「レイジングハート! 上を取るよ!」
目の前の魔導師を警戒しながら、アクセルフィンの駆動式を脳内で展開。
この紫の魔導師がどんな相手か分からない以上、最善の手を打っていかないとダメだ。
場所の有利をとるべく一気に上空に飛び上がる、
直前、
『"病風-アエロー-"』
魔導師の聞こえない言葉が、耳を打った。
<Axe―――Protection!>
「レイ―――?」
つい、怪訝な声が漏れた。
レイジングハートが私の指示をキャンセルし、一瞬でプロテクションを展開する。
直後、
ギィィンと、まるで鋼鉄同士が衝突したかのような音が響いた。
「……え?」
「あら、随分硬いわね。言うだけはあるという事かしら」
そういって感心するように微笑する紫の魔導師。
その指先はこちらに向けられていて、地面は何かに切り裂かれたかのように抉られている。
……わけが分からない。
わけが分からないけど、理性は何をされたか理解した。
それでも体が硬直したのは、きっと驚きからだ。
今の一瞬で、魔法を発動させた。
しかも、デバイスも無しに。
「またさっきのように歯応えもないかと思ったけれど、存外に遊べそうね」
その言葉と共に魔導師のローブが翻り、その身体が浮き上がる。
「――――レイジングハート」
<Axel Fin.>
彼女を追って、私も空へ。
背筋をゾクソクとした悪寒が走っている。
今のやり取りで確信した。この相手は、たぶん私が対峙してきた誰とも異質だ。
魔法だけの事じゃない。
たったアレだけのやり取りでも伝わってくる戦慄。
そも、『殺傷設定』の魔法を何の抵抗もなく人間に向けれる異常。
そうだ、さっきから身体に突き刺さっている不快感は、きっと殺気と呼ばれるもの。
そして、からかう様な声もまた真実。
思ってしまったのだ。
きっとこの人は―――遊ぶような気安さで、命を奪う。
局員の人たちを蝿と評したように、
蟲を潰すように人の命を奪うのだろうと。
そんな相手には、間違っても―――
「負けられない。絶対に、負けてやらないんだからっ……!」
「あら、そう? それなら早々に墜ちないように、全力で抵抗しなさいな」
冷ややかに笑う彼女。
ゆっくりとこちらへ向けられる指に不吉なイメージを感じて、
上空へ急加速した――直後、
つま先を掠るようにして、空間を切り刻むカマイタチが通過した。
「ッ! 速っ……!」
『"轟雷-ユビテル・ロック-"』
<Lightning Protection.>
戦慄している暇も無い。
間髪いれずに上空から降り注ぐ落雷。
大気を焦がすソレを、自動展開されたライトニングプロテクションが弾く。
意識が付いていかない。
対応が間に合わない。
なに、この速度っ―――!
「いい反応ね―――『"冥火-エトナ-"』」
「レイジングハート!」
<Divine Shooter.>
「シュートッ!」
時間差で降り注ぐ炎弾をディバインシューターで迎撃する。
炎弾と魔力弾が衝突し、その場で爆散する。
威力は同じ?
なら、少なくとも勝ち目はある―――けど―――
「ほら次よ――『列閃-エレ・ヘカテ-』」
<Protection.>
展開される盾を、レーザーじみた魔法が焦がす。
防げる。そうだ、勝ち目はある。倒すことの出来ない相手でもないけど、
けど―――――
『"轟雷――冥火――病風――圧迫――重圧―――――"』
いくらなんでも―――――速すぎる……!
青い雷鳴が轟き、金属をも溶かしそうな炎が降り注ぐ様はまるで天変地異。
空のそこかしこでは異常な重力場や粘質な魔力の蟻地獄が発生している。
この場では、流れる風すらも鉄をも両断するかまいたちの渦だ。
比喩でなく、息もつけない。
本当に一瞬。一秒にも満たない速度で次々と魔法が飛んでくる。
集中力を切らした瞬間、落とされる。
相手の魔法を見てからじゃ間に合わない。
おそらく、指先での照準、一言の詠唱での発動と仮定。
間違ってた時なんて考えてる暇はない。
それが真実だという予測を信じて、その兆候だけ頼りに回避する……!
