英霊ナノハに関する第一回報告書第七次中間報告

製作者『調べ屋』アマネ
参考資料『ソレハ殺戮ノ果テノ敗北


関連項目『割りに合わない正義の味方』

時空管理局半ば公認の『犯罪者』活動時期は新暦78年から80年までの間と、僅か二年程だが、
様々な事件の関係者として、かなりの頻度で名前が上がり、管理局内や犯罪組織の中では、かなり名の知れた存在。
その正体は地球の魔術師『衛宮士郎』彼は地球でも魔術協会などに追われていたらしく、
その追跡を撒くため地球では一度死亡したことにし、この時点で既に極秘裏に交流をしていた管理局の次元航行艦に密航。
とある次元世界にたどり着いた。そこから二転三転し、いつの間にか一部の人間に名が売れた、というわけだ。

(ちなみに、完璧に私事ではあるが、遠坂凛に依頼され衛宮士郎の密航の手助けをし、
あまつさえ地球に帰ってくるまでの二年間、衛宮士郎のガイド役をしたのは、実は僕だったりする。)

その二転三転というのは詰まる所『人助け』の結果であり、助けを求められると見知らぬ人だろうと無償で助け、
途中で放り出すこともできずズルズルと厄介事に巻き込まれた結果、結局重要参考人として、管理局に捕まり、
こちらが、『衛宮士郎は巻き込まれただけ』という証拠を調べて(あるいは偽造して)提出し、無罪放免される。
……という流れは一種の恒例行事と化した。その中で付いた二つ名が『割りに合わない正義の味方』である。

ところで、いくらガイド役を依頼されても、四六時中一緒にいられる筈もなく、
とある次元世界で別行動していた衛宮士郎が、ついに管理局に捕まった。
捕らえたのはフェイト・T・ハラオウン執務官。そして本局に連行するときに、ちょっとした事件が起こり、
衛宮士郎と共にこれを解決。これが元で彼と彼女の間にいわゆる『コネ』が出来る。

──この出会いがよかったのか、それとも悪かったのかは分からない。が、この巡り合わせのお陰で、
僕は高町なのはと友好関係を結び、ナノハについての調査を再開、この報告書を作成するにいたったのである──。

────────────

「──ねぇ、お話は終わり?」

──時刻は午前二時過ぎ。草木も眠る丑三つ時というヤツである。

「いえ、もう少し待ってくれますか?……幾つかそちらに聞きたいことが出来ました」

ここに対峙するのは人知を越えた英雄達、方や黒の巨人とそのマスターたる雪の乙女。
方や蒼の騎士に赤の騎士、そして白の魔導師とそのマスター達である。

数の上では後者の方が圧倒的に有利な筈。──では、ナノハ頬に、かすかに伝う汗はいったいどういう事なのか。
「……いいわ、答えてあげる」
「取り敢えず……お名前は?わたしはタカマチナノハと言います」
すると女性は余裕綽々にスカートの端をつまみ上げ──
「これはご丁寧に、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと申します」

「アインツベルン!?」
「アインツベルン……まさか切嗣の……!?」
後ろではなにやら驚いているが、今は気にしているときではない。
「まず、わたしとマスターは聖杯戦争とは関係ありません」
「ええ、そのようね。私、貴方みたいなサーヴァント知らないもの」
「では……、手を出さなければ見逃す。……なんてことはないですか?
少なくともマスターだけは見逃してくれると嬉しいのですが」


「なのはちゃん!?」
なにを言いだすのかと叫ぶはやて。一方セイバー達は『当然か』という顔で、事の成り行きを見守っている。
ナノハがマスター第一という主義であることは、先程から散々分かっている。
──ならば、あんなものとまともに戦おうとする筈がないのだ。
ただ立っているだけだというのに、『死』を、覚悟せねばならないほどの、圧倒的な存在などとは。

