さわ子「はいっ、ここで一旦ストップよ!」
梓「で…誰が囮になるんですか?」
律「そりゃあお前…梓だろ」
梓「なっ、何で私なんですか!?」
律「だって一番後輩じゃん?危険をおっかぶるのは若手だろ~」
梓「そ、そんなのひどいです!律先輩が行ってくださいよ!部長なんだし!」
律「何をう!?部長の身に何かあったらどーする気だ!?」
梓「次期部長の身こそ大事です!未来の軽音部に響きますよ!?」
律「い、言うようになったじゃないか…!」
唯「んじゃ私が行こうか?」
律梓「それはちょっと」
唯「ええ~!?」
さわ子「さっさと決めなさいよ~」
律「じゃあさわちゃんが行ってくれよぉ!」
さわ子「先生が生徒用のトイレを使うわけにもいかないでしょう?もしいたずらだったとして、先生にまでやるとは思えないし」
紬「私が行こうか?」
梓「むぎ先輩は駄目です!」
紬「え?どうして?」
梓「だ、だって…な、何か駄目なんです!ね?律先輩?」
律「ううん…確かにむぎは…駄目だな」
紬「?」
唯「やっぱりここは私が一肌」
律梓「脱がなくていいです」
唯「えええ~!?」
律「何だよ梓~、もしかして怖いのか?情けないな~、お子ちゃまだな~?」
梓「…そうです!私、すごく怖いです!」
律「なっ!?」
梓「その口ぶりから察するに、律先輩は怖くないんですよね?じゃあお願いします!行ってきて下さい!」
律「い、いや、今のはその…」
梓「私は怖がりなんで、怖がりじゃない律先輩、囮になってきてください!」
律「あ、あうう……わ、わかった!行ってきてやろうじゃんか!」
唯「おおー!頑張れりっちゃん!」
紬「頑張って~♪」
梓「藪を突付いて蛇を出す」
律「うるせーなかの!」
律「じゃ、じゃあ行ってくるからな!ちゃんとここにいろよな!?な!?」
梓「大丈夫ですからちゃっちゃと行ってきて下さいよ~」
律「な、中野ォ…」
紬「大丈夫よ。何かあったら大声を出して知らせてね。あ、ちゃんとおしっこもしてね?」
律「あんましたくないんだけどなあ…おしっこ、しなきゃ駄目か?」
紬「大きいほうでもいいんだけど…」
律「そういうことを言ってんじゃないって!」
紬「ふふっ、ごめんね。でも唯ちゃんも澪ちゃんもおしっこをしている時に感じたわけだから、その方がいいと思うの」
律「そっか…そうだよな、おしっこしたほうが自然だしな…わかった、行ってくる!」
さわ子「てきとーに頑張ってね~」
律「…はぁ、やだなーちくしょー」
ガチャッ
律「さーて、一発おしっこしでもてすっきりするかー!」
律「(不自然な独り言だ…ああ、また藪蛇だなこりゃ…)」
律「(さて、と…澪がぶっ倒れてたところがいいんだよな?)」
ガチャッ
律「(……そういや片付けしてなかったなあ。床が妙に濡れてるし…)」
カラカラカラ…ぐいぐいっ
律「(…普通におしっこして、終わったらすぐ出て来ていいんだよな?だったらさっさと済ませたほうがいいな)」
律「んしょ…っと」
シュルッ
律「(んん…風とかは全然感じないよな…?てことはやっぱり…いたずら説が有力か)」
ちろっ、ちろちろっ
律「(あんま出ねーなあ…)」
ヌッ
さわん
律「ひっ!?」
さすさすさす
律「ななななななな…」
ぐにゅん
律「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!」
梓「何か聞こえました!」
さわ子「気のせいじゃない?」
バタン!!
律「ひあああああっ!?うお、うあああああああああっ!?」
ドタン!
