純 「お、このナゲット超うまー!ちょっと食べてみなよ!」
憂 「いいの、本当におごってもらっちゃって」
純 「良いって良いって。つか、おごるって言ってたじゃん。気にせずガンガン食うが良い」
憂 「えへへ・・・じゃあ、遠慮なく・・・(パクッ)。あ、おいし・・・」
純 「ね。へっへ、またこよーね」
憂 「うんっ」
純 「あ。ところで話は変わっちゃうんだけど、あのマンガノートね」
憂 「なぁに?」
純 「やっぱりもったいないと思うんだよね。あんなにうまいのに、ただのイラストで終わっちゃうなんて」
憂 「というと?」
純 「うん。前にも言ったけど、お話。作ってみたら?ほんとにマンガ、描いてみりゃいいんじゃないかなー」
憂 「だけど・・・私も言ったと思うけど、お話なんて作ったことなかったし」
純 「だったらさ!お姉さんをモデルにお話も作っちゃえばいいじゃん!」
憂 「え、お姉ちゃんを?」
純 「お姉さんの事なら良く見てるだろうし、あんなに面白いお姉さんだもん。きっと楽しい話の一つや二つ、ホホイとできちゃうって!」
憂 「お姉ちゃんが主人公のマンガかぁ。それは考えたことが無かったな」
純 「良いアイデアでしょ!」
憂 「あ、でも・・・私、お姉ちゃん以外の人って描いた事ない・・・」
純 「マジで!?」
憂 「うん・・・マンガノートもお姉ちゃんを描くためだけのものだったし」
純 「だ、だったらさ・・・」
憂 「?」
純 「だったら、私で・・・練習してみない?」
憂 「え・・・」
純 「そのマンガノートに私も描いてもらえたらなぁ・・・なんて、だめ・・・かな?」
憂 「鈴木さん・・・」
純 「やっぱダメだよね。それ、お姉ちゃんのための大事なノートだもんね。はは・・・私、なに言ってるんだろ」
憂 「・・・お願いしようかな」
純 「・・・マジで?」
憂 「うん。モデル、お願いしちゃってもいいかな、鈴木さん」
純 「そ、そりゃもう、喜んで!」
大事な人を書き綴るのが目的のマンガノート。
だったらその中に、鈴木さんのページが含まれていたって、なにもおかしいことはないものね。
純 「だったら早速、描いてみようか!」
憂 「え、今?ここで!?」
純 「思いたったがなんとやらだよ。さ、ノート出して出して」
憂 「あ、う・・・うん・・・よっと。・・・鈴木さん、なにしてるの?」
純 「ポーズを」
憂 「普通にしてて良いよ」
純 「あ、そう・・・」
憂 「くす・・・じゃあ、ちょっと緊張するけど、描いてみるね」
純 「きれいに描いてね!」
憂 「がんばる!」
(数分後・・・)
憂 「い、一応・・・できた・・・けど・・・」
純 「お・・・どれどれ見ーせて♪」バッ
憂 「あ!」
純 「にっひっひ。どれだけ可愛く描いてくれたかなー。んー??・・・んっ!?」
憂 「・・・」
純 「ん・・・んんーーー!?」
憂 「あ、あのね・・・」
純 「ぐすっ・・・私って、こんなに顔が崩れてるかなぁ」
憂 「な、なんというか・・・」
純 「髪も毎朝いっしょうけんめいセットしてるんだけど、人からはこんなに爆発して見えてるのかなぁ・・・」
憂 「そうじゃなくて!ご、ごめんね?今までお姉ちゃんしか描いたことなかったから、他の人ってどうやって描いたらいいのか、よく分からなくって・・・」
純 「あ、そういうわけ?あー・・・ビックリした。私、もっと可愛いよね?自己評価下げなくても平気だよね??」
憂 「う、うん。たぶん・・・」
純 「良かったー・・・しかし、お姉ちゃんだけを描き続けてきたという実績は、伊達ではなかったということだね」
憂 「面目しだいもございません・・・」
純 「良いって良いって。練習だって言ったじゃん」
憂 「だけど・・・」
純 「練習しとけばその内、きっと他の人もお姉さんみたく可愛くかけるようになるって」
憂 「そっかな・・・じゃ、じゃあ、鈴木さん!これからもモデルになってくれる!?」
純 「モデルでも練習台でもなんでも来いだぜ。いつでも言ってよね!」
憂 「ありがとう、すずきs
純 「それとっ!」
憂 「び、びっくりした・・・なぁに?」
純 「これからはね。鈴木さんなんて他人行儀な呼び方は、もうなしの方向で!」
憂 「え。でも、じゃあ何て・・・」
純 「純でいいよ、純で。ほら、言ってみて」
憂 「えー・・・そ、そんな急に。だって、照れちゃう・・・」
純 「友達なんでしょ。だったら何も恥ずかしがることなんてない!ね?」
憂 「あ・・・う、うん。・・・じゅ・・・純・・・ちゃん・・・?」
純 「うん♪よくできました、憂!」
この日。
マンガノートにお姉ちゃん以外の子のイラストがはじめて加わった日。
憂 「純ちゃん・・・」
純 「うーいっ!」
憂 「・・・ぷっ」
純 「くふふ・・・」
憂・純 「あははっ!」
大好きなお友達ができました。
第一話「マンガノート」終わり。
第二話へ続く!
