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「ふう………」

そんなこんなで第一段階からこちら
殺人的 (人じゃないけれど) だった忙しさもようやくひと段落し
滞っていたレポートにようやく着手する事が出来る

再びモニターと向かい合う私であったが
最近、長く詰める前に肩をトントン、と叩く癖が出来たようで、、
博士から「人間の仕草そのものだね」と言われた

これは嬉しい事なのかしら……?
少し判断に困るけれど――それはさておき

些か落ち着いたとはいっても、状況は未だ予断を許さない
盤上は予想を遥かに上回る速度で時を刻み
開始前には予測不能の事態が次から次へと浮上する
生じた問題の対処は当然行わなければならず
それと平行しながら、計画を「次」のフェイズに移行しなければならない

次に動いて貰う駒は既に決まっていて
そこで繰り広げられる戦いは我々機人――
そして博士にとっても興味深いものとなるでしょう

特に気落ちしているトーレと
遅咲きながら生まれた感情の揺らぎに戸惑っているセッテに
良い刺激を与えてくれると良いと思う

逆にチンクはあまり見たくないと……
どうやら舞踏の主賓があまりお気に召さないようね
管理局に拘束中、何かあったのかしら…?

ともあれ、一段階を終えただけでこの始末
これからもっともっと忙しくなる
先の見えぬ大航海は得てしてこんなものだというけれど――

「さて、と……」

次のフェイズに移行するまで、まだいくらかある
今までの経緯と今後の方針について、ここに纏めておきましょう


――――――

1、 神々の遊戯盤 ―――

博士――無限の欲望・ジェイルスカリエッティが
聖王の揺り篭よりも早い段階で手に入れていた失われしアルハザードの叡智の一つ
しかしながら博士自身ですら、その詳細の全ては分からないという

この盤面を象った遺物は今や
一つの独立した世界となっている

打ち込まれた膨大なデータと、その元になる世界
そこに在る力と、駒となる存在を半ば強引に吸い上げて最適化
次元間をも繋げて発動するそれは様々な事象を融合させ
一つの世界として、その盤上に具現化させてしまうという
まるで自分で言ってても冗談としか思えないロストロギアだった

否、それは本当に夢物語を実現させるためだけに創られた代物だったのかも知れない

神――もしくはそれを名乗る者がいて
世界の理を掌握し、弄び、玩具にして
ただ遊戯にふけるためだけに存在する、、

そうとしか思えないこのロストロギア――

恐ろしい技術……

かつて誰もが辿り着けぬとされた
次元の果てで栄えた先史文明――アルハザード
一体、どれほどのものだったのか想像もつかない

客人、言峰綺礼が言うには
英霊を支配下に置くのに我々のやり方では召還、従属の手順がまるでバラバラで
まるで意味を為していないと言う

「効率が悪い――遊戯だ何だと暢気な事を言っていて良いのかね?
 全宇宙の法務機関を敵に回しているとは思えん悠長さだが」

そのまま召還するでは駄目なのか?という彼の問いに対し、

「うーん、、いや、これは趣向の問題じゃないんだ
 キミが教えてくれた事だよ…忘れたのかい?」

博士は答える

本来ならば使役する事など叶わない「英霊」
彼らを聖杯という特殊な媒体を介して降臨させ
数々の制約を付けて使役する――それがサーヴァントシステム

その数々の楔無くしては、英霊という埒外の存在を縛り
従事させて使い魔として闘わせる、などという試みは不可能に近い

故に「普通」の試みを行うだけでは聖杯戦争事態が成り立たない――まさに夢物語である

「このロストロギアも原理は似ている! 
 天上の遊戯という特定された空間に限定し、制約を設けるからこそ
 あらゆる力を融合させ、一つの世界に集約するという神の如き奇跡を体現する事が出来るのさ!」

あくまでも戯れだからこその奇跡――在り得ざる邂逅というわけ

だが、本来ならば唯の遊戯で終わらせる筈のこの事象から
実を引き抜き、力と為すのが此度の試みであるのなら、、

まさにこれは神の領域にメスを入れる――禁断の領域に足を踏み入れる行為だった

これこそ、その頭脳、その存在自体がロストロギアと称された無限の欲望
ジェイルスカリエッティの叡智が挑むべき所業なのだろう

もっとも博士は、この盤の「遊び」の部分がいたく気に入っているようで
連日のように客人と談話をしている

「キミらの世界にも似たような遊びはあるだろう?  チェスとか、、将棋?だったかな?
 ふふ、この前データを漁ってね……あれらを引き合いに出すのが一番分かりやすい」

そう、この卓越した遺物は何度も言うが……本来、単なるお遊びの道具だ
それを実用し、己が力にするという事は文字通り
本や物語の登場人物を現実世界に引っ張り挙げるという夢物語に他ならない

