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「vsヴィータ」(2009/10/11 (日) 21:04:39) の最新版変更点
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「封鎖領域、展開」
海鳴の町を見下ろす空にひっそりと浮かぶ小さな影。愛らしい外見に似合わない無骨な鎚を構え、そこからとある力場が展開される。
それは魔力と呼ばれる特殊な力を持つ者以外を追放し、外界から切り離された内部は魔力を持つ者―――即ち、魔導師達のみが立ち入ることを許される戦場と化す。
「魔力反応・・・今夜はなかなかにデカいな」
反応があった場所を探知し目標を補足する。
冬の澄んだ空を駆ける紅い流星。
目当ての獲物はすぐにわかった。遠目からでもかなり目立つ格好をしている。
血で染め抜いたかのような赤いコートと帽子からのぞく金髪はどうみても現地の人物ではない。
高度を維持したまま、徐々に距離を詰めていく。
背後から、一撃。赤コートは未だヴィータに気付いていない。
彼女はその無防備な背中へ魔力弾を叩き込もうと――――
「やぁ。この結界を張ったのは君たちかな?」
気付いていないはずの赤コートの首がまるでばね仕掛けの人形のようにぐるんと回り、今まさに攻撃態勢に入った騎士に相対した。
「驚いたのかい? そんな派手に魔力を垂れ流していたら馬鹿でもわかるさ。君はどうやら魔術師の何たるかを知らない田舎者と見える」
「それにこの結界・・・駄目だね。範囲が広い上に線引きが強すぎる。簡単に見つけられる異界なんて意味がないだろう?
これを張った奴はよほどの無能かかなりの自信家なんだね。協会に追いかけ回される覚悟があるなんて尊敬するよ。
そうだ、ちょうど今から知り合いの結界師のところへ行く予定なんだ。よければ紹介しよう。あぁ、料金の心配はしなくていい。
彼はそういうものには無関心だからね。いや、でも紹介料くらいは貰わなくっちゃ割に合わないな。もちろん割引はしておくから安心していいよ」
「えーと、その、」
あまりの唐突さに言葉を失うヴィータ。仕掛けようとした矢先に機先を制され、その上こちらに一切の会話を挟む余地すらなく一方的な会話を続けられ、
今までは一方的に獲物をぶちのめしてきただけにこういう場合の対処法がわからず目を白黒させている。
「それで? ここまでマヌケな罠を仕掛けてまでやりたかった事は何だい?
まさかとは思うけれど内部の異状を外部に漏らさないため、なんてジョークはよしてくれよ。
こんなモノ、術式を起動させた時点で“ナカ”で“ナニカ”していることはバレバレなんだぜ?」
「・・・・・・」
ヴィータは答えない。この男に僅かでも情報を漏らせばどこからか足が付く可能性があるからだ。
主はやての持つ「闇の書」は管理局の把握しているロストロギアの中でもとびきりに危険な代物、
位置を特定されるのは時間の問題とはいえ今見つかるのは非常に都合が悪い。
場所が割り出されようものなら武装局員が大挙して押し寄せて来るだろう。そうなれば彼女たちの目的を達成する事はかなり困難になる。
凍てついた空気を吹き払う殺意の波動。これ以上赤コートの男に合わせる義理は無い。
「!!」
大気が爆発する。それは弾丸の如き速度で飛び出したヴィータの踏み込みの残滓。
異変に気付いた赤コートは少女がいたはずの場所を見やるが既に遅い。とっさに防御の姿勢を取るがこの騎士の前ではいかなる障害も意味を成さない。
男の突き出した左腕もろとも鉄の伯爵を叩き込み、目前の男に骨折以上即死未満の強烈な一撃をお見舞いする――――はずだった
「ひどいことをするね、君は」
プロテクションでもなく、バリアでもなく、男はただ左手で鉄鎚を受け止めていた。
対象に書き込むことによって力を発揮するルーン、そのうちの一つ「硬化」を自らの腕に刻み込み、
肉体そのものを鋼鉄さながらの強度にすることによって即席の盾としたのだ。
ただ衝撃までもは殺し切れず、直撃を受けた左腕は骨が粉砕されている。もはや2度とまともに機能することはないだろう。
