娯楽室。
美雪「うわあ、すごい。ドラムにギターに……本格的」
金田一「スゲー……このギター、一体いくらするんだ?」
唯「ふふん、ムギちゃんのお陰で五万円で買えたんだよ!」
金田一「たかっ!」
律「それでも安くしてもらえたんだよ。普通に買ったらその六倍くらいの値段は当たり前で……」
金田一「……はあ、俺だったらそんな金、全部ゲームに消えちまうよ」
唯「お、ゲーマーですか。なんのゲームするのかな?」
金田一「……聞いて驚け。バイオ2ならナイフのみで……」
唯「ええっ、すごいよ~」
金田一「ぬわっはっはっ」
律「……なんか、変な所で気が合ったな」
純(ああ、こうやっていつも練習から脱線してるんだ)
紬「じゃあ佐木さん、カメラを……って二つも持ちながら撮影は出来ませんかね?」
佐木「ああ、敬語じゃなくて大丈夫ですよ。カメラ二つは確かに辛いですけど……」
紬「んん~、じゃあ演奏しない……えっと、憂ちゃん」
憂「はい?」
紬「このカメラでみんなを撮影してくれない?」
憂「あ、いいですよ」
紬「ふふっ、お願いね。ここが録画で、ズームと……」
律「……おし、じゃあそろそろ始めるか!」
唯「お~!」
律「ワン、ツー、ワンツー……」
……。
唯「……笑わないで、どうか聞いて」
佐木「……」ジー
憂「……」ジー
美雪「……すごいね」
金田一「あ、ああ」
美雪「こんな風に何かが出来るなんて、うらやましいな」
金田一「そうかぁ~?」
美雪「そうよ。はじめちゃんだって、勉強もスポーツも出来ないけど、推理力だけは誰にも負けないし……」
金田一「美雪さん。誉めるか落とすかどっちかにしてくれ……」
唯「想いよ~、と~どけ」
美雪「音楽、かあ……」
金田一「……」
娯楽室には楽しげなメロディーが響いていて……外で激しく降り続いている雨なんて、俺たちの耳には入らない。
演奏をしているメンバーも、それを聴いている他の人間も……この音をもう聴く事が出来なくなるなんて、思ってもいなかった。
二階・客室前廊下。
美雪「でも本当にいいの? いきなり三人も泊まっちゃうなんて……なんだか悪いわ」
紬「気にしないで、部屋なら余っているから」
金田一「よかった~、フカフカベッドで寝られるぜ!」
美雪「もう……少しは遠慮しなさい」
律「まま、気にしない気にしない。賑やかなのはいい事だ」
紬「ええ。それに……雨もまだ止んでないみたいですし。外を歩くのは危険よ」
佐木「僕もそう思います」ジー
美雪「じゃあ、お言葉に甘えて……」
憂「あ、お姉ちゃんこっち向いて~」ジー
唯「えへへ、ピ~ス」
純(いいなあ、各々楽しそうで)
梓「純? どうかした?」
純「な、なんでもないよ~」
純「……」
純(……あれ、なんか私だけ会話に入れてない?)
澪「……」
純(先輩みたいに、人見知りってわけじゎないんだけどな……)
二階・純の部屋
合宿二日目、午前0時。
純(……)
純(眠れないや)
純(シャワーでも浴びようかな)
純(……あ、でもどうせだったら一階の大浴場にしよっかな)
純(……うん、それがいい)
純(梓に連絡、は迷惑かな)
純(仕方ない、一人風呂といきますか)
純(バスタオルだけ持って、と)
純(よし)
一階・大浴場
午前0時15分
純(……はあ)
純(合宿に誘われて来てみたけど)
純(なんだろう、この疎外感)
純(うう……)
純「……ダメダメ、こんなんじゃ」
純「せっかくの合宿なんだもん。楽しまないと!」
純「そうだよ、まだあまり話してないけど……新しい友達だって出来たんだから」
純「えへへっ。うん、ポジティブに行かないと!」
純「……そろそろ、部屋に戻ろっかな」
階段前
午前0時28分
純「~♪」
トン。
トン、トン。
リズムに合わせて、木造の階段を上がる。
一階から上り、踊り場でクルリと体の向きを半回転。
この階段を上って、右に曲がって……手前から二番目の部屋が、私の戻る部屋。
純(早く寝ちゃおっと)
階段を、一歩、また一歩……軽い足取りで上がっていく。
段差がなくなり、右に……そう思った瞬間。
「……!!」
純(え……)
誰かが、視界に入ってくる。