それを、このロストロギアを介して現実のものとするには
まず「駒」となった彼らを掌中に収めなければ始まらない
即ち、動き回る駒を自軍に引き入れるためにこちらから干渉する必要があるのだ

時空管理局の魔道士がこの地に転移を果たした事によって
この遊戯盤は機動の条件を満たした事になる
つまりは敵と味方が席に着いた状態こそが、このゲームを開始する条件

そして我々の勝利条件は―――
盤上に顕現した英霊をこちら側に引き入れ
もしくは上手く誘導して魔道士にぶつけ、これを撃退し
そして味方に引き入れた英霊を、この仮想空間から引き上げ実体化させて使役する

この三点である

なかなかシビアな条件だけれど……
もっとも相手、つまり管理局魔道士は
スタート地点においては情報ゼロ

ルールを全く知らない奴らに対し、こちらは幾ばくかの予備知識があり
それに駒の出現位置も、設定、介入も所持者である博士が決められる

事情の全く掴めていない相手に対し、こちらの圧倒的有利は明白だった

ならば、これは対面の相手と指す遊戯ではなく
詰め将棋 (博士の持ってきた資料を読んだ) やパズルのようなものと思った方が良いのか…?


潜伏先の管理外世界――地球

我々のいる次元ではない異次元において
かの地で行われた奇跡の体現――

―― 「聖杯戦争」 ――

ナビゲーターとして顕現させた言峰綺礼からもたらされた
第五回目のデータを引き上げて具現化させたサーヴァント達

その一人、剣の英霊セイバーは
私たちを驚かせるに足る凄まじい駒だった

所詮は古臭い伝承の賜物…
下手をすればエースオブエースにあっさりと負けてしまうのでは、と危惧する声もあっただけに
その試みの第一歩が順当に踏み出せた事に喜びを禁じえない

だけど、、、、

順調に見えた緒戦においてから次々と発生しているイレギュラー、、

次項目は、その数々の不確定要因について検証してみようと思う


2、 剣の英霊――セイバー

管理局の尖兵、無敵のエース
高町なのはとぶつけるために招聘した第一のサーヴァント

でありながら、、
このロストロギアのプログラムに囚われ現界しているにも関わらず
「その事実を拒絶している」という有り得ない事態が先日発覚した

この駒の具現、固定化に成功し、第一セクターに放った時
その過程において消費した魔力量はゆうに戦艦数隻を賄える程の凄まじい量だった

ロストロギア自身の力は元より
この揺り篭からも相当の魔力と動力を犠牲にして具現化し
なお安定しないという……馬鹿げた存在、、

何という燃費の悪さ、、
小さい体をしているのに大層な暴食漢ね…まったく

その理由はしかし、彼女の膨大な魔力キャパによるものではないらしく
むしろこの駒の特性、性質によるものだという話であるが
ともあれ、原因究明、安定に早期に対応しなければ
その不安定な具現はいつ崩れてもおかしくない状態にあった

他のサーヴァント達は固定化の目処が立っている
同じ英霊だというのに――何故、彼女だけが?

特に問題となっているのが記憶の統合であり
これを為そうとすると激しい拒絶反応が起こるようだ
先日、謎の侵食現象がおき、その性質が大きく変質してしまいそうになるという事案が起こった  

ウィルスの類だろうか? 分からない……
チンクが接触した際にも相当の苦しみを伴っていたようだ

言峰綺礼の話では 「何も不自然な事はない……それがセイバーなのだ」 と言う

「令呪をすら己が意思で跳ね除ける
 騎士王の対魔力、意志の力――高潔な魂は
 このような茶番に塗れた身に窶してなお健在という事だ
 ロストロギアだか何かは知らぬが、その力を以ってしてもアレを完全に支配する事は適わぬだろうよ」

確かに、あのナイトがどれほどに難儀な駒か――
盤が彼女に科した制約の多さを見れば一目瞭然であった

――例えばナイトの最強武装 (アヴァロン) の忘却……

それは、世界のあらゆる力を持ってしても抜く事の適わぬ
「全てを遮断する最強の護り」だという…
アルカンシェルの直撃でも傷一つつかないという馬鹿げた話は、始めは与太としか思えなかった

第一戦で、実際に発動したあの武装を見るまでは……

ならば下手をすれば、その武装の使用は
遊戯盤の駒に対する「支配」すらも跳ね除けてしまうのではないか?
故に――盤はそれに制約をつけた……そう私は考える

「手綱を握るのならせいぜい気をつけることだ
 アレはな、性質の同じものが従えるには最良のサーヴァントだが
 意思の違わぬ者が懐に置くには最も扱いづらい駒だ
 あの男も……扱いにはさぞ苦心しただろうな……クク、」