しかし男はただの肉塊と化した左腕でグラーフアイゼンを強引に押しのける。
その顔は先ほどまでのどこか親しげな青年の顔ではなく、醜く歪んだ魔術師の顔だった。
「痛いだろぉぉぉぉぉお!!!」
ヴィータは男の怒りに染まった目を見た。見てしまった。何か良からぬモノを感じた騎士はあわてて目線を外そうとする。
だが動かない。目線どころか指の一本、呼吸すらままならない。さながら全身金縛りにあったかのように、その体は硬直した。
「・・・おいおい、今のは威嚇のつもりだったんだぜ? この程度の暗示も防げないくてどうするんだ、お嬢ちゃん」
ミッド式、ベルカ式、そのどちらも体の外部に魔力を展開する事に特化しているといって差し支えない。
攻撃、防御などの戦闘用魔法はもとより、索敵、治癒などの分野においてもこの星に伝えられてきた魔術をはるかに凌駕している。
その反面、体の内部に魔力を通すことは極端に貧弱であり、体内に魔力を通すことによってレジストする暗示や呪いなどに対してはほとんど耐性を持たない。
「ふん、三流め。君には私が手を下すまでもない。じきに代行者か協会の掃除屋がやってくる。それまでの短い余生を満喫するがいいさ」
赤コートの男は鎚を振り下ろした姿勢のまま動かない少女を一瞥すると、それきり興味を失ったかのように歩き出した。
「やれやれ、せっかくの一張羅が台無しだよ。
新しく義手も調達しなきゃならないし、全く、君は人が嫌がることをしちゃダメだと親から教えられなかったのかな」
最近の子供も困ったものだとぶつぶつ独り言を漏らしつつ魔術師はその場を後にする。その頭の中に既に先ほどの戦闘の記憶は欠片も残っていないだろう。
彼はただ海鳴に来たのではなく、ある目的のためにこの町を経由したにすぎない。
学生時代の友人に対する協力と、自分の誇りを踏みにじった女に対する復讐のために。
そうして彼は歩き出す。自分が今どれほどの大事件に足を突っ込んだかも知らず―――――。
「封鎖領域、展開」
海鳴の町を見下ろす空にひっそりと浮かぶ小さな影。愛らしい外見に似合わない無骨な鎚を構え、そこからとある力場が展開される。
それは魔力と呼ばれる特殊な力を持つ者以外を追放し、外界から切り離された内部は魔力を持つ者―――即ち、魔導師達のみが立ち入ることを許される戦場と化す。
「魔力反応・・・今夜はなかなかにデカいな」
反応があった場所を探知し目標を補足する。
冬の澄んだ空を駆ける紅い流星。
目当ての獲物はすぐにわかった。遠目からでもかなり目立つ格好をしている。
血で染め抜いたかのような赤いコートと帽子からのぞく金髪はどうみても現地の人物ではない。
高度を維持したまま、徐々に距離を詰めていく。
背後から、一撃。赤コートは未だ騎士に気付いていない。
彼女はその無防備な背中へ魔力弾を叩き込もうと――――
「やぁ。この結界を張ったのは君たちかな?」
気付いていないはずの赤コートの首がまるでばね仕掛けの人形のようにぐるんと回り、今まさに攻撃態勢に入った騎士に相対した。
「驚いたのかい? そんな派手に魔力を垂れ流していたら馬鹿でもわかるさ。君はどうやら魔術師の何たるかを知らない田舎者と見える」
「それにこの結界・・・駄目だね。範囲が広い上に線引きが強すぎる。簡単に見つけられる異界なんて意味がないだろう?
これを張った奴はよほどの無能かかなりの自信家なんだね。協会に追いかけ回される覚悟があるなんて尊敬するよ。
そうだ、ちょうど今から知り合いの結界師のところへ行く予定なんだ。よければ紹介しよう。あぁ、料金の心配はしなくていい。
彼はそういうものには無関心だからね。いや、でも紹介料くらいは貰わなくっちゃ割に合わないな。もちろん割引はしておくから安心していいよ」
「えーと、その、」
少女はあまりの唐突さに言葉を失う。仕掛けようとした矢先に機先を制され、その上こちらに一切の会話を挟む余地すらなく一方的な会話を続けられ、
今までは一方的に獲物をぶちのめしてきただけにこういう場合の対処法がわからず目を白黒させている。
「それで? ここまでマヌケな罠を仕掛けてまでやりたかった事は何だい?
