焔「姉さん、また姉さんの好きな季節が来たよ。」
…何度目になるだろう、私、
早峰焔華は姉である流姫亜との思い出の地である裏山の大銀杏の木にやって来ていた。
理由は一つ、“あの事件”の後、私を助けてくれた代償として人ならざる体になってしまい姿を消した姉を探すため…
焔「…ここにくればきっと会えると思ったんだけど、今日も会えないのかな…?姉さん、今姉さんはどこにいるの?あれからもう5年も経ったんだよ。まだ姉さんは戦ってるの?」
銀杏の木を背に街を見下ろしながら、誰かに問いかけるように私は心に溜まった思いを吐き出した。
そうでもしないと、姉がいない不安や孤独で私はまたおかしくなってしまうから…
彩「焔華ちゃん?また…ここに来ていたの?」
焔「彩香さん?…お久しぶりです。」
私に声をかけてきた、
月村彩香さんも事件に深く関わっていた人で姉を支え続けつつ、私が人に戻れなくなる事がない様に、調整してくれていた人だ。
彩「ここは、三人の思い出の地だものね。もしかして、毎日・・・?」
焔「はい、姉が戻ってくるとしたら、ここに立ち寄らないはずがないのでここに来ればきっといつか会えるはずですから。」
彩「とうの昔に全て終わらせたっていうのに、流姫亜はまだ戻ってきてないのね。全くどこにいるのやら?」
焔「彩香さんの情報力でもまだ見つかってないんですか?」
彩「そうなのよ。私の持つパイプを総動員して探しているのに見つかってないの、もちろん遺体としても・・・ね。」
焔「FHやゼノスとして活動してるってことは・・・?」
彩「その線も考えて捜索してはいるけどその線は薄いみたい。流姫亜の能力で崩壊させられたと思われるFHの拠点をいくつか見つかってるし、ゼノスの方は、加入条件を満たしてないから。」
焔「そうなんですか…。ところで、どうしてここに?」
彩「ちょっと事件に関しての情報を支部に提供しにね。その時に支部の子供たちがあなたを探していたから多分ここじゃないかな?って思ってきてみたらアタリだったみたいね。」
焔「…そっか、子供たちに勉強を教えてあげる事になってたんだ。
それから、私のようになって欲しくないから、私の体験談を教えてあげるって」
彩「…大神支部長が許可したの?」
焔「はい、実際に起きた事件に対してどのように動くべきか巻き込まれて望まぬ力を得てしまった人をどのように正しい道に導くかいい教材になるからって」
彩「辛く・・・無い?」
焔「辛くない・・・って言えば嘘になりますけど、自分自身がちゃんと事件に向き合うためにも誰かに話しながらの方が気が少しは楽になりますから」
彩「あなたが、決めたことなら私は何も言わない。でも、辛くなったら私に相談してね。私はいつでもあなたたち姉妹の味方だから」
焔「ありがとうございます。子供たちも待ってるでしょうから、私行きますね。」
彩「行ってらっしゃい。後で私も同席させてもらうわ。私自身が知ってることも補足として役に立つと思うから」
焔「はい、子供たちのためにもよろしくお願いします。それでは、失礼します。」
そう言って私は彩香さんと、分かれて裏山を後にしました。
季節は秋・・・山が紅葉で色付き始め、少しだけ風が冷たく感じ始める季節、そして・・・全てが始まった忘れられない季節…