あの男、というのが誰の事かは分からない
しかしこの神父の様子を見るに、あまり良い関係ではない者のようで
そこは掘り下げない事にする

ともあれ、常に記憶の改ざんや検閲、削除が必要な駒…
それこそ、あれに対しての干渉、浸食のプロテクト、その他諸々の事を課すだけで
揺り篭が一日に自己生成可能な魔力を、その備蓄も含めてほとんどつぎ込んでしまう

あまりにも手に負えないようなら――廃棄する、という手もあるけれど……

でもチンクはこの駒に対し並々ならぬ関心を抱いている
この前の邂逅から、、

「諦めないぞ……あいつは絶対に私が連れ帰って見せる!」

と、意気込んでいるのだった……

でも正直、私は心配だ
意志の力でプログラムや制約を捻じ曲げる
そんな事が有り得る筈がないのに、、、

手に負えるのだろうか、、こんな埒外の存在が――

そしてこの英霊は……


果たして自分たちと志を共にしてくれるのだろうか?


3、英雄王ギルガメッシュ ―――

第一戦――エースとナイトの戦闘終了後
プログラムにいきなり割り込んできた想定外の存在
いわば、バグ…

第五次聖杯戦争において、否…向こうの世界に現存する
伝承、伝説の中でも最強に位置する英霊だというこの存在は
顕現した瞬間、誰も倒すことの出来ぬ「キング」に位置づけされる駒として
突然、この盤上に現れた

二度の聖杯戦争においてその蛮勇を振るったという事だが
それを基にしてこの世界が作られた以上
彼の存在自体は何も不自然な事はない

だけど問題は………この駒
盤上において、所有者でありゲームマスターである博士の手を全く受け付けず
己が意思で出現し行動を起こすという信じられない性質を持った存在だった

これがバグでなくて何なのか、、

「あの男は来ると決めたら真っ先にこちらへ乗り込んでくるぞ
 今の戦力では戦いになどなるまい…
 皆殺しになるのに、そうだな…およそ二分と言ったところか」

不吉極まりない物言いだたけど
その客人の言葉は決してオーバーではない
実際、今の現状でそれを否定する材料を
我々は何も持ち合わせていないのだから

その蛮勇を如何なく振るった、第一セクターの攻防
その終わりの際に彼の取った行動は我々を驚愕の渦に叩き込むのに十分なものだった
あろう事かこの駒は、明らかに剣をこちらに向けて、、そして言ったのだ

―― 俺がソコに行くまでだ… ――

、、と

ミッドチルダにも娯楽や遊戯の類は数多くある
その中で登場するキャラクターを動かしたり戦わせたりして愉しむ遊戯の類は
星、次元の隔たりを問わずどこも同じようなものなのだろう

しかしその画面内のキャラクターが、いきなり自分達に向けて宣戦布告をしてきたらどうだ?

どうもこうもないわね、、
顎が外れるプレイヤー続出、といったところでしょう
果たしてあの時……私の顎は無事だったかしら?

初戦の戦場となった第一セクターには、まるで巨大な剣で薙ぎ払われたような大きな裂け目が生じている
それはこの駒の武装――「乖離剣エア」によってついた傷

本来、駒のつけた傷はあくまで盤の中で処理される
つまり、このロストロギア自身が自然修復を行い
後の遊戯に支障を来たさぬようにする機能が働くはずなのだ

しかし、修復される筈のこの巨大な割れ目
エアの最大出力――「エヌマエリシュ」の爪痕は一向に消える気配を見せない
そして外部からの供給によっても復興の兆しを見せないのだった

この第一セクターはもう駄目ね……使い物にならない

それは即ち、男の埒外の力
客人曰く、「対界宝具は世界を切り裂き、殺す」というものに起因しているらしい

実際、男が我らに対し放った言葉はハッタリではない
その意図するところは明白で、彼は本当に――
この世界を壊そうと思えばいつでも壊せるのだ……

信じられないが……事実、、

どんなに口惜しくとも、馬鹿げた事象であっても
我ら博士をお守りする立場として、失念や希望的観測があってはならない
事実は事実として――受け入れなければならない

つまりは今までの話を纏めると、この駒が盤上はおろか
盤外の我々にすら干渉できるまさにイレギュラー中のイレギュラーである事を
如実に物語っているという事だった

あの英雄王にここへ踏み込まれた時の戦術プラン……
未だ他の駒を味方につけていない状態、、
つまりは残った機人だけで戦うシミュレートをいくつか立ててみたけれど…
私たちだけで博士を護れる確率は極めて低い、、
いや……はっきり言って、、

――恐らくは防衛は100%、無理だ

あの圧倒的な戦力は個にして戦艦並の攻撃力と防御力を誇る
数多くの特殊能力を有し、死んでも蘇る存在…
こんなモノをどうやって退けるというのか、、?