果たしてイリヤスフィールの返答は──
「言われなくてもその子だけは見逃してあげる」
と、予想だにしないものだった。

「?──有り難いのですが──何故?」
「そんなことはどうでもいいでしょう。──もう質問は終わり?なら始めちゃっていい?」
「いえ、まだあります──わたしがもし、このサーヴァント達に加勢した場合、わたしのマスターは狙われますか?」

「ナノハ!?」
今度はセイバーが非難の声を上げる。確かに今の発言は下手をしたら、はやてまで狙われかねない危険なもの、
そんなことはナノハにだって分かっているが、しかしどうしても聞いておかねばならないことだった。
いくら無関係だからといって、目の前の人死にを黙って見過ごせるほど、彼女は冷徹になりたくない。
……それに、これはそんなに分の悪い賭け、というわけでもなし。──あることを確かめるの意味もあった。

─さて、どうかな?

しばらく黙っていたが──
「──手を出してきても、その子は殺さないであげる。……でも貴方はダメ、私に歯向かうなら……殺すわ」
「なッ!?」
あまりに不自然なイリヤスフィールの返事に、しかしナノハは確信する。

─矢張り、か……

「もういいよね?じゃあ……」
「待って下さい!……最後に一つ、……いいですか?」

「──ほんとに最後よ?淑女を待たせるなんて失礼なんだから」
「ありがとうございます。──で、何やってるんですか、リインフォースさん?」

「────え?」
「………………」
固まるはやて、無言のイリヤスフィール、事情の分からない二人のマスターと二騎のサーヴァント。
「一応言っておきますけどとぼけても無駄ですからね、ユニゾンデバイスの反応と、はやてちゃんへの不自然な特別扱い。
後はちょっと勘を働かせれば分かることです。それに、わたしの『眼』は誤魔化せません」
「……………」

無言、無言、無言、ひたすら沈黙を守るイリヤスフィール。そして──
「──……分かりました。イリヤ……」
今までとは違う静かな声がイリヤスフィールの口から流れる。
それと同時にイリヤスフィールの身体が光始め──。
「ユニゾン・アウト……」
その言葉が終わると同時にそこには──いかにも寒そうな格好をした、モデル顔負けのスタイルを持つ
美しい女性と、先程の女性が着ていた服をスケールダウンした様な服を着た、可愛らしい女の子がそこにいた──。

「リイン…フォース……」
「やっと、直接会うことが出来ました。リインフォース……」
万感の想いを込めて『その名前』を呼ぶ。
「お久しぶりです。はやて様。それに──初めまして、だな。蒼天のゆく祝福の風よ」
そして、感極まるはやてとリインフォースツヴァイ(以下ツヴァイ)に優しく微笑む
いかにも寒そうな格好をした女性──リインフォースアインス(以下、アインス)
「そしてサーヴァントよ、はやて様を守ってくれたこと、礼を言う。……どこかで会ったか?」

「……お久しぶりです。リインフォースさん。……と言っても、分からないとは思いますが」
「──ふむ?古代ベルカ時代に会っていたか?……いや、リインフォースの名を知っているということは、ごく最近の者の筈」
ナノハの言葉にしばし熟考し、そして出した答えは──
「……そうか、あの小さな勇者」

───嘘ッ!?分かってくれた!?

「……のお母様か」
「~~~~~~!!?」
少なからず期待したナノハを、持ち上げてから叩き落とした。
「……すまない、冗談だ。リンカーコアの波長で分かる。……まさかあの小さな子が英霊と成っていようとはな」
よほどショックだったのか、凄まじく残念そうな顔になるナノハ。流石に悪いと思ったのか、直ぐ様あやまるが──。

「──そちらこそ、いつから子持ちになったんですか?隣の方は旦那さん?」
それでも腹に据えかねたのか、彼女らしからぬ冗談で返す。しかし──
「?──いや、イリヤは新たな主だが?」
天然であっさり流されてしまった。

