41 :魔導師VS魔術師:2008/07/25(金) 18:51:02 ID:CHFYghqa
注:
作品に登場するFate世界は、原作のどのルートとも異なった展開を迎えた世界を想定しております。
作品に登場するリリなの世界はA's後、sts前を想定しています。
また創作・独自解釈があります。
ご了承を。


Short Interval

「馬……鹿な」

搾り出すように、と表現されるような苦悶の声が、人気のない境内に響く。
鈍色の空。時の止まった結界の中。
封時結界によって閉じられた世界の中で、男はありえない敵に遭遇していた。

【あら、もう動けないの? 存在次元をズラす結界なんて大層な物使うから、
てっきり高位の術者かと思っていたのだけれど……この程度で動けなくなるなんて、興醒めね】

響く嘲笑は虚空から。
声は境内に反響しているが、肝心の声の主の姿は影すらも存在しない。

「なん……こ……重力……」

男の体は通常の数倍の重力に軋みを上げていた。
声の主が言う『この程度』は、既に人間に耐えれる域の現象ではない。
それが、【重圧】と呼ばれる魔術――神々が生きた時代の奇跡である事など、男が知るはずもなく。

(なんで――こんな事に……!?)

男の叫びは、声帯を震わせることもできなかった。


そう、発端は遡る事数日前。

あるとき、時空管理局はこの場所に巨大な魔力反応を観測した。
魔法技術の存在しない世界での魔力反応に、ロストロギアの疑いを持った時空管理局が派遣した調査隊。
それが男と、男が率いる10人の魔導師達だった。

魔力の発生地点である男たちが第97管理外世界と呼ぶ次元の、地球の冬木市深山町。
その一角にある霊山。
そこを調査しようと立ち寄った柳洞寺という寺で、彼らは『敵』と遭遇した。

封時結界で一般の住民から世界ごと調査場所を隔離し、調査しようとした矢先のこと。
門をくぐり、境内へ足を踏み入れたとき。
―――その敵は、現れたのだ。


【――――無礼な蝿。他人の”神殿”に土足で踏み込むなんて、そんなに死にたいのかしら?】


温度を感じさせない、冷たい声。
その言葉と共に彼らは異常な重力変動に襲われ、一瞬で地面に縫い付けられた。
抵抗も、反応もできない。

そんな状況で、一番場数を踏んでいた隊長だけが自分の状況を理解していた。

(まさか、魔法!? なぜ、管理外世界で――!)

この状況で、瞬時にこれが魔法による現象だと気づいた隊長は、確かに優秀だったのだろう。
事実、隊員達は自分が急に地面に倒れこんでしまった状況に対応できずに、苦悶の声を上げるだけだ。

しかし、その隊長が次に放ってしまった言葉は、
この場において最悪の一手だった。

「魔導師か!? 我々は時空管理局の者だ! ここに確認された強力な魔力がロストロギアである可能性がある為、調査に来た!
 速くこの魔法を解除しなさい! そうでなければ、公務執行妨害に該当す――」

そう言い終わる前に、空間を振るわせる怒気と共に更なる重力が空間を圧迫し、
男の言葉は強制的に中断された。

―――客観的に見れば。
男の言い分はそう間違ったものではなかった。
現在、魔法技術の存在する次元世界の殆どは時空管理局の管理下にあり、ここは魔法技術の存在しない管理外世界である。
ゆえに、そこで使用された魔法はどこかの管理世界の魔導師か、あるいは次元犯罪者のモノと考えるのが自然であったのだ。

正規の魔導師による誤解なら、こちらの所属を明かせば誤解は解ける。
もし相手が次元犯罪者であったとしても、牽制になる言葉だった。
だが、

【時空管理局……随分と大層な名前。しかし、よくそんな状態で私に対して意見できたものね?】

その魔導師は『魔導師』ではなく"魔術師"で、
時空管理局なんてものを欠片も知らなかったのだ。


――――そして、今に至る。
掛かる重力はどんどん強くなり、呼吸すらも難しいほどになっていた。
体中の骨が軋みを上げ、意識が白い靄に包まれていく。

【へえ、貧弱な割には保有魔力は多いのね。遠坂のお嬢ちゃんとの小競り合いで魔力が少し足りないから―――】

響く声は、地にひれ伏し苦悶の声を上げる彼らの事を意識にも留めず、
まるで世間話をするかのように、

【―――貰うわね、その魔力】

致命的な言葉を口にした。

―――魔力の略奪とは、すなわち生命力の略奪である。
彼らの世界で『蒐集』と呼ばれるソレよりも遥かに強引で、強力な略奪術式。

男がその言葉を理解するよりも早く、声の主の呪は完成していた。

聞こえない一言で、音も無く発動する魔術。
ごっそりと自分の魔力が消え去るのを感じ、そして、男の視界は暗転した。

Interval Out



☆   ☆   ☆



「―――え? 応援に、ですか?」

不意に訪れた、久しぶりの長期休暇。
フェイトちゃんとはやてちゃんは局で仕事中で、私一人の休暇の最中。
海鳴市の高町家、自室で羽を伸ばしていたときに入った緊急通信だった。

