鏡爺と花人形
「ここは… 何処なの…」
水銀燈は霧の中にいた。あたりは真っ暗、1メートル先も見えない。
彼女はこのままここにいても仕方がないと判断し、移動することを決意。方向も全然判らないので今の向きのまま真っ直ぐ飛び続けた。
いったいどれだけ飛び続けただろう。変化は全くない。何処のフィールドなのだろうか?この空間に閉じ込められてしまったのではないのか。不安が胸をよぎる。
すると、遥か先に一条の光が見えた。とりあえず行ってみる事にした。
光はだんだん大きくなる。まずは様子を見た方がいいだろうか、距離を置いて着地しその光を凝視した。
光の中に何か…ある。人が立っているのが見えた!誰?
「!!」
確認した時、息が止った。
細身の体にふわりとした金髪、清潔な白いシャツ、うつむいているので表情は確認できないけど、ああ… あの人は
お父様!!
父ローゼンは彼女の淡い記憶の中にしか存在しない。しかし想いは強い。その出で立ちははっきりと覚えてる。
前は動けずにただ見つめるだけだった。でも、今は違う。そこまで歩いていける。そこまで飛べる翼もある。
トクン… トクン…
ああ… こんなに胸の鼓動が お父様… お父様… 今そこに行きます。
「お父様…」
あと数歩という所でつい呼びかけてしまった。
トクン… トクン…
鼓動がどんどん大きくなる。彼女は静めようと必死に念じた。しかし鼓動は収まらない。
トクン… トクン… ドン… ドン… ドン!
それでも音は大きくなる。
ドン!ドン!ドン! ドン!ドン!ドン!
いや、もうこれは鼓動ではない。騒音だ。あまりの音に彼女は一瞬怯んだ。
「きゃ!」
たまらず、その人物の足にしがみついた。ああ…恥ずかしい。お父様と会う時は目を真っ直ぐ見て笑顔で行こうって決めてたのに…
「お父様…私…」
彼女はゆっくりとその人物を見あげた。
「!?」
水銀燈はまたしても息を止めた。
愛している父ローゼンと服も髪も同じ人物。しかし顔は……その金髪から現れた顔は……………ぬらりひょんの顔だった。
「いや━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━っ!!!」
ドン!ドン!ドン! ドン!ドン!ドン!
「おい水銀燈!起きろ!起きぬか!」
「あわわ…ぬらりひょんさま~ 止めましょうよ~。姐さん、寝てる時は起こすなって言ってたじゃないですか~」
ここはぬらりひょんのアジト。何処にあるかは不明だが、昔造りのかなり大きな一軒家である。
ミーディアム契約を結んでいる水銀燈はそこの一室を丸々占拠していた。中には勝手に買いあさった家具や電化製品、
乳酸菌飲料が大量に入っている冷蔵庫、実は隠れファンであるくんくんのグッズなどが置かれている。
このへん、鬼太郎の家で我が物顔で暮らしている真紅と大差ない。
この部屋は普段立ち入り禁止なのだが、今日はいきなり家の主がやって来て、彼女が就寝中と知るや手持ちの杖で鞄を叩き始めたのであった。付いてきた朱の盆が止めようとしているが気に返さない。
「うるさい!お前は黙ってろ!だいたいこいつは居候の癖に横柄すぎなのだ!まったく主であるわしを何だと思ってる!早く起きろ! ? ぐわっ!」
鞄に顔を近づけた瞬間、鞄が突然開く。不意のアッパーを喰らい、ぬらりひょんは悶絶した。
「いきなりあける奴がいるか!」
彼は激高した!が、現れた水銀燈の様子を見て固まった。般若のような表情で目を光らせ、後ろには目視可能な怒りオーラが溢れ、暴発寸前の空気を醸し出していたからだ。
「ぬ~ら~り~ひょ~ん」
「ははっ、はい!」
「あわわ…、姐さん…」
二人とも蛇に睨まれた蛙の如く、気圧されて壁まで後ずさりする。
「絶対起こすなって言ったわよねぇ。なぁにぃ~、その杖?ひょっとして、それで鞄を叩いたりしたぁ~?」
「な、何故わしがいちいちお主の言いつけを守らねばならんのじゃ!」
言葉で強がってみせるのが精一杯の抵抗だったのだろう。顔中に冷や汗が流れ、目は怯え、全身はがたがた震えていた。
「よくも私の夢をぶち壊してくれたわね!」
「おい!一体何のことだ?ま、待て、話せば判る!落ち着け!待ってください!」
ぬらりひょんは両手で待ったのポーズをし、説得を試みた。だが、対する水銀燈はこれ以上無いほど冷淡な目でそれを見据えていた。
「いかん!朱の盆、逃げろ!」
脱兎の如く走り出す二人。しかしマシンガンの様に発射された黒羽に追いかけられる!