現に最強を誇るエースとナイトの二人を同時に敗走に追い込んだ力は
もはや我々の常識の届く範疇にはない、――

早くなんとかしなければ……このバグは我々の計画全てを食い尽くしてしまいかねない
それについて、博士に進言したところ、、

「心配はいらない…キングの駒の対処については目処が立っているよ」

と、、信じられないほどあっさり言われてしまった

そう、、、あの、並のワクチンでは100%食い尽くされて終わるようなバグに対して博士は―――

「あの方」をぶつけるつもりだと聞いた、、

エースオブエースと称される魔道士と
それに勝るとも劣らぬ剣の英霊
それを同時に撃退するほどの怪物を相手に……

「あの方」が戦えるというのだろうか?

とても信じられない
そんな風には見えない……

例え博士が唯一、ご自身以上の天才だと認めた方だとしても、、、


かといって、博士があそこまで断言する以上
私はこれ以上の懐疑を及ばす事は出来ない
その方向でプランを進めるしかないのだけど――

失敗すれば、あの駒の逆鱗に触れ
全てを台無しにするやも知れない爆弾の処理…

我々も信じるしかないのかしら、、
私たちにとっても縁深き「あのお方」の力を―――


4、 異邦者達

同ロストロギアについては上で記した通り
そして、招聘したサーヴァントの幾体が理論外の兆候を見せている事も然り
ここまではそう、、バグやシステム上のエラーとして対応してこれた

だけど、、、

盤の示したデータによると、異世界から吸い上げたのは「第五次聖杯戦争」のサーヴァントのみ
それに加えて、取り込んだ管理局の魔道士達を盤上に配置する事によって始まったこの遊戯
駒は出揃い、空間は完全に閉鎖された
この外界と切り離されたセカイにはもはや何者の侵入も許さず
盤がゲームの終了を宣告するまでは、文字通り独立した閉じた世界となっている筈

にも関わらず―――


――召還したサーヴァント以外の異世界の存在が流入しているという事態――


予想を超えた事象の数々に加え、この上異物の混入だなんて…
このロストロギア、実は不良品なんじゃないでしょうね、、?
つい愚痴をこぼしてしまう私なのだった

先日、その異世界の闖入者の調査と、可能ならばそのサンプル回収という名目で出撃したトーレとセッテ
英霊という脅威を目の当たりにした後だし当然、慎重に慎重を期す意味で臨んだナンバーズ最強のペア――

にも関わらず結果、、、
トーレとセッテは大破し…機能停止寸前になるまで破壊し尽されて帰還
帰途につけたのが奇跡的なほどの損壊を被っての敗走だった

二人の損耗は私やクアットロだけでは手の施しようがなく
最終的に博士の手を患わせる事になったのは現場を一任されている身としては恥すべき事――

だjけど、最悪の事態だけは免れ
今現在、二人とも稼動出来るくらいに回復しているのは素直に喜ぶべき事実だった

その、奇跡的に拾えた二人のメモリーに残っていた異邦人のデータ
そのシルエットと音声をデータとして打ち込み、盤に記憶させたところ
これにより顕現した、このイレギュラーの盤上での扱いは「ソーサラー」

ソーサラー………魔法使い、という意味である

管理局の魔法使い達が多数、取り込まれた中
それを押しのけるかのように「魔法使い」の名を踏襲したこの駒は
先日、第2セクター・「山岳地帯」においてエースオブエースと交戦
その凄まじい力の片鱗を垣間見せる

このソーサラーの駒――異世界の魔法使いは
こちらの局魔道士のような飛行能力もシールドも持たなかった
肉体的なスペックは基本、人間と何ら変わる事が無く
データで見る限り、こちらの世界のソレに比べて遥かに貧弱で御しやすい相手に見えてしまう

だというのに、、、そのミッド魔法使いの中でトップレベルの実力を持つエースを相手に終始、押し勝っていたその実力
謂わば攻撃特化型というべきか……
終止に渡って繰り出されるこの駒の魔法弾幕は、記録出来ただけでもあのスターズ隊長の1.5倍から2倍という数値を叩き出した
トーレとセッテが何も出来ずに敗北したのも頷ける数値である

しかもエースの切り札、収束砲を真正面から切って落とした技法――

こちらの計器のどのデータと照らし合わせても該当するものがない謎の力…
データやスペック等では計り知れない未知の力だった

エースは性能と装備で上回っていたが故に、何とか引き分けに持ち込めたという
そんな印象すら受けた、あの第三戦…
サーヴァントという規格外の存在を垣間見、驚愕の連続だった我々だったけれど…