「はぁ~。……冗談ですよ」
「そうか」
「…………………」

───やりづらい

ナノハが考えていることはこの一言に尽きる。元々、彼女は話術があまり巧みというわけではない。
ただ、己の経験を元に話を組み立てているだけなのだ。
よって、このような天然入っているタイプは、どうにも苦手なのである。

黙ったナノハに変わり、今度はセイバーが──。
「──リインフォース…でよいのか?私も少し問いたい」
「ああ、なんだセイバーのサーヴァントよ」
「?──何故私がセイバーのクラスだと?」
「その剣を見れば誰でも分る。何やら魔法で包まれているが──
その程度の魔法では私を欺くことは出来ないぞ」

「…………」
仮にも宝具である風王結界を事も無げに見破ったことに、僅かに驚くセイバー。
しかし、先程から散々ナノハに思考の上をいかれて、いい加減慣れてきたのか顔には出さず──。
「貴方のマスター──イリヤスフィールを成人へと化けさせていたのは、どのような意図が有ってのことか」
始めはかつてのマスターの娘に対する、情に訴え掛ける作戦かとも思ったが──二度同じ英霊が喚ばれるなど分かる筈もない。
それに今の姿が本当ならば、切嗣の娘にしては幼すぎる。『別人』ならばどんな理由があり、成人へと化けていたのか。

「──……『化けていた』とは少し違うな。正確には本来の姿に『戻していた』が正しい」
アインスの返答は、こちらの予想していたものとは、少し違ったものだった。

「『化けていた』ではなく『戻していた』──?」
「ああ。──我が主、イリヤは、とある理由で成長が止まってしまっていてな、このままではそう永くも生きられん。
そこでユニゾンし、私の内部空間にて治療をしていたわけだが
その過程で『本来の姿』をシミュレートして、イリヤに慣れて頂くために、あの姿をとっていた」

───まぁ、理由はそれだけでもないがな。
……まさか、衛宮士郎に『姉としての見栄を張りたかったから。』などと、言える筈もない

アインスの返事に何か思うことがあるのか、難しい顔をして今度はセイバーが黙り込む。
「──さあ、どうする?小さな勇者……いや、なのは。お前には恩がある。出来れば戦いたくはないのだが──」

暫く黙っていたが、やがて口を開き──。


「──……なんで消滅した筈の貴方がここにいるのか。防衛プログラムは大丈夫なのか。
……聞きたいことはあるけど…今はいいよ。重要なのは、貴方は強すぎる。…ってこと。
言って悪いとは思うけど…多分セイバー達は、敗ける」

「──ふぅん。よく分かってるじゃない」
ナノハの言葉に満足げなイリヤスフィール。一方、セイバーは何か言いたそうではあるのだが──しかし無言。
そしてアーチャーは、ナノハからこっそり送られていたサインを解読していた。その内容は──

彼女、本当、元、姫、同等。

(これらの語群が示すことは──!)
アーチャーの頭には、絶対に当たってほしくない、ある一つの解釈が浮かんでいた──。

────────────

──ナノハの言葉に徐々に思考を、戦闘モードへと切り替えてゆくアインス。
「そうか……──ならば」
「……わたしは貴方を足止めする。そうすれば……勝負の行方は分からない」
一方のナノハも、会話をしながらゆっくりと体内の魔力圧を上げてゆく。
「……最も、わたしは負けるだろうけどね。そのときは、はやてちゃんはリインフォースさんに任せるよ」

───オプションビットスタンバイ。偽・ソニック、レディ。『オッドアイ』、ターゲットロック。魔力圧既定値達成。
カートリッジシステム正常起動確認 。『シェイプシフター』『カイザー』『オッドアイ』同調確認──

魔力圧上昇と同時に、出来得るかぎりの準備を予めしておく。いや、しておかなければならない。
この身体は既にガタが来ていた時代の肉体、運動能力で言えば確かに最盛期であろうが、
リンカーコアの面から言わせると、最盛期は十代か、完全自宅療養した直後、三十歳前後であろう。

