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憂「お待たせしました~」
唯「おぉっ!! できたっ!?」
憂「遅くなってごめんね?」
唯「ううん! じゃあ、食べよっか!」
唯「いただきま~す!」
澪憂「いただきます」
各々が自分の好きな具材を食べていった。澪は疲れていたせいもあって、箸が進んだ。憂が作った影響もあったのかもしれない。
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唯「ふぅ~! 食べた、食べた!」
唯は後ろに倒れ込んで大きく息を吐いた。唯は微睡んでいるようだった。澪も思ってた以上に食べたせいで、無意識のうちにお腹を擦っていた。
澪「ありがとう、憂ちゃん。美味しかったよ」
憂「喜んでもらえて嬉しいです」
憂は肩を寄せながら、照れ笑いを浮かべた。その様子も可愛らしかった。
憂「明日も早いんですか?」
澪「うん、十時に依頼人の家に行かないといけないんだ」
憂「そうですか。梓ちゃんも大変だなー……」
澪「え? し、知ってるの?」
憂「はい、梓ちゃんと純ちゃんは私の友達なんです」
澪「そうだったんだ……」
憂「純ちゃんが澪さんの探偵事務所に依頼しに行った事を聞いた時は驚きました」
憂「でも、ネコが見つかった後、純ちゃんは本当に嬉しそうでしたよ」
憂「あの探偵事務所に頼んで本当に良かった、って」
憂「だから、梓ちゃんの依頼も澪さんたちに勧めたんだと思います」
澪「そっか……」
澪「よかった……」
澪は嬉しかった。達成感のようなものが湧き上がって来る。澪は探偵をやっていてよかったと心から思うことができた。
ふと横に目をやると、唯が寝息を立てていた。
澪「あ、寝てる……」
憂「本当だ」
そう言って、憂は立ち上がりリビングから姿を消した。再び、憂が現れると、毛布を手にしていた。憂は寝ている唯を起こさないように慎重に毛布を掛けた。
憂はそのまま食器を台所へと運び始めた。
澪「あ、私も手伝うよ」
憂「大丈夫ですよ。澪さんは休んでいてください」
澪「……わかった、お願いするね」
しつこく食い下がる理由も無いので、すぐに憂の提案に乗った。澪も唯のように後ろに倒れ込んだ。大きなあくびが出た。
澪「(これからも、困っている人を助けていきたい……)」
澪「(もっと頑張らなくちゃ……)」
急に視界がぼやけ始めた。強烈な眠気が澪を襲った。澪は懸命に頭を働かせようとしたが、眠気は攻撃を緩めてくれない。
結局、澪もその場で眠ってしまった。その寝顔は安堵の表情を浮かべているようだった。
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憂「澪さん、今日はもう遅いから泊まっていきますか?」
憂の問いかけに返事は無かった。憂は横になっている澪の顔を覗き込んだ。
憂「あれ、寝てる……」
子どもの様に安らかな寝顔の澪と唯を見て、憂も温かい笑みを浮かべた。
翌日
澪「ん……」
澪は薄明るいリビングで横になっていた。遠くから鳥の囀りが聞こえた。気がつくと、毛布がかけられていた。
澪「…………」
澪「しまった! いつの間にか寝ていた!」
事の重大さに気づき、澪は一瞬で覚醒した。立ち上がって時計を見ると、七時を示していた。階段の方から足音が聞こえたので、振り向くと、憂が立っていた。
憂「あ、起きたんですね」
澪「ご、ごめん! つい寝ちゃってて」
憂「いえいえ、すぐに朝ごはん作りますから」
憂はすぐに台所へと向かった。
澪「…………」
下を見ると、まだ唯が寝息を立てていた。澪は静かに座り直した。
しばらくすると、憂がトーストとジャムを持ってきた。
憂「起きて、お姉ちゃん! 朝だよ!」
唯「う~ん……あと少しだけ……」
憂「朝ごはんできたよ! 澪さんも待ってるよ!」
唯「え……?」
唯は瞼を半分程開きながら状態を起こした。そうして、しばらくの間澪の顔を見つめていた。
唯「あ、澪ちゃん。おはようー……」
澪「おはよう、唯」
唯「今、何時……?」
憂「七時半前だよ」
唯「そっか……歯磨きしなくちゃ」
唯は寝ぼけながらも、ゆっくりと立ち上がり、洗面所へ向かって歩いた。
憂「あ、澪さんも歯磨きしますよね? 予備があるはずなので使ってください」
澪「ありがとう、使わせてもらうね」
澪も立ち上がり、唯の跡を追いかけた。
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憂「それじゃあ、食べましょうか!」
唯「いただきまーす」
澪「いただきます」
澪はジャムをトーストに付け、一口かじった。程よい食感とジャムの甘さがたまらなく美味しかった。唯も目を覚ましたようだった。
憂「紅茶入れました~」
唯「やった!」
澪「ありがとう」
三人は八時前まで朝食の時間を寛いだ。
唯「ふぅー、シャワー浴びてすっきりしたね!」
澪「そうだな」
憂「それじゃあ、気をつけて行ってください!」
澪「何から何までお世話になりっぱなしでありがとうね、憂ちゃん」
憂「また来てくださいね」
唯「そうだよ、澪ちゃん! いつでも遊びに来てね!」
澪「また、機会があったらな」
唯「それじゃあ、行ってくるねーっ!」
憂「行ってらっしゃーい!」
