――さわ子の車の中
さわ子「シートベルトは締めた?」
○○「はい」
梓「はい」
さわ子「じゃ、出発ね。まずは梓ちゃんの家に行きましょう」
ブロロロー
○○「……」
梓「……」
梓(さわ子先生に無理やり後ろの席に座らされたけど……○○さんも後ろだなんて)
梓(距離が近い……)
梓(それに話ができないなあ。何を話せばいいんだろ)
梓(練習中は話せるんだけど……)
○○「あの、中野さん」
梓「は、はい!」
○○「今日はありがとう。手助けしてくれたんだよね」
梓「い、いえ。そんな……」
○○「最近は他に練習する場所が確保できなくって、困ってたんだ。あそこを使わせてもらって、本当にありがたい」
梓「……普段はスタジオを借りてるんですよね。あ、前にも聞きましたね、これ」
○○「うん、だね。スタジオって高いから、1人で借りるのはきついんだよねえ」
梓「普通はバンドメンバーみんなで借りるものですし」
○○「スタジオで1人練習してると、なんだか寂しいしね。今日はさわ子先生と中野さんがいてくれて、本当に楽しかったよ」
梓「い、いえ、私は何もやってませんし……」
○○「聴いてくれてるだけでも結構違うから」
梓「次に部室が使えるのはいつなんでしょうか」
○○「それはさわ子先生次第だね。どうなんですか、先生?」
さわ子「んー、今週はもう無理かも。明日から連日、放課後に会議があって、長引きそうだから」
梓「そうなんですか……」
○○「じゃあ仕方ないですね」
さわ子「ごめんね。また来週になるわ」
○○「いえいえ」
梓「残念ですね」
――梓の家の前
梓「ありがとうございました、先生」
さわ子「いえいえ。また明日ね」
梓「はい。○○さんも……私、またお手伝いしますね!」
○○「ありがとう」
さわ子「じゃあねー」
ブロロロロー
梓「……」
梓(楽しかった、かな)
――さわ子の車の中
さわ子「……」
○○「……」
さわ子「楽しかった?」
○○「……はい」
さわ子「あの子、多分これからも来てくれるでしょうね」
○○「はい」
さわ子「……色々と言わなくてもいいの?」
○○「余計な心配はかけたくありません」
さわ子「あら、私にはいいの?」
○○「先生は先生ですから」
さわ子「……ま、そうね。先生と友達じゃ、色々と距離感が違うもんね」
○○「はい」
――火曜日 放課後 部室
梓「唯先輩! 練習です練習!」
唯「あーうー、あずにゃんが厳しいよー」
律「梓の奴、どうしたんだ? すっげーやる気だな」
澪「いいことじゃないか……と言いたいけど、ちょっと焦りすぎてるな」
紬「何かあったのかしら」
唯「あれ? この楽譜、なんだろー」
ペラ
唯「びーとるず?」
澪「ビートルズの『カム・トゥゲザー』か」
律「ギター用のスコアだな」
梓(あ、それって昨日の……○○さん、忘れていったんだ)
唯「誰のー?」
澪「知らないな」
律「私でもないぞ」
紬「私も」
梓「あ、私のです。たまにはこういう曲もいいかなって……」
唯「へー。どういう曲なのー?」
梓「リズムが独特で……ゆったりしてるけど、そのゆったり感を出すのが肝の曲ですね」
唯「おもしろそうだね。んー、ちょっと弾いてみようかなあ」
梓「あ、じゃあ私もお手伝いします」
律「私らは一緒にできないか」
澪「ギタースコアだけじゃあなあ」
紬「今度楽器店に行った時にバンドスコアも買ってみましょうか」
律「いいねー」
澪「ビートルズか。私たち、あんまり弾いたことないな」
ジャカジャカ♪
唯「んー、こんな感じ?」
梓「は、はい。唯先輩、初見でこれだけ弾けるんですね……」
唯「あずにゃんのおかげだよー。私1人じゃ楽譜全部読めないもん」
梓(すごいなあ、唯先輩。ちゃんと練習すればすごく上手になるのに)
梓(もったいない……)
唯「けど、リズムが取りづらい感じだね」
梓「ドラムとベースがあればもう少し楽ですよ」
梓(そういえば○○さんはドラムなしなのにリズム取り完璧だったなあ)
梓(けど、所々コードミスもあったし)
梓(1度の練習だけじゃ、○○さんの実力よくわかんないや)
唯「あずにゃん、考え事?」
梓「え? あ、すみません。次ですね」
唯「何考えてたの? 今日のおやつ?」
梓「違います。ギターについてですよ」
唯「おー、あずにゃん、今日はほんとにやる気満々だねー」
梓「いつもそうですよ」
唯「いやいやー、あずにゃんも成長したんだねえ」ナデナデ
梓「……頭を撫でないでください」
律「そだぞー、成長が止まるからな」
梓「そんなことありません!」
――皆でセッション中
ジャジャジャ、ジャン!
