「影が薄い」
これは、言うほうにはさしたる罪悪感も無い、中傷と言えるのかどうかすらもわからない言葉である。
だが、言われたものにとってはどうだろう。
それは大袈裟に言えば、この世界に存在することを否定されているかのような、
自分などいてもいなくてもどうでもいいと言われているような……
それは一度言われたら最後、いつまでも胸の奥で自分自身の存在を責め続ける。
ましてや何度も何度も、何人も何人もに言われればどうなるだろうか。
いや、本当のことを言えばもうすっかり慣れきっていたのだ。
「影が薄い」。確かにそれは事実に違いない。
何しろ自分以外の仲間と言えば腹黒や悪人、バカに独身など一言で言い表せる特徴があるが自分には無い。
これでは何のためにそこにいるのだと聞かれても答えることはできない。
あえて言えば、他の仲間達を際立たせるためだけに存在しているのだと、そう思っていた。
だからこの殺し合いが始まった時も、自分は目立った活躍などせずにただ自分の身だけを守ろうと思っていた。
あの、自分と同じピンクで影が薄い少女のことを思い出すまでは。
ジェットコースターのアトラクションから降りたムスカと楽太郎のチーム楽太郎は、とりあえず『拠点』にできる場所を探していた。
というのも、彼らはここでのツンデレコンビ捜索は長期戦になるだろうと踏んでいたからだ。
ツンデレコンビを探してやってくるのは自分達だけではないだろうし、この広い園内で居場所を特定するのは困難。
つまり、正確な情報を掴むまでは体力を温存しつつ他の参加者との戦闘を避けなければいけない。
「しかし随分と立派な施設だな。親子連れの馬鹿どもなどに使わせておくのは勿体無い」
「同感ですよムスカさん。高い金を費やして作っておきながら、やってることと言えばクソガキと馬鹿親とバカップルを喜ばせるだけ。
全く、この国ときたらどいつもこいつも腐りきってますよ」
「それよりもいい加減腹が減ったな。ここには食事を提供する施設などもあるのだろう?」
「じゃあ腹ごしらえと行きますか。今なら料金を払う必要もないでしょう」
パンフレットを見ながら最寄の食堂を確認する楽太郎。
二人がその音に気がついた時、すでにムスカの顔は矢で射抜かれていた。
「ああ、目が、目が!!」
ムスカは右の眼孔から流れ落ちる血を手で押さえている。この様子では治療のしようもないだろう。
矢を放った射ち手は、二本目の矢を構えたまま硬直していた。
「楽さん……」
長年付き合った仲間を前にして、その顔には恐怖すらも浮かんでいる。
「随分と手荒な真似をしてくれますねえ。影の薄い貴方がこんな積極的な行動に出るとは計算外です」
「楽さん、引いてください。あんたを殺したくは無い」
ピンクは恐れを隠さずに、しかし毅然とした声で警告した。
「殺す? 影の薄い貴方がこの私を?」
楽太郎はテレビの中で見せるのと同じ笑顔で答える。
『影が薄い―――』
その言葉を聴いたピンクの脳裏に、殺し合いが始まる前に出会った少女の顔がよぎった。
まだこの国の全ての人が平穏な生活を送っていた時。
たまたま収録の帰りに乗った電車の中で隣同士に並んだその少女からは、自分と同じ匂いがした。
少女の髪の色が自分の着物の色と同じだったのも運命的なものを感じた。
恐らく向こうもそう思っていたのだろう。どちらからともなく会話を初め、すぐに打ち解けあった。
「他の人たち、中でも私の両脇にいる人が濃すぎるから、私はいつまでも目立てなくて……」
「ええ、わかりますよそのお気持ち。私も、本当はメインキャラだったはずなのに
キャラが増えるに連れてどんどん隅に追いやられ……今では出番すらも……」
話を聞けば聞くほど、少女は自分と同じだと感じた。
世間からも、仲間からすらも相手にされず、自分の存在感が薄れていくのを待つしかない存在。
そんな意識を共有できたことによる安心感からだろうか。
決して女子高生に興味があるわけではないのだが、気がついたら
「もしよかったら、お名前をお聞かせ願えませんか?」
と言っていた。
しかしそれを聞いた少女は困ったように口を噤んだ。やっぱりイヤだったのだろうか。
まあ下心があると思われるのもイヤだし、あんまりしつこく聞くのもよそう、と思っていたら
「でも、次に会ったとき、あなたは私に気がつかないでしょう?」
そう、少女は言ったのだ。
「―――どうしました? 怖気づきましたか、影が薄い人」
