――新暦80年代ミッドチルダ……<大戦>末期 クラナガン決戦
世界は滅びに向かって走り続けている。
悲しいことも何もかも、もう感じられないような狂気の狭間。
無数の演算機構(デバイス)と銃火が飛び交う戦場は、かつての首都クラナガン。
見渡す限り高層建築が続く超巨大都市は、人々の絶望を吸い、黒ずんだオブジェクトとして廃墟の姿を曝すのみ。
宙を舞う人影から放たれた弾丸は流星のように明るく、音速を超えた魔弾と化して地表から陸戦魔導師を撃ち抜いていく。
生まれ故郷が戦火に巻き込まれたとき、悲しみよりも怒りがあった。地平線の彼方までAMF(アンチ・マギリング・フィールド)が展開され、
味方との通信もノイズメーカーのせいでままならず、孤立した戦場で、女は拳を振るう。
機械との融合を目指してデザインされた遺伝子の生体――母親に似た青空色の髪を揺らす。
右腕の鋼、漆黒の籠手――そのスピナーを高速回転させ、生み出すのは螺旋の破壊。
脚部のローラーブーツは滑らかな駆動音を散らして車輪を回転させ、瓦礫の街並みの上を疾駆させる。
具足の形をしたインテリジェント・デバイスが機械音声を発し、拳が構えられた。
《相棒、銃器で武装した敵が四、前方に!》
立ち塞がるのは自動小銃を構えた戦闘機人、男性型の屈強な兵士達だ。幾つもの銃火が放たれるも、天翔るように跳んだ魔導師には当たらない。
魔法による僅かな慣性の制御、それによる落下スピードの上昇――結果として、弾丸のような速度での落下突撃が可能となる。
削岩刃と化した右腕の直撃――血飛沫と共に男の半身が刮ぎ飛び、人工臓器を撒き散らして爆裂する。
一瞬で懐に入り込まれた人形達――感情抑制が量産型戦闘機人の基本だ――は、人工筋肉が生み出す瞬発力でブレードを抜き放った。
魔力も纏わないただの物理攻撃、しかしそれゆえに感知は難しい。
直撃すれば、頑丈さが取り柄の彼女とて無事では済まないであろう連撃。
それが四肢に迫り、刃の切っ先がバリアジャケットに切断効果をもたらしかけた瞬間――破砕音が空気を破裂させ、ザクロのような赤と一緒に戦闘機人達の手足がもげた。
バラバラになった手足は駆動骨格と光速神経系が乱れ散り、原形を留めないジャンクだった。
女の足下に展開されたテンプレートに、手足をもがれた戦闘機人が目を剥いた。
「貴様……オリジナルか……!」
オリジナル――<大戦>以前に生産された少数・特化技能の戦闘機人。
そのほとんどは<大戦>中期に死んだはずだが――
女は何も答えず、ただ拳を振り上げた。
「IS<振動破砕>」
そして、拳に振動波を纏わせて――全てを爆砕する一撃が、大地へクレーターを穿った。
戦いは、戦闘機人を有する世界群とそれ以外の人類の間で起こった戦争――通称<大戦>と呼ばれる――で、数十の世界を焦土と化してなお終わらぬ。
次元世界の中でも反時空管理局派閥を名乗る世界群は、彼の<ジェイル・スカリエッティ事件>後にブラックマーケットを通じて拡散した機人技術から、
人造の機械化兵士の製造に着手。プラントはありとあらゆる世界で作られ、製造された戦闘機人の数は、推定でも管理局保有魔導師の十倍以上だったという。
蓄えられた戦力はある日、黒い津波となってミッドチルダを襲い―――全てが灰燼に帰した。
<JS事件>から数年経った、平和な世界は地獄へと変わり―――次元世界に“英雄”が生まれた。
彼女はこう呼ばれる……「疾風の拳士」と。
不完全な鋼の身体と、優しい人の心を持ち、ただ無辜の人々のために拳を振るい続けた戦士。
機械の身体が崩壊する最期の時まで、<大戦>の戦禍から人々を守り抜くことに尽力し、屍一つ残らずに散ったという。