事実、ランサーから離脱するために使った三つの魔法。
シューター系四十発前後、抜き打ちのエクセリオンバスター、フラッシュムーブ
たったこれだけを連続同時に使用しただけで痛みが奔り、動悸、息切れをおこしてしまった。

セイバー&アーチャー戦ではそのことを踏まえ、外部ユニットであるビットを決め手とし、
自身は比較的低ランクの魔法のみを使用する事によって、軽減しようとしたが……結局は砲撃を使わざる終えなかった。

今の肉体では、カートリッジシステムでさえ使用するだけで胸に痛みが奔る筈だ。
これは急激に魔力量が変化することによって起こるものというのは、既に分かっている。
故に、初めから魔力圧を一定数値内に保もてば、この問題はカバー出来る。戦闘行動に支障はない。
そして、相手は自分が知りうる中で、最強の存在だ。一秒でも長く時間を稼ぐためには……。
──最悪、全力全開も覚悟しなければならないだろう。

そこでふと──自分を嘲笑う。

───『全力全開』を『覚悟』か……我ながら情けないね。全く

内心苦笑しながらも、しかし思考は戦闘モードへ。

そして──
「ふッ……!!」

ボッ!

ここで初めて魔力を体外へと解放し、オーラを形成。


そして応じるようにアインスも──
「ぉぉ……!!」

ぶわッ!

その魔力を解放する!

『…………』

マスター達はその桁外れの魔力量に息を呑むが──。

「ふん」
「ほぉ…」
「ふ"るらぁぁぁぁ………」

英霊達の反応はこの程度である。
まぁ、それも当然。彼らは、『英雄』なのである。
自身の技量に誇りがあるからこそ、相手の技量に驚くことはあっても、
たかが自分の数千倍、数百倍の魔力量を持っている程度では、
驚き、恐れることは……あったとしても、顔になど出すはずがない。

むしろ──猛る。これほどのものか、見事!と……。
あるいはそれこそが英雄たる資格……なのかもしれない。


そして、ナノハの魔力に面食らっていたイリヤスフィールだが、
アインスも同等か、それ以上の魔力を解放したことで再び余裕を取り戻す。

「もう待ちくたびれたわ。早く始めましょう」

その言葉に英霊たちは身構え、マスター達も臨戦体勢へ。
「─────」
そして周囲から音が消えたところを見ると、どうやらリインフォースが結界を張ったようだ。

「……思いっきりやるつもりですか……」
「なのはちゃん……リインフォース……」
とても心配そうなはやてに、ナノハはしばし考え、こう言った。
「…はやてちゃん。空、飛べる?」
「ヘっ!?…一応浮かぶくらいなら……」
「……何のつもりだ、なのは」
険しい顔をするアインスには取り合わず。
「下に居るとセイバー達の邪魔になるよ。それに……」

「それに?」
「どうせ思いっきりやるなら、はやてちゃんやリインに見せておこうと思って、
……空戦の駆け引きってやつをね!」
そう言うと、デバイスを上に投げ、華麗なステップにて舞いを披露し、最後にデバイスをキャッチしてキメる。
「さぁ、いきましょうか、古代ベルカのアルティメットワン?」

「ナノハ」
今にも飛び立つところへ、話し掛けてきたのはセイバーだ。
「先の戦闘で、その魔力を見せなかった事について、些か言いたいことがあります。
……なので、必ず生き残るように」
小声でそれだけ言うと、さっさと離れてしまった。


「……善処します」
聞こえはしないだろうが、苦笑混じりにそう返し──。

ふわっ……ドン!

