かき「ふぅ……」
かき「最終回の分を描き終えた……」
かき「あとは、コミックスの描き下ろしでけいおんともお別れだ」
かき「思い返せば、ここ1年は激動の人生だった」
かき「正直これを書き始めたときは自分でも面白いのかどうかわからなかったからな~」
かき「それでも、マンガが描けるってだけで続けていけたんだけど」
かき「まさかのアニメ化でここまでになっちゃうなんて……」
かき「京アニ様々だ」
かき「その分プレッシャーも凄かったけど……」
かき「でも、なんとか無事に終えることも出来た」
かき「……」
かき「もう、当分はいいかな……」
かき「そう言えば、今日はアニメの本編最終回のアフレコするとか言ってたっけ」
かき「スタッフの人にも是非見に来て下さいって言われたんだよね」
かき「……」
かき「ここは原作者として挨拶に行っておくべきだろうか……」
かき「いやいや……、そんな偉ぶらなくてもいいか……」
かき「それに、普段から出不精だから着ていく服もないし……」
かき「でも、最終回くらい顔見せてスタッフの人たちにお礼も言いたい」
かき「う~ん……」
かき「どうしよう……」
都内 某スタジオ
かき「思い切って来てしまった」
かき「やっぱり、挨拶くらいはしとかないとな」
かき「今のけいおんがあるのもアニメのおかげだし」
「ややっ!? かきふらい先生ではありませんか!」
かき「はっ、はいっ! こ、この度は最終回おめでとうございますっ!」
「来てくださってありがとうございます。ささっ、どうぞ中へ」
かき「お、お邪魔じゃありませんか?」
「滅相もない、先生はこのけいおんの生みの親なんですから。どうぞ遠慮なさらずに」
かき「生みの親より育ての親って言いますけどね……」
「何かおっしゃいましたか?」
かき「いえ……」
「ちょうど、今ラストシーンを録っているところなんですよ」
かき「はぁ……」
かき(ちゃんと色がついて、動いて喋るってやっぱりすごいな)
「先生も、もうマンガの最終回は描き終わっていらっしゃいますよね?」
かき「はい、あとは単行本の描き下ろしを形にすれば本当に終わりです」
「それはそれは。いや~原作と同時に終わるという展開もピタリとハマりましたな」
かき「そうですね」
「しかし同時に終わるからには、我々も先生の原作の足を引っ張らないよう大変気が揉めまして」
かき(それは、むしろこっちのセリフじゃ……)
「ですが若いスタッフ中心によく頑張ってくれたと思っております」
かき「ええ、それはもう」
『あ、私たちの曲、聞いてくれる?』
『ワンツッ!』
「はいOK!」
「お疲れ様でした~!」
豊崎「あ! 皆、かきふらい先生が来てる!」
寿「ご無沙汰してます」ペコリ
かき「あ、いえ……こちらこそ」
竹達(一番年下なのにあいかわらずシッカリしてるな~)
佐藤「なんか珍しいですね~」
日笠「上下ユニクロ……。ふふっ」
かき「……」
佐藤「ちょ! 失礼でしょ!」
かき(やっぱり来るんじゃなかったかな……)
・ ・ ・ ・ ・
「それでは、原作者のかきふらい先生から何か一言頂きたいと思います」
かき「えっと……、あの……」
日笠「頑張って、かき先生!」
かき「は、はひ!」
日笠「はひっ! だってwwww 緊張しすぎですよ~」
かき「……」
佐藤「ぴかしゃはちょっと黙ってましょうね~」
日笠「すまん」
豊崎「どうぞ、続けて下さい」
かき「う、うん」
かき「皆さんお疲れ様です」
かき「自分の書いたマンガがここまで世間の目に触れることになったのも
アニメのスタッフの皆様のおかげだと思っています」
かき「その……」
かき「どうも、ありがとうございまっし……」
竹達「噛んだ……」
かき「……ました」
日笠「なんていうか見た目通りですね」
豊崎「ところで先生。私たちこれから打ち上げに行くんですけど」
寿「先生もご一緒にいかがですか?」
かき「え、いや……」
竹達「一緒に行きましょ~」