● ● ●
Side:Caster
「よく飛ぶこと。まるで小鳥ね」
つい吐息が漏れる。
私の魔術の標的にされ、それでもなお空を駆け回っている少女の姿を見て、素直に感心する。
魔術師としての技量では私に及ぶべくもない。
だが、戦闘者としてはそれなりに洗練されているようだ。
容姿も好みであることだし、墜として捨てるのは勿体無い。
本当に人形にでもして可愛がろうかしら、なんて思考がよぎる。
―――――それにしても。
魔術師である"私"が疑念を持つ。
私の魔術を防ぎ、避け、迎撃している魔術師。それはいい、遠坂のお嬢さんでも限定的なら可能なことだ。
しかし、だ。
遊んでいるとはいえ、私の魔術だ。
神代の、私の魔術というのは伊達ではない。
まだ神秘が色濃く息づくあの時代において、神々に守護された幾つもの国を滅ぼした力だ。
それこそ遠坂のお嬢さんのように、10年単位で貯蔵した魔力で出力を底上げなければ、『私の魔術』には届かない筈なのだ。
既に交わした攻防は数十に及ぶ。
魔術礼装を使用しての戦闘であることは、あの杖と衣装からも分かる。
だが問題は、その根源。
礼装を使用したとしても、魔術における『等価交換』の原則は変わらない。
私は千人単位の人間から収集した魔力を用いて、魔術を紡いでいる。
その私の魔術を相殺し、防いでいるあの魔術師。
神殿のマナは私の支配下。見たところ、使い捨てている礼装もない。
ならば。
あの子は、私の魔術を防ぎ、相殺できるだけの魔力を、いったいドコから持ってきているのか。
まさか自前ということはあるまい。
なにせ、既にあの子が消費した魔力は成熟した魔術師50人分を優に越えている。
セイバーやヘラクレス、そしてあの黄金の王のような神の直系や竜の因子持ちの英雄ならばまだしも、ただの人間に所有できる魔力量では―――。
「――バスターっ!」
『―――"盾-アルゴス-"』
桃色の光線が盾に衝突し、火花を散らす。
私の思考の隙を縫って、うまく魔術を使ってくる。
なるほど、確かにこれだけの魔術行使ができるなら、私に『抵抗するのか』なんて不遜な物言いも納得だ。
凡百の魔術師なら、一合で地に伏せることになるだろう。
……だからといって、許しはしないけれど。
それにしても―――
「楽しいわね。ここまでの魔術戦、いったい何時以来かしら――『"轟雷"』」
久しぶりに、嗜虐でなく心が沸き立っている。
そう、致死性の魔術を使いながらぼんやりと考えた。
- - - view out.
○ ○ ○
相手の魔法を、モーションと詠唱からの先読みで迎撃する。
既に交わした攻防は数十を越えている。
そのうち8割が相手の攻撃という理不尽さ。
強い。とんでもなく。
フェイトちゃんのように、高速移動しているわけではない。
はやてちゃんのように、超威力の攻撃をしているわけでもない。
ヴィータちゃんやシグナムさんのように、クロスレンジの攻撃をしてくるわけでもない。
―――ただ、速い。
正に弾幕だ。
私がレイジングハートに補助してもらって最速で展開するアクセルシューター。
それよりもなお速く、なお多く、
魔法陣の展開すらなく、たった一言の呪文詠唱で雨あられと降り注ぐ魔力弾。
これではジリ尽だ。手数が違いすぎる。
攻撃の合間を縫っての魔法も、あの展開速度では後出しでも間に合わせられてしまう。
それでこっちの威力と変わらないんだから、反則もいいところ。
「空での戦いというのも新鮮ね。次はどんなものを見せてくれるのかしら?」
「……余裕ですね」
「ふふ。怒った顔も可愛いわよ、お嬢ちゃん」
愉しげに紫の魔導師が嗤う。
会話をしながら、マルチタスクでアクセルシューターの展開待機。
魔導師としての能力は、わたしの方が格下だ。
今も、遊ばれてるという自覚がある。
―――でも。
戦って、相手の呼吸を感じて分かった。
この人は、戦い慣れをしていない。
相手への意識の振り分けと自分の回避機動に、展開予測に反応速度。
そのどれもが中途半端だ。
避けれる攻撃を迎撃しているし、こちらの攻撃に対する対応は予測ではなく反応してのもの。
先ほど漏らした言葉のとおり、おそらく空戦の経験はほぼ皆無だろう。
だったら、わたしにも勝機は十分にある……!
