がっていた。
塊の正体がなんであったか、ベイダーは理解しても口には出さなかった。
大地の女神と同じ名を冠した者は、名の由来通りに大地に還るのだ。
「……」
「これだけあればこの畑にいるお友達みんなに行き渡るわね!」
黒いマスクをかぶっている以上、沈黙するベイダーの表情を読み取れるものではなく、反対に幽香は子供のように屈託のない笑顔を浮かべている。
そんな二人を大きな影が覆いかぶさり、上を見上げると仲間のオスプレイが空から迎えに来ているとわかった。
オスプレイからココの声が聞こえる。
「ベイダー卿、追撃は終わったみたいね? 総理がお呼びよ、早くお乗りになって」
最終更新:2013年09月02日 09:53