彼女は誰よりも強かったわけではない。彼女よりも強い魔導師など<大戦>初期には腐るほどいたし、性能が上の戦闘機人など<大戦>末期には大量にいた。
だが、彼女は性能差をものともせずに戦い続け、最後の決戦まで生き抜き、戦場で果てた。
その行い故に<大戦>後の世界で、崇め奉られて―――命の果ての死後、人間を超越した英霊の座に行き着いたのだ。
――新暦75年 ミッドチルダ 夏
暗い地下のドーム状練兵場、そこに、幾つかの人影があった。
少女は真剣だった。何故かと問われれば、それは初めての究極召喚だったから。
普段表情と言えばポーカーフェイスくらいしか見せない、人形的に整った容姿の彼女が汗を流しながら召喚術式を編んでいくのを、
ゼスト・グランガイツは怒りと苦悩を感じながら見ていた。少女は、ある男の言いなりになって召喚を実行しようとしている。
彼にとって憎むべき敵であり、彼女にとっては唯一母親を蘇らせられる人物――次元犯罪者ジェイル・スカリエッティ。
ゼストと少女――ルーテシア・アルピーノに繋がれた首輪は、一人の女の命だ。
メガーヌ・アルピーノ。ゼストの部下であり、ルーテシアの母――その蘇生という条件こそが、彼らを仇敵の手下という運命に縛り付けている。
今この場で、まだ九歳の少女が召喚術を使用させられているのも、あの悪鬼のような男の差し金だ。
ゼストは歯を噛み締めるように深く閉じ、激情に耐えた。辛そうに息を吐きながら紫の長髪を揺らす少女の姿に、男は怒り狂いたい衝動を押し殺す。
耐えろ、今はまだそのときではない。目の前にはあの男の秘書に当たる戦闘機人ウーノが控えていたし、ここで暴発すれば少女の母がどうなるかわからないからだ。
三角形のベルカ式魔方陣が、見たこともない呪術様式を織り成し――少女の静かな一言と共に、それは起こった。
「召喚……我が願いに応えよ、遙か彼方の偉大なる戦鬼よ――」
究極召喚とは、文字通り“人智を越えた存在”を、召喚師の魔力を媒体にして術式による制御で呼び出す儀式だ。
多くの場合術者に同調しうる何らかの要素、概念を含んだ存在が召喚儀式に応じ、姿を現すとされる。
虫使いとしての才に恵まれ、ロストロギア「レリック」によって純粋な魔力量も大幅に上昇しているルーテシアならば、
真竜に匹敵する規模の召喚虫を呼べるだろうというのが、ウーノの主スカリエッティの見立てである。
現界に必要な依代を架空元素で構築、遠いようで近い世界のシステム――聖杯を求める儀式――から最適なクラスを選択、
■■の座から最も少女に相応しいと思われる要素(ファクター)を選択し、世界を変える外的要因(イレギュラー)として実体化させる。
青白い光の膨張によって、何かが実体化、大気中の魔力素が急激に高純度の魔力に置換され、眩い光の中で、純白のコートを纏った人影が現世に降り立った。
「人……ですか?」
ウーノが端正な顔を驚きに歪めている。普段無表情を貫く彼女には珍しいことだ。
巻き起こった土煙によって詳細な姿は確認できないが、シルエットから人間だと判断できた。
もし召喚されたのが人間ならば、これはとんだ見込み違いと言うことになる。だがルーテシアの才能は、スカリエッティとウーノが開発したのだから間違いがない。
であれば、これは召喚事故の類だろうか? そう思わずにはいられないほど、その影はちっぽけ――身長は160センチ以上といったところだろう――で、
―――異常な気配に満ちていた。
ぞわりと鳥肌が立つほどの圧迫感――人外の何かが発せられている。
あえて言うならば、存在の質が人間とは異なるのだ。
それは毒を持たない蟻が巨象に抱く本能的恐怖であり、生命が上げる悲鳴に似た警告。