「あまり余裕が過ぎれば、それは慢心ですよ――今っ!」
<Axel shooter.>
「シューート!!」
「ええそうね―――『"紫光弾-ユピテル・ロッド-"』」
八方から襲い掛かるアクセルシューターを、突如出現した紫色の魔力弾が撃ち落す。
これも迎撃された。
やっぱり、手数じゃ全然勝負にならない……ならっ!
「レイジングハート!」
<All right.>
放った魔法に倍する量の光弾を回避しつつ、バインド魔法の構築を開始。
展開速度と運用では敵わない。
彼女のそれは、もう神業の域だろう。
なら。
手数で敵わないならば、元よりわたしが得意な分野で勝負するしかない。
一撃必倒。
砲撃の一撃で沈める。
出力なら、わたしだって負けてやらないんだから―――!
脳内が高速回転する。
流石にまともには当たってくれないだろう。
だとすれば―――
ディバインシューター展開、レイジングハート、カウント3・2・―――
レストリクトロック構築開始。設置座標を任意設定―――
展開予測・今までの対応から、前方(42.77.12)座標に5秒後―――
やはりバインドで拘束してからだ。
<Divine shooter.>
――1・射出。空間認識・座標再計算、着弾位置は座標44から―――
――位置修正・展開予測から座標誤差の修正―――
――誤差1%未満。エントロピー最小値。3・2・―――
「シュートッ!」
『"紫光弾"』
さっきのショートバスターは防がれた。威力不足? なら、
――迎撃・紫の魔力弾による相殺。
――解凍。誤差1%未満、無視できる範囲内。レストリクトロック・先行設置。
――1・0。3番の展開予測が誤差最小、再計算開始―――
――ディバインバスターチャージ準備。術式解凍、あと6―――
きちんとチャージした砲撃魔法なら……!
――レストリクトロック設置位置まであと4秒。
――5・4・3・2・1・0。ディバインバスター展開可能。動作凍結。
――魔法発動動作視認。今までの例から平均0.3秒後に発動、射線から退避―――
『"列閃"』
すぐ傍を閃光が通り抜けていく。
――設置位置まであと3・――
――回避成功。
まだだ、もうちょっと―――
――あと2・1・――
もう少し、もう少し、あとちょっと――
――0!
――かかった!
「バインドっ!」
「――――――!?」
紫の魔導師の顔が、初めて驚きに歪んだ。
空間に潜ませていたレストリクトロックの式が起動し、
光の輪となって紫の魔導師の四肢を拘束する。
「いくよ、レイジングハートッ!」
<Load cartridge.>
杖を構え、ディバインバスターの術式を展開する。
杖先に充填した魔力に、カートリッジで更に上乗せ。
ギシギシと魔力に身体が軋む音がする。
その感覚を無視して、更に限界ギリギリまで魔力を注ぎ込む。
半端な威力じゃ意味が無い。
こんな攻撃チャンスはそう作れない。
ならそのワンチャンスで、相殺も防御も出来ないほどの一撃を叩き込む……!