純(あ……)
そう思った一秒後には、その誰かが私の視界から遠ざかる。
上り終えたはずの階段を……私は。
その誰かを遠目に見ながら、背中に何もない空間を下りて……ううん、落ちていった。
ドッ。
頭の方から、鈍い音がした気がする。
音は、首の方からも聞こえたみたいだ。
純「……」
「……」
さっきまで私がいた階段の一番高い所には、じっとこっちを見ている一人の……。
ああ、私にはもう意識がありません。
もう何も、わかりません。
……。
一階・団欒室
二日目、午前11時過ぎ。
金田一「ふわぁ~あ。おはよっす」
律「おっす、はじめちゃん~」
澪「り、律。その呼び方……」
律「こういうのは、フレンドリーな方がいいんだよ」
美雪「はじめちゃん、もうお昼前よ?」
金田一「ん~、てっきり誰か起こしに来ると思ったんだけど……ほら、合宿なら早起きが当たり前だろうからさ」
梓「……ウチは、その当たり前が通用しないんですよ」
唯「むにゅ……むにゅ……」
憂「お姉ちゃん、また寝ちゃってる」ジー
佐木「先輩もほっといたら寝ちゃうんじゃないんですか」ジー
金田一「うるへー。カメラマンは、バッテリーの心配だけしてろい」
澪「……あれ? そう言えば鈴木さんは」
律「んあ? そう言えば来てないな~。まだ寝てんのか~?」
紬「そろそろお昼ご飯だから、起こしに行った方がいいかしらね?」
憂「そうかもしれませんね」ジー
律「お~し。じゃあ唯隊員!」
唯「すぴ~……」
律「……いいや。澪、行こうぜ」
澪「う、うん、わかったよ」
律「てわけで、ちょっくらいってきま~す」
五分後。
ドタドタ。
律「た、大変だ」
金田一「ん?」
美雪「一体どうしたの?」
澪「鈴木さんが……部屋にいないんだ」
梓「え?」
紬「いないって……バスルームは?」
律「一応見てきたけど、やっぱり見当たらないんだよ。部屋には誰もいなかった……」
金田一「……」
美雪「……は、はじめちゃん」
全体が沈黙する中で、雨がまた一段の強く窓を叩いた。
金田一「……手分けして探そう。この天気だ、外には出ないだろうから……」
美雪「じゃあ一階と二階で別れましょう」
一階には金田一と佐木が。
二階は女性部屋が殆どと言う事で、残りのメンバー(唯はソファーで熟睡)で探索する事に。
一階には中央の団欒室、そこから大浴場、調理場、客間、そして楽器が置いてある娯楽室の五部屋がある。
金田一「……と、一応色々探してみたものの」
佐木「見当たりませんね」ジー
金田一「ん~、隠れてそうな場所も探したし、後はやっぱり二階に……」
佐木「……あれ、先輩。ちょっと」
金田一「ん、どうした佐木」
佐木「……この階段の下に扉があるんですけど」
金田一「お、本当だ」
佐木「物置部屋かなんかですかね?」
金田一「スペース的にはそうかもな。お~し」
ガチャッ。
金田一「!」
佐木「階段……ですね。地下に続いてるみたいだ」ジー
金田一「ううっ、さぶっ。なんだ、この冷たい空気……」
佐木「きっと地下だからですよ。ここに……いるんですかね?」
金田一「わからん。とにかく、探すしかない」
佐木「……」ジー
金田一「さびぃ~!」
佐木「冷たいというより、冷気ですね。なんだろう、冷蔵庫でも入ってるんですかね」
金田一「うう……こんな所に隠れる訳はないよな……」
佐木「あ、もう階段も終わるみたいですよ」
金田一「……空間が開けた。ここは一体」
佐木「先輩、早く進んでくださいよ~」
金田一「ま、待て佐木。こう暗くちゃ足場が……って、押すなバカ!」
ガッ。
金田一「と、と……わっ!」
佐木「先輩?! 大丈夫ですか?」ジー
金田一「い、いてて……何かにつまづいた……」
佐木「……あ、電気のスイッチありましたよ。ほら」ジー
カチッ。
純「」
佐木「う……」ジー
金田一「う、うわぁああああ!」
佐木「こ、これは」ジー
金田一「……」
冷気の中で、寝巻きと、タオルを体に巻いて横たわる彼女は……本当に眠っているかのようにそこにいた。
寒さに震える事もなく、ただ静かに目を閉じていた。
最終更新:2011年05月04日 01:34