死人騎士は槍型のアームド・デバイスを構え、人智を越えた存在であろう土煙の向こうの“それ”と向き合った。
死の予感しか脳裏を過ぎらず、「殺される」と理性が絶叫し、本能が「逃げろ」と金切り声を上げる中。
ゼストはただひたすらに、少女の逃げる時間を稼ぐために死ぬつもりだった。
「ゼスト……槍を降ろして」
「ルーテシア……しかし……!」
「大丈夫」
ルーテシアは、体内を魔力の濁流が荒れ狂った後の虚脱感、リンカーコアの痛みに耐えて口を開いた。
己が召喚したのだ、支配できない理由など無いと、グローブ型デバイス「アスクレピオス」を握りしめる。
いざとなれば、ガリューが助けてくれる、そう信じて。
「貴方は……?」
「ランサーのサーヴァント、召喚に応じ此処に参上、と」
若い女の声が返ってきた。
やはり人間か。だが、この尋常ならざる気配は一体何なのだろうか。
まだ二十代前半ほどであろう女の姿は、土煙が晴れて漸く露わになる。
一言で言うなら、異様である。右腕に黒鉄(くろがね)色の籠手、脚部には同じく漆黒のローラーブーツ。
抜けるように青い髪は短く切り揃えられ、額には白い鉢巻き、所々に鎧じみたプロテクターの打ち付けられた白いコートの裾は膝下まである。
美しい顔だが、可愛いというよりもむしろ凛々しい印象が際だち、その黄金色の瞳は満月のように煌々と輝いている。
その何処かで見たことのある容姿に、ゼストが息を呑んだ。
「サーヴァント……? 何、それ?」
「へ? あれ? うそ――ひょっとして聖杯戦争じゃない?」
「聖杯戦争?」
女は苦笑しながら言葉を選ぶように天井を見上げた。
岩盤をくり抜いて作ったであろうドームの天井は高く、百メートルはあるだろうか。
「うーんとね……ルーちゃんには何処まで話したものかな――」
そこで、ゼストが呆然と呟いた。
男は蘇る記憶の濁流に思考を埋めて、その特徴的な容姿に声を掛ける。
「クイント……なのか?」
ある種困ったような顔をして、ゼストの方へ女は振り向いた。
一瞬だけ驚愕に見開かれた瞳は、すぐに剣呑なものへと変わる。
「……違います。シューティング・アーツの使い手なのは確かですが」
答えながらも、女の思考は一つだった。
ひょっとすれば、この時代は……
「……今は新暦何年ですか?」
ウーノが相手の詳細を「ドクター」に電子化された情報として送信しながら答えた。
解析結果――それは彼女に驚きと共に返信される。魔力素以外、未知の元素で構成された魔法プログラム生命。
それが目の前の“彼女”の正体なのだという。魔法プログラム生命が召喚魔法で呼ばれるなど、前代未聞だ。
一体彼女――ランサーと名乗った――は何者なのだ?
「新暦75年ですが……?」
それが、ある意味では禁句だったのだろう。
突如、ランサーは―――笑い出した。
その思念は実に単純明快だ。
これで、これで――あの悲劇を回避できると。
(やったよ、■■姉――戦闘機人の悲劇は二度と生まれないから……)
ひとしきり笑い終えたランサーは、ルーテシアに向き直ると「契約」なる儀式を終えた。
曰く、彼女は魔法プログラムのようなものなので、こうして主から魔力を貰わないと消滅の危機に瀕するらしい。
そして、何事かをルーテシアに囁き――無事に契約を終えた。
聖杯戦争というシステムに乗っていない以上、正規の契約ではない、あくまで魔力供給限定のものであるが。
彼女の目的には十分すぎるほど、ルーテシア・アルピーノという少女の魔力供給は膨大だった。
ウーノは豊麗な胸を片手で押さえると、スカリエッティの指示に従ってランサーに歩み寄った。
「ランサー、ドクターがお待ちです。一緒に来ていただきますか?」
