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――大阪のとある病院。 放送直後。

「四季様が……死んだっていうのかい!?」

治療を終え、旅仲間である影薄たちと同じ病室のベットで眠っていた小町も、二回目の定時放送を聞くことになった。
そこで彼女は、上司である四季映姫・ヤマザナドゥの死を知ったのだ。
さしもの小町もこれにはショックを受けていた。
影薄たちも彼女にかける言葉が見つからず、病室の空気は重いものになっていた。
しばらくしてから、彼女はベットから起き上がり一言だけ言って、病室から出ていこうとする。

「こまっちゃん……」
「小野塚さん……」

急に立ち上がった小町に黒子と日之影が呼び止めようとしたが、彼女は仲間たちと視線を合わせようとせず、背を向けたまま一言だけいって病室から出ていった。

「悪い、ちょっと一人にさせてくれ」


 ― ― ―

――同時刻、小町たちのいる大阪の某病院の屋上。

「ぐおお……なんだ、この空気は……」

その屋上には一人の騎士がいた。
騎士はガスでも吸ったようにむせ返っている。
だが、周辺は何らかのガスで汚染されたような場所はない。
これはどういうことか?

この騎士の正体は五番目のカオスロワで生まれ、暴虐の限りを尽くした者――ロワで散っていった怨霊の集合体テラカオス――の成れの果てである。
勇者たちによって敗北し、力と記憶を失った六番目のカオスロワにおいては「混沌の騎士」という名で仲間たちを守る対主催となっていた。
最終的に彼はある理由により自ら討たれたが……

つまり、騎士は『元・テラカオス』ということである。
そして主催者の幹部・プロジェクトテラカオスは秘密裏に、適正ある者をテラカオス化させていくナノマシンを参加者に配られた飲料水に仕込んでいた。
そのナノマシンを含んだ水は時間の経過により、ロワで亡くなった死人等の血液から蒸発した水分に混じって大気中にも溶け込むようになった。
それを吸った騎士にとっては懐かしくも思い出したくない何かを口に入れる気分にさせた。
元がテラカオスだったため、テラカオス化を促進させるナノマシンと身体が共鳴しているのかもしれない。
何にせよ、騎士にとってはこの空気が害に感じられた。
情報が手元に無いので本人は理屈などさっぱりわからないが。

「く……だが、ほんの少しだけ思い出してきた…私がどこからきた何者なのかを……」

ナノマシンを吸った影響なのか、本当に僅かでおぼろげだが騎士の記憶が蘇った。
自分は過去に悪魔の如く暴れまわったこと、その後に力と記憶を失って今度は誰かを守るために戦ったこと、最後は悪魔として暴れまわったことに対する償いをするために死に、自らの魂を浄化されるために煉獄へ入ったこと。
詳細は全く思い出せないが三つの記憶は確かであった。

「帰らねば……私は煉獄へ帰って償いの続きをしなければならない。
ここは私がいていい場所ではないでしょう」

記憶が蘇った結果、騎士に目的が生まれた。
それは黄泉の世界の終着点の一つである煉獄へ帰ることだ。
現世において自分は存在が許された者ではないことを自覚しての判断であった。
ならば、この病院の屋上から身投げでもすればすぐに黄泉に帰ることができるだろう。
……できるだろうが、騎士はしなかった。
死が恐ろしいのではなく、死ぬ前にいくつか確かめたいことができたからだ。

「それにしても、なぜ私は煉獄から現世に戻っているのだ?
さらに言えば得体の知れない空気……いや、瘴気はなんだ?
この世界で一体何が起きているんだ?」

己の記憶についての事を省いても、いくつかの疑問が残っている。
煉獄に封印されていた身であるのになぜか現世に黄泉返っている。
遠くからは銃声や爆音が響き、何か戦争か内戦でも起きているのか。
そして、大気中に溶け込んでいる『何か』。
この世界に取り巻いている異常について騎士は見過ごす気にはなれなかった。

「帰るのは、この世界に何が起きているのかを確かめてからでも遅くはないか」

騎士は冥府へ帰る前に、この世界の調査に乗り出すことにした。

「調べた結果、邪悪な者が世界を混沌とさせようとしているなら止めなければなりませんね」

自分を呪われた存在だと自覚している騎士は、できることならばこの混沌を止めたいとも思っていた。
この世界のカオスさは自分の産まれた環境に似てる気がすると本能でわかるのだ。
ということは放っておくと自分と似た存在――テラカオスが生まれてしまうかもしれない。
ならば自分のように世界を脅かすであろう悪魔の誕生を許すわけにはいかない。
それが再び記憶は失いつつも、正義の心は失わなかった騎士の判断であった。

