※澪
【間違いだらけの】
ピンポーンと、インターホンの音だけが夜に響く。ちょっと家族さんに迷惑じゃないかな? 呼ばれたから仕方ないんだけど。
とか思ってると、すぐにドアは開いた。
澪「ようこそ、上がってくれ」
唯「うん……」
そのまま、澪ちゃんの部屋へ。澪ちゃんはボスンと音を立ててベッドに座り、隣を叩く。
唯「おじゃまします……ってのもヘンかな」
澪「ヘンじゃないよ。唯なら何もヘンじゃない、全部可愛いよ」
唯「テレるねぇ~……じゃなくって、もう! マジメな話をしに来たんだよ!?」
澪「私は真面目だよ。過去にも何度か唯は私に辿りついたことがあったけど、今の唯が一番可愛い」
唯「辿りついたって言うか、澪ちゃんが一番変わったからね……そういうセリフを恥ずかしげもなく言えるところも」
澪「私を変えたのは唯だよ。……最初の世界の唯は、私の目の前でいなくなったんだ」
唯「えっ……」
澪「何が起きたのか、理解したくもなかったし認めたくもなかった。でもそれが現実だった。受け入れて、理解して認めて、私はこの世界を創ろうとみんなに持ちかけた」
唯「澪ちゃん…」
澪「唯はいずれいなくなる。そう認めて、私は変わった。自分の気持ちを隠さず、どんどん唯にぶつけた。だってそうしないと後悔する! 絶対に!! もうあんな思いはしたくない!!!」
唯「……ごめんね、澪ちゃん」
澪「いいんだ、唯は何も悪くないんだから」
唯「ううん、そうじゃないよ。澪ちゃんの話を聞いても、私はやっぱり、この世界は…間違ってると思うから」
澪「…そうか。いやぁ…私を否定されたはずなんだけど、唯なら腹は立たないな」
唯「ごめんね、澪ちゃん」
澪「私のほうこそゴメンな、唯。言いにくいんだが、そういうことなら私を選んだのは間違いだよ」
唯「え……っ!?」ドサッ
気がつけば澪ちゃんにベッドに押し倒され、上から押さえつけられていた。
……って、ええ!? なにこの状況!?
澪「……今、家に誰もいないんだ」
唯「み、澪ちゃん、そういう冗談は……!」
澪「冗談じゃないし、それに勘違いしてるよ、唯は」
唯「……どういうこと?」
澪「うん、だから私は唯を襲うつもりなんて毛頭なくて」ガチャリ
唯「ないならなんで私を手錠でベッドに繋ぐの!? っていうかなんでそんなの持ってるの!?」ガチャリ
澪「そして家に誰もいないってことは、誰も気づかないし助けに来れないってこと」
唯「なんかあんまり勘違いじゃないような気が――って澪ちゃん、それ何…?」
澪「ポリタンク」
唯「中身は?」
澪「よく燃える液体」バシャバシャ
……え、ちょっと待って、なにそれ、澪ちゃん、もしかして……
唯「…私を燃やすの?」
澪「この世界が繰り返す『条件』を教えてあげようか、唯」
唯「ねえ、澪ちゃんってば……!」
澪「誰か一人でも死ねば、世界は繰り返す。振り出しに戻る。私達はそう設定した。結果的に、だけどね」
唯「聞いてよぉっ!!」
そうか、澪ちゃんは私を……殺すつもりなんだ。
私が、澪ちゃんと対立したから。澪ちゃんの思いと相反する行動を取ったから。澪ちゃんの思い通りにならなかったから……
唯「やめて澪ちゃん! 助け――」
助けて、と言おうとして思い出す。私は元々、最終的に消えても構わないという覚悟をして、ここに来たはずじゃなかったか。
なら……別に、ここで澪ちゃんに燃やされること自体は問題じゃない。問題は、さっき澪ちゃんが言ったこと。
私が死ぬことで、また世界が繰り返してしまうこと。
私は…きっと、間違った。
唯「……澪ちゃん、教えてくれる? 私はどうすれば、この世界を終わらせることが出来たの?」
澪「誰も死ななければいいんじゃないか?」
唯「…もし私が、真実に気づかなかった場合はどうなるの?」
澪「私達がいろいろ試した結果、どうやったとしても唯が死ぬ未来は変わらなかったよ。だから私はいっそ今、唯を殺してしまおうとしてるんだ」ガチャリ
唯「……? 澪ちゃん、なんで自分にも手錠を?」
澪「唯も一人は嫌だろ? 私も一緒に逝くよ」
唯「なっ…!? そんな、ダメだよ澪ちゃん! 私だけでいいよ…! 私が間違ったんだから…!」
澪「これは私のワガママだよ。私だって、唯を手にかけること、罪悪感が無いわけじゃない……せめてこの身で、少しくらいは償わせてくれ」ガチャリ
唯「ダメだよ! 私は忘れちゃうけど、澪ちゃんは忘れないんでしょ!? きっと、すごく苦しいよ…!」
澪「忘れないよ。忘れてなるものか。唯の痛みも、苦しみも、私が手を下す以上、私が忘れていいわけが無いだろ…!」
唯「澪ちゃん、澪ちゃんっ…! お願いだから…!」
澪「ゴメンね、唯。きっと、すごく熱くて、すごく苦しいよ」シュボッ
唯「澪ちゃんのバカぁっ!!!!」
澪ちゃんの手から、ライターが滑り落ちて。周囲はあっという間に火の海。
ベッドに手錠で繋がれた私と、そこからさらに手錠で自分の腕を繋いだ澪ちゃんに、逃げる術なんてあるはずもなく。
熱い、苦しい、コゲ臭い、そんな全ての感覚は、とうの昔に通り過ぎて。
終わりがもう目の前に見えてきた頃、澪ちゃんが私に囁いた。
澪「……唯、少しだけヒントをあげる」
唯「え…?」
澪「もし、次があって、何かの奇跡が起きて、私とのことを覚えているなら私を選びはしないだろうけど…」
澪「それでも、唯は半分は正解だよ」
エンド1『微笑みだけを残して』
最終更新:2011年09月11日 15:25