はやてを抱き抱え空へと飛び立った──。

───行ったか……

セイバーがナノハに話し掛けた理由。それはアーチャーがナノハのサインを理解し、セイバーへと伝えたからであった。

最初のサイン、『彼女、本当、元、姫、同等。』

『本当』を『真』、『元』を『祖』と変換すれば──。

『彼女は真祖の姫君と同等』

となる。これだけだとこじつけのようだが、先程のナノハの台詞。
『古代ベルカのアルティメットワン』
この台詞がある以上、ほとんど正解とみていいだろう。

そしてもう一つ、先程の舞いの最中に混ぜたサイン。要約すると。
『逃げられるようになったら、わたしに構わず逃げろ』
である。

───まったく、こんなときまで他人の心配ですか。その言葉が真実ならば、一番厳しいのは貴方でしょうに。
思わずらしくないことをしてしまった。こちらも人の心配をするほど容易い相手ではないというのに

──ガチャガチャ、ピンッ……

「む?」
妙な音がし、見るとアーチャーはなにやら箱状のものから金色の何かを取り出していた。
「アーチャー、それは…?」
「カートリッジだ、タカマチが空へ飛ぶときに落としていった。……ふん、六発か」
そう言いながらアーチャーは、取り出したカートリッジを一発、口のなかへ放り込んだ。
「セイバー、君も一つ口にくわえておけ、いざというときに噛み砕けば、魔力回路が活性化し、爆発的な魔力を生み出す。
ただし噛み砕くときにかなりの衝撃がくるからな、顎が外れないように気を付けろ」
と、セイバーにもカートリッジを一発渡す。

──バサッ!

と、ここでようやくアインスも宙へと飛び立った。どうやら今まで、
ユニゾンする。しない。で、揉めていたようだ。(結局ユニゾンはしていない)
「さて……凛!いつまで惚けている!」
「あ……ごめん!」
ナノハとアインスの魔力にあてられたか、放心気味だったが、アーチャーの一喝に我に返る。

「シロウ、下がっていてください」
それだけ言うと、ずいと前に出るセイバー。そして──
「随分無駄なお喋りをしたけど、これだけ喋ればもう十分でしょ?……やっちゃえ、バーサーカー!」
イリヤスフィールの言葉に、今までピクリとも動かなかった黒の巨人が──咆哮とともに飛び掛かってきた──!

────────────

──一方こちらはその上空。

先に宙へと上がったナノハは目を伏せ、空に佇んでいた。
「──待たせた」
騎士甲冑を身に纏い、ナノハと同高度にまで上がってきたアインスが、声を掛ける。するとナノハは右目だけを開き、開口一番──。
「遅い。よほど爆撃でもしてやろうかと思ったぞ」
「すまない、イリヤを説得するのに時間が掛かった」
するとナノハは、まじまじとアインスを見つめ──
「……ユニゾンはしていないのか。こちらとしては嬉しい誤算だが……いいのか?」
「おまえが相手だ、万が一、ということも有り得る」

「──ふん、警戒していたのはお互い様か」
そう言ってゆっくりと左目を開けると──紅玉の色へと染まっていた。
よく見るとバリアジャケットも若干だが変わり、心なしか、髪もうっすら金色掛かっているように見える。
怪訝な顔をするが、しかしアインスは、その理由を看破する。
「その姿……そういう事か。……お前も──」

『ああ』と頷き
「察しの通り、非人格型ユニゾンデバイス『カイザー』…それが私の右腕の正体だ」
「非人格型?…随分と珍しい……というより、半端なものを着けているな」
「仕方がないだろう。私はユニゾン適性は申し訳程度にしかないのだからな。
非人格型ですら四分の一の融合率でこの様だ。人格型など着けたなら、間違いなく乗っ取られる」

ため息混じりに左目を指差し、続ける。

「おまけに油断していたせいで『引き摺られて』しまった。
……口調が違うだろう?私としては普段通りに話しているつもりなのだが…な。
腕に仕込まれた『帝王学プログラム』のせいで、勝手にこのような口調になってしまうのだ。
……いつもなら意識してレジストするのだが……今回はうっかりレジストし損ねた」
(──まぁ、ユニゾン係数を高くすると、レジストも意味がなくなるんだけどね)