「一先ずは情報を集めるか」

自分がいる建物には沢山の人の気配がすることに気づいた騎士は、他者に会って情報収集をするために階段を降りていった。


 ― ― ―

――その頃。
大阪のある場所にて殺した参加者から奪った支給品を検品する二人組がいた。
その中でも特異な支給品があったらしく、二人は互いに首をかしげている。
それは一つのカプセルであった。
とりあえず説明書に書いてあった通りに、その辺に投げてみるとカプセルがBONと爆発した。
そして大量の煙の中から現れたのは、それはそれは大きな大きな物体が現れたのである。
大きすぎてもはや塔とも言える代物であった。

その『塔』を足元から見上げる二人の参加者の瞳には、『畏怖』と『歓喜』が映っていた。

 ― ― ―
(四季様……部下であるあたいより先に死んじまうなんて……)

病院のとある女子トイレの洗面所には小町が立っていた。
その顔には嗚咽というほどではないが瞳に涙が貯められていた。

(うっとおしいと思ったことは数あれど、死んでほしいとは思ってなかったのに……
閻魔である四季様がいなくなったら誰が幻想郷の死後の世界を司るんだ?)

サボリ魔である小町にとって頑固で説教臭い四季は煙たい存在ではあったが、同時に何事にも流されずに白黒を決められるなど閻魔としては有能であり幻想郷には必要な存在であるとも小町は思っていた。
四季は苦手な部分も多いが信頼できる部分も多い人物だったのだ。
されど、そんな上司はもうこの世にいない。

死者を裁き導ける閻魔無き幻想郷はパニックになるだろう。
それどころか四季の上司かもしれない閻魔大王まで死ぬ始末……幻想郷どころか世界の死後事情が混乱しかねない事態に、死神である小町は顔を蒼くした。
その事態は彼女にある考えを思い起こさせる。

(あたいがバトロワに乗じてサボろうなんてしてたから四季様たちが死んだのか?
殺し合いには乗らなくても、そこらにいるマーダー連中を満身創痍にさせるぐらいはやるべきだったのか?)

小町は近畿、一方で四季は関東にいたため、この距離では小町一人頑張ったところで四季を助けることなどできなかっただろう。
だが危険人物を一人排除する度に四季が生存できる可能性がほんの僅かでも上がったのではと思うと、小町は後悔の念を禁じ得なかった。

(クソッ、あたいはいったいどうすりゃよかったんだ?! これからどうすりゃいいんだ?!)

今さら慌てふためいたところでどうにもならないことはわかっていながらも、どうしても気持ちが落ち着かなかった。
そしてもう一つ、小町には主催絡みで一つの問題を抱えていた。
小野塚小町は主催側の風見幽香との接触時に殺し合いに乗るよう命令されている。
この件は影薄たちに喋ると後が面倒になりそうなので隠している。
今日中に殺し合いに乗らねば、小町はきっと彼女に殺されるだろう。
力量差は先ほどの戦闘で小町が一方的にやられるという形で証明された。
彼女に勝る点といえば足の早さぐらいなものだが、周辺をまとめて灰にしてしまえる力がある以上、ちょこまか逃げ回ったところで意味はない。
同行者の影薄たちを引き連れても辺り一面を焼き払える相手に勝てる見込みは薄い。
ついでに鈍足だが瞬発力が無いわけではないではないので、小町はカウンターを腹に喰らって屈辱の尻叩きを受ける羽目になった。
幽香には弾幕ごっこ以外では絶対に勝てない相手なのだ。

(できれば四季様の仇討ちでもしたいところだが、今のままでは奴には勝てない。
殺し合いなんてしたかないが、どうすりゃいいのかねあたいは……ああ、ケツが痛い)

尻叩きを受けて未だに赤い尻を抑えつつ、苦悩する小町の脳裏に、ふと旅仲間である影薄たちの顔がチラついた。
日之影と黒子は怪我で弱っており、桃子とあかりはろくに戦えない。
影の薄い連中だが、半日以上過ごしている中で小町にもだいぶ見えるようになってきたので今なら殺すのは簡単だろう。
それで当面の命は拾えるが彼女はそれだけはやるべきではないと考えている。

(あいつらは気のいい奴らだ。
二回もあたいを助けてくれた命の恩人たちでもある。
殺したくはないし、こんな馬鹿げた殺し合いで死んで欲しくもない)