第二話 憂「過去との決別とお弁当と」
純 「ね、夏休みになったら、ちょっと遠出してみない?」
憂 「遠出?」
柔らかな日差しの春が終わり、燦燦と照りつけるお日様が肌に痛い季節が到来しようとしている。
夏の訪れが見えてきた。そんなある日の朝の唐突な、それは純ちゃんの提案だった。
純 「うん!海とかー。山とか!別に他の所でもいいけど、一日かけて、さ!遊びに行こうよ!」
憂 「あ・・・うん」
純 「夏休みじゃなきゃ行けない所、ちょっと行ってみたくない?」
憂 「うーーーん」
純 「あれ?乗り気でらっしゃらない・・・?」
憂 「いや、そういうわけじゃないんだけど。あのね・・・」
純 「私とどっか行くの、いや・・・?」グスン
憂 「あ、違うよ?そうじゃなくって!」
純 「じゃ、なぁに・・・?」
憂 「その・・・私。今まで友達いなかったから・・・その・・・」
純 「・・・へ?」
憂 「友達との遠出って、なんだか。緊張しちゃう・・・」
純 「えー、いまさら!?」
憂 「そ、そうは言うけど・・・」
純 「だって、最近はちょくちょく一緒に遊んでるし、友達になって二ヶ月以上もたってるんだし!」
憂 「じゅ・・・純ちゃんには分からないよ・・・」
今までずっと一人ぼっちだった私。
心を閉ざして、友達なんて必要ないんだって思い込んできた。
そういう期間が長すぎたんだもん。当然、友達付き合いの方法とかもよく分からなくなってしまっていて・・・
だから。実は今も。
ううん、昨日もその前も。純ちゃんと一緒の時間を過ごすことが多くなってからずっと。
私は緊張のし通しで。
純 「分からないって、なにがさぁ?」
憂 「そ、それはっ」
純ちゃんは明るい良い子だ。
はきはきしていて物怖じを知らなくって。
まさに私と対極。ちょっと羨ましいくらい。
でも、だからこそ分からないんだろうな。
私みたいな、人付きあいに臆病な人種もいるんだということに。
だけど・・・
憂 「むぅ・・・」
純 「・・・?よく分からないけど、私と出かけるのが嫌ってわけじゃないんだよね?」
憂 「そ、それはもちろんだよ!」
純 「だったらさぁー。緊張しなくなればいいんじゃない?」
憂 「簡単に言うね・・・」
純 「簡単っしょー。要は慣れっしょ、慣れ!」
憂 「・・・?」
教室!お昼休み!!