ここに来て、我々の相手にしている異世界――
その異常性に対し、単なる驚愕ではなく恐怖さえ感じるようになった

全次元を統べる管理局の精鋭
武装隊の魔道士を、非武装の人間までもが虚仮にしてくる

どんな世界なの……一体


現在、「異邦人」と位置づけたイレギュラーは三体
そのうち一体は現在、戦闘を終えたエースの駒と行動を共にしている
モニターしやすくて助かるけど、迎合されたら果てしなく厄介ね…

――残る二体は未だに詳細不明――

どの監視機器にも引っかからず固体認識も出来ない存在

何者なのだろう?
どんなバケモノなのか想像もつかない以上
再び妹を調査に向かわせるなど、間違っても出来ない

だがいずれ、、

このシステムに介入してくる時がくれば――
相対しなければならない存在である事は確かだった


――――――

「はぁ………」

これでようやっと一段落
区切りのついたモニターから目を離し、またも溜息交じりに肩を叩く私

機人が肩凝りなど笑い話にもならないけれど
この仕草が自分でも板についてきてる感じがして
結構まんざらでもない

それにしても、、見返せば見返すほど私見が入りすぎているわね…
レポートとしてはどうかと思うけど、博士がこうしなさいと言うのだからしょうがない
さながら航海日誌風味といったところかしら

しかし、状況を綴るにつれ
姉妹たちの連日の苦戦の報告
大破し、迷走し、思い悩む妹を前にして
私とて気が気ではない……

だけど、私は――
私だけは無謀な行動に出たり、ここを飛び出すわけにはいかない
何故なら自分は博士とあの子達のパイプ役
博士の裏の頭脳という役割を担う、頭と手足を繋ぐ神経のようなもの

それが暴走しては全てが狂う

このもどかしい気持ちを抑え―――
博士の考えを形にし、プランを立てて実行段階に移すのが
戦闘手段を一切持たない、非力な私が唯一出来る事なのだから

無力感に苛まれ、
打開策を講じ、
焦燥し迷走し、
感情を揺り動かし、役に立とうとする

ここに来て皆………各々の考えを持ち初めている

これが、、揺らぎ

その中から答えを見つけるという事―――

自分達はただの機械ではなく「機人」

機械の精密さと人の心を持った新たな生命体
天才ジェイルスカリエッティの創りし、命の新たな可能性を内に秘めた存在であるのなら
悩んで、落ち込んで、そして強くなるという――ヒトとしての力もその身に秘めている筈、、

「なら……頑張らないとね、、今度こそ」


確かに道は険しい……
想像以上に困難だろう……

だが、前回のような救いようの無い結果は二度とごめんだ

揺れる姉妹たちを率い
絶望のその先にある夢を再び掴む

私は、姉妹たちの微かな変化の中に
数多くの不安の中に差す、一条の希望が見え隠れしている気がするのだ

もがき、あがき、

――そして今度こそ、、、


必ずや博士の夢を実現してみせる

それこそが私たちナンバーズの存在意義であり、喜びなのだから――


                       記録者 - ナンバーズ01

――――――


「揺らぎ――――」

上がってきたレポートに目を通す科学者の横で
腕を組みながら何とも無しに話を聞いていた神父が呟く
その無機質な顔から心中を推し量る事は出来ない
だが、、その言葉が男の琴線に触れたのはどうやら間違いないようで――

「酔狂な事だな」

無表情に仮面を三枚くらい重ねたような貌で一言だけ――野卑を込めて神父は返す

戦場においては「心揺るがぬ兵士」こそが理想である

迷いを抱かず、
恐れを抱かず、
情を抱かず

全ての人間的な思考をその内に封じ、引き金を引く

いわば機械的で在れ―――
それは死地に赴く兵士が、その成果を発揮するために至らねばならない境地である
当然、戦場ではそれが出来ないものから死んでいくのだ

ならばこそ、かつて自身を死地に投じてきた神父にとっても
目の前の科学者の言葉が世迷言以外の何者にも聞こえない事はむしろ当然である

「ヒトは殺し合いという極限の闘争に赴く際、
 恐れ、躊躇等、既存の道徳を捨て去る事から始めねばならない
 故に、肉体的な不利を鑑みなければ少年兵というのは実に合理的だ
 道義の凝り固まらぬうちに殺人兵器に仕立て上げられるのだからな」