いつの間にやら影薄たちに愛着でも湧いたのだろうか、とにかく小町は彼らを死に追いやる真似はしたくなかった。
しかし、彼らに関してある問題が浮上する。

(だが、あたいが殺し合いに乗らねば、あいつらも風見幽香に殺されるかもしれない。
殺し合いに乗れば、他の参加者から一緒にお尋ね者扱いだ。
……影薄だから後者は大丈夫か? いや、乳もぎ魔のように見える奴には影薄たちが見えるんだ。
安易な考えを持つべきじゃない)

どちらを選んでも自分と一緒に行動していれば影薄たちに弊害が来る。
影薄たちになるべく害を与えないようにするにはどうすればいいか?
しばらく考えた後、小町の中で答えが出た。

(……あたいが一緒にいるとあいつらに迷惑がかかる。
こちらの都合には巻き込みたくない……だから、あいつらとは別れよう)

ここで離別し、単独行動を取れば殺し合いに乗っても乗らなくても影薄たちに迷惑はかからない。
別れは名残惜しいが、彼らの安全を想うならばそうするしかないと小町は決心を固めた。

(さあ、そうと決まればあたいはこれからどうするかだが……ん?)

考え事をしていると、今いるトイレの近くにある部屋から物音がした。

「なんだ?」

やたらと大きい物音だったので、気になった小町は考え事を一時中断してトイレから出て物音がした部屋を探す。
物音が聞こえた病室を見つけると、小町はゆっくりと扉を開けた。


「な……ッ!」

思わず言葉を失いかけた小町の目には、血の惨状が映っていた。
病室の中には大量の血を床に広げてうつぶせに倒れているツインテールの少女と、ひと振りの刀を手に持って立ち尽くすカチューシャをつけた額の広いの少女がいた。
ツインテールの少女は既に事切れているのか微動だにしない。
状況から察するに額の広い少女がもう一人の少女を斬殺したというところか。
先程の物音の正体は殺された少女が床に倒れた音なのだろう。
小町は思わず声を出して呟いた。

「なんてこったい……こんな病院でも殺し合いが起きてるなんて……」
「う、うわあああ!!」

つぶやきによって少女が小町の存在に気づき、突然の来訪者に驚き震えながらも刀を小町に向ける。
その刀で目撃者を殺すつもりらしい。
だが、小町は彼女が撃つよりも早く、小銭を取り出して少女の四肢に向けてぶつけた。
小町の十八番の一つである銭投げによる弾幕、それを攻撃に使ったのだ。

「痛いッ!」
「遅いね!!」

少女は銭の直撃による激痛に耐え切れずに刀を取り落とし、地面に尻餅をついた。
そんな少女につかさず、小町は神鎗の切っ先と冷たい視線を彼女に向けた。
小町のその姿はまるで人の命を奪わんとする死神そのものであり、少女を身震いさせた。

「ヒィッ!」
「観念しな」

刀を向けながら小町は相手の命の与奪について考える。
彼女を殺せば自分は主催に殺し合いに乗ったと見なされて今日分の命は確保できるかもしれない。
それでも目の前の少女はまだ子供であり、黒子かモモぐらいの若さで斬るのをためらいそうになった。
しかし、高校生ぐらいでも誰かを殺すことぐらいはでき、放っておけばまた誰かを殺す危険性もあるのだ。
最悪の場合、影薄たちにも被害が出るだろう。

(お迎えの仕事はあたいの管轄外で四季様にも後でこってり絞られそうだがね、やるしかないんだ)

目の前のマーダーを殺せば誰かが死なずに済み、マーダーを殺す分には良心も痛まない、おまけに自分も助かるのだ。
そう思うと、小町は少女を殺す決心がついていった。

「他人を殺した以上、手前が死ぬ覚悟もできてんだろうねぇ? 悪いけど死んでもらうよ」
「ま……待って、これには事情が」
「事情だあ? 人を殺しておいた上に殺した現場を見た奴を斬り殺そうとした癖に言い訳かい。
口から出まかせを言うぐらいなら閻魔様に舌を引っこ抜いてもらいな! ……上司の説教グセが伝染ってるな。
とにかく、せめてもの情けに痛みは一瞬で済ましてやるよ」
「い、いやあ!」
「じゃあね」

涙ぐむ少女に対する一切の情けを捨てて、小町は斬魄刀で相手の首を撥ねようとする。
――そこへ、ある者の妨害に入った。
刃が少女の首に到達する寸前で何者かが後ろから刀を握る手を抑えて、動作を中断させた。