豊崎「もしかして、何かこの後用事があるんですか?」
かき「別にないけど……」
佐藤「是非いらして下さい!」
かき「うん、じゃあ、まぁ……」
日笠「じゃあ決定! そら引っ捕えろ~!」
豊崎「それ~!」
かき(テンション高けぇ……)
竹達「あ、でも思ったより早く終わっちゃったからお店を予約した時間までまだあるよ」
日笠「よし、だったらその時間を利用してかき先生の服でも買いに行っちゃおう!」
かき「ええっ! 別にそんなのいいよ……」
豊崎「面白そうだね」
佐藤「はいはい! 私が選んであげたい!」
かき「ちょ……!?」
寿「あの……ご迷惑ですか?」
かき「う、う~ん」
日笠「お金なんて腐るほどあるんじゃないですか~?」
佐藤「生々しい話はやめ!」
かき「いや、そういう問題じゃなくて……」
某ショップ
かき「結局、流されて服買いに来てしまった……」
かき「こんなTシャツが平気で一万円超えする店なんて初めて来たよ……」
日笠「はいはい、次はこの服ね~」
佐藤「さぁさぁ、早く試着室で着替えてみて下さいね~」
かき「こ、こんなに……」
竹達「私もこんなの選んでみました!」
かき「はぁ……」
かき「わかったよ、じゃあ着替えるから」
日笠「別に覗いたりしないので、ゆっくり着替えて下さいね~。グッヘッヘ」
佐藤「もう! やだこの子ったらぁん!」
かき(もう疲れた……)
・ ・ ・ ・ ・ ・
かき「ど、どうかな……」
寿「似合ってますよ先生」
日笠「ぷっ……くくっ……かわいいですよ……ぶふっwwwww」
かき「……」
佐藤「こらこら、さすがに失礼だよ~」
豊崎「可愛いよりカッコイイの方が嬉しいんじゃない?」
日笠「そっか、じゃあ改めて……」
日笠「いや~ん、惚れちゃう~! もう私グチョグチョ~!」
竹達「ちょ! お客さん見てるから!」
かき(もう、どうでもいいや)
・ ・ ・ ・ ・
かき(服だけでこんなにお金払ったの初めてだ……)
豊崎「先生、大丈夫ですか?」
かき「あ、うん。大丈夫。あんまりこういうの慣れてないからちょっと疲れちゃったけど」
豊崎「ふふっ、お疲れ様です」
かき「でも、たまにはいいかもね。皆に連れてこられなかったら一生こんなところにはこなかったかもしれないし」
豊崎「だったら良かったです」
かき「まぁ、この買った服を着る機会はあるかどうかわからないけど」
日笠「ええ~! 折角私たちが選んだんですからちゃんと着てくださいよ」
かき「そ、そうだね。きっと着るよ」
かき「じゃあ、今日はありがと……」
佐藤「それじゃあ、そろそろ時間だし打ち上げ会場に行きますかー!」
かき(そうだった……)
寿「先生?」
かき「あ、いや、なんでもないよ。(これからが本番だった……)」
某居酒屋
日笠「ウッヘッヘッヘッヘ」
佐藤「いきなり出来上がり過ぎでしょ」
竹達「ちょっとは自重してほしい」
日笠「そんなこと言ってると、あやっちのそのたわわに実った果実をもぎっちゃうぞ~」
竹達「あ~~~れ~~~」
豊崎「オヤヂがいる~」
佐藤「先生こんな奴はほっといて楽しんで下さいね」
かき「は、はぁ……」
日笠「こらそこ! 暗いぞ!」
かき「ううっ……」
佐藤「あ、すみません店員さん。このホッケ注文お願いします」
日笠「おいおい、魚類同士で共食いかい?」
佐藤「ああ?」
寿「すみません先生。でも、この人普段からこんなんなんで仕方ないんですよ」
日笠「ちょっとちょっと! こんなんとは何だ!こんなんとは」
豊崎「見たままだよ」
日笠「ぐぬぬ……」
かき「いつもこんなに賑やかなの?」
寿「ええ、まぁ」
日笠「だったらみなちゃんもお酒飲んでもっと陽気にならなきゃ」
寿「でも、私、まだ未成年だし」
日笠「ああ? こんな団地妻みたいな風貌で未成年なんて笑わせるんじゃないよ!」
寿 ギロッ!!
日笠「ひぃぃぃぃっ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!