梓「律先輩!?」
さわ子「あ、やっぱりりっちゃんの声だったのね」
律「お、大声出せば来てくれるんじゃなかったのかよぉ!?」
紬「ごめんね、意外とこっちまで響かなかったの~」
律「は、薄情者ぉ…」
梓「あ!は、犯人!逃げられちゃいます!」
紬「そうだわ!行きましょう、梓ちゃん!先生!」
さわ子「よしきた!」
梓「はいです!」
律「ま、待って、待てって…そ、その必要は、ないから!」
紬「え?」
梓「必要がないって…いたずらじゃなかったってことですか?」
唯「ってことは…やっぱり気のせい?」
さわ子「だとしたらりっちゃんビビりすぎよ?ショーツが足に絡まったままだし…」
梓「あ、本当だ」
紬「まあまあ~♪」
律「ち、違わい!風やらなんやらでこんなになるかよっ!」
紬「ということは…ええ!?」
律「そうだよ!本当に便器から手が出てたんだよ!」
唯「よっしゃあー!!」
梓「ガッツポーズ!?」
紬「ほ、本当に!?布巾とかそういうのの感触じゃなかったの!?」
律「ああ…間違いない。あれは…あの動きは手だ」
梓「…それこそ勘違いじゃないんですか?手で触るように布巾を動かしたとか…」
律「布巾が私の尻を掴むのか?」
梓「つか…!?」
律「そうだよ!私は確かに…お尻を掴まれたんだ!指の一本一本に…力が入っていた」
さわ子「隣の個室から手を伸ばしたという可能性は……ないわね。腕が通るほどの隙間じゃないし」
律「うん。それに手の位置も…ちょうど便器の中から上に向かって、こう、手を伸ばした感じだったし」
紬「じゃ、じゃあやっぱり…」
唯「トイレの神様のしわざだ!」
梓「神様はそんなことしません!」
さわ子「これはまたどうも…面白いことになってきたわね」
律「面白がるなっての!あー、肝が冷えたー」
紬「と、とりあえず…部室に戻りましょう?対策を練らないと…」
唯「そうだねぇ、神様を捕まえないといけないもんね」
梓「さらっと畏れ多いこと言いますよね…」
紬「捕まえるかどうかはともかく、何とかしないと。澪ちゃんがおびえてお手洗いに行けなくなっちゃうわ」
律「だなー。この話をした時点でトイレ行けなくなるような気もするけど」
さわ子「…じゃあみんな、後はよろしくね。私は職員室に戻るから」
梓「他の先生に話してくれるんですか?」
さわ子「ううん。今日やった小テストの採点しなくちゃいけないから…」
梓「えっ!?じゃ、じゃあトイレの話は…」
さわ子「まさか~、こんな馬鹿みたいな話、他の先生方に出来るわけないでしょ?だからあなたたちだけで何とかしてね?ばっはは~い!」
すたこら
律「…逃げたな」
ガチャッ
澪「あ、お、お帰り…」
唯「たっだいま~!おっ!澪ちゃんジャージだね!」
澪「ふ、服のことには触れないでくれ…で、どうだった?」
律「んあー、やっぱり便器から手が生えてたみたいだわー」
梓「はい。律先輩はお尻をわしづかみにされたそうです」
澪「…ひうん!」
すとん
梓「例によって失神です…」
律「ああもうほっとけほっとけ!どうせ起きてても戦力にはならん!」
紬「とりあえずお茶淹れるね~♪」
律「あー、頼むわ…喉がカラカラだぁ…」
律「おふぅ………んで、どうするよ?」
唯「このままだとおしっこするたびお尻をわしづかみにされちゃうもんねえ」
梓「そ、それは物凄く嫌ですね…」
紬「そうよね…冗談じゃないわ、何様のつもりなのかしら!」
唯「むぎちゃんも怒ってるよ!」
律「なんかベクトルが違う気もするが…まあいいや。で、具体的にどうする?」
梓「…というかそもそも、その手は一体何なんですかね?」
唯「トイレの神様だよ!」
梓「…そのフレーズが気に入っただけですね?」
唯「うん!」
律「でも…人じゃないよなあ?」
梓「やっぱりおばけですかね…?」
唯「あ!あのね!下水道にはすごく大きいワニが住んでるらしいんだよ!」
梓「はい?」
唯「あのね、昔ペットのワニを捨てた人がいてね、そのワニが下水道の中で大きく成長したんだって~!」
律「ああ、何か聞いたことあるな…でもそれ都市伝説だろ?」
唯「え~?でもテレビでやってたんだよ~?」
梓「…で、結局何が言いたいんですか?」
唯「だからね、トイレの下の下水道に…いるんだよ!」
紬「何が?」
唯「大てながざる!」
律「却下ー」
唯「えぇー?」
唯「下水道に住む大てながざるが下水管にその長い腕を入れて…」
律「まあ、正体とかは後回しだ!まずは目の前の問題を解決することだな!」
梓「そうですね。で、どうしましょうか?保健所に連絡するとか…」
紬「難しいところだと思うわ。さわ子先生が言っていたように、事態はあまりに荒唐無稽だもの。信じてもらえるとは思えないわ」
梓「まあ…そうか、そうですよね…」
律「私らで何とかできればいいんだけどなあ」
唯「じゃあ捕まえよう!」
梓「…危険じゃないですか?」
唯「大丈夫だよ!お尻を触るだけだから、きっと大人しい大てながざるだよ!」
紬「ううん…確かに捕まえられれば手っ取り早いけど…」
紬「でも捕まえるとなると…また囮が必要になるよね」
律「梓!」ぽん!
梓「ええっ!?い、嫌です!絶対に嫌です!」
律「何だよ~、私が行ったんだから今度はお前だろ~?」
梓「だ、だって律先輩の時と今度とは違うじゃないですか!」
律「違わないって!トイレでおしっこするだけだって!」
梓「その後で確実におばけに触られるじゃないですかぁ!」
唯「囮だから、捕まえられるまでずっと触られ続けなきゃだしね」
梓「嫌です!怖いです怖いですぅ!」
紬「ううん…困ったわ…」
コンコン、ガチャッ
和「ちょっといいかしら?」
唯「あ、和ちゃ~ん!」
律「おーす。どしたー?」
和「唯の教科書が私の荷物に入ってたから持ってきたのだけど…どうして澪はジャージで寝てるの?」
唯「失神してるんだよ!」
和「…何故?」
律「んまあ…色々あってな」
唯「大てながざるにお尻を触られたんだよ!」
和「…なるほど、よくわかったわ」
律「流すな流すなー」
最終更新:2011年06月08日 19:58