「!?」
「なんだか穏やかな様子ではなさそうですが、あまり婦女子が刃物を振り回すべきではありませんよ」

小町が後ろを見ると、そこには一人の黒い騎士がいた。
その騎士は屋上から降りてきた混沌の騎士である。

「どこの誰だがわからないけど、この手を離しな」
「お断りします。 事情は知りませんが誰かが死ぬのを黙って見過ごすわけにもいきませんからね」 
「事情を知らないならなおさら口出しすんな! こいつは殺し合いに乗っているんだ!」
「殺し合い……?!」

小町は乱入者をキッと睨みつけ、怒鳴りつける。
騎士は彼女の怒声には特に怯む様子はなかったが、『殺し合い』という言葉には引っかかり、この世界に異常が起きていることも理解した。

「なんだアンタ? 今、この日本で殺し合いが起きていることも知らないって顔だな。
とにかく、あたいだってこいつを見過ごすわけにはいかないんだよ!!
進んで殺しはしたかないが、他の連中を守るならそうするしかないんだ」

騎士の腕を払いのけようとするが、そうこうしている内にもう一人の乱入者が現れ、小町から少女を守るように間に入り込んだ。

「待ってくださいっす、小町さん!」
「モモ!?」
(あれ? この少女、ここまで接近するまで全く気配がなかったような……)

仲間である東横桃子がこの場に現れたことに驚く小町と、彼女の高すぎるステルス性故に少女がまるでその場から湧いて出たように見えて面食らう騎士。

「おまえが何でここにいる?」
「帰ってくるのがあまりにも遅いから心配して探しにきたんすよ。
あちこち探し回っていたらこの部屋にたどり着いたわけっす。
ちょうど小町さんが刃物を振りおろそうとした所だったんでビックリしたっすよ」
「そうか、その時からいたのか……とにかく、そこをどきな。
そいつを生かしておくと後が面倒になるよ」

騎士の次に少女の殺害に邪魔になっていたモモにどいてもらおうとする小町。
これにモモは小町に声を荒げて真っ向から反対する。

「落ち着いてください小町さん!」
「あたいはいたって冷静だよ!」
「冷静ならこの人の持ってた刀に血がついてないことだって気づいてる筈っすよ!」
「……なに?」

モモは床に転がっている凶器を拾い、小町に見せつける。
それには誰かを斬れば必ず付くはずの血糊が一切なかった。

「つまり、ここに転がっているツインテールのガキを殺したのはコイツじゃないってことかい?!
だったら、誰が殺したというんだ?」
「それは――」

モモはツインテールの少女の死体の下へ移動し、うつぶせになっている身体を仰向けにさせた。
すると、小町も騎士も驚きの表情を浮かべざるをえなかった。

「!?」
「なるほど……そういうことか」
「――思った通り、これが答えっすよ」

ツインテールの少女は一本のナイフを手に持っており、そのナイフを自分の胸元に突き刺していた。
今までうつぶせになっていたため、小町も騎士も気づけなかったのだ。
これが指し示す符号とは――

「お、お願い。 話を聞いて……」

そして、問題の少女は泣きじゃくりながら口を開き、この部屋で起きた部屋の惨劇の真実を語りだした。
ちなみに額の広い少女の名前は峰岸あやの、背景に溶け込みかねないほどにどこにでもいそうな女子高生である。

 ― ― ―

殺し合いの中で峰岸あやのは家族やクラスメイトを捜してさ迷っていた。
その最中で彼女は同行者を得た。
それが超高校級のギャルとして有名な少女、江ノ島盾子だった。
キツそうな性格をしてそうな見た目通り性格はキツかったが殺し合いに乗る気はないらしく、あやのと同じく知り合いを探していたため同行することになった。
あやのは優等生然としており、反対に江ノ島はチャラチャラしてはいたが、それなりに仲良く行動を共にしていた。
……第二回放送が流れるまでは。

放送により、あやのは友人である柊かがみの死を知っておおいに悲しみ、バーダックと言われた男の凄まじいパワーを目の当たりにして主催の恐ろしさを知り、悲しみと恐怖で震え上がった。
それでも彼女は人道に反する殺し合いに乗る気はなく、かといって生きることを放棄する気も起こさなかった。
だが、同行者の江ノ島盾子は違ったらしい。

放送で知り合いの名が呼ばれたのか、主催の力に怯えたのかはわからないが彼女は黙り込んでしまい、数時間はとても話しかけられない状態が続いた。
しばらくして彼女は突然、あやのの前で支給品のナイフを取り出した。