もう喋らないのでお許しをっ!!」
竹達(睨み一つで黙らせた)
豊崎(相変わらず凄いや……)
豊崎「なんだか騒がしくってすみませんね~先生」
かき「……」
豊崎「先生?」
かき「あ、ごめん。なんだか圧倒されちゃって」
豊崎「ふふっ。でも、楽しいでしょ?」
かき「そうだね……」
佐藤「先生は、こういうの慣れてらっしゃらないんですか?」
かき「大学のときも極仲間内でしかつるんだことなかったし
こんな大人数で飲むのは久しぶりかも」
寿「先生のお話聞かせてもらえませんか?」
かき「そんな……面白い話なんかないよ」
竹達「けいおんの誕生秘話とか」
豊崎「あ、聞きたい聞きたい!」
かき「え? 別にそんな大層なことはないよ」
佐藤「先生にはそうでも、私たちには面白い話かもしれませんよ」
寿「うん。裏話知りたいです」
かき「そんな裏話なんて無いよ。ただ昔から絵を描くのが好きで
おぼろげに漫画で食べていけたらなぁ、って思ってたら
たまたま芳文社の人から話があって、それじゃあって感じで」
豊崎「まぁ、始まりなんてそんなものですよね」
かき「それが気づいたらアニメ化なんて話になって
そのアニメもいいスタッフに恵まれてそのおかげで世間に広まったし」
かき「それに皆を見て改めて気づいたんだ。やっぱりけいおんはアニメのおかげでここまで大きくなったんだよ」
竹達「そんなことないですよ」
かき「いや、これだけバイタリティに溢れた人たちが作ったからこそ
こんな漫画も素晴らしい作品に昇華させてもらったんだって」
かき「ずっと家に引きこもって漫画描いてる奴のよりも
こうやって元気溢れる人たちの作品だからこそあれだけの盛り上がりがあったんだよ」
かき「本当に感謝しています」
豊崎「先生……」
佐藤「次回作なんかの構想はもう練ってあるんですか?」
かき「そんなものはないよ。もうこのけいおんで全て使い果たしたって感じだし」
かき「元々こんなに売れる漫画家でもないと思ってるしね」
かき「正直燃え尽きたって言うか……」
かき「って、ごめんごめん。なんか折角の場が湿っぽくなっちゃったね」
豊崎「いいんですよ。そうやって愚痴こぼすのも。そういう席なんですから」
寿「なんだか漫画を描かれるのも大変なんですね」
竹達「それはそうでしょ、なんせ才能が無きゃやっていけないんだもん」
かき「……そうだね」
かき(全く以ってその通りだと思う。ただ運が良かっただけだ)
日笠「先生って、けいおんのキャラで言ったら澪って感じですよね
なんか引っ込み思案なところとか……」
かき「ああ、まぁ……」
寿 チラッ
日笠「ごめんなさい、勝手なこと言いました。もう黙ってます」
竹達(なんかトラウマになってる……?)
佐藤「あんたは正反対だけどね」
豊崎「そういえば先生も左利きなんですよね」
かき「うん。なにか自分の体験でネタになることはないかなって考えた結果
そうだ左利きの子を登場させて、左利きだからこそのエピソードを描こうかなって思って」
佐藤「それで、澪を左利きにしたと」
かき「最初は澪に感情移入し過ぎてバランス取るためにちょっと苦労したけどね」
豊崎「漫画のあとがきなんかは澪が多かったですもんね」
竹達「性格とかもご自身をモデルに?」
かき「恥ずかしながら……、ただあんなに暴力的ではないけどね」
寿「そっか。先生を見て何か誰かに似てるなって思ってたけどそれって澪のモデルだったからなんですね」
かき「モデルって……まぁ内面だけは」
寿「ちゃんとお化粧したら澪になっちゃうかも」
佐藤「あ、それ面白そう」
かき「それは勘弁してほしいかな……」
寿「冗談ですよ、うふふ」
かき(服のときもそうだけど、やり兼ねないから恐い)
豊崎「じゃあ、やっぱり一番思い入れのあるキャラは澪ってことに?」
かき「確かに最初はそうだったけど、描いてる内にやっぱり皆に愛着が湧いたっていうか」
かき「そう、皆自分の娘みたいなものだから。順番は決められないよ」
「おお~~……」
かき「って……ちょっと語り過ぎたし臭すぎだね……。なんか恥ずかしいな……」
日笠「フヒヒ、やっぱり澪っぽいですよ。先生」
佐藤「なんか蘇った」
かき「……」
・ ・ ・ ・ ・
日笠「よっしゃ~二次会行くぞ! 二次会!」
佐藤「明日はオフだ~! 騒ぐぞ~!」
豊崎「ごめん、私はここまでで」
寿「愛生ちゃん明日朝から仕事だっけ?」
豊崎「うん、ごめんね」
日笠「仕方ないなぁ~。先生はもちろん来ますよね!」
かき「あ、えっと……」
かき(あんまり行きたくないな……)
竹達「先生?」
豊崎「先生さっきから気持ち悪いって言ってたの大丈夫ですか?」
佐藤「そういえばさっきから元気なかったですね」
かき「ごめん、ちょっと飲み慣れてないから……」
豊崎「あ、じゃあ、私先生を送っていきます!」
日笠「もう、あっきょはいやらしいんだから~」
佐藤「こらこら」
竹達「じゃあ、愛生ちゃんお願いしてもいい?」
豊崎「お任せあれ!」
寿「それじゃあ、お疲れ様」
佐藤「まったね~ん」
豊崎「うん、お疲れ様」
豊崎「じゃあ、行きましょうか」
かき「う、うん」
日笠「いよっ! ご両人。熱いよ!」
最終更新:2011年05月05日 22:56