A子 「へー。それで今度、二人でピクニックに行くんだ?」
純 「おうよ!」
憂 「そういうことになっちゃったの」
B子 「なっちゃったって・・・大丈夫なの?また純のペースに巻き込まれて、無理やり決められちゃったんじゃない?」
憂 「まぁ、確かに強引ではあった・・・かな」
A子 「ちょっと、純。あんたまた・・・」
純 「憂、それ人聞き悪いって!憂だって行くって言ったじゃん!」
憂 「そうだね、ごめん」
A子 「憂ちゃんさぁ。嫌だったら嫌だって、言っても良いんだよ」
純 「こら!」
憂 「ありがとう。でも、嫌なんかじゃないよ」
B子 「本当に?」
憂 「うん!」
そう。本当は分かってるんだ。
私自身、このままじゃダメだって事くらい、ちゃんと分かってる。
友達と遊ぶのにいちいち緊張する今が、ぜんぜん普通じゃないんだって。
だって、ね・・・
純 「ほらねー。A子もB子も余計な気遣いは無用にしてくれるかなぁ」
A子 「だってさぁ。ほれ、あんたには前科があるわけだし」
純 「ぐっ」
憂 「ほ、ほんと平気だから。それに、ね。ピクニックって言ったって、そんな大げさなものじゃないし・・・」
B子 「そうなの?純」
純 「うん。夏の遠出のリハみたいなもんだもんだよ
B子 「リハーサル?」
純 「そそ。ちょっと郊外の公園でも行って、のんびりお弁当でも食べてこようって、そんだけ」
A子 「ふーん・・・ま、憂ちゃんが良いって言うなら良いんだけどね」
B子 「うんうん。憂が言うならね」
純 「なんか引っかかる言い方・・・」
A子 「引っかかるように言ってるんだもーん」
純 「くぅ!にゃにおー!!」
憂 「あははは」
自然と笑いが出る、こんな今がとても楽しいから。
友達と一緒に他愛のない話で盛り上がって、ときどき困らされて。でも最後は笑って。
ちょっと前までは、無理に興味がないふりをしていた「人の輪に交わる」ということ。
たぶんみんなが当然にしてること。だけどそれは、私が新たに発見した楽しさ。
だから。
緊張なんて無用な衣を脱ぎ捨てられたら、身軽になれたのなら。
きっともっと楽しく笑い合えるようになるに違いない。
そうなりたいって思う。
そうなるため、そのためにも。
憂 「ピ・・・ピクニック、楽しみだねっ」
純 「うん!」
私が一歩前に進む勇気を持たないとね。
憂 「それにしても・・・」
純 「ん?」
憂 「純ちゃんたち、仲いいよね」
A子 「えー、そっかなぁ。そうでもないんじゃない?」
純 「おいおい」
憂 「・・・あはは」
B子 「まぁ、そうね。私たち、小学校からずっと一緒だったから、ね」
A子 「仲良しってより、腐れ縁ってやつ?」
純 「身も蓋も無いね」
憂 「でも、そうやって好きに言い合えるのって、本当に仲が良い証拠だと思う」
A子 「そっかな・・・改まって言われると照れるよね。・・・へへ」
B子 「そうね。ところで憂は?」
憂 「うん?」
B子 「小学校で親しかった子とか、クラスにいないの?」
憂 「・・・」
純 「あ、それは・・・」
憂 「・・・いないよ。みんなほとんどが学区外で、別の中学に行っちゃったんだ」
A子 「そうなんだ」
憂 「あとは他のクラスに少しだけ。同じクラスになった子はいないよ」
B子 「・・・そう、それは寂しかったわね」
純 「・・・」
憂 「ううん。今は純ちゃんやA子ちゃん、B子さんと仲良くなれたし。寂しいことなんて、なんにもないよ」
A子 「そっかぁ・・・」
B子 「だって。良かったわね、純」
純 「・・・」フルフル
B子 「純?」
純 「・・・憂ーーっ!」ぎゅーっ!
憂 「わあ!?」
A子 「ちょ、いきなり憂ちゃんに抱きついて!何してるの、お前は!」
純 「だって、憂があまりに健気で。ああ、憂!俺は一生お前を離さないぜ!」
B子 「あーもう。なに言ってるのよ。憂、困っちゃってるでしょ。こら、離れたげなさい」
純 「いや!憂は俺の嫁!」
憂 「じゅ・・・純ちゃんん・・・」
季節は初夏。じりじりと日の光は窓から差し込み、黙っていても汗で服を肌に張りつかせてくる。
それに加えて純ちゃんの体温。暑い。
でも。でもね、不思議だね。
純ちゃんの暖かさを肌で感じている、今。
私、ぜんぜん不快じゃない。
最終更新:2011年09月15日 20:58