「え、江ノ島さん、何をするんです!?」
「……悪いけど、もう耐えられないや」

江ノ島が殺し合いに乗った。
そう思い込んだ、あやのは自分の支給品である一本の刀『斬鉄剣』を手に取った。
相手を殺す気はなく、あくまで身を守るためであり、威嚇目的で刀を抜いたのだ。
しかし、刀を見てもなお江ノ島に臆した様子はなく、彼女は暗い表情のまま、ナイフを振った――



――自分の胸に向けて。

「え…えぇ……!?」

ナイフを己の心臓に届くまで刺し、傷口から漏れる大量の血を床に巻きながら江ノ島はうつぶせに倒れた。
江ノ島盾子は誰に殺されるでもなく自殺したのである。
当人が語る前に死んだために自殺した理由はわからないが、おそらくロワによって生み出された悲しみや恐怖に屈したのだろう。

同行者の悲しく惨い死に様にショックを受けたあやのは放心状態になって立ち尽くしていた。
その直後に小町が部屋に入り、刀を握ったままだったので江ノ島を殺したと勘違いされてしまったのだ。
うまく状況説明できれば良かったのだろうが、この前まで同行していた者が目の前で死んだショックにより冷静さを失っていた彼女にそれは難しく、小町も半ば聞く耳持たなかったため、騎士とモモが来なければ危うく首を撥ねられていただろう。
江ノ島の死については偽装した可能性もなくはないが、ナイフを調べればあやのの指紋がついてるか否かで真偽の確認ができるため、嘘をつくメリットはあまりないものとされた。
かくして騒動は既に自殺した江ノ島を除いて、犠牲者を出さずに終わりを迎えた。


「なんていうか、その……すまないね。 こっちの勘違いで怖い目に合わせちまって」
「いいえ、私こそ、ちゃんと説明できなくてごめんなさい
そもそも私がもっとしっかりしていればあの人も死ななかったんですから……」

説明により納得した小町は、危うく自分が殺しかけた少女に向けてお辞儀と謝罪をした。
あやの自身も小町に対して悪い感情は持っておらず、すんなりと受け入れられた。

「おまえさんが止めてくれなかったら、あたいは無実の人間を手にかけていたところだ。
感謝するよ……ええと」
「すみませんが私は自分の名前も思い出せないほどの記憶喪失なのです。
便宜上、騎士とでもお呼びください」
「ああ、ありがとうな、騎士さんよ」
「お役に立てて光栄です」

混沌の騎士にはお礼と握手をした。
彼の介入がなければ、小町はあやのを誤殺していただろう。

(しかし、殺し合いか……
この世界で起きている状況を知ることはできたが、なんだろうな……このザラついた感覚は)

心の中で騎士はため息をつく。
あやの語った言葉の節々から、この世界でバトルロワイアルという殺し合いゲームが開かれていることを知った。
その催しは自分が生み出された要因であり、唾棄すべき事態であると記憶として思い出せなくとも本能としてわかるのである。
表面上は明るく振舞っているが内心は暗い気分の騎士であったのは小町は知る由もない。

最後に小町は一連の誤解を解いたモモを讃える。

「モモ、あやのが殺し合いに乗ってないとよく気づいてくれたよ」
「えへへ、麻雀は思考力と観察力の世界っすからね。 細かい事に気付くのは朝飯前っす」

東横桃子は雀士であり、一介の雀士として味方や対戦相手の捨て牌から手の内に読んで考察するスキルがこの場では活きたのである。
生来のステルス性に加えて、戦闘力の代わりに彼女が持ち合わせている能力であった。

「でも小町さんもどうしたんすか?
厄介事に自分から首を突っ込む人じゃなかったのに……それにさっきは物凄く怖い顔をしてたっすよ」
「それは……」

モモの問いかけに小町は答えられなかった。
影薄たちのような他の参加者に危害が及ばないようにマーダーを倒そうとしたのは嘘ではないのだが、小町ほどの実力があれば素人相手に対して殺さずに無力化するのも容易かったハズだ。
マーダーを殺そうとした大きな要因は主催の者に命を握られているからであるのだが、それを口にすれば関係ない三人もで巻き込むことになりかねない以上、言うわけにはいかなかった。

「なんだか酷く焦っているように見えましたね」
「ええ、間近で小町さんの顔を見てた私にもそんな印象がありました」
「おまえさんたちにもそう見えたのかい……」

騎士やあやのも小町の行動について不可解な点を指摘している。

「……やっぱり、上司の人が死んじゃったのが小町さんを焦らせているんじゃ」
「おい!」
「ご、ごめんなさい! 悪気があって言ったわけじゃないっす!」

モモの一言は逆に小町の神経を逆撫でしてしまったが、それは図星でもある。
上司である四季の死を起因に、小町は焦っていたのは確かであった。
焦りが小町の目を曇らせ、危うく誤殺を招くところだったのだ。
自分が助かるにしろ、マーダーでもない者を殺すのは自分の望むところではない。
そう思うと小町は胸の奥に痛みを感じた。