「うぎゃ────────────────────────!!」
逃げた甲斐なく臀部にぶすぶす刺さる黒羽。あまりの痛みに二人はそろって飛び上がり、そのまま転倒した。尻を押さえて痛がる二人、そこに水銀燈がふわっと舞い降りた。
「どう、これでどっちが偉いかはっきりしたかしら?」
「すいません。すいません。すいません。すいません。」
正座をして何度も何度も頭を地面につける二人。少しは気が晴れたのだろうか、水銀燈はむすっとした顔で口を開く。
「で、一体何の用なの?つまんない事だったらただじゃおかないわよ」
「もう十分ただじゃすまなかったんですけど…」
朱の盆が軽くつっこむ。するとぬらりひょんが普段の調子に戻り話し始めた。、
「おお、そうじゃ!今度こそ鬼太郎達を倒す手段を見つけたぞ。無論、真紅達も一緒にな。お前も協力せい!」
「またぁ~?いったいこれで何回目?いつもそんなのばっかじゃない」
やれやれといった表情で水銀燈は言い返す。
「今度こそ間違いない。理由は……これじゃ!」
卑屈になってた先程までとはうって変わりぬらりひょんは威勢を張った。次に懐に手を伸ばし、そこから出した物を水銀燈の目の前に突きつける。
「鏡?」
その手には一枚の手鏡が握られていた。
『 鏡爺と花人形 』
夜、粗大ゴミが廃棄されている海岸、そこで焚き火を起こしている二つの人影があった。辺りには煙が立ち上り、香ばしい匂いが充満 している。
そこにいたのはねずみ男と金糸雀。普段は残飯でもなんでも口に入る物は食べている二人だが、たまにはきちんとした物を食べよう、 と言う事で海に来ていた。幸いこの日の釣りは大漁で、串に刺された魚が焚き火の周りをぐるりととり囲む。
「ふー、久しぶりに腹いっぱいになった。いやー満足満足」
「うーん。海に来ればお食事には困らないけど、やっぱり卵焼きとかも食べてみたいのかしら」
「おいカナ、いちいち贅沢言うんじゃねーよ、まったく」
「ハイ、ご馳走様なのかしら。あーあ、眠くなったのかしら」
ハイエナがライオンの残し物をがっつくが如く、一心不乱に食い続けた二人は久しぶりの満腹感に気持ちも安らぐ。
「じゃ、とっとと寝ちゃえ。ここなら雨風は凌げるからゆっくり眠れるぜ。ま、鞄の中で寝ているおまえさんにゃ関係ねーだろーがよ」
「そうするかしら。じゃお休みなさい」
金糸雀はねずみ男の方をちらっと見た後、睡眠をとるため鞄の中に潜り込んだ。さっきまで燃え盛っていた火も小さくなって静寂が辺 りを包む。それを確認したねずみ男も大きなあくびをしてごろん、と横になった。
「あーあ、んじゃー俺も寝よーかなっと」
その時、ガラクタの山の方から僅かな音が響いた。
「ん?何だ。誰かいるのか?」
ねずみ男は上半身だけむっくと起き上がり周りを見渡した。いかんせん魚を食い散らかした後である。そう、彼が苦手なあの動物が群 れになって来る可能性もあるのだ。
彼はもう一度注意深く目を配った。静まり返る近辺。ああ、やっぱり気のせいだ、じゃゆっくり眠ろう、と思って再び横になった。
タタタタッ。突然、耳元を何者かが駆け抜けて音がした。今度は空耳ではない。
ねずみ男は飛び起き、急いでその方向を見ると走り去って行く人影を見た。暗くてどんな奴かはわからない。一体奴は何しに来たんだ ?いやな予感がして金糸雀の鞄のあるところを見た。
鞄が無い!