「これは……設置型の捕縛術式―――!?」
「ディバイン、バスター―――っ!!」
驚きに眼を見張る魔導師に向かって解き放たれる、魔力の奔流。
限界までチャージしたディバインバスターが空間を焦がしながら疾駆する。
―――そして桃色の砲撃は、周囲の空間ごと紫の魔術師を飲み込んだ。
「――――直撃っ!」
今のタイミングなら、防御魔法も使えなかった筈。
桃色の光が地平の彼方へと消えていく。
そして中空に残された紫の魔導師は、ぐらり、と空中で傾いで地面へ落ちていった。
「は―――ぁ」
緊張が解ける。
――――勝った。
安堵が全身を駆け巡り、緊張していた身体がいまさら深い疲労感を主張してくる。
ふう、と一息ついて、相手が地面に衝突しないよう衝撃緩和魔法を展開しようとした、
その時。
「……なんて魔力。興味深いわね、本当に人間かしら?」
そんな声が、頭上から響いた。
■ ■ ■
Interval 2
魔女の空蝉が地に落ちた。
そしてその空蝉が泥のように崩れるのを見届けて、高町なのはは空を睨む。
その視線の先では紫色の魔女が、興味深そうに下界を見下ろしていた。
「今のが……幻影?」
戸惑いが混じった声が漏れる。
つい先ほどまで戦闘していた相手である。目を離すことなどなかったし、襲い掛かってくる魔法の威力は本物であった。
そう、間違いなく本物だった。なのはが全力を持って戦った相手は、本物であったはずだったのだ。
だというのに今、『本物』が、上空からなのはを見下ろしていた。
実際に実体のある攻撃を仕掛けてくる幻影など、彼女の知識には存在していない。
そして彼女自身の感覚が、撃ち抜いた相手は本物だと告げているというのに、上空の魔女は無事なまま艶美に微笑んでいるのだ。
―――なのはが知る由も無かったが、たしかに撃ち抜かれた魔女は幻影ではなく本物であった。
しかしソレは、『半分だけ』のこと。
あの瞬間、確かに本当の意味で魔女は半身を持っていかれていたのだ。
「本当に、今のはひやりとしたわ。まさか、あれだけの魔術、あれだけの魔力を持っているとは思わなかった。失礼を詫びるわね、お嬢さん。貴女はどうやら―――小鳥ではなく、鷲か鷹の類だったみたい」
だが、あくまで半分。
存在の分化、死に逝く自分の切り離し。
自分という存在を捏造する、この神代の魔女が常に自身への保険として展開している大魔術であった。
なのはが、苦い顔で杖を構えなおす。
それは相手の手の内どころか、何が起きたのかさえ把握できていない不利に対するものだ。
幻影を作り出す魔法はミッド式にも存在する。
腕によっては質量反応さえ捏造するフェイクシルエットに代表される幻影魔法。
しかし、それは実体を持っているわけではなく、あくまでそう見せる魔法である。
存在の捏造などという『形而上-ガイネン-的な』事象を再現する技術は、ミッド式には存在しない。
ゆえに、なのはがその現象に思い至るはずも無かったのだ。
――――だが、
その形而上の事象を、形而下-ゲンジツ-に再現するのが『魔術』という業の真髄である。
ミッドチルダという地球の遥か先を行く魔法文明。
そのシステマティックな理論を用いるからこそ、辿りつけない領域がある。
科学がいつしか星を滅ぼせるほどに進化し、破壊という面で魔術をとうに追い越していても、
未だ人類が未踏の領域は【魔法】と呼ばれる神秘に譲っている。
それは、星をも削る魔導兵器をも所有する時空管理局とて同じこと。
時間旅行も、可能性世界の証明も、不老不死も――――死者蘇生も。
未だ、神秘の業でしかない。
その神秘の最盛期。
神がまだ人と共に在り、竜が当然のように存在し、
幻想の生物が地上を闊歩し、人がまだ強かった頃。
不死が現世を闊歩し、事象の矛盾が容認され、死者の国さえ在った時代。
高町なのはが対峙している魔女こそ、その時代のひとつの頂点。
―――魔女メディア。
幾つもの国を滅ぼし、幾人の英雄を破滅させ、
不老不死の業さえ扱うと言われる裏切りの魔女。
神秘の渦巻く神代においてなお、"魔女"と称された魔術の頂点であった。
「それにしても、どこから私の魔術を相殺できるだけの力を持ってきているかと走査してみれば、まさか本当に自前とはね。
流石に私でも想定外だわ――本当に人間?」
「に、人間ですっ! 失礼な事いわないでください!」
「そう、人間なのよね―――これだけの魔術行使をしていても」
魔女が苦笑する。