青い髪の女は、純白のコートを翻してウーノの方へ振り向き、微笑した。
このとき、ウーノの創造主である男がこの場にいたならば、そこに自身と同種の存在を垣間見たことだろう。
何故ならば……その笑みは、目的のためには手段を選ばない非道さを秘めたものだったから。
ランサーの本質は永きに渡る<大戦>で、確かに螺旋狂っていた。
誰にも知覚されないまま、悲劇の足音はゆるゆると迫る……
目隠しをされ、エレベーターを上がり、厚さ数十センチはあるであろう特殊合金で出来た隔壁を開けた先に、
世紀の天才にして次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティの研究室はあった。
じっと何十対もの機械の目に捕捉される感覚を味わいながら、彼女はスカリエッティの前に引き出された。
あの男の声が響く。
「おぉ、君が召喚された《ランサー》かい。ウーノ、目隠しを」
目隠しをウーノに外して貰い、視覚を確保すると――けばけばしい色合いのパープルの長髪、黄金色のぎらついた爬虫類の如き瞳があった。
一見整った容姿に、狂った熱情と外道の知識をため込んだ正真正銘の怪物。脇には戦闘機人が何名か控えており、いざというときに備えている。
アルハザードの技術で生み出された《無限の欲望》、その姿は彼女が知るものよりも随分と覇気に満ちていた。
まあ、彼女が知る彼は、獄中の人間であるからそれも当然か。何処か冷静になっている自分に苦笑して、さてどうしたものか――と首を傾げる。
その動作をどう受け取ったものか、男は微笑みながらこちらに話しかけてきた。
「うん、はじめましてだランサー。ルーテシアも珍しいモノを引き当てたね。
私の名前はジェイル・スカリエッティ。世界を変えるべく生きる、真実の探求者だ」
最初からこちらを人間扱いしていない態度にいっそ清々しいものを感じつつ、ランサーはこの部屋に入ってから、初めて声を発した。
「こんにちは、ジェイル・スカリエッティ」
スカリエッティは彼女の姿を眺め終えると、すぐに思いついたことを入力し、必要な情報を情報端末から引き出していく。
展開される空間モニターには、あどけない表情をした十代半ばの少女が二人映っていた。
身体的特徴はこのサーヴァントのものと酷似――瞳の色を除いてだが――しており、ランサーはまるで生き写しの姉妹の三人目のようだった。
少女の姿を見たランサーは、僅かに胸に痛みを感じながらも、漸く此処が目的の時間軸だったと確信する。
総ては――――を永久に歴史から抹消するために。
そんな彼女の胸中で起こった郷愁の念と、燃えるような決意も知らずに科学者は話を進める。
彼の中では知識欲が先行して、ランサーの浮かべた本当に僅かな笑みも見逃していた。
「君は彼女達――クイント・ナカジマに引き取られた戦闘機人試作タイプゼロシリーズ、それを模して作られたプログラム生命体だと私は認識しているのだがね。
見たところほとんどの身体的特徴はタイプゼロと一致し、装備もセカンドのものに酷似、極めつけはシューティング・アーツ使い。
私は推測する――ランサー、君は彼女達をモチーフにした贋作(フェイク)であると。
どうかな、私の推論は間違っているかい?」
返ってきたのは、沈黙。
「……? 間違っていたかな? 正直に答えてくれ、わからないならそれでい――」
クス、と本当に僅かな微音。
続いて高らかな哄笑となり、室内に響き渡った。
「ぷっ……あは、あははははははははっ! 贋作(フェイク)、贋作(にせもの)……!
うん、たしかにあたしという存在は間違っている――それこそ英霊としても、サーヴァントとしても……!