まさかとは思うけれど内部の異状を外部に漏らさないため、なんてジョークはよしてくれよ。
こんなモノ、術式を起動させた時点で“ナカ”で“ナニカ”していることはバレバレなんだぜ?」
「・・・・・・」
騎士は答えない。この男に僅かでも情報を漏らせばどこからか足が付く可能性があるからだ。
主の持つ「闇の書」は管理局の把握しているロストロギアの中でもとびきりに危険な代物、
位置を特定されるのは時間の問題とはいえ今見つかるのは非常に都合が悪い。
場所が割り出されようものなら武装局員が大挙して押し寄せて来るだろう。そうなれば彼女たちの目的を達成する事はかなり困難になる。
凍てついた空気を吹き払う殺意の波動。これ以上赤コートの男に合わせる義理は無い。
「!!」
大気が爆発する。それは弾丸の如き速度で飛び出した騎士の踏み込みの残滓。
異変に気付いた赤コートは少女がいたはずの場所を見やるが既に遅い。とっさに防御の姿勢を取るがこの騎士の前ではいかなる障害も意味を成さない。
男の突き出した左腕もろとも鉄の伯爵を叩き込み、目前の男に骨折以上即死未満の強烈な一撃をお見舞いする――――はずだった
「ひどいことをするね、君は」
プロテクションでもなく、バリアでもなく、男はただ左手で鉄鎚を受け止めていた。
対象に書き込むことによって力を発揮するルーン、そのうちの一つ「硬化」を自らの腕に刻み込み、
肉体そのものを鋼鉄さながらの強度にすることによって即席の盾としたのだ。
ただ衝撃までもは殺し切れず、直撃を受けた左腕は骨が粉砕されている。もはや2度とまともに機能することはないだろう。
しかし男はただの肉塊と化した左腕で鉄鎚を強引に押しのける。
その顔は先ほどまでのどこか親しげな青年の顔ではなく、醜く歪んだ魔術師の顔だった。
「痛いだろぉぉぉぉぉお!!!」
騎士は男の怒りに染まった目を見た。見てしまった。何か良からぬモノを感じた騎士はあわてて目線を外そうとする。
だが動かない。目線どころか指の一本、呼吸すらままならない。さながら全身金縛りにあったかのように、その体は硬直した。
「・・・おいおい、今のは威嚇のつもりだったんだぜ? この程度の暗示も防げないくてどうするんだ、お嬢ちゃん」
ミッド式、ベルカ式、そのどちらも体の外部に魔力を展開する事に特化しているといって差し支えない。
攻撃、防御などの戦闘用魔法はもとより、索敵、治癒などの分野においてもこの星に伝えられてきた魔術をはるかに凌駕している。
その反面、体の内部に魔力を通すことは極端に貧弱であり、体内に魔力を通すことによってレジストする暗示や呪いなどに対してはほとんど耐性を持たない。
「ふん、三流め。君には私が手を下すまでもない。じきに代行者か協会の掃除屋がやってくる。それまでの短い余生を満喫するがいいさ」
赤コートの男は鎚を振り下ろした姿勢のまま動かない少女を一瞥すると、それきり興味を失ったかのように歩き出した。
「やれやれ、せっかくの一張羅が台無しだよ。
新しく義手も調達しなきゃならないし、全く、君は人が嫌がることをしちゃダメだと親から教えられなかったのかな」
最近の子供も困ったものだとぶつぶつ独り言を漏らしつつ魔術師はその場を後にする。その頭の中に既に先ほどの戦闘の記憶は欠片も残っていないだろう。
彼はただ海鳴に来たのではなく、ある目的のためにこの町を経由したにすぎない。
学生時代の友人に対する協力と、自分の誇りを踏みにじった女に対する復讐のために。
そうして彼は歩き出す。自分が今どれほどの大事件に足を突っ込んだかも知らず―――――。