憂は手を振って二人を見送った。二人も憂が見えなくなるまで手を振り返した。
澪「いやー……本当にすごかったなぁ……憂ちゃん……」
唯「自慢の妹ですからっ!」
唯はまるで自分が褒められたように胸を張って言った。
澪「唯は憂ちゃんよりできることは無いのか?」
唯「え? うーん……」
唯は両腕を組んで、考え込んだ。しかし、何一つ思い浮かばないようだった。
唯「う~ん……私が憂に勝ってるもの……」
唯「あっ! 年だ! 私、憂より年上だよっ!」
澪「いや、それは違うだろ」
中野家
澪「よーし、押すぞ」
唯「どうぞっ!」
ピンポーン
梓『はい』
澪「あ、秋山ですけど」
梓『今、行きますねー』
梓が来るまでの間、二人はビデオカメラの位置を確認した。やはり、カメラの位置は寸分違わない。
ガチャ
梓「おはようございます」
澪「おはようございます」
唯「おはよー」
澪「今日は手紙来てますか?」
梓「今日はまだ確認してないんです。親にも言って、二人が来たら確認することになって」
梓「今、見ますね」
梓は少し屈んで、郵便受けの蓋を開けた。
梓「えーと、新聞と……」
梓が新聞を手に取り、もう一度覗き込んだ瞬間に固まってしまった。表情が強張り、よろよろと後ずさりした。
梓「ひっ……!」
梓は短い悲鳴を上げて、郵便受けの中の一点だけを見つめている。澪と唯も急いで中を覗き込んだ。
唯「あっ」
澪「これは……」
中には便箋が一つ置かれていた。澪の背筋が氷を直に当てたように寒くなった。澪は冷や汗をかいていた。
澪「開けてもいいですか……?」
梓は口が開かなかったのか、顔を真っ青にして黙って数回頷いた。
澪が開封すると、それはストーカーからの手紙だった。
“ボクはアナタだけヲ見テイル。コノオモイはキット梓サンのモトヘ”
澪「ぐっ……!」
澪はストーカーからの手紙を破り捨てたい衝動に駆られた。持っているだけで、粘着質な悪意が染み渡り、自身の体を蝕む気がした。
澪と唯が横を見ると、梓は体を震わせていた。両腕で抱き寄せて震えを止めようとするものの、震えは一向に止まる気配を見せなかった。
梓「う……あ……」ガクガクガク
唯「大丈夫だよ、梓ちゃん……」ギュッ
唯が梓を優しく抱きしめた。梓はきょとんとして何が起こっているかわからないようだった。
唯「私たちが梓ちゃんを守るから……」
梓「…………」
気がつくと、梓の体の震えは止まっていた。震えが止まっているのに気づいた唯はゆっくりと梓から離れ、梓の顔を見つめた。
唯「もう大丈夫?」
梓「すいません……急に取り乱して……」
梓「もう大丈夫です」
唯「よかった」
澪はビデオカメラへ近づいて、メモリーカードを交換した。この小さな三枚のカードに犯人が映っていると思うと、カードを持つ手に力が入った。
澪「今日は犯人が映っているはずなので、気をつけて検証しますね」
梓「はい、お願いします」
澪「では、また明日に」
唯「またね、梓ちゃん!」
梓「はい!」
梓の元気を取り戻した様子を見て、唯はにっこりと笑った。
秋山探偵事務所
澪「よし! 今回は昨日よりも気合を入れないとな!」
唯「うん! 絶対に犯人を見つけるよ!」グッ
唯は力強く拳を握り締めた。
澪がパソコンにメモリーカードを差し込み、準備は整った。
澪「それじゃあ、始めるぞ」カチカチッ
映像が始まった。澪と唯と梓の三人の姿が映っていた。澪と唯が画面から消えて、すぐ後に梓も家の中へ戻った。
それから、一時間程経過した後に梓が家を出た。
唯「やっぱり夜なのかなぁ」
澪「その可能性が高いな……」
更に、特に変化の無いまま数時間が経過して映像の時刻が夕方頃になると、梓が画面上に姿を現した。少し顔をしかめながら、恐る恐る郵便受けを覗き込んでいた。中に新聞以外の物が無い事を確認すると、胸を撫で下ろして家の中へと入った。
唯「梓ちゃん、かわいそうだね……」
澪「中野さんのためにも、絶対に犯人を探し出そう」
唯「そうだね」
そして、映像の世界は夜へと変化した。
真夜中の二時。ついに、その時がきた。
唯「あっ!」
澪「どうしたんだ!?」
唯「奥の方から人が……」
唯が指差した所を注意深く見てみると、黒い服を着た人影が中野家に近づいている。フードを被っていて顔は見えなかった。
そして、中野家の前でピタリと立ち止まった。
澪「これが……」
二人は画面に釘付けになって人影の様子を見張っていた。人影は数分の間、何もせず立ち尽くしていた。家をまっすぐに見つめているようだった。その後、ポケットから手紙を取り出して投函し、そそくさとその場を後にした。
その後も、残りの映像をチェックしてみたが、人影は姿を現さなかった。
唯「顔は見えなかったね……」
澪「フードを被ってたからな……」
澪「夜中の二時だから人通りも少ないし、聞き込みも厳しいだろうな」
唯「撮影はあと何回だっけ?」
澪「あと、四回見る事になるかな」
唯「そっか、その間に来る日がわかるといいね」
澪「まぁ、こういう事をする人は頻繁に来るだろうから、あと二回ぐらいは来るかもしれないな」
そう言って、澪は手を叩いた。
澪「よし、映像を編集して中野さんにも見てもらおう!」
唯「わかった!」
唯も今回は思い入れが強いようだった。澪もそれは同じだった。
探偵として、同じ女性として、友達として、人として
最終更新:2012年07月14日 16:02