楽太郎は相変わらず余裕の構えを崩さない。自分のほうに矢の先が向いているのにも関わらず、だ。
「ああ、目が、目が、目がああ!!」
「五月蝿いですよ」
楽太郎は激痛にうめくムスカを一瞥すると指を鳴らした。
人間を切り刻む音がして、ムスカは何本もの剣で串刺しにされた。
「なっ―――」
「驚きましたか? これが私の支給品ですよ。まあ私は魔力も無い普通の人間なんで、ほんの少ししか使えませんけどね」
これが楽太郎の余裕の正体だった。
完全に使いこなせないとはいえ、これだけの剣を投擲されれば普通の人間は避けることも防ぐことも不可能。
ましてピンクには弓の心得があるわけではない。さっきムスカに命中したのは偶然のようなものだ。
(勝負になりませんね。ここは逃げるしか……)
楽太郎に自分を殺す意思が無いのは明らかだった。
あっさり死なせたりせずに、より悲惨な目に遭うのを遠くから観察して楽しむ。そういう男だ。
例え背中を見せようとも、攻撃してくることは無い。が―――
『あなたは、私を覚えていないでしょう』
「楽さん。引くわけにはいかないんですよ。いつも保身なんか考えていては……誰の記憶にも残ることなんかできやしない!!」
ピンクは弓を引く。それを見た楽太郎はつまらなそうに笑い、さっきムスカを殺した時のように指を掲げ―――
「二人とも、目の前の敵を殺し終わったつもり!!」
チーン。
「ふう、あのおじさんたち、何とか殺し合いをやめてくれてよかったなあ」
そう嘯いてみるが、足はがくがくと震えているし喉もカラカラだ。
以前の自分ならこんな大胆なことは出来なかった。せいぜいその場から逃げるくらいだったろう。
殺し合いをやめさせる勇気をくれたのは、今は亡きスネ夫と彼が残した『ツモリナール』だ。
そしてもう一人……
「小杉君、僕やったよ。逃げないで、殺し合いを止められたよ」
ツモリナールを握り締めて、藤木は夜空を見上げてそこにいるはずの友人に語りかけた。
小杉は、藤木がトイレに行っている間に誰かに殺された。喉を掻き切られ、手首を切断されていた。
藤木はまた、何も出来なかった。
「でも、これからは僕一人でも、なんとかやって見せるよ。この殺し合いを止めて見せるんだ!!」
【
二日目・午後八時/某夢の国シンデレ○城付近】
【藤木茂@ちびまる子ちゃん】
[状態]:健康
[装備]:ツモリナール@
ドラえもん
[道具]:支給品一式
[思考]:
1:ツンデレコンビを揃えて主催をおびき寄せて倒す
2:殺し合いをしている人を「ツモリナール」で止める
【小杉@ちびまる子ちゃん 死亡確認】
どこをどう歩いたのか、気がつけば事務所のような建物の中にいた。
あまり前後のことを覚えていない。が、ひとつだけわかることがある。
「楽さん……」
殺さなければ自分が殺されていた。が、どんな理由があったにせよ、自分は大事な仲間を殺してしまったのだ。
もともと、殺し合いに乗ったからには皆殺しにするつもりだった。しかし、仲間まで殺すことは想定していなかった。
いや、目を背けていた、ということか。
しかし、こんなことでめげてはいられない。そもそも自分の目的はなんだったか。
優勝する。もしくは、ツンデレコンビを誰よりも早く捕まえる。
『影が薄い』と言われ続けた自分でも、そのくらいのことは出来るのだと証明してやるのだ。
もうこの世にはいない、あの少女のためにも。
『影が薄い』―――呪いの言葉だ。それは人一人の人生すら簡単に変えてしまう。
が、それでも自分は戦い続ける。
あの日、少女が名前を名乗る前に言った言葉が耳の中で木霊する。
『次に会ったとき、あなたは私に気がつかないでしょう?』
ピンクは言った。
「―――忘れません」
【二日目・午後八時/某夢の国どこか】
【笑点のピンク@笑点】
[状態]:健康
[武装]:アーチャーの弓@Fate/stay night
[所持品]:支給品一式
[思考]:
1:優勝するか、ツンデレコンビを捕まえる
2:それが叶ったらあのピンクの少女(名前は忘れた)を生き返らせてもらおう
※「ツモリナール」の効果で、楽太郎が死んだと思い込んでます
【三遊亭楽太郎@笑点】
[状態]:健康
[武装]:ゲート・オブ・バビロン@Fate/stay night
[所持品]:支給品一式
[思考]: 基本:生還して司会になる
1:殺し合いを長引かせるため、ツンデレコンビを殺す
※「ツモリナール」の効果で、ピンクが死んだと思い込んでます
最終更新:2008年05月05日 15:33