『ええ。強力な魔力反応の痕跡を調査しにいった局員からの通信が途絶。その後の連絡もない。
該当区域は未確認の『場』が展開されているようで、遠視も転送できない。
もしかしたら、ロストロギアの事故が起こったか、次元犯罪者が潜伏している疑いがあるの。
―――現場への応援、お願いできるかしら。高町なのはさん』

目の前の空間に展開されたウィンドウの向こう側に、厳しい顔をしたオペレーターさんの顔がある。
その雰囲気に、休暇で緩んでいた頭を引き締めた。

「はい、わかりました。でも―――あの、どうしてわたしに?」

面倒なわけでも、嫌なわけでも勿論ない。
ただ、本当に不思議だったのだ。
時空管理局は巨大な組織だ。確かに、わたしと同ランクの魔導師は管理局に数パーセントしか居ない。
でも、絶対数が膨大な以上、その数パーセントだって結構な数になるのだ。

それなのに、わざわざ非番であるわたしを指名しての任務要請である。
わたしでしか出来ない任務、なんて事はない筈なのに――。

『あなたが、一番現場に近いのです』
「……え?」

なんでだろう、と考えていた頭に、予想外の回答が飛び込んでくる。
一番……現場に近い?
"今地球に居る、わたし"が――?

『現場は第97管理外世界の地球、日本国西部の兵庫県冬木市。あなたの現在地からなら、すぐに急行できると思うわ。詳しい座標を送るわね』
「……はい」

近い。確かに近い。全力で飛べば、一時間もかからないだろう。
でも。

……嫌な予感がする。
地球――管理外世界での魔力反応。
そして、行方不明になった局員たち。

PT事件、そして闇の書事件のことが頭をよぎる。
ざわり、と酷い胸騒ぎがした。



 ○  ○  ○


周囲に人影がないのを確認して、長い石階段の中腹に着地する。
バリアジャケットを解除して、階段の上を見上げた。

―――冬木市柳洞寺。
ここで封時結界を展開した後、調査隊が行方不明になった。

なにか異常が起きているとばかり思っていたのだけど、そんな様子は全然感じられない。
下を見下ろせば平穏な街の様子が見て取れるし、階段の左右に広がっている森は静かなままだ。

見上げれば、立派な山門がそびえていて、いかにもな古いお寺の貫禄を醸しだしている。

「レイジングハート。周囲に魔力反応、ないよね?」
<Yes. It doesn't exist.>

……とりあえず、お寺の人に聞いてみよう。
なにか最近おかしなことがなかったかとか。
もしかしたら、調査隊の人たちを見かけている可能性もゼロじゃないんだ。

階段を上りきって、山門を潜る。

広い境内には誰も居ない。
どこに行けばお寺の人と――――

「何か用かしら? お嬢ちゃん」
「ひゃん!?」

いきなり真横から声をかけられて、心臓が飛び出るかと思った。

横を向けば、随分と暑そうな格好をした女の人がいた。
黒いフードに紫色のローブ。
ちょっとお寺には似合わない感じの人だけど、この口ぶりからするとお寺の人なんだろう。

誰も居ないと思ったのに……。疲れてたのかな。

「あ、はい。すみません、このお寺の方ですよね?
 こちらに十人位の………こういう服を着た人達は来ませんでしたか?」

ポケットから局員の制服のデッサンを取り出して見せる。
ちょっとコスプレと勘違いされそうだけど……大丈夫だよね、きっと。

女性はそのデッサンを軽く見て、納得したような表情を見せた。
知ってるみたいだ。
だとしたら、少なくともここに調査隊の人たちが来たのは確かだと思う。

「知ってるんですね?」
「ええ、知ってるわよ。つまり――」

胸をなでおろす。
良かった。少なくとも、最悪の事態にはなってないみたい。

……でも、なぜ封時結界を展開したはずなのに、現地の人が知っているんだろう?
ふつう、管理外世界への干渉は最小限にするように決められているのに――


「――――つまり。貴女、あの蝿どものお仲間なのね?」


―――――――――え?