「あいつ!カナの鞄を持って行きやがった!待て~!」
ダッシュで逃げる人影。ガラクタに躓いてよろめきながらもねずみ男は必死で食い下がる!追いかけっこは暫らく続いたが、そのうち 人影はガラクタの深い所へ逃げ込んだ。そこは粗大ゴミが多く転がっていて、小動物でもない限り逃げ出せそうな場所ではない。
「へへー、とうとう追い詰めたぞ」
ねずみ男は威勢よくそこへ乗り込んだ。
「?」
しかし、盗人を追い詰めたはずのその場所には誰もいなかった。辺りが再び静まり返る。彼は必死で周りを見渡したものの、動くもの は何一つ発見できなかった。
「くそ~あいつ何処行きやがった!ん?何だこれ?」
その場を少しうろつくと足下に何やら光る物体を見つけた。屈んでよく見てみると、台座付きの鏡に星明りが反射したものだと分かっ た。それはどっしりとした重量感でかなり古そうであったがこんな場所にはふさわしくない立派な物だった。
「おぉ~すげえ。これを高級品だと言って売れば結構な金になるだろうな。イヒヒヒヒ。カナに磨かせて綺麗にしとこう。いけねえ、そ のカナを探しにここまできたんだっけ。お~いカナ~!何処だ~!」
再び声を上げて金糸雀を呼んだが答えるものは何も無い。すると突然、目の前の鏡が光りだした。ねずみ男は驚いて逃げようとしたが 、鏡から溢れる光りに包まれる。目の前が真っ白になり、妙な浮遊感を感じそのまま意識を失った。
「ん…ここは何処だ?」
暫らくしてねずみ男は気を取り戻した。周りを見渡すと、薄暗い森の中だった。
「ようやったと気付いたようじゃな」
暗闇の中から声が響き、呆然としている彼の前に見知らぬ男が現れた。その男は60歳くらいの人間の様な深い皺のある顔で、禿げ上が った頭に角のような突起があり、昔の百姓のような出で立ちをしていた。
その手には金糸雀入りの鞄を持っている。間違いない、さっき の盗人だ!
「おい、コソ泥野郎。このねずみ男さまの物を持ち出すたぁいい度胸だ!とっとと返しやがれ!」
ねずみ男が怒号を上げて鞄の返還を要求する。それに対し年寄りは半笑いを浮かべ答えた。
「わしは鏡に住んでいる鏡爺じゃ。このつづらに用があってのう。この中には魂入りの人形が入っとりゃせんかね?」
「(何故?)おうおう、そうだとも。だったら何だ!早く返せよ!」
「やはりそうか…やっと会えたな。そうと分かればこれを返すわけにはいかん!このまま帰ってはくれまいか」
「な~に調子いいこと言ってんだよ!おりゃ、実力行使でいくぜえ~」
痺れを切らしたねずみ男が鏡爺に飛び掛る!
「仕方ない…うりゃ!」
鏡爺が手を叩くとそこからぼんやりとした人型が現れ、目の前に立ちふさがった。
「おい、やるのかテメー。と、思ったら俺じゃないか。鏡!?いやーいつ見てもいい男だなー、ってそんな事言ってる場合じゃなかった !」
人型だと思った物は鏡に映った自分の姿だった。一瞬怯んだねずみ男が体制を立て直すと、目の前の鏡が分裂し、彼の周りを取り囲ん だ。それが徐々に横に動き出し少しずつペースを速めてくる。
彼は動いている鏡を見ているうちに目が回ってきて、頭が麻痺しフラフラ になった。頃合を見計らった鏡爺が一声あげると周りの鏡が一斉に光りだす。そして衝撃が襲って来た!