「うんうん」

極限状態において最善の判断を下せる理想の存在は――機械だ
故に人は闘争において、精密で無慈悲で揺るがぬマシンになろうと勤めるのだ

「ならばこそジェイル・スカリエッティ
 君の発言が私を笑い死にさせるための冗談でないというのなら
 些か正気を疑わざるを得ない発言だが――その認識はあるか?」

平手を前に翳しながら痛烈な批判を返す男の前には
白衣の科学者が歪な笑みを浮かべ、うんうんと男の説法に耳を傾けている

「口調が変わると本当に神父に見えるねぇ、キミは」

「私は神父だ」

「正気、か………私の通り名は<狂気の天才科学者>だよ?
 ある意味正気とはもっとも縁遠い存在なんだが――――まあいい、続きを聞こうじゃないか」

「ならば続けるが……人が戦場において機械になるを是とする中で
 理想の戦闘機械とやらに迷いや焦燥、心乱す機能を付加するのは何の戯れだ?
 闘争においてニンゲンが常に苛まれる弱点を持たぬが機械の強み
 それをわざわざ機械人形に持たせるなど、、」

「ただの機械人形……兵器を作るのならば、ガジェットで事足りるさ
 プロジェクトFから端を発し、我が手で完成に至る人造生命体――
 私の最高傑作はね、あらゆる面で人を超えていながら
 どこまでも人でなくてはならないのだよ」 

「そして最高傑作であるが故に疑念や恐れを抱き
 戦力の半分以上がお前の下を去っていったわけか… 
 確かに傑作だな、、乾いた笑いが止まらん」

「私も歓喜の笑みが溢れてしょうがない!
 創造物でありながら造物主に縛られない
 すばらしい……その生命の揺らぎをこそ私は愛するのだよ!」

「………」

勝つ気があるのか、と突っ込みそうになる神父だったが…
いわば、造物主の愉悦とでもいうのだろうか
世の中には色々な種類の人間がいる事は言峰とて理解している

目的のためには手段を選ばない者
信条を曲げてまで目的に辿り着こうとする者
対極に、己が手段やその成果が優先され最も大事な結果を蔑ろにする者

謂わば本末転倒の極地というべきか……

「――――ふむ、、、確かに人が葛藤を抱え、揺らぎ苦しむ姿は愛でる価値があるのかも知れん
 決して崩れ得ぬ精神の持ち主の、その心に亀裂が入り、手ずから決壊し壊れ行く様――
 困った事にな、、そのような様をどうしようもなく好む人でなしの畜生も、この世界には少なからず存在するのだ」

いけしゃあしゃあとのたまう神父であった

「だがな、科学者よ
 本来崩れぬモノが傷つき、悲哀に暮れて堕ちてゆくのが愉悦の極みなれば――
 予め揺らぐよう人為的に作られた存在など何の意味もないぞ? これでは単なる自慰行為に等しい」

「勘違いしないでくれよ綺礼。 私の夢は完全な生命の生成だよ!
 人為的に作れるか否かが重要! ゆらぎ苦しむ瞬間を愉しむのではなく、それを顕現させる事こそ至宝!
 私はまた一歩、神に近づいた――その事実が今は……愛おしくてしょうがない!」

「………」

その至宝だか事実のせいで自分の尻に火がついている事を本気で理解してないように見える
状況は部外者である言峰から見てもあからさまに悪い
否、悪いというより――救いようが無い

着のみ着のままで獄から脱走し
既に追っ手により補足され
頼みの「試み」とやらも実を結ぶかどうかは定かではなく
少ない構成員は先日、半殺しになって帰ってきた

そもそも敵は広大な宇宙を統べようという組織であり
これから汲み上げねばならない存在は伝説に名を遺す英霊だ
この両者を向こうに回した状況で―――なお、この科学者は余裕の笑みを崩さない

神父とて人と異なる価値観を持ってはいるものの
こんな切迫した状況ならば、愉悦よりも実益を優先するだろう
果たさねばならない目的があるのなら尚更だ

「野望と理想は等価値なのさ……私にとってはね 
 無限の欲望に優先順位という概念は初めから皆無なのだから」

「…………」

(この男―――、、実はただの莫迦ではあるまいな?)

さすがに何とも言えぬ顔で狂気の科学者を一瞥し溜息を漏らす神父であったが、

「仕方がないさ! 私は生まれた時からこうだったのだから!!」


科学者は言い放つその言葉に、、、、、
これまで全く動じなかった神父の眉がピクっと動いた

「………ならばこれ以上は私の与り知る所ではないが――」

玩具で遊ぶ子供に説法を続けるほど馬鹿馬鹿しい事もない
この白衣の狂人を前にしてこれ以上の正論は無駄だと判断した綺礼は
再びソファに腰掛け、卓の上に存在を誇示する怪しげな盤に目を注ぐ