女性が哂う。

瞬間、
 目の前の女性にとんでもない量の魔力反応が発生した。

「ッ!」
<Caution , My Master!!>

ぞわりと背筋が粟立つ。
唐突過ぎる魔力の出現。否、あるいは私に見えていなかっただけで、元からそこに在ったのか。
まるで蜂蜜のように粘つく、空間に満ちる魔力。
そして―――コールタールじみた、粘質の悪意。

頭が高速で回転する。

私のことを、――のお仲間、と呼んだ。
だとしたら、この女性は調査に来た局員を知っている。少なくとも、無事な彼らを知っている。
でも、この人は調査隊の人たちのことを何て言った?

蝿と、そう言ったの……!?

「彼らを……どうしたんですか」

絞り出した声は、知らずに硬い響きを帯びていた。
その言葉に反応して、女性は唇を歪め、

「あら、貴女は部屋の中に煩い蝿が飛んでいたらどうするの?
 ――――言うまでもないでしょう?」
 
くすくすくす、と心底可笑しそうに笑った。

「――レイジングハート」
<All right.>

自分の直感に従って、レイジングハートを展開し、バリアジャケットを纏う。
……悪寒がする。生き物としての本能が、耳元で叫んでいる。
この相手に隙を見せるのは、即ちソレが致命傷。
目の前の生き物から、絶対に目をそらしてはならない、と。

「あら、可愛らしい格好ね? ふふ―――お人形にしてあげたいくらい」
「もう一度聞きます。彼らを……どうしたんですか」

不吉な予感と、強烈な悪寒がする。こんなに『よくないモノ』と向き合った経験は、わたしには無い。
でも、この相手には、言葉が――"話"が通じる。
なら、きっと戦わない解決方法も―――――

「だから、常識で考えなさいな。―――潰した蝿は、ゴミ箱に捨てる物でしょう?」

―――そして、その嗜虐的な微笑に、ガチンと頭が切り替わった。

ここからは、わたしのエゴは通せない。
やるべき事は、目の前の女性の無力化と、局員の捜索。
そうでなければ、きっと―――行方不明になった人たちは、二度と戻らない。

「……局員の生命確保を最優先し、時空管理局の名において勧告します。彼らの身柄を引き渡してください。また、拒否する場合にはこちらも相応の武力行使を厭いません。協力を願います」
「協力とはよく言ったものね。人の家に土足で上がりこんでおいて、随分傲慢ですこと。先ほどの蝿といい、その『時空管理局』とかいう組織はずいぶんと横暴なのねえ?」

嘲笑するように、女性は楽しげに言った。
そんなのは分かっている。
でも本来なら、時空管理局もそう強硬な手段など取らないし、そもそも現地住民への干渉は極力避けるように厳命されている。

普段、誰かに言われたなら、私は顔を伏せたかもしれない。
でも、それは今じゃない。

今この時、私の行動には10名の局員の……そう、命がかかってる。
相手を見て、そしてその言葉を聴いて確信した。

この相手と言葉を交わすまでは、なにかの事故だと思っていた。
でも違う。局員達はこの魔導師に倒されたんだ。
しかも、行き違いでも、誤解でもなく、ただ目の前の女性の気を害したため。

目の前の女性のテリトリーに入ってしまった局員は、まさしく蝿のように叩き潰されたのだ、と。
そう、確信しちゃったんだ。だから―――

「ふふ、それに“武力行使”? 魔術師が、この私に魔術で立ち向かうですって?
 ずいぶん奇妙な魔術構成を使うようだけれど―――私に挑むのは早計だったわね」

―――無理矢理にでも、詳しい話を聞かせてもらう。
それしかないなら、わたしは、その選択をする義務があるんだから。

「抵抗の意思あり、と見なしていいんですね?」

最終通告。
これから先は戦いになるって、そう覚悟を決めた問いかけに返ってきたのは、

「―――――――――は、あっははははははははははははは! 抵抗? 私が!?」

こちらを馬鹿にするかのような、笑い声だった。

狂ったかのように哄笑する彼女。
心底可笑しいと、そんな心の声すら聞こえてきそうな笑い声の後。
その顔のままで、その笑っていない目のままで、

「ふふ、馬鹿ね―――抵抗するのは貴女の方よ」

ひどく、冷たい言葉を紡いだ。

空気が張り詰める。
魔力が張り詰める。

<Standby, ready.>

そして、レイジングハートの言葉を皮切りに、
 "戦い"が―――始まった。

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最終更新:2008年07月28日 08:26