「うわ~!お助け~!」
ねずみ男はそれっきり気を失ってしまった。
「あれ?ここは何処だ」
目を覚ましたねずみ男は辺りを見回した。見知らぬ山の中で気を失っていたらしい。彼は頭のコブに気づき、先ほどの出来事を思い出 した。
「ちくしょ~あの糞爺。次こそは…いけねえ!カナが危ない!でも、俺一人じゃ…」
再び挑んでも返り討ちに会う可能性が高い。こんな時、彼の行動パターンは決まっていた。
「父さん、お湯が沸きましたよ」
「は~い、雛が注ぐのー!」
「ふー、朝風呂に入ると目がさえて気が引き締まるわい」
「鬼太郎、私の紅茶も入れて頂戴」
「ちょっと真紅!あなたいつも人使いが荒いのよ」
「あら猫娘、そう言うあなたはどうしていつもここにいるの?」
「うっ、それはその…」
朝、鬼太郎の家ではいつものやりとりが行われていた。一日のはじまりをのんびり過ごしている団らんの中、外から慌てて梯子を登っ て来る音がする。
「お~い。助けてくれ~。ゼー ゼー」
「あっ!ねずみ男なの~」
「まったく。朝っぱらからうるさいわね」
朝の紅茶タイムを邪魔された真紅が不機嫌そうに横目で睨んだ。そのねずみ男のあわてぶりを見て鬼太郎がなだめる。
「少し落ち着いたら?今日はいったい何の用だい?」
「大変なんだ、実は……」
「なんですって、金糸雀が…」
真紅が少し声を荒げた。ねずみ男が身振り手振りで状況を説明する。
「そうなんだ。その鏡爺ってのがめっぽう凶暴でさ。俺も命からがら逃げてきたってわけさ」
「話からするとnのフィールドに入った様な感じね。妖怪にもいろいろいるみたいだから、私達に近い能力の持ち主かもしれない」
「命からがら、って割には怪我それだけじゃないのよ!何か怪しいわね」
猫娘が猜疑の目で睨みつける。なぜなら以前金糸雀とねずみ男で皆を騙し、真紅達のローザミスティカを奪おうとした事があったから である。単純な作戦のためあっさり見破られ、たいした騒ぎにはならなかったが。
「今度は本当なんだって!信じてくれよ!」
「父さん、どうでしょう」
「う~ん鏡爺か…鏡をねぐらとする妖怪だと聞いたことがあるがよくわからんのう。砂かけなら何か知っているかもしれん」
「わかりました。それじゃあ横丁に行ってみましょう」
一同は情報を得るべく、妖怪横丁の砂かけ婆の所へと向った。
「おう、皆の衆、よく来たな。何か用か?」
「みなさん、おはようございます」
砂かけ婆は自分の店の奥で商品の整理をしていた。横にはそれを手伝う蒼星石もいる。目玉親父がひょこりと鬼太郎の頭から出て、これまでのいきさつを説明した。
「鏡爺か。そいつなら昔、わしの所へ来た事があったぞい」
「本当か!で、どんな奴じゃった?」
「ところが…わしはその時たまたま留守にしておっての、店番をお歯黒べったりに任せておったんじゃが…何でも、眠た子を起こすための薬『目覚めの砂』を買って行ったそうなんじゃ。その時の話を聞いた限りでは別に悪い奴には思えんかったが」
「うーむ、それだけじゃ何もわからんのう」
「何言ってんだ!皆騙されているんだ!あいつは大泥棒だ!詐欺師だ!凶悪犯だ!」
二人の会話にねずみ男が割って入り、罵詈雑言をまくしたてた。あまりの騒がしさに猫娘が、
「まったく、それ全部あんたのことじゃない」
と、つっこむ。その言葉に皆うんうんと頷いた。それで我に返ったねずみ男だが、ふたたび皆に金糸雀救出を懇願する。
「まったく、大勢で何話してるんですか~」
今度は妖怪アパートの方より、翠星石と子泣き爺が歩いて来た。翠星石は皆に混ざり他のドールズに挨拶を交わすと、後より顔を赤らめたまま千鳥足で歩く契約者をちらりと睨む。
「この爺、朝っぱらから酔っ払っててしょーもねーですぅ。で、何の話だったんですか?翠星石にも聞かせろですぅ」
再び話が繰り返された。
「それは大変ですぅ。すぐに助けにいかなきゃですぅ!」
普段は毒舌で高飛車な翠星石ではあるがこういう時は仲間の身を一番心配する。たまにセコいちょっかいを出してくる事はあっても金糸雀は大事な仲間の一人であった。
