……。
『しんぶんで~す』
唯「き、きたっ! 恐怖新聞!」
『恐怖新聞』深夜刊
『桜ヶ丘校教師が目撃!UFOの光』
本日夕方7時頃、桜ヶ丘高校けいおん部のメンバーと
顧問である山中さわ子さんが山に消えていく謎の光を目撃した。
車で追いかけた先には、残念ながら光る物体は発見出来なかったが、
翌日の学校での話題はUFO一色となった。
話題の中心であるさわ子さんも、満更ではない様子で笑っていた。
唯「……」
ジャーン!
律「ふぅ、今日はこの辺にするか!」
澪「そうだな……って、もう六時過ぎてるぞ!」
紬「今日はいっぱい練習したわね~」
梓「いつもこれくらい集中してくれれば……」ブツブツ
ガチャッ
さわちゃん「あれ、まだみんないたんだ。帰ったと思ったのに」
律「いやあ、真面目なけいおん部もたまにはいいかなって!」
さわちゃん「でもちょっと残りすぎ。もう生徒なんて誰もいないわよ」
唯「……」
さわちゃん「あ、ねえ。よかったら私の車で帰らない? もちろん全員は無理だけど……」
律「ん~、帰り寄る所があるからパスで」
梓「私も、ちょっと寄り道を……」
さわちゃん「他の三人は?」
紬「私は乗せてもらおうかしら~」
澪「そうだな、私も」
さわちゃん「そう。唯ちゃんはどうする?」
唯「私も……乗ります」
車内
さわちゃん「さて、誰のお家から行けばいいかしら?」
澪「近さでいったら……」
……キキーッ!
唯「っと!」
紬「き、急ブレーキですか?」
さわちゃん「……ねえ、あれ見てあれ」
澪「あれ、って?」
フワフワ ピカピカ
紬「何だか空に浮いて……不思議な感じで飛んでいるわね~」
唯「あれは……」
さわちゃん「……UFOよ」
澪「えっ? UFO?」
さわちゃん「そうよUFO! 行くわよみんな、しっかりつかまってて!」
……。
唯(フワフワは、右へ左へ……
いつの間にか私たちは、山に近い辺りの場所で車を停めていた)
さわちゃん「変ねえ、この辺りに降りてきたと思ったのに」
澪「こ、こんな山の中まで来て……」ガタガタ
紬「大丈夫よ~、道を戻ればすぐ広くて明るい場所に出るから」
澪「で、でもお……」
ガサッ。
さわちゃん「しっ! 黙って……」
唯「?」
さわちゃん「見て、向こうの林の向こう……あれ……」
……ピカピカ。
「!」
澪「光が……」
紬「でも眩しすぎてよく見えないわ~」
さわちゃん「……ちょっと、近付いてみよかしら」
唯「あ、危ないよさわちゃん~」
さわちゃん「平気よ、いざとなったら逃げれば……よっ」
パキッ!
さわちゃん「こ、小枝が!」
……フッ。
さわちゃん「あ……」
澪「光が、消えた……」
紬「一瞬だったわね~」
唯(本当に……UFOだったのかな、あれ……)
……。
「ねえ、聞いた? 昨日の話」
「聞いた聞いた。UFO見ちゃったんですって?」
「あそこの山だって。私も見た~い」
「先生に話聞いてみてさ、いってみようよ」
「賛成~!」
「UFOか~、いいよね~」
「……私は別に、興味ないから」
……。
午前0時
『しんぶんしんぶん~』
唯「……」
『恐怖新聞』深夜刊
『さわ子先生、寝ずの番!?』
桜ヶ丘高校で話題となっているUFO騒動だが
少々事態が大きくなりすぎているようである。
夜中に出歩く生徒が増え、
近隣住民からの苦情も多くなったと言われている。
そこで、話題の中心にいたけいおん部顧問のさわ子先生は
数日の間、目撃現場付近で監視行動をとる事に決めた。
嘘か真か、UFOの目撃情報も多いあの辺り。
何も起こらずにこの一件が終わってくれれば……と当新聞も願うばかりである。
唯「……」
澪「さわちゃんが部室に来なくなって三日かあ……」
律「責任感じてんだろ~な~」
唯「今日も目の下真っ黒だったもんね~」
紬「……ねえ、今日はみんなで先生を励ましに行かない?」
梓「それいいですね!」
律「あちゃ~、悪い。今日はアタシ、あまり遅くまでは活動できないんだよね」