「……すまないねモモ、今は理由を話したくないんだよ」

謝りつつもどこか浮かない様子の小町。
そんな彼女にモモは優しく言葉を投げかけた。

「そう、なんすか……小町さんが嫌なら無理には聞きませんっすけど……
でも、どんな理由があったとしても、私や黒子くん、日之影さんやあかりちゃんは小町さんの仲間っすよ。
仲間はみんなで支えあうものっすから、何か困っていることがあれば気兼ねなく言ってくださいっす」
「仲間……」

影薄たちとは半日と少ししか一緒に過ごしてないが、小町の中でも守るべき仲間になっていた。
仲間でなければ、迷惑や危害を加えたくないとは思わない。
迷惑をかけたくないが故に、これからは仲間と行動を共にするわけにはいかなかった。

(仲間か……良い響きだけど、影薄たちには迷惑をかけないために縁を切ると決めたばかりだ……
本当はこいつらとのらりくらりと過ごしたかったけど、ここでお別れにしよう)

ここで袂を分てば、小町が殺し合いに乗っても乗らなくても影薄たちに悪影響は出ない。
だからこそ、小町はこの機会に別れを切り出すことを決めたのである。

「悪いけど、モモ。 あたいはこれからはアンタら影薄たちとは――」



そこへ、小町の決心など知らんと言わんばかりの大きな揺れが病院を襲う。

「――きゃん! 地震かい!?」
「かなり、大きいっすよ!」
「……地震にしては変な揺れ方に思えますが」
「揺れもだんだん大きくなってませんか!?」

突然揺れだした施設に四人は戸惑う。
そんな中で、四人の中で最も窓に近い位置にいたあやのの視線が外を向いた。

「え……あれは、なに?!」

窓の外を見たあやのの表情が驚愕で染まる。
彼女が何を見たのか気になった小町は、足元が未だに揺れる中、あやのの下に寄ろうとするが。

「どうしたんだあやの! 外に何かあんのか?」
「ダメッ、逃げてください小町さん!!」

寄ろうとした小町にあやのは体当たりをし――その直後、小町たちのいた病室が轟音と閃光に包まれた。
轟音と閃光は小町たちがいた病室以外にも響き、それが数回繰り返された後に病院は崩壊し瓦礫となった。

 ― ― ―

粉塵の中から一人の騎士と少女たちが現れた。

「クッ、間一髪か。 大丈夫ですか小町さん、モモさん!」
「なんとか……騎士さんが守ってくれたおかげで怪我もないっす」
「……」

病院が崩壊する寸前に混沌の騎士は小町とモモを連れて脱出に成功し、瓦礫の下敷きになることは回避された。
だが、そこに峰岸あやのの姿はなかった。

「あやの……あたいをかばって……!」
「峰岸さんが死んでしまうなんて……」

あやのは謎の閃光に包まれて蒸発し、小町たちの目の前で死んだ。
彼女は死ぬ間際に小町を体当たりすることで、閃光の有効範囲から外した。
その結果、軽い火傷と服はボロボロになったものの小町は救われたのだった。
あやのの死に悲しみに暮れそうになる小町とモモ。
しかし、そんな二人に騎士は注意を呼びかける。

「水を差すようで恐縮ですが、悲しんでいる暇もないようです……あれを見てください」

騎士が指をさすと、その先には80m近い巨大ロボットが街を襲っていたのだった。
今もまた参加者を踏み、施設を鉄拳で壊し、時には腕に内蔵されたプラズマ砲で周囲を焼くなど、さながら特撮映画の怪獣の如く破壊の限りを尽くしていた。

「きょ、巨大ロボット!?」
「まさか、あのデカブツがあやのを殺し、病院を粉々にしやがった奴かい!」
「おそらくは。 私たち病院にいたものはあのロボットから攻撃を受けたようです」

ロボットの持つプラズマ砲の色が、病院を襲った閃光の色と全く同じであり、病院を襲ったのはこのロボットで間違いないだろう。
ロボットは病院を破壊した時と同じように、人だろうが建物だろうが無差別に壊し続けている。
このままでは街の被害が拡大して沢山の人名が奪われるだろう。
しかし、強くて巨大な物体に立ち向かおうとする者はいない……普通なら。