「鏡爺か、そう言えば…」
すると、先程までぼうっとしていた子泣き爺が口を開いた。目玉親父が問いただす。
「お主は何か知っておるのか?」
「鏡の中に人を引きずり込む凶悪な妖怪だと聞いたことがある。様々な神隠しを起こし手をつけられずにいたが、百年程前に偉い僧に封印されたらしいが…」
「ほーれみろ。そうだ!間違いねえよ!」
ねずみ男がわが意をえたり、と言うように口を出した。妖怪達がわっとざわめく。
「う~む、親父殿ならいざ知らず、子泣きに遅れをとろうとは…このおばば、一生の不覚」
「わしだって伊達に何百年も生きとらんわい!」
「今の話が本当ならば封印が解けたってことですかね、父さん」
「子泣きの話だけだって所はちと怪しいが、金糸雀がさらわれたって所は本当らしいからのう」
その様子にドールズ達も心配になり、一緒になって金糸雀の救出をせがんだ。
「わかった!では連れ戻しにまいろう!」
ついに目玉親父が決断した。ドールズの先頭に立ち、真紅がそれに続く。
「決まり、ね。で、どうやって行くの?nのフィールドなら店の鏡からでも行けるけど」
「それなんじゃが、鏡の中と外。両方から行ったほうが確立が高いと思うのじゃが」
「父さん、それはつまり鏡に入って行く組とゴミ捨て場の鏡そのものへ向かう組とに分かれるって事ですか?」
目玉親父は二班による別行動を提案した。今の所、フィールド内の何処にいるかもわからないし、鏡本体がいつまでも同じ所にあるとも限らない。そのため、行き先は同じでも手広く探した方が良い、と考えたのだ。
「うわー、お父さん頭いいのー」
「その方が良いわね。わかったわ、じゃあ私達はフィールドから行くわね。鬼太郎、貴方はボディガードよ。こっちに来なさい」
「何勝手に命令してるのよ!鬼太郎が行くなら私も行くわ」
猫娘が鬼太郎と一緒に行くと言い張った。だが、ねずみ男も黙ってはいない。
「なんだ。お前もこっちか」
「当然だよ。行って仕返ししなきゃ気が収まらねえ!」
「これじゃバランス悪いですぅ」
「ねずみ男なんかどうでも良いがわしと子泣きだけではのう…おおっ!ぬりかべ!お主も来てくれるのか」
「ぬりかべ!」
いつのまにかぬりかべが砂かけ婆の後ろに立っていた。
「これで三人、一反木綿に連れていってもらえば四人で決まりじゃねーか!」
「何勝手な事ぬかしとるばい!」ボコッ!
「いてっ」
同じく現れた一反木綿にねずみ男がどつかれた。
「二人ともすまんのう、行ってやってくれぬか?」
「わかったばい」
「ぬりかべ」
組み分けが決まった。真紅、雛苺、翠星石、蒼星石のドールズと鬼太郎with親父、猫娘、ねずみ男が鏡のフィールドより、砂かけ婆、子泣き爺、一反木綿、ぬりかべがゴミ捨て場に、それぞれ探しに行く事になった。
「じゃあ行ってくるでの、お主らも気をつけてな」
「おばば~、また会いましょう」
ゴミ捨て場行きの二人を乗せて一反木綿が飛び立った。それを手を振って見送るフィールド組。
「じゃあ僕達も行きましょうか」
「いい?私の後に付いて来て」
そう言って真紅が店内の鏡に手をかざすと鏡の中が光りだした。
「行くわよ!」
そこにドールズが次々に飛び込み、鬼太郎もそれに続く。
「うへっ、本当に大丈夫かよ」
「今更何言ってんの!とっとと来なさい!」
猫娘はねずみ男の首筋を掴んで放り込み、最後に鏡に入った。全員が入ると鏡の輝きが消えた。
その様子を店の外より見守る一つの影があった。
「これは大変。ぬらりひょん様に知らせないと」
影の主は朱の盆。彼は報告するため足早に横丁を後にした。
「真紅、どうしたんだい?」
フィールドを飛び続ける一同。周りには無数の扉が浮いている。ドールズはここに入った瞬間に金糸雀の気配を察知、皆同じ方向に飛び始めたがさっきより様子がおかしい。それを見て、鬼太郎が問いかけた。
「真紅、君も感じる?」
そこに蒼星石が近づいてきて真紅と目を合わせる。