紬「それは残念ね。他の人はどうかしら~?」
唯「私は平気だよ」
梓「大丈夫です」
澪「私も」
律「じゃあ、今回は四人で頼むよ」
唯「了解しました、りっちゃんたいちょ~」
現場
さわちゃん「はぁ……疲れるぅ。自分の責任とはいえ、やっぱり辛いわね……」
さわちゃん「来る生徒は減ったからまだ楽だけど、腰にくる~……」
さわちゃん「今日明日で終わりでも、いいかな?」
さわちゃん「大体あれからUFOなんて出ないし、このまま帰ったって……!」
フワフワ フワフワ。
さわちゃん「で、出た! ま、またこっちに来るの~!?」
……。
さわちゃん「降りていったのは向こうの方ね……よし」
さわちゃん「いた……あの光、前と同じ……」
……。
さわちゃん「でも何かしら、小さい銀色の物体が、
いくつもいくつも……光の周りにまとわりついて」
……。
さわちゃん「まるで、いきてるみたいに……動いてる」
……。
さわちゃん「あ、光がこっちにむかってきてる。なんだろうきもちいい」
さわちゃん「きもちいい……」
……。
光が、ニヤッと笑った。
紬「ほら、前来たのはこの辺りよ~」
澪「歩きだと、ずいぶん時間かかったな」
梓「もう真っ暗……ですね」
唯「さわちゃんがいれば大丈夫だよ。帰りは乗っけてもらおうよ!」
澪「お前な……」
唯「えへへ~」
パキッ。
梓「ピクッ」
……。
さわちゃん「……」
澪「よかった……さわちゃんだ」
唯「応援に来たよ~」
さわちゃん「ん……」
紬「大分疲れてる様子ね」
梓「大丈夫ですか?」
唯「よかった~。これムギちゃんからお菓子の差し入れだよ~」
さわちゃん「ムギちゃんから」
紬「唯ちゃんがちょっと食べちゃいましたけど……後で食べて下さいね」
さわちゃん「ありがとう」
梓「でも、無事で何よりです。最近姿見ないから心配で心配で」
唯「ねね、でもそろそろ帰らないと危なくない? 真っ暗だよ?」
紬「澪ちゃん、今何時かわかる?」
澪「もう八時近くだな……確かにちょっと遅いかも」
さわちゃん「みんな、送るわよ」
唯「やった~さすがさわちゃん!」
梓「じゃあお言葉に甘えて……帰りましょう」
……。
律「よっ、おはよ」
澪「おはよ。昨日は無事に終わったぞ」
律「うむご苦労ご苦労」
紬「さわちゃん、元気ってわけじゃなかったけど……
でも監視も昨日で終わらせたみたいよ」
律「そっか。じゃあまた今日からは部室でお茶会できるんだな」
唯「ふふっ、そうだね~」
ガラッ。
さわちゃん「……」
律「おっ、噂のさわちゃん登場だな」
澪「唯、早く座れよ」
唯「は~い」
さわちゃん「え~、と。では出席をとりましょうね」
さわちゃん「ムギちゃん」
紬「えっ!?」
さわちゃん「次、澪ちゃん」
澪(澪……ちゃん? 普段はちゃんと名字で……)
さわちゃん「澪ちゃん」
澪「は、はい!」
さわちゃん「え~と、梓ちゃん」
「……」
さわちゃん「梓ちゃんはお休み?」
律「せ、せんせ~。梓は学年が違うからここにはいませんよ~」
さわちゃん「……そう」
律「は、はい? はい……」
唯(先生……どうしたの……おかしいよ)
さわちゃん「じゃあ最後に、唯ちゃん」
唯(だって呼び方だってバラバラだし、あずにゃんだっていないし……)
さわちゃん「唯ちゃん。そこに『いる』ならしっかり返事をしないとダメジャナイ、ノ」
唯(先生……本物の先生は……どこ?)
さわちゃん「モシカシテワタシノカオニ……ナニカツイテイルカシラ?」
……。
午前0時
『恐怖新聞』深夜刊
『恐怖新聞、休刊のお知らせ!』
本日の恐怖新聞は誠に勝手ながら都合により、お休みとさせて頂きます。
次回の配達までもうしばらくお待ち下さい。
皆様にご理解頂けるよう、何卒よろしくお願いいたします。
唯「……」
さわ子の頁
今回の新聞はここまでとなります。
それでは次の配達まで、皆さんおやすみなさい。
最終更新:2011年08月20日 16:31