「は、早く逃げないと…って小町さん、何をやってるんすか?」

逃げようとしていたモモの目に、斬魄刀を抜いて一人で巨大ロボットの下へ向かおうとしている小町の姿が映った。
巨大ロボットを睨みつつ、小町は質問に答える。

「あのデカブツをぶっ壊す……それが死んじまったあやのへのせめてもの手向けだ」
「無茶っすよ、小町さん! 小町さーーーんッ!!」

モモが止めようとした矢先には、小町は既にロボットの下へ駆け出していた。


走りながら小町は一人考える。

(ヤバげな奴に命かけて立ち向かうなんて我ながら自分らしくないとは思うけどねえ……
でも、あやのは殺しかけた相手であるにも関わらずあたいを助けてくれた。
その恩があるのに何もしないままじゃあ、先に彼岸に行ったあやのに悪い。
殺し合いに乗る乗らないはこの際、保留だ。
アイツだけは絶対に仕留めてやる!)

燃え上がる怒りと復讐の決心を胸に、小町は巨大ロボットに立ち向かっていく。


「仕方がありません、私も行きます」
「騎士様もいくんすか!?」

次に、遠くなった小町の背中を騎士が追いかけようとする。

「彼女一人では不安ですからね。
それに私自身も虐殺を続けるあのロボットを止めたいと思っていたところです。
モモさんはどこか安全なところに隠れていてください」

モモにそう告げると、騎士もロボットとの戦いに赴いた。
その手にはあやのの支給品であった斬鉄剣が握られていた。
病院が崩壊する前の病室から拾い、彼女の忘れ形見として騎士が拾ったのだ。
鞘から太刀を抜き、騎士は一言呟いた。

「峰岸さん、この刀をお借りします!」

そうして騎士も去っていき、この場には東横桃子一人が残された。

「行ってしまったっす……
そういえば、黒子くんたちは無事っすかね……?」

ふと、他の仲間たちの安否がモモは気になった。
同じ病院にいた以上、仲間たちも被害を被ったはずである。
崩落から逃げ遅れでもしていたら命を落としている可能性もあるが。

「ひょっとして、この瓦礫の山に埋まって死んでるなんてことは」
「ちょっと、モモちゃんそれはひどいよー」
「僕たちだったらみんな無事ですよ」
「俺があかりや黒子を抱えて逃げたからな、片腕しか残ってねーから少し大変だったがな」
「!! みんな!」

振り返るとあかり、黒子、日之影の三人の無事な姿を拝むことができ、モモは安堵した。
ちなみに小町は最初から他の仲間の生存を信じており、あえて三人の安否を無視したのだ。

「ところでこまっちゃんはどうした? 無事なのか?」
「それは……」

日之影の質問にモモは視線を巨大ロボットに向けるという形で答えた。

「……なるほど、戦いに行ったってわけか。
なら、仲間としちゃあやるべきことは一つだな」
「へ? やるべきことって?」
「そりゃあもちろん、こまっちゃんと一緒に戦ってやることさ。
最も、腕一本しかないから彼女の援護が関の山だろうがね」
「戦いに行くってあんなロボット相手に!?」

あやのが目の前で死んだ件もあって若干怯えている様子のモモであったが、反対に日之影はあくまで陽気に答えた。

「敵のサイズなんて問題じゃねぇさ。 ただ、仲間である以上は助けてやりてえからな」
「日之影さん……」

そして、黒子やあかりも各々の支給品をディパックから出して戦いに備えているのだった。

「おいおい、おまえらは戦闘系キャラじゃないだろ。 無理して戦う必要はないんだぜ?」
「そう言う日之影さんだって右腕が無いのに戦おうとする無茶ぶりじゃないですか。
死出の羽衣とバスケの腕でどこまでできるかわからないけど、僕はできるだけ力になりますよ」
「ふっふーん、私なんて肉が武器でもあのロボットと戦っちゃうもんねー」
「ずいぶん大した自信だな、おまえら」

他の三人は戦う気満々であった。
その姿を見てモモも感化されてしまったのか、逃げようとする気は失せ、代わりに戦意が湧いてきていた。

「わ、私も戦うっす!」
「おいおい、おまえもか。 無理せず隠れててもいいんだぞ」
「今さら嫌っすよ、自分だけ逃げるなんて。
私は影の薄さと麻雀しか能がないっすけど、きっと小町さんたちのお役に立てるっす! だから戦うっす!」
「モモ……わかった、全員でこまっちゃんたちをサポートするぜ。 そうと来ればいくぞみんな!!」
「「「おーッ!」」」