「あなたもそうなの?鬼太郎、私達はこの空間に入ればお互いの気配を感じる事が出来る。眠ってたりするとわからなくなることもあるけど、大丈夫、この先に金糸雀はいるわ。でも…」
「でも、何だい?」
「鬼太郎さん、その感覚が変なんです。何かこう…フィルターがかかっているみたいな、普通と違う、そんな感じなんです」
「まさか弱ってるんじゃ。金糸雀の身に何か…」
「そこまではわからないわ。私達は行くしかない、急ぎましょ」
一同はその方向に飛び続けた。
「何てこと…」
「うわー!雛初めて見たのー!」
「これは奇怪ですぅー!」
暫らくして目的の場所にたどり着いた。この扉の先に金糸雀はいる。しかし、その扉が異様だった。
普通フィールド内に浮かぶ扉は取っ手のある西洋風の形をしている。だが目の前のそれは、木の板を横につけ合わせた取っ手のない横開き式の入り口だった。周りが同じ形なだけに一際目立っている。
「これは日本の古い家で使われていた扉じゃよ、わしらには珍しくもないがお主達は初めてかな?」
目玉親父の問いに、ドールズは皆頷いた。
「なんとなく分かったわ。ここは多分、その妖怪が自ら造りあげた世界。自然に発生した他のフィールドとは違う」
「だから感覚が違っていたんだね」
「この先は何が起こるかわからない。皆用心なさい。行くわよ」
そう言うと真紅と蒼星石は意を決してそこに飛び込み、後の者もそれに続いた。若干一名、散々迷った挙句蹴飛ばされて押し込まれた者もいたが。
澄み渡った空、流れる川のせせらぎ、広がる田畑、それを包み込む山々と草原そして森。飛び交う虫とさえずる小鳥達。人の姿こそ見えないものの立ち並ぶわらぶきの家。降り立った世界は数百年前の日本の農村そのままの世界だった。
「…これはなんとまぁ、懐かしい眺めじゃわい」
皆で小高い丘の上に立ち、目玉親父が髪よりひょいと頭を出し辺りを見渡す。現代人が忘れてしまった古き良き時代、その情景がここにはあった。
「ねずみ男、君が来たのもここかい?」
鬼太郎が問いかける。
「ん?いや、夜で暗かったし、あっという間に追い出されちまったから…」
「要するにわからないってことね」
肝心な事を覚えていない事に対して猫娘が冷たく言い放つ。
「う~む、こんな世界を造りあげた鏡爺とは本当にそんなに凶暴な奴なのかのう」
と、目玉親父は首を傾げてしまった。
一方、ドールズも見慣れぬ風景に戸惑っていた。鬼太郎の住んでるゲゲゲの森も自然豊かな場所ではあったものの、うっそうとした暗い感じは否めない。しかしここは違う。受ける開放感は今まで味わったことのないものであった。
「こんなフィールドがあるだなんて…」
「うわー!広い!広い!あっ!蝶々さんなのー!」
「あっ!雛苺、待ちなさい!」
雛苺がはしゃいで、虫を追いかけ森の方へ行ってしまった。真紅の呼び止めも聞かず、その姿は木の暗がりの中にすうっと消えていった。
「まったく、あの子ときたら…こんな時に緊張感のない」
「あれー?蝶々さん何処行ったのー?」
森の入り口で虫を見失った雛苺は更に奥へと入って行く。以前は怖かった森の雰囲気も、妖怪達と暮らす様になって以来抵抗がなくなっていた。見知らぬ世界を探索する喜びに心も弾む。
「ねー蝶々さん、出ておいでよー」
だが、その少女人形に迫る黒い影があった。
「お嬢ちゃん」
「?」
「お嬢ちゃんも人形だね」
次の瞬間、森に悲鳴が響き渡る!丘の上にいた一同は一斉にその方向を向いた。
「雛苺!」
「真紅、なんで一人にしたんだ!」
隣で走る蒼星石が非難する。
「言い訳はしないわ!雛苺が危ない!」
雛苺の無事を祈りながら、全員森の中へ入っていった。
「!!」
雛苺は、いた。ただし、一枚の長方形の鏡にはめ込まれて、身動き出来ず混乱しているようだった。その鏡は1センチ程の厚みしかなく、反対側に回ると後姿が見える。
「雛苺!何があったの!返事をなさい!雛苺!」
鏡をどんどんと叩く真紅、雛苺も中より何か叫んでいたがその声は誰も聞き取れない。
「ふ~む、この中に閉じ込められているようじゃの」
そう目玉親父が言った時だった。鬼太郎の髪の毛がぴぴっと上をむく!