的確な表現です、スカリエッティ――そうだ、あたしはこんなところで止まっていられないんだ―――」
その存在が放つ圧倒的・異常な空気に耐えかねて、待機していたナンバーズの一人、トーレが吼えた。
細く切れ長の目が相手を睨み付け、腕のインパルスブレードが発光して展開、偏向重力加速が開始されていき、開放を待ち望む。
「貴様ァ――何が言いたい?!」
「おいおい、トーレ、落ち着きたまえ、このくらいで。
まあ、君も落ち着きたまえランサー、君は槍兵という割りに槍を持っていないが、どうしてだい?」
ナンバーズ姉妹の中で、最も戦闘に秀でた三女の殺気を放射されても、ランサーの笑みは止まらない。
みしりと鋼の籠手が鳴る。
底なしの闇が深淵から這い上がってくように、暗い笑顔が貌という部位に張り付く。
それは――悪魔のように呟きながら無造作にジェイル・スカリエッティの首をへし折った。
即死だった。彼の意識が最期に知覚したのは、ランサーの言葉だ。
「あたしの真名は《スバル・ナカジマ》――願いは戦闘機人技術、その廃絶―――」
(嗚呼、存外あっさり死ねるものじゃないか……すまな……ウー……ノ)
「ドクタァァーッ!!」
スカリエッティを盲信し、縋るように依存していた長女ウーノの絶叫と同時に、護衛をし損ねたトーレ、セッテの二機が飛翔技能を解放、
疾風怒濤の剣閃をもって外敵に襲いかかる。ナンバーズ随一の加速能力を持つトーレと、戦闘能力の高さでは最も完成されているセッテの攻撃は、
人類には知覚できないほどの一閃となってランサーの胴体へ襲いかかった。
そう、“人類”には。
知覚することも敵わない攻撃だったろう。
だが、人類など足下の虫けら同然のサーヴァントにとっては?
ランサーは瞬発力に優れたクラスのサーヴァントである。
《槍兵》のクラスに召喚され現界した英霊にとって、二人の攻撃は児戯に等しく、
床が大きく凹んだ瞬間、ランサーの姿は掻き消え、重い衝撃音と共にトーレとセッテが吹き飛んでいた。
長身の美女・美少女二人の身体は壁に叩きつけられ、超合金製の駆動骨格が一撃で粉砕されていた。
「が……げぁっ」
激痛――身体を焼くような灼熱の感覚の中で、トーレは勝手に溢れ出る涙を飲み込みながら、無残な死体となったスカリエッティを眺め、謝った。
その身を守ることも出来ず、妹達を助けるために生きることも出来ない自分の無様さを。
脳内チップを通してナンバーズ全員に逃亡を促すのが、目の前の怪物へのせめてもの反抗。
(皆……逃げろ……ドクターが殺された、奴には我々では勝てない……いいか、生きて、生きて生き延びろ――!!)
(ちょ?! どういうことッスかー?!)
(トーレ姉、今の本当――)
(トーレ、今すぐそちらに向かう、持たせろ!)
僅かに苦笑しながらトーレは首を動かした。
重要臓器が破壊されている……持って数分だろう、この出血では。
(チンク、お前は皆を連れて逃げろ――こいつには刃向かうな、管理局へ駆け込め……!)
「うぶっ……がはっ、ぐぅ……」
吐血音。
(――ック! わかった、すまん――)
(後生、だぞ?)
青い髪の悪魔がミッドチルダ式魔方陣を展開し、異常な量の魔力が人間ではあり得ない精密さで集束されていく。
青白い光の輪が完成し、複雑かつ緻密な術式に従って、膨大なエネルギーが白夜のような光景に辺りを侵しながら魔力スフィアが完成する。
それを知覚した瞬間である、トーレは何故彼女が《ランサー》であるのかを理解した。
射撃魔法でも砲撃魔法でもない、馬鹿げた量のエネルギーの一点集中。
あえて呼称するならば《光の槍》だろうか。
胸骨をへし折られてピクリとも動かないセッテの身体を抱き寄せながら、トーレは死の予感を感じていた。
射撃方向には、機人の開発データが詰まったメインコンピューターと創造主の死体に縋り付くウーノ、そして自分とセッテ。
ランサーは「戦闘機人」を、骨一つ残さずに消すつもりらしい。
彼女の酷く冷たい冴えきった声音が、死にかけのトーレの耳を打つ。
「ディバイン―――バスタ―――」
白く。
世界が。
塗り潰された。
この日、時空管理局にナンバーズを名乗る戦闘機人が保護されたという報告が、管理局側の戦闘機人を有する機動六課に入った。
彼女達と同時に、戦死報告が出ていた召喚師メガーヌ・アルピーノと、行方不明だったその娘ルーテシアも保護されたという。
だが、死人として暗躍していた騎士と、ルーテシアが召喚してしまった“ランサー”の行方は知れない……
季節は夏、生温い夕立が降り注ぎ、雷鳴が鳴り響く刻だった。
最終更新:2008年11月22日 19:15