「──……はやて様は?」
「ああ、あそこに居る」
視線で指差すと──

「…………あれは…どういうことだ?」
アインスがそう言ったのも無理からぬこと、はやてはクリスタルケージの中に、ツヴァイ共々閉じ込められていたのだから。
「私たちが戦闘をする場合、マスターとリインに流れ弾がいってしまうことは、十分に考えられる。
そのための処置だ。あれなら……そうだな、私の主砲が直撃でもしない限りは安全だ」
「……成る程、取り敢えず納得しておこう」

「……先程どうでもいいと言ったが、やはり一つ聞いてよいか?」
「なんだ」
「──防衛プログラムは大丈夫なのか?」

──矢張り、アインスと戦う上ではこの事は聞いておかねばならないだろう。
もしもう一度『夜天の魔導書』が『闇の書』として暴走した場合──
最悪、この世界は滅び、またどこかの世界へ転移してしまう。……それだけは避けなければならない。

果たして、アインスの返答は──
「──ああ、一応大丈夫だ」
「一応?」
「……守護騎士プログラムを切り離したせいだろうな。防衛プログラムを抑え込む余裕が出来た。
代償として蒐集した魔法の大部分は使用不可能になってしまったが…な
取り敢えず、余程複雑な魔法を使わない限りは大丈夫だ。私もお前やはやて様、イリヤの世界を滅ぼしたくはない」


──納得は出来ない。防衛プログラムというのは、それだけで本当に抑えられるものなのか?
……だがここは、あえてアインスの言葉を信じることにした。
「──そうか。それは重畳だな」
「チョウ‥ジョウ?」
「うん?…私は主に『複数の世界の危機』に喚びだされるのだが…そのとき共闘した、とあるエージェントの口癖だ。
意味は…そうだな『それは良かった』とでもしておけば…まぁ、間違いではない」
「成る程」

──そして双方口を閉じる。最早会話での時間稼ぎも限界。
そんなことは分かっているのだが、やはり──やりづらい。

ナノハはかつて歯が立たなかった相手として、また八神はやての大切な家族として。
アインスは、かつての主と守護騎士達を救い、自分を絶望の輪廻から解放してくれた者として。

──しかし──

「そろそろ…始めないか?」
「そう…だな……」

──今はそれぞれ守りたいもの、助けたい人がいる──。

「一つ言っておこう。私がお前の話に付き合ったのは、私も時間稼ぎをしたかったからだ」
「…………」

──故に、激突は避けられない──。

「そうすれば下の片が付くとおもったのだが……存外しぶとい」
「…随分アーチャー達を舐めているな。彼らは強いぞ?」
「舐めているわけではない。ただ、サーヴァント二体では、おそらく手数が足りないだろうと推測しただけだ」

「……それは運の無いことだ」
『フフッ』と、アインスの言葉に意味深に笑うナノハ。
「?──確かに運が悪いが、それはお前の言う台詞では……」
「そうではない。そうではなく……」
アインスの台詞をさえぎり、誇らしげに、そして寂しげに、ナノハは言葉を紡ぐ。

「こと手数という点において、アーチャーほどの者はそうは居ない。そういう意味でそちらに対して『運が無い』と言ったのだ」

それは絶対の信頼を置く故の事実。生前、その無限の剣にて、幾度も危機を助けられた。
それは、いつかどこかの世界の記録、『シンデレラ』とに撃ち合うその姿。
無限の剣を背に背負い、百を越えるビットと相対する。知らないはずの光景が頭に浮かぶのは、
自分もまた『シンデレラ』や『ハサン』と同じく『高町なのは』の行き着く先故か……。

「──そういう事ならば……(シュヴァルツェ・ヴィルクング)」
感傷に浸っているナノハに、拳に魔力を籠めながら──。
「はやく始めよう」
ついに構えるアインス。
「…………」
無言、無表情だが、ナノハも両手両足首に環状魔方陣を多重展開。
ゆったり目のバリアジャケットの袖とブーツにベルト代わりに巻き付ける。そして更に魔力スフィアを複数放出。

「……準備は良いか?」
「……律儀だな……来い!」


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最終更新:2009年03月17日 10:48