「危ない!皆逃げて!」
突如、地面より無数の鏡が立ち上った。それは一瞬で妖怪&ドールズの位置を把握し、次々と仲間を挟み込む!間一髪、鬼太郎だけがジャンプしてその難をかわした。だがその衝撃で目玉親父がバランスを崩し、髪の毛から零れ落ちる。
「ひゃー!」
「父さん!」
着地して辺りを見回すと、捕らえられた仲間達は全員雛苺同様、鏡に封じ込まれていた。
「大丈夫ですか父さん?」
「心配するな、しかし…これは一体…?」
「惜しいのう、お主も捕まえられれば話は簡単じゃったんじゃが…」
がさっ、と言う音と共に、奥の茂みより怪しい老人が出てきた。鬼太郎が横目で仲間の方を見ると、ねずみ男が指差し、必死で何かを訴えている。
「お前が鏡爺か。父さん、逃げて。何故こんな事をする!」
「そう言うお前さんは鬼太郎とか言う小僧か?わしの合わせ鏡をかわすとは流石じゃ。話に聞いた通り、どうやらこの中で一番強いらしいな…」
鏡爺はあごに手をやり、見定めするようにじいっと鬼太郎を睨みつけた。
「何故僕の名を…。一体僕らをどうするつもりだ!」
「落ち着きなさい。わしは争いを好まん。そこにいる人形達のどうだ…いや…みょうが…あれ?なんだっけ?」
鏡爺は何かを言いかけどもってしまったが、後ろにある茂みに少し首を傾けると、何か納得したような顔で言い直した。
「おお、そうじゃ、人形のろうざみすちかとか言う物を渡しなさい。さすれば全員無事に帰してやるぞい」
「? ローザミスティカの事か?そんな事出来るわけないじゃないか!」
「わしはそれを必要としておる。どうしても手に入れねばならん」
「ローザミスティカは真紅達の魂そのものだ!無くしたら永遠に眠り続けるんだぞ!」
「なぬっ!それは本当か?」
その言葉に鏡爺は一瞬動揺したようだった。しかし下を見て歯を食いしばると両手を広げ、体中から妖気を放ち始める。
「それでも…わしは…やらねばならん。邪魔するなら鬼太郎とやら、お主も容赦せん!」
広げられた手の平よりいくつもの鏡が現れ、円を描くように立ち並んだ。鬼太郎が身構える。
「一思いに決めるぞ。くらえ!妖術鏡地獄!」
鏡爺が手を前に振りかざすと鏡が一斉に向かって来た!下駄と毛針で迎撃するも数枚の鏡を割っただけ、あっという間に複数の鏡に囲まれる。
「しまった!」
鬼太郎が再び飛んで逃げようと上を見る。しかし目の前に突然、自分自身の顔が現れた。
「なにっ!」
「同じ手は通用せんよ。蓋をさせてもらう」
上方にもいつのまにか無数の鏡が待ち伏せていた。前後左右、そして上、周りの空間全てが鏡で覆われる。
「すまんな鬼太郎…。だが情けはかけん。はあっ!」
全ての鏡が鬼太郎目掛け突っ込んだ!そして閃光が走る!
「き、鬼太郎~!」
離れて様子を見ていた目玉親父が叫ぶ。
光りが収まり、鬼太郎がいた場所には一枚の鏡がぽつん、と佇でいた。様子を伺いに鏡爺が近づく。
「終わったようじゃな……。どれどれ…。 !? いない!」
鏡の中には誰もいなかった!予想外の出来事に鏡爺はあせって周りを確認、そして身構える。
「お、おい…。ど、何処へ行った!」
「ここだー!」
声が響き渡る。すると鏡爺の前の地面が突如盛り上がり、中から鬼太郎が飛び出した!ロケットのような勢いのまま頭で顎を突き上げる!「ぐわっ!」鏡爺は吹き飛ばされた。
「地中にまでは置けなかったようだね」
「お、おのれー」
体制を立て直した鏡爺はふたたび攻撃態勢をとった。
「もう遅い!」
鬼太郎が一瞬早くちゃんちゃんこを投げつける!ちゃんちゃんこは目の前の敵を一気に包み込み自由を奪う。「むがー!」拘束され、鏡爺は立ったままもがき続けた。
「おお、鬼太郎!無事じゃったか!」
「ええ、鏡に飲み込まれるより早く、地面に潜れました。少しでも遅かったら僕がやられていたでしょう」
二人の後ろの方でぼわん、と言う音が連続して響く。捕らえられていた仲間達が次々と開放されていた。
「きたろー、ありがとうなのー!」
嬉しさのあまり雛苺が鬼太郎に飛びつく。
「あははは、わかったよ、雛苺」
何故か後ろの方で、猫娘がぷうと頬を膨らませていた。(私が先に行きたかったのに~!)