日之影を筆頭に影薄たちも遅れて戦地へ足を運ぶことになった。
こうして六人の戦士が巨大ロボットに挑むことになる。

 ― ― ―


人類を守るために作られた巨大ロボット『イエーガー』。
その一機であるジプシー・デンジャーのコクピットにはマーダーコンビであるベンとゴゴがいた。
このロボットは元はキョンの支給品であったが、使用にはある問題を抱えていた。
二人乗りのイエーガーには操縦を円滑にするために互いの思考を繋いでしまうシステムがあるのだが、これにより知られたくない過去を見られてしまうなどの問題が発生してしまう。
このために自分や佐々木のプライバシーを守るために、キョンはこの強力な支給品の使用を渋ったのだ。
しかし、ベンと、ベンのモノマネをしているゴゴにはプライバシー程度などなんら問題ではなかった。
ゴゴに至ってはモノマネをし続けてきた結果、もはやベンのコピーとも言えるほど戦闘技術が似ているのでイエーガーの性能を100%発揮できている。
そして、ベンの目的は『殺戮』、ゴゴもそれをモノマネする。
そこへ、イエーガーという力が加われば、彼らの進む先に虐殺の嵐が吹き抜けるのだ。

この殺戮マシーンと化したジプシー・デンジャーに、影薄たちは、混沌の騎士は、小町は勝てるのだろうか? 果たして……?



【一日目・17時00/日本・大阪 病院跡地周辺】

【混沌の騎士@カオスロワ】
【状態】健康、記憶喪失(一部復活)
【装備】斬鉄剣@ルパン三世
【道具】支給品一式
【思考】
基本:殺し合いには乗らず、煉獄へ帰る
0:被害をこれ以上拡大させないために、ロボット(ジプシー・デンジャー)を止める
1:煉獄へ帰る前にこの世界で何が起きてるのかを知る
2:できれば記憶の詳細を思い出したい
※主催がバラまいた『何か』(ナノマシン)の存在に感づいています
※5期・6期のごく一部の記憶と、自分が煉獄にいたことを思い出しました


【小町と影薄な仲間たち】
【小野塚小町@東方Project】
【状態】尻が真っ赤、ダメージ(小)、服がボロボロ、怒り
【装備】斬魄刀『神鎗』@BLEACH、デスノート@DEATHNOTE
【道具】舟
【思考】
基本:バトロワに乗じて仕事をサボる?
0:あやのへの詫びも兼ねてあのロボット(ジプシー・デンジャー)を倒す
1:殺し合いに乗るにしろ、乗らないにしろ、影薄たちとは別れるべき?
2:殺し合いに乗るかどうかは一旦保留
3:どっかに安住の地はないもんかねぇ


【黒子テツヤ@黒子のバスケ】
【状態】顔が包帯でミイラ(顔の皮膚喪失)
【装備】なし
【道具】死出の羽衣@ 幽々白書
【思考】
基本:友人たちと生き残る
1:小野塚さんの援護をする


【東横桃子@咲-Saki-】
【状態】健康
【装備】不明
【道具】不明
【思考】
基本:加治木先輩や友人たちと生き残る
1:小町さんの援護をする
2:峰岸さん……


【赤座あかり@ゆるゆり】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】マムルの肉×2@風来のシレン
【思考】
基本:主人公らしく活躍する
1:小町さんと一緒にロボットを倒して主人公らしく活躍!


【日之影空洞@めだかボックス】
【状態】ダメージ(中)、右腕欠損(止血済)
【装備】不明
【道具】不明
【思考】
基本:主催者を倒す
0:こまっちゃんの援護をする
1:仲間を守る
2:↑の全部やらなくちゃあならないのが先代生徒会長の辛いとこだな。



【死人が出るぞぉ!! コンビ】

【ベン@D-LIVE!!】
【状態】健康、ジプシー・デンジャーに搭乗中
【装備】防弾ベスト@現実、猟銃@現実 、ジプシー・デンジャー@パシフィック・リム
【道具】支給品一式、クレイモア地雷@コマンドー
【思考】
基本:殺戮


【ゴゴ@ファイナルファンタジーⅥ】
【状態】健康、ジプシー・デンジャーに搭乗中
【装備】防弾ベスト@現実、猟銃@現実 、ジプシー・デンジャーの入っていたホイポイカプセル@ドラゴンボール
【道具】支給品一式
【思考】
基本:物真似をする
1:ベンの物真似をする


【江ノ島盾子@ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生 死亡確認】
【峰岸あやの@らき☆すた 死亡確認】
【大阪の病院や、その周辺にいた参加者×多数 死亡確認】
最終更新:2013年12月20日 04:59