――大部屋
梓「……」ズーン
澪「なあ、梓、元気出しなよ。大丈夫、○○さんは見てないって言ってたじゃないか」
梓「見られたに決まってるじゃないですか……もう駄目です。お嫁にいけません」
澪「何言ってるんだ。好きな人がいるんだろ? その人のお嫁にいきたいと思うぐらいじゃなきゃ」
梓「……私なんかじゃ」ボソッ
澪「梓?」
梓「……私、自信がないんです」
梓「私はこの通り、見た目もちっこいし、身体は平坦で、しかも口うるさいし……」
梓「到底男の人が好きになるような女の子じゃありません」
梓「水着になりたくなかったのは、恥ずかしさももちろんありましたが……」
梓「こんな貧相な身体を先輩の前に出したくなかったんです」
澪「梓……」
梓「告白も同じです。告白のことが頭によぎるたびに、『今は練習に打ち込みたい』と自分に言い訳してきましたが、私は」
梓「自分に自信がありません……」
梓「せめて、澪先輩みたいに綺麗だったら、自信も持てたのかな」
澪「そんな風に考えるのはやめた方がいいぞ、梓」
梓「……でも」
澪「○○さんと仲良くなったのは今の梓じゃないか。もっと自信を持っていいんだ」
梓「……無理ですよ」
梓「私、考えたんです」
梓「もし○○先輩に告白して、断られたらどうなるかって」
梓「気まずくなって、もう2度と一緒にギターを弾いてはくれないかもしれない」」
梓「一緒にご飯も食べてくれないかもしれない」
梓「それは……とても怖いです」
梓「だから、思ったんです」
梓「一緒にいられるなら、このままの関係で……先輩後輩の関係でもいいかなって」
梓「私みたいな子供じゃ告白しても断られる可能性が高いから、告白しない方がマシです」
澪「梓……」
梓「臆病者ですね、私。けど、○○先輩と一緒なら、臆病者のままでもいいかなって」
澪(知らなかった。梓がこんなにも○○さんを好きだなんて)
澪(私がさっき感じた、ちょっといいなって思うようなレベルじゃない)
澪(梓は心の全部を賭けられるほどの恋をしてるんだ)
澪(私たちはその気持ちを軽く見てた)
澪(……けど、その気持ちが重いからこそ、きっと梓は)
澪「なあ、梓」
梓「はい」
澪「梓が先輩後輩の関係のままでいい、って言うなら、私は反対しない」
澪「だけど」
澪「いつか、自分の気持ちを抑えられない時が来ると思うんだ」
梓「抑えられない……?」
澪「好きだって言う気持ちで一杯になって、溢れるような……私はそこまでの恋をしたことがないから、上手く言い表せないけど」
澪「自分の気持ちを相手に伝えたくてしょうがなくなる時が、きっと来る」
澪「その時は自分に素直になってやってほしい」
澪「じゃないと、梓の心の中の気持ちが、かわいそうだから」
梓「……分かりました」
澪「よし! じゃ、行こうか。○○さんが一緒に練習しようって誘ってくれてたぞ?」
梓「先輩が!? 今すぐ行きます!」ダッ!
澪「ちょ、梓! ギター! ギター忘れてる!」
――練習部屋
○○「あ、2人とも来たか。遅かったね」
梓「ど、どうもです」
澪「あれ? 唯たちもいるのか。海はどうしたんだ?」
唯「だってー、3人だけで遊んでてもなんだか楽しくないんだもん」
律「お前たちが来ないからだー!」
紬「私1人で遊んでても仕方ないから」
澪「で、水着のまま楽器持ってる理由は?」
唯「動きやすいんだもーん」
律「それに○○にサービスサービスゥ」
○○「どう反応したらいいものか」
梓「むぅ、○○先輩! アイマスクしてください!」
○○「え、楽譜見えなくなるよ?」
紬「フェスで弾く曲、完成したの~」
唯「おお!」
律「ついにきたあ!」
澪「へえ……面白く編曲したんだな」
紬「なんだか○○さんと梓ちゃんのことを考えて作ってたら、大胆なアレンジになっちゃったの」
○○「これは……ツインリード編成……」
梓「ほんとだ。ソロパートが2人にありますね」
紬「○○さんのテクニックならソロがないともったいないけど、ずっとリードをやるのも体力的に不安かな、って思って」
紬「だったら梓ちゃんと、リードとリズムを交代でやっていけば、負担も減るんじゃないかと思ったの」
紬「どこか変だったかしら?」
○○「いえ……ありがたいですし、紬さんが独力でツインリードに編曲しなおしたことに驚きます」
○○「ありがとうございます。一生懸命弾かせてもらいます」ペコ
紬「これはご丁寧に。どういたしまして」ペコ
梓「○○先輩。さっそく取り掛かりましょう! 時間がもったいないです!」
○○「よし、やる気が出てきた! まずはいつもの指ならしの曲だ!」
梓「はい!」
澪「唯は英語の特訓な」
唯「もー英語はいやだよー!」
――30分後
○○「つ、疲れる」ドタッ
梓「これ、相当音の数が増えてますね。原曲の倍にも感じられます」
○○「それにギターソロの所は早弾きがあって……この部分なんかクラシックの対位法も入ってる」
梓「ムギ先輩、クラシック畑の人だから……」
○○「うーん、梓ちゃんとのコンビネーションが重要になるなあ」
梓「先輩と私なら大丈夫です! 多分!」
○○「え、『多分』を強調されるとすんごく不安なんだけど」
梓「冗談ですよ」クスクス
○○「そういえば、これって歌詞もこのままなのかな……」
澪「その点は私に任せて」
梓「わっ、澪先輩」
○○「えーと、任せてとは?」
澪「私がこの歌詞をけいおん部用に少し変える。本当に少しだけど」
○○「え? 今から?」
澪「今から。唯の発音特訓も進んでるしね。大筋は変えないから、十分間に合うはず」
梓「す、すごいですね、澪先輩。英語の歌詞作りだなんて」
澪「私はまあ英語も得意な方だし……そうだ、梓は『lovely cat』と『fluffy cute sheep』だったらどっちがいい?」
梓「ロ、ロックの歌詞にしてはかわいい感じですね」
律(澪、スランプなのかー)
――1時間後
○○「あ」
梓「先輩?」
○○「指つった。いたたたた」
梓「た、大変! 氷を!」
紬「いえ、梓ちゃん、筋肉がつった時はむしろ温めないと。はい、お湯を」
○○「あつつ、紬さん、すみません」
唯「ムギぢゃ~ん、私も治じで~」バタバタ
梓「ゆ、唯先輩? どうしたんですか?」
唯「発音れんじゅうでじだがんだー」
紬「あらあら、薬持ってくるから、ちょっと待っててね。梓ちゃん、○○さんの指をマッサージしてあげてね」
梓「ええっ!?」
紬「治りを早くするためよ。ふふ、お願いねー」スタスタ
○○「えーと……」
梓「ま、マッサージ……しますね」
○○「お、お願いします」
梓「では」モミモミ
○○「……」
梓「……指、どうですか?」モミモミ
○○「うん、痛みはマシになったし、気持ちいいよ」
梓「よかったです……」モミモミ
○○「……」
梓「……」モミモミ
律「なんだあの空間は」
澪「入りこめない」
唯「いだいよ~」
最終更新:2011年07月30日 16:28