「流石私の家来って所ね。ところで鬼太郎、戦闘中、私達を見て何を話していたの?」
「うん、真紅、実は…」
「ローザミスティカを…!?」
話を聞いた真紅は一瞬、眉をひそめた。
「この野郎、一度とならず二度までもこんな目に…、まったくふてぇ野郎だ!」
怒りが頂点に達していたねずみ男が身動きの出来ない鏡爺を思いっきり蹴飛ばした。バランスを失った鏡爺は、そのまま後ろの茂みに倒れこむ。するとごちん、と言う音がして、中から見慣れた姿の者が飛び出してきた。
「あいたたた…、なのかしらぁ…」
「金糸雀!」
「あ、あら、皆さん。御機嫌よう…なのかしら、おほほほほ…」
突如現れた探し人に皆驚く。金糸雀は皆の反応を探りながら、何故かおどおどしている様だった。
「カナー!よかったじゃねーか!」
ねずみ男が真っ先に抱きついた。
「ちょっと…、ねずちゃん、臭いの、かしら…」
「あの二人、何だかんだ言って、結構いいコンビですぅー」
湧き上がる仲間達。そんな中、真紅だけは険しい顔で金糸雀につかつか歩み寄ると、突如手持ちのステッキを突きつけた。
「し、真紅…」
「金糸雀、聞きたい事があるの」
「えっ?」
「この妖怪は何故、鬼太郎の事を知っていたの?何故、ローザミスティカを狙ったの?ローザミスティカを集めるならば、何故、貴方だけが無事でそこにいたの?答えなさい!」
「カナは…そのう…わからないのかしら…」
「まさか!」
皆一斉に疑いの眼差しを向けた。目玉親父が倒れこんでいる鏡爺をちらりと見やる。
「鬼太郎、鏡爺を話せるようにしてあげなさい」
「はい、父さん」
鬼太郎がそう言うとちゃんちゃんこの拘束が緩み顔だけが露出された。
「ふうっ、死ぬかと思ったわい。お主達、わしをどうするつもりじゃ?」
「もう何もせんよ。鏡爺、何でローザミスティカを欲しがったんじゃ?」
「? わしはそこの嬢ちゃんに、人形のぎょうざみそしるを集めれば願いが叶うと聞いたもんじゃから…」
「!!」
「か~な~り~あ~、説明するですぅ!」
一点に冷たい視線が集中する。翠星石が両腕を広げ攻撃態勢に入った!
「カナ、ローザミスティカが欲しくって…ごめんなさいなのかしら~!」
「皆心配してたですよ!また裏切りやがったのですか──────!」
怒り狂った翠星石が金糸雀を捕まえ〔以下自主規制〕ボロッ、ピクピク…「かしら…」パタッ!
「ホント、いいコンビよねー、金糸雀、最近ますますアンタに似てきたんじゃないの?」
「そんな事、俺に言われたって…」
猫娘がぎろりと横を睨む。ねずみ男は恥ずかしそうに小さくなるしかなかった。
「まったく人騒がせな…。鬼太郎、帰るわよ。今ならまだ、くんくんの時間に間に合うわ」
「ほらっ、チビカナ!お前も来るです」
ドールズが帰ろうとした時、今だ拘束されている鏡爺が呼び止めた。
「ちょっと待ってくれ。すると願いが叶うという話は…」
「話は聞いておったろう?可哀想じゃが…」
「残念ね。貴方は騙されていたのよ。妖怪がローザミスティカを集めたって何も起こらないわ」
「そんな…おハナ…」
「おハナ?」
真紅がぴくっと反応した。鏡爺は下を向き、沈み込んでしまった。
「もういいじゃろ。自由にしてやりなさい」
ちゃんちゃんこは束縛を解くとすーっと鬼太郎の手元に帰る。鏡爺の落胆した様子に目玉親父が近づき、話しかけた。
「お主、何かわけありのようじゃの?」
最終更新:2007年11月21日 16:49