そこにくべられた駒は
居並ぶ全てが一騎当千――
一軍に匹敵する英雄や戦士達だ

そんな者達が、自分の眼下にて術も無く右往左往している様をこうして眺めていられる
この傍迷惑なアーティファクトを、誰が何の目的で作ったのかは知らないが
自分を神と錯覚してしまうのも無理からぬ光景ではあった

だが、、、

そのせわしなく動く駒の中で――1つ、、
異彩を放つ存在がある事をよもや忘れてはいないだろうか?
それを見つめる言峰綺礼の口元にフ、と――苦笑いが浮かんでしまうのも無理からぬ事

その存在とは当然、男にとって旧知の間柄でもある――黄金の駒

傲岸不遜、
慇懃無礼、
天上天下唯我独尊

この怪しげな世界において――
神秘と神聖を冒涜するこの汚らわしい盤上において――
ソレは男のかつて知る姿と何ら変わる事も無く其処にある――

そうだ、、変わる筈が無い

あの男はいつだってそうなのだ
どのような檻を用意しようと
大人しくソレに繋がれている輩ではないのだ

故に――男は憤っていたのだろうか……?

己が認めた存在
美しき騎士の王と聖剣がこの檻に繋がれ
惨めに雁字搦めにされているという事実に――
………今となっては知りえぬ事だが、、

何にせよ、この科学者にとってやはり一番に危惧せねばならないのは
卓上で未だ動きを見せぬ駒 「キング」 
即ち、

――― 英雄王ギルガメッシュ ―――

これにあると見て間違いは無い

「これ以上賢しい助言をするつもりはないが――どうするつもりだ? 
 奴だけは早急に対処せねば、一刻を待たずして戯れの時間は終わりを告げるぞ」

目処が立っている…などと吹いているが―――怪しいものだ

目下のところ一向に動きを見せない白衣の男
いい加減、本当に勝利を掴む気がないのかと疑わしくなる神父であったが、、

「ああ、それは彼女に頼んだよ」

「彼女?」

言峰の心配 (心配など微塵もしていないが) を一蹴するかのように
男はあっさりと言ってのけた

――― 「彼女」 ―――

そう言われても誰を指しているのか本気で分からなかった神父である
いぶかしむ顔を科学者に向ける言峰

「酷いな綺礼! 初めに会った時、紹介しだろう?
 彼女をもう忘れてしまったのかい!?」

心外だと言わんばかりに返される


「彼女」―――


魔法使いにスクラップにされて帰ってきた人形二体
非戦闘員だという、司令室に詰めている人形
気色の悪いメガネの人形
使えない料理番――――

神父の脳内に次々と浮かぶ顔と、科学者の指す「彼女」が一致しない
この現状で、あの英雄王を「頼む」などと言える存在、、
未だ懐柔の成功していないサーヴァントにでも頼む気だろうか?

しかし当て嵌まる顔ぶれを次々と脳内で検索していく言峰がやがて行き着いたのは――

「………あの女、か?」 

自分がこの船に随行する初っ端に一度
顔を見た女がいた事を思い出した

怪訝な表情を崩さずに、神父は問い返す

――――――忘れていたわけではない、、

確かにこの茶番に付き合わされる羽目となった、その初まりの刻……
どこか印象に残る眼をした、、
今はこの者達と別行動中の女がいた、、

「そうか―――いたな、、、そういえば」

取るに足らぬ事ゆえ、気にも留めなかったが――

あの眼………
そう、目の前の享楽を称えた博士とは対照的な雰囲気
そんな女がいた事だけは記憶に残っていた

「それで―――アレを向かわせてどうしようというのだ?」

「うーん……生け捕りが望ましいのだが流石にそこまで無理はさせられない…
 この際、面倒ならばあのキング、、消去してしまっても構わないと言っておいたよ」


…………、、、、、


「――――消去する、だと?」 

「うん」

耳を疑う言峰である

「英雄王をか?」

「うん」

「可能だというのか? あの女ならそれが?」

「出来ると思うよ」


――― 応接間に沈黙が流れる

いささか本気で言葉に詰まる言峰綺礼
彼が困惑する姿というのは実は非常に珍しい事なのだが
内容が内容だけにそれも無理からぬ事であろう…

戯言に戯言を重ねて綴るかのような目の前の科学者の発言だ
今回もその類と切って捨てれば済む事であるが、
だが、、敢えて乗ってみる神父

「お前の世界でのエースとやらが英雄王を相手にあの体たらくだったわけだが
 あの女はそれより強いというのか?」

「うーん、難しい質問だねぇ…」

こめかみに手をやって困惑した素振りを見せる博士
その割りに表情が全く変わっていないのが相変わらず人を食っているとしか思えない

「多分、まっとうに正面から戦えば……
 どの駒にも適わないんじゃないかな、彼女は」

はっきりと言い放つ科学者である

「でも、<そういう強さ>で競うのならば……
 あのキングはおろか英霊連中相手でも、こちらの駒が彼らを凌駕する事は難しいんじゃないかな?
 戦闘は専門外の私だが、それくらいは分かる」