使う術式の燃費、本人の燃費の問題もあるだろう。しかし、それだけではどうしてもこれだけの魔術戦は行えない。
そもそもの貯蔵がケタ違いでなければ、数回の攻防で空になっているはずなのだ。
管理局の上位魔導師をして『バカ魔力』と評されるなのはの魔力は、生前の英霊たちに匹敵する。
正に、指先ひとつで街を灰にしたという古代の魔術師たちのような貯蔵量である。
そしてその事を魔女は正しく理解して、
その認識に応え、周囲の魔力が帯電したかのように緊張した。
「――――いいでしょう。貴女を私の時代の魔術師と認識します」
「……ッ。ねえ、人と話すなら分かるように話さなきゃだめって、言われたことないのかな」
なのはの声に苛立ちが混じる。
それも当然か。
意味不明の現象、要領を得ない会話、劣勢の今。
それらの状況が、なのはの神経を無意識の領域で圧迫していた。
その揺れる精神を微笑ましい物を見るような表情で魔女は眺め、
「そうね、つまり―――貴女を『敵』として認識するということよ」
そう呟いた直後、魔女の背後にとんでもない量の魔力が集束し、
巨大な紫色の魔法陣が顕現した。
「……!? あの魔法陣、ベルカ式でもミッド式でもない―――?」
「だから―――――」
魔女が虚空に手を伸ばし、何も無い場所から銀色に輝く杖をつかみ出される。
それに呼応するように、もうひとつの魔方陣が魔女の前へ。
そして背後の魔法陣の中に生じた、幾つもの眼球じみた魔法陣がなのはを見つめ――
「まさかこれ―――砲撃っ……!?」
なのはが呟く。
それが『砲口』だと気付いたのは、偶然か、あるいは砲撃魔導師としての経験のなせる業か。
そして、それが致命的な威力を持っていることに気づいたのは、自身が超威力の砲撃を扱うが故か。
自身の魔術を看破する呟きに応えるように、穏やかな声で魔女が謳う。
「――――私の本気を垣間見れたことを誉れとして、逝きなさい」
――――死ね、と。
「っ……射線から離れないと―――っ!?」
両足から魔力の翼を展開させ、全力をもって退避するために、
なのはが急加速した瞬間――まるで躓いたかのように空中でつんのめった。
「えっ!?」
両足が動かない。
なのはの両足が、コンクリートで固められたようにその場に固定されてしまっていた。
いくらアクセルフィンで飛翔しようとしても、まるで縫いとめられたかのように両足だけが動かない。
「なにこれ、なんで……!」
魔女が嘲笑う。
なのはを拘束しているモノこそ、"空間固定"と呼ばれる魔術。
バインド魔法のように『空間に固定』するのではなく、『空間を固定する』という常識外。
それが、なのはの両足を空間ごと縫い止めていた。
「抵抗を許しましょう。全力で抗いなさい」
まさに直前の焼き直しだった。
拘束されるなのはに、その巨大な魔術の矛先が向けられる。
掲げられるは神代の奇跡、神言魔術式・灰の花嫁<ヘカティック・グライアー>。
約束の4日間と呼ばれると閉じた世界で猛威を振るったその威容。
―――かつて。
万を超える『残骸』を焼き払った神代の大魔術である。
「っ、カートリッジロード!」
<Round Shield!>
回避が不可能と踏んだなのはの、最硬の防御魔法が展開される。
その直後、キャスターが展開した魔力球から、十を超える紫色の光線が降り注いだ。
「くうっ……!」
ラウンドシールドになのはが想定した量に倍する負荷がかかる。
ギシギシと軋むシールドが、魔女の極光を弾き返しながら火花を散らす。
一瞬か数秒か。
その拮抗は、紫の魔術光の消失で幕を閉じた。
「……? 防ぎきっ―――………ッッッ!!」
しかし、
なのはの安堵の声は一瞬で凍りつく。
見上げた空には、更なる脅威が存在していた。
バチバチと音を立てて帯電する魔法陣。
それは、先ほどの砲撃すら塵芥に見えるほどの魔力の猛り。
詰まるところ、展開された魔法陣の本命は―――。
「レイジングハートっ!」
<Load cartridge!>
解除しかけたラウンドシールドに更に魔力を注ぎ込む。
虚空に描かれた、青白く明滅する魔法陣。
境内に満ちていた魔力が、一点に収束したかのような幻想。
「―――楽しかったわよ、お嬢ちゃん」
魔女の声と共に、太古の昔――神々がまだ人と共に在った頃の大魔術が解き放たれる。
轟音と共に、正に神罰の如き魔力の雷が、白い魔導師を呑み込んだ。
Interval out.
最終更新:2008年08月27日 23:04