律「ふぅー、今のは良い感じだったな」
澪「ああ。梓と唯のギターが引っ張ってくれたな」
紬「弾きやすかったわあ」
唯「えへへー」
梓「ど、どうもです」
律「んじゃま、今日はこのぐらいにして帰るかー」
澪「もうすぐ下校時間か……うぅ、早く帰ろう」
紬「あらあら、澪ちゃん、まだ幽霊のこと引きずってるの?」
澪「引きずるなって言う方が無理だ……」
唯「あずにゃん、忘れ物しちゃ駄目だよ?」
梓「大丈夫です、今日は取りに戻ることなんてありえませんから……」
――夜 梓の自室
梓「よっと。そろそろ寝ようかな」
梓「わー……ベッド気持ちいい……」
梓(今日はいっぱい練習できたなあ)
梓(普段からあれぐらいしてくれたらいいのに)
ゴロゴロ
梓(……○○さんは練習できてるのかな)
梓(そう簡単にスタジオは借りられないだろうし、できてないのかも)
梓(それに、ずっと1人で練習してて……私みたいにバンドで合わせたりもできない)
梓(……)
梓(なんとかしてあげたいなあ)
梓(……)
梓(あれ?)
梓(私って世話焼きだったのかな)
――水曜日 昼休み 学校
純「梓、考え事?」
梓「へ?」
純「なんか今日はぼんやりしてるよ」
憂「だね。話しかけても上の空だし」
梓「そ、そうかな?」
純「なんかあったなら、私たちに話してみ?」
憂「力になるよー」
梓「う、うーん」
梓(そんなに考え事してたかな……うん、してたかも)
梓(ちょっと相談してみるかな)
梓「あのね」
純「ん?」
梓「もし家や学校でギターの練習ができなかったとして、他の練習場所って思いつく?」
憂「練習場所? 梓ちゃん、練習場所がないの?」
純「それはないでしょ。いっつも放課後はけいおん部に行ってるのに」
梓「ただの例え! うん、例え話!」
純「ふーん。そうだなあ……家と学校以外なら、スタジオとか公園とか? 音のこと気になるなら都会じゃなかなかねえ」
憂「あれ? けどエレキギターってヘッドフォンつけての練習もできるよね」
純「んー、梓の言うギターってエレキだよね?」
梓「うん」
純「だったら自分の部屋使って練習もできるはずだけど……そもそも家でも学校でも練習できないって、どういう理由?」
梓「さ、さあ?」
純「さあって……梓の考えた例え話でしょ?」
梓「そこまで深く考えてなかったから……」
純「なんだそりゃ」
憂「あ! カラオケボックスとかどう?」
梓「……それって店の人許してくれるのかな」
憂「どうだろー」
純「結局、楽器って練習場所に困るもんだよねえ」
梓「まあ、音が出るものだし……」
純「トランペットとか、防音設備ないとちゃんと音出せないからね。ジャズ研の子も外で練習できないって困ってたなー」
憂「お姉ちゃんは家でできるから安心だね」
梓(なかなか場所ってないなあ……けど、カラオケボックスは今度提案してみようかな)
最終更新:2011年07月30日 16:03