「ほう……」

「だから彼女はね………異質な存在なんだ」

ここで白衣の男の口調が微妙に変化している事に、神父は気づく

「その思考は今や、キミ達の世界の魔術師に近いね
 科学という力をよく知り、その深遠に達してなお力を求め
 己の全てを賭けて禁断の叡智に踏み込んだ――」

相変わらず人を食った表情に、、気のせいか
否……信じられない事に男の言葉の端々に畏敬の念が込められているように感じる神父

断言するが、、
この手の人間は他人を尊敬する事などよほどの事がない限りあり得ない

「出来る事と出来ない事の境界が見え過ぎたこの世界において
 何の躊躇いも無く彼女はその一線を越え――
 ……その生涯と引き換えに奇跡の片鱗を再現して見せたのさ」

珍しく愉悦と狂気以外の感情を見せるこの男の演説に
久々に興味が沸き、黙って耳を傾ける言峰綺礼である

「私の理論の雛形を作り上げたのは彼女だった
 素晴らしい天才だよ彼女は、、私が唯一認め、敗北感を拭えないほどのね」

その心情の変化を覗こうと――
男の表情の奥を読み取ろうとする言峰であるが、、
やがていつもの享楽的な笑みを取り戻した科学者の相貌がニィ、と――歪な笑みを漏らす

「フフ、、キミと話しているとつい饒舌になってしまう
 時間がいくらあっても足りないねぇ…」

「貴様が人を選んで話す男にも見えんが…
 そもそも戯言の相手として私を呼んだのだろうが」

「ふふ、確かに………」

含み笑いを漏らしながら、科学者は席を立ち
棚に置いてあるロマネコンティをグラスに注ぎ、神父に薦める

いつ終わるとも知れない二人の談話
最近では、この行動が一区切り――締めの合図となっていた

管理外世界の美酒を口に含み
喉を潤わせた科学者が、

「そろそろ次の幕を開けなければならない、、
 主賓もスタッフも首を長くして待っている……
 ならばこそ――今こそ開けよう! 第二の幕を!!」

虚空に向かって大仰に手を広げた

「祭を主催する者として、これ以上観客を待たせるのは忍びないのでねぇ!
 次は皆があっと驚く展開を作ってやらねば!」

享楽に身を委ねるように
恍惚とした表情で
次節開始の宣言をする男

そして――――それを受けて遊戯盤の祭壇が光り、盤上に新たなる駒が顕現する

「ふふ、期せずして最も縁深い者同士が共に踊る事になる、か……
 良いドラマを作ってくれる事を切に願って――」

タン、タン、タン、タン、という小気味良い音と共に盤上に四つの駒が置かれた
途端、膨大な魔力が湯気のように場に立ち昇る
まるで渦巻きのようにその棚から上昇する黒炎のようなソレが、第二幕―――
壮絶な戦い、その開戦の狼煙だった

盤面に次々と置かれた駒が機動を開始
これで全ての準備は整った

そして――――最後に、その駒の一つを、、男は愛でるように掌で撫でる


高町なのは、セイバー
そして英雄王の邂逅に始まった此度の宴

開幕の凄まじさに湧き上がる
姿見えぬ神々が胸躍らせる中
次節もまた――更なる激戦が期待できよう

祭壇から轟く亡者の声の如き音は
開始の扉が開かれた合図

「今度こそ――手に入れて見せるよ
 その暁には………キミが最も会いたかった人との再会を約束しよう」

男が、掌で撫で回していたその駒に一言……
劣情にも似た言葉を発した眼下にて―――



いよいよ、、


――― 第ニ幕が始まる ―――


――――――

…………………
…………………
…………………


――ただの愉悦に浸る、典型的な狂人

――その言葉、その理念、どれも心に響くものではなく

――1刻の戯れに身を窶し、せいぜい無様な滅びを迎えるに相応しい愚物の類、、


(生まれた時から―――こうだった、か…)


そう思っていた

その取るに足らない言の数々の中で――

この一言、、

言峰綺礼の根幹に響く

この言葉を聞くまでは

「ふん……」

卓を前に嬌声を上げる
狂った科学者

それを見る男の目には
相変わらずの侮蔑の光

だがその奥底に
微かに違う感情が芽生えている事に

今はまだ、男自身も気付くことはなく、、

神父は一人――

既に何も為す事の適わぬ木偶となった身を

嘆き悲しむわけでもなく
ただいつものように
あるがままを――受け入れるだけであった